2019/01/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」に竜胆さんが現れました。
竜胆 > マグメールの富裕地区には、自分の家がある。
 少女はその家から出て、ぽてり、ぽてり、と夜の闇の中を歩いているのだが、彼女はひとりではなかった。
 その手にはリードが握られており、その先には首輪で繋がれた、巨大な狼犬。
 自分の家の飼い犬であるグリムが先をぽてぽて歩くのは散歩の時間だから、である
 いつも家の中にいる少女だからこそ、何もしてないわけではないが犬の世話を任されて少女は歩く事になるのだ。
 やることもないし、急ぐこともないので、夜の闇の中をひとりといっぴきは歩くのである。

 当然のごとく少女は退屈で、だるそうにその目を半眼にしてたりする。

竜胆 > 「――――。」

 口を開きかけて、徐に唇を噛み締めるように閉じることにした。
 欠伸というわけではなく、口から出そうになった言葉を無理やり押し込めたような所である。
 しばしの間の沈黙のあとに、少女は大きく息を吐き出した。
 ふぅ、というため息はしかし白くはならない。
 理由は少女の能力の方にある、周囲の空気を魔力で温め、少女の周囲の空気はだいたい小春日和程度の気温となっており、風も吹いてこない。
 いわば、ほのかに暖かく、眠気を抱くような心地の良い気候なのである。
 そんな状況を作り上げた少女は、あっちに行こうとばかりに、グイグイと引っ張ってくる狼犬を制するようにリードを引っ張りつつ歩く。
 夜の夜中だ、人の行き来は少なくて、周囲を見ても特に面白そうな人も気配もなさそうだ。
 退屈、と軽くつぶやいて、石畳の道を歩き進む。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にジーヴァさんが現れました。
ジーヴァ > 街灯がぼんやりと辺りを照らす中、フードを目深に被った少年が石畳を歩く。
その足取りは重く、ふらついては時折近くの柵にもたれかかっていた。
少年が身に纏ったローブの中からは血がゆっくりと滴り落ちて、彼の痕跡として一直線に並んでいる。

「……ドジったな……まさか……一発もらうなんて」

苦しそうに呻きながら、少年は石畳を歩く。
そうして真冬の寒さに耐えながら足を動かしたところで、ふんわりとした温かい空気が彼を包んだ。
奇妙に思って辺りを見回せば、目の前には巨大な狼と、その飼い主のようにリードを持った少女。

「……あんた……魔術師か?
 治療か回復の術は……使えるか?」

ギルドの隠れ家までは遠く、ならばと一縷の望みを目の前の少女に託す。
助けを求めるように右手を伸ばし、錫杖を支えにして辛うじて立っていた。

竜胆 > 先を進むグリムは、何かを見つけたようで足を止める。
 少女の鼻にも血の匂いが感じて取れていた。視線を向ければ、鉄の柵に体を預けるようにしている少年が一人。
 それなりの深手なのであろう、ローブが血に染まり彼の足元には血の垂れた跡があるのが見えた。
 視線はこちらを向いていて、手を伸ばしている模様。
 魔術ではなくて竜としての異能ではあるが、少年は知らないようだ。
 自分に助けを求めているのはわかるのだが。
 さて、と少女は見下ろして考える。
 なぜ、彼を助けなければならないのか、見知らぬ相手であり、行きずりの相手である。

 彼が死んでも、自分の胸は傷まないし、新しい死体が一つ増えるだけである。
 それはすぐに警邏の兵士が、美観を損ねると持って行ってしまうだろう。

 ―――――――――。

 そう考えている時に、視線を感じる。
 それは、連れていた狼犬のグリム、何かを言いたそうにこちらを見ている。
 それは―――彼を助けた母親の目を思い出させるもので。
 ち、と一つ舌を打つ。

「傷の状況、怪我してからの経過の時間、損傷度。」

 少女は、問いかける。
 不機嫌なのは見て分かるであろう、淡々とした言葉。

ジーヴァ > 少し間を置いてから、少女は淡々と要点のみを告げる。
仕方なく、といった面を露骨に示すその態度は当然のものだろう。
しかし少年にとっては命綱であり、全力でそれにすがるのも無理はなかった。

「魔法の剣で腹を叩き切られた、氷の付与魔術もかかってる。
 時間は……あんまり経ってない。ばっくり裂けてるのは分かるけど、自分で見ては……っ!」

喋ったことで傷が開いたのか、鋭く激しい痛みが彼を襲う。
冷え切った石畳に転がるように崩れ落ち、身体をくの字に曲げて苦痛に悶えている。
流れる血の量は増し、自分の息が薄く荒くなっていくのが少年には理解できた。

「が、はぁっ……頼む……俺はここで死にたくない……まだやるべきことが……」

ぼやけた視界の中で、自分を見下ろす少女と巨狼を見上げて助けを乞う。
彼女たちには何らそうする理由はないというのに、一片の慈悲に賭けて少年はただ祈るしかなかった。

竜胆 > 「―――――。」

 魔法の武器、氷属性、損傷は腹部で、裂傷。
 怪我をしてからの時間はさほど掛かっていない。
 そこから少女が導き出した答え。

「グリム、周囲を警戒なさい。
 知らないものが来たら吠えて。」

 くい、とリードを引っ張ればそれはポロリと外れて、狼犬は嬉しそうにひとつ吠えて、とこりとことこ、と少し離れた場所へ。
 見知らぬ存在が来れば、すぐに吠えて教えるだろう。

「天よ、癒しを司る神よ、我が声、求めに応じ給え。
 今ここに、命の灯火減らし者を癒すための場を与え給え。」

 そして、言葉を紡ぎ上げる少女は、少年の周囲に白い二重の魔法円を魔力で作り上げる。
 治療魔法増幅のための簡易魔法陣は、均衡を意味する六芒星を中心として外側の魔法園には治癒魔法の書き込まれた魔法文字。
 魔力のみで作られたそれは消えることなく回転し始めて光を放ち始める。

「降霊開始―――」

 彼の傷の状態は致命傷とまではいかないがそのまま放置すれば失血死の可能性があるだろう。
 彼の状態を確認しつつ少女は歌い上げるように魔法を紡ぎ上げる。
 意識を半分落とし、その体を癒しの力を持つ天使に委ねる

「聖なるかな聖なるかな、死ぬべきではない命よ、主のささやかな祝福に寄りて癒したまえ、癒したまえ、神の僕よ。
 彼の者の怪我を、障害を取り除き給え。」

 落ち着いた、歌い上げるような言葉。
 白き魔法陣はいよいよ持って、光を放つ。
 時間が巻き戻るように少年の傷がふさがり、流れ位でた血は、再度作り上げられていく。
 時間にして1分経つかどうか、その間には、少年の傷は綺麗に消えていた。
 活力もまた戻っているはずであるが、そこは彼の本来の体力等に委ねられる部分である。

ジーヴァ > 薄れる意識の中で、少年が見たのは神秘的な光景。
二重の魔法円とその外側に精緻に書き連ねられた文字は一種の芸術であり、
術者が高い実力を持つということを示すものだ。

一切の動揺も隙もなく、少女は歌を紡ぐように魔法を唱えていく。
すると少年から垂れ流される血は止まり、剣によって切り裂かれた腹はあっという間に塞がった。
後に残るのは傷があった、という奇妙な感覚のみ。

「……こ、これは……あんた、どこの教えでこんな魔術を!?
 いや魔法か!どっちでもいい、治してくれて本当にありがとう!」

あっという間に消え失せた傷に、思わずフードを脱いで少女に礼を言う。
人間のそれではない真っ赤な二つの瞳が少女の姿を捉えて、その可憐な姿に思わず一瞬見惚れた。
今見ている少女の姿と、先程の二重魔法円が織りなしていた光景はまさしく天使のようなものだったからだ。
しかしそれもほんの一瞬だけで、慌てて彼は頭を振って正気に戻る。

「俺は魔術師のジーヴァ。助けてくれた以上礼をしたいんだけど……
 何か探してる材料とか、貴重な本を読みたいとかあるか?」

普段であれば魔術の指南などもするが、一片の狂いもないあの魔法円を見ては
逆にこちらが教えられる立場というものだ。

竜胆 > 「独学ですわ。礼なら、そこの狼犬に言うことですわね。
 彼が懇願してくれなければ、私はあなたを見捨てるつもりでした。」

 魔法の発動は間違い無く行われ、天使の力を借りた奇跡はしっかりと発動ができた模様。
 本来はしっかりと儀式のために作り上げた部屋で行うべきものを即興で行ったが何とかなったようだ。
 魔法の実験と考えれば、成功に位置づけて良いだろうことを確認をしたのだった。
 少年の例には興味もなく、少し離れたところで言われた様に警戒をしていた狼犬。
 終わったことを理解したのか戻ってきていた、その頭を首筋を撫でて見せる。

「魔術師―――導師のもとで訓練をしている者の総称でしたかしらね。
 貴重な本といっても、どういった方面での貴重な本、なのかしら?
 それならば、導師の教えの方が金に値するとは思います。」

 独学ゆえに、正しい教えを持ってのことでもない。
 魔術師というのであれば、それを教える存在がいるのでは、と問いかける。
 貴重な本というものにも興味がないわけではないが……。
 どんな本なのだろうか、というぐらいか。

ジーヴァ > 「そうかい、それならありがとうな、でっかい狼。
 お前のおかげで俺は死なずにすんだぜ」

はたして少年の言葉が通じるかどうかは分からないが、
とりあえずは巨狼に向けて礼を言っておく。
人間並みかそれ以上に知性を持った生物など珍しくはないのだ。
言葉は通じずとも、その意志は通じるかもしれない。

「分野を問うなら、それこそ無数に、だ。
 俺のいる魔術師ギルド『アルマゲスト』は知識の収集を目的とし、
 やがては星々の住む天へと至れるほどの知恵をその身に宿すことが理想。
 歴史書から魔導機械の技術書、さらには古代文明の料理本まで書庫には揃ってるぜ」

ジーヴァは両親こそいるが、ほとんどの知識はギルドの書庫やギルドメンバーに聞いて学んだものだ。
師と呼べる人間はそれこそ無数にいるが、訓練と呼べるほどの手解きは受けていない。

「教え……られたことはあんまりねえな。
 本を読んで、実践して、分からなかったら誰かに聞く。できなかったら自分で考える。
 ずっとその繰り返しだったぜ」

腕を組んで過去を思い返し、少女に返答する。
実際、好奇心のままに学び続けてきただけに本人も魔術師としては歪な成長をしていると言えるだろう。
しかし礼を返せないまま別れるのも惜しく、少年はどうにかして少女と巨狼に恩返しをしようとあれこれ考えていた。

竜胆 > 『ォン!』

 少年の言葉に答えるように大きくひとつ吠える狼犬は、本当に狼なのか、と言わんばかりの知能をたたえている。
 狼犬だというのも、母の宣言なので、本当なのかという懐疑心が強いのだ。
 とはいえ、少女には関係のないことね、と思考をやめることにする。

「魔術師ギルドアルマゲスト、ね。
 知識の収集が基本の魔術師ギルドなのね。
 …………なるほど、ね。」

 少女は少年を見ながら小さく呟く。
 どちらかといえば、研究者肌の人が多いのだろう彼のギルドは。
 どうしたものか、と考えつつ、手際よく首輪にリードをつけ直していく。
 そして、目の前の彼は自分と同じように独学らしい。
 教えてくれる人はいるみたいではあるが、聞いた感じでは片手間であろう。
 よく聞く師弟のように、教えたりはなさそうだ、と。

「トゥルネソル商会で、なにか買い物してくれればいいわ。
 私は、竜胆。竜胆・トゥルネソルよ。」

 そう、言ってから、少女は散歩の続きとして、歩き始める。