2019/02/22 のログ
■ぼたん > 豪華なお屋敷を囲む壁に挟まれた、富裕地区の路地裏。さすが富裕地区というべきか、路地裏も奇麗な石畳の路でごみがふきだまって居たりはしないが、その構造のせいで昼下がりの少し生暖かい空気がよどんで漂っている…
その大人が二人も並べば一杯の小路の、片方の壁に俯いて寄り掛かるようにしている黒髪の女がひとり。
(あァ…まずいねえ……)
俯いた顔の、目尻の下がった瞳は若干潤んでぼおっとしている。何とか足元に焦点を合わせようと、浅い息意を繰り返していた。
■ぼたん > もうすぐ春だ…今朝もそう思った。暖かくなった、自分にとってはそれだけでは済まない事を、毎年のことながら忘れる。
(備えをしなけりゃ…)
富裕地区への配達の後、帰ってから取り掛かろうと思っていたのに…動物にとって春はの恋の季節。半分獣のままの自分にはてきめんに身体に影響が出る。
(……誰か通りかからないかねえ…)
犬や猫でもいい。そうすれば影に掴まって、移動することができるはずだ……
■ぼたん > やがてずる、と壁にもたれ掛かったまましゃがみ込んでしまう。頬が火照ってきた。
ここまでくれば、誰も人が通りかからないのはいっそ救いだ…具合が悪いのか、と聞かれれば返す言葉がないし…何をしでかすか自分でもわからない……
■ぼたん > そうして蹲っていると、ふと足元に少しだけ濃い影が落ちた。
ゆらりと首をもたげると、壁の上にとまった小鳥のもののようだった。
(しめた…!)
小鳥と目を合わせる。女が何事か口中で呟いて、小鳥が首を傾げた次の間には、ずるりと女の姿がその小さな影に溶けた。
小鳥は暫く、その場で春の歌を囀った後、小さな羽ばたき音を立てて飛び立った。
路地裏には、春の温い空気だけが残る…
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 路地裏」からぼたんさんが去りました。