2018/04/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にフォーコさんが現れました。
フォーコ > 異国の地で大立ち回りを繰り広げ、逃げ出して来た。

全身ボロボロの状態で重くなった両足を動かしていると、歌を歌っている女の姿。
吟遊詩人かなにかだろうかと思い、視線を向けると歌っていたのは砦で遭遇した女性。
温厚そうな物腰からは分かりにくいが、強力な力を持った魔王である。

「こんな所で何をしているんだ?
自慢の歌声の披露か?」

私は彼女の背後に回ると、静かに問いかける。
魔力も減少している今はいつもよりも騒動になることを避けたい。

顔には出していないが、勘が鋭い物なら私が消耗していることは簡単に気付いてしまうだろう。

ルーシェ > 雑踏が重なり合う世界では、耳を澄ませば聞こえる程度の歌声。
けれど、控えめの音で歌うのも、周囲に目もくれず奏でるのにも意味があった。
何かを見つけたように笑みが深まる中、背中から掛かる声に瞳を開くと、仰け反るようにベンチの背凭れに体を預けながら、逆さになるようにして彼女へ振り返る。

「お久しぶり~、歌ってるのは私じゃないよ? 私はこう……ちょっとだけ自分の音を混ぜてるだけ」

歌っているわけではないと、妙な答えを返しつつも、わからないかと髪の毛も逆さになった間抜けな格好のまま苦笑いを零す。
再び体を起こすと体ごと彼女の方へと向き直り、両膝をベンチの上へ乗せていく。
少々はしたない座り方をしながら膝立ちになると、手にしていた貝殻を彼女の前で軽く揺らしてみせる。
すると中から響くのは、少女や女の嬌声の数々。
しかし、それらは心地よさそうに酔いしれる甘い響きばかりであり、相思相愛といったように男を求める少女の声もあれば、恋愛を超え、体に爪痕を刻まれる悦びに微笑む女の声まで交じる。
嬌声はフリージャズの様にメチャクチャな重なり合いをしているようで、歌のようなリズムを確かに刻む。
そこに、音を際立てるように自身の歌声が混じれば、自分はあくまで添え物といいたいのが伝わるだろうか。

「というか…フォーコさんどうしたの? 随分とぐったりしてるみたいだけど…」

一通りの説明を終えたところで、改めて彼女の様子を確かめると格好がぼろぼろなのも然る事ながら、纏う魔力の量もめっきりと減っているのが分かる。
キョトンとした様子で瞳を何度か瞬かせつつ、右から、そして左から覗き込むように彼女の姿を確かめ、視線は体をなぞって顔へと幾度も向かう。

フォーコ > 「なんだ? これは…。」

ベンチ越しに彼女と対面した私は、彼女の聴かされても理解に追いつかない説明を聴かされた後、
眼前に揺らされた貝に視線を向ける。

すると、貝の中から女の甘い声が多数聞こえる。
様相もバラバラであり、おまけに声も一人二人の声ではなく。

彼女の言いたいことは分かったが、この貝の状況が理解出来ず。
披露で普段より頭の回転が悪くなっていることもあり、私は疲れた笑みを浮かべた。

「隠してもいずればれるから先に言うが、君の国につい先ほどまで居た所でな。
戦闘になったので慌てて逃げ帰ってきたわけだ。
平然な顔で居れる君らが羨ましい。」

菫色の瞳が私を見つめる。
直ぐに私の魔力が枯渇していることは分かるだろう。
そして、その理由も。
なので私は正直にありのままを口にする。

ルーシェ > 「これはね、魔海の海底にいる貝の殻。魔力を込めながら自分の声と音を何度も混ぜていくと、魔力の結晶みたいな真珠が出来るの」

わけが分からんと言った様子の苦笑いに、多少予想はあったらしくこちらも苦笑いで答えながら紡ぐ。
ただの道楽ではなく、意味のあるものだと伝えながらも、続く言葉は想定外だったのか、ぽかんと口を開いたまま何度か瞳を瞬かせてしまう。

「えぇ……私のところは人が来ても何もしないけど…他の人達のところだと殺されちゃうよ? なんでそんなところに行っちゃったのかなぁ、もう」

無茶苦茶なと思いつつ、心配そうにその姿を確かめる。
大きな外傷はなさそうだが、疲労困憊ではつらかろうと思えば、一人腕を組んで首を傾げた。
眉間に少しばかりシワを寄せて考え込みながら、軽く俯くと、数秒ほどの間を開けて顔を上げる。

「……まぁ、フォーコさん悪いことしなさそうだし、いっか」

この間もこちらの無茶振りに合わせてくれたこともある。
少々血気盛んなのは間違いないが、誰彼構わずではないようだからと、何やら一人納得していた。
何度か小さく頷くとポケットに貝殻をしまい、人差し指の腹に、反対側の人差し指の爪を当てる。
わずかに魔力を込めて鋭くすると、ぴっと僅かに傷をつけ、薄っすらと鮮血を滲ませていく。
瞳を閉ざし、古い魔族の言葉で詠唱を幾つか重ねると、傷口から淡い青の光が溢れて消えていった。

「……ん。じゃあ、これ舐めてくれる? ちょこっとだけ、私の魔力おすそ分けしてあげるから~」

血肉を分け与える儀式、といっても勝手に力を奪われないためのセーフティに近い。
それを解除し満面の微笑みを浮かべ、血の滲む指先を彼女の唇へ差し出す。
舐めたらすぐに力は発揮する程、濃度は高い。
失った魔力を一気に満たし、体の疲労と傷を消し去るほどの力を秘めているのだから。

フォーコ > 「その真珠を何に使うんだ? 大変価値のあるものだと言うことは分かったのだが。」

苦笑交じりに教えてくれる、子供でもわかるような説明でようやく意味のある行動をしているとは思うが、
今度はそれをここでやる意味や、そもそも危険性がないのかを聴いておく必要があるだろう。
魔王クラスとなると、菓子でも食べる勢いで人の命を奪えてしまえるのだから。

「魔族の国をもっと知りたいと思ってな。 私の探している物があるかもしれないだろう?」

まさか魔族の王に心配されるとは。
私は悪戯が見つかった子供のように気まずそうな顔で彼女の表情を見つめていた。
眉間に溝が出来ると、うわっと思わず視線をそらしてしまう。

彼女の独白には、わからんぞと言いたい所であったが、いよいよ怒られてしまうのではと言う気がしたので口に出さず。
指の腹に爪を宛てる彼女。 
何をしているのかと眺めていると、自ら傷をつけては血を滲ませていた。

「魔王から施しを受けると言うのも少々抵抗があるが、遠慮なく。」

この状況が不味いことは私が一番よく分かって居る。
なので差し出された指を咥え、舌を絡ませる。
ガス欠状態だった魔力は回復し、全身の疲労感も抜けて行く。
おまけにどことなく甘美な味がする。
気が付けば両手で彼女の手を摑まえ、子猫が親猫からミルクを貰うような勢いでチュウチュウと啜っていた。

ルーシェ > 「魔王っぽい武器を作ろうかな~って、最初は凄いのつくろうって意気込んでだんだけど……禍々しいのとか趣味じゃないなぁって。じゃあ、ちょっとエッチで綺麗な音を使おうかな~って、ちょっと魔族っぽいでしょ?」

魔王らしかぬ雰囲気、振る舞い、格好。
自分は自分だと思いはせど、やはり引っかかる事はあるもの。
照れくさそうに、はにかんだ笑みを浮かべつつ説明していく。
そして、最後の言葉には同意を求めるように上目遣いで赤い瞳を覗き込む。

「知らなくていいよ~あんなところ、殺すかエッチかみたいな人ばっかだし。そんなところで何探してたの?」

気まずそうな顔にジト目で見つめ返しながらも、緩く頭を振っていく。
自身の領地は温厚な魔族が殆どなのもあり、彼女が来ても問題ないだろうが、他は全くの別。
欲しいものという言葉も、あんな血肉の世界に何があるのかと、己の出身地だというのを棚に上げて訝しげに問いかける。
血を与えるかどうか、それを悩む間の彼女の反応には気付かぬまま指に傷をつけていく。

「あはっ、気にしないのっ。まぁ~誰にでも上げるわけじゃないけどね?」

悪戯な微笑みを浮かべながら、ぐいぐいと指を突き出していると指先が想定外に咥えこまれた。
ひぅっと喉の奥から絞り出すような素っ頓狂な悲鳴を上げ、体がビクリと跳ね上がる。
舌先を這わせるぐらいと思っていたものの、幼子の様に吸い付いていく仕草に、薄っすらと羞恥の赤色を宿した頬は色を薄れさせていき、穏やかな笑みに変わっていった。

「くすぐったいよ~、ふふっ、でもフォーコさん、ちょっと可愛い感じだね?」

ほんの少量の血でも体が満たされるほどの濃度、もっとと求めるなら体には収まりきらない魔力が巡るだろう。
水いっぱいの器から溢れるように、体外へ許容量以上の魔力は溢れてしまうが、特に害はない。
目を細めながら、じっと吸い付く姿を見つめ続けていた。

フォーコ > 「真珠ならヴェパールの水や海の印象によく似合うし、それらしいのではないか?
まあ、こんな所でいかがわしい声を一人で流している姿はただの不審者にしか見えなかったがな。」

私自身が常識はずれな生き物なので、彼女のやろうとしていることは非常に彼女らしく思えた。
あまり国内で暴れ回らないでくれることを願いたいが。
下から覗き込む瞳にはにっこりと満面の笑みを返した。

「…不老不死に至る材料探しだ。
何か良い物はないのか?
方々手を尽くしているが外れの方が多いぞ。」

真っ直ぐ突き刺さる視線を見つめ返し、私は口を開いた。
魔王である彼女なら何か知っているかもしれない。

「そうなのか? なんだか特別扱いをされたみたいで嬉しいな。
今度ちゃんとしてお礼をさせてもらおう。
…とりあえず、今はこれでいいかな?」

彼女の指がふやける位にしゃぶり、舐ってから指を口から離す。
その間、彼女の反応が少し面白かったので、私はついつい遊んでしまう。

首を伸ばし、彼女の頬へとそっと軽い口づけを。

「子供のまま大きくなってしまったようなものだからな。
ヴェパールこそ、さっきの反応は可愛らしかったぞ。」

吸い過ぎた魔力は体内に留まらず霧散してしまったようだ。
しかしそれでもさきほどまでの状態からすっかり元気になっていた。
手足も軽くなり、顔にも艶がでていただろう。

ルーシェ > 「えへへ、そうでしょ~? 違うよっ!? これは周りのお店に居る娘の声を聞き取って、これに集めてたのっ! 周りには私が歌ってるようにしか聞こえないんだから」

貝殻から嬌声がダダ漏れに感じられたらしく、違うと否定しながら再び頬が赤く染まっていった。
否定を重ねるように空色の髪を揺らしていくと、ジャスミンの香りが薄っすらとこぼれ落ちる。
酷い勘違いだと恨めしげに頬を膨らませ、笑みを見つめていたが…不老不死というワードに目が泳いだ。

「……そ、それは難しい…ねー…」

声にも動揺が溢れ、油の切れた機械のようなぎこちない動きで顔をそらす。
ふやけるほどにしゃぶられた指に、普段なら恥じらいを覚えるところだが、不安が胸の中を暴れまわり、鼓動を加速させればそれどころではない。
悪戯な仕草にぎこちない笑みを溢していたが、頬に重なる柔らかさに、こそばゆさに、淡く体が跳ねる。

「う~…、嬉しいけど、このタイミングだと何か照れくさいよぉ。指ふやけちゃってるし、嬉しいからって…もぉ」

濡れた指、その指先がきゅっと丸まって行くと自身の胸元に重なる。
恥じらいを誤魔化すように視線を散らすように踊らせ、そのまま俯く。
それでも赤い頬は少し見えるかも知れない。

フォーコ > 「…よく分かってないのだが、それはつまりヴェパールが如何わしい歌でも
歌っているように見えるということか?
それならそれで重度の変態…いや、こっちの国でもそっちの国でもこの程度は普通か。」

彼女の説明を耳に入れるが、はたして頭がどこまで処理できているか。
私は頭の中で出てきた結論を口にして問うてみる。
花のような香りには思わず鼻孔が反応していた。

「ヴェパールよ、その様子だと君は何か答えを持っているのだな?
私としては我が師団の団員達を守り続けるために必要なものなのだが。
できたらもう少し私に教えてくれないか?」

彼女が視線を外してしまうことに違和感を感じた私はしつこく問いかける。
借りがある以上、尋問めいたことは出来ないがそれでも何かしらの情報が欲しい。
私は彼女の露草色の髪を撫でつつ、耳元で問いかける。

「ヴェパールは随分と可愛いな。
魔王であることを忘れてしまいそうだ。」

髪の隙間から覗かせる、朱に染まった頬。
触れると少し熱そうなそこに手を伸ばし、輪郭をなぞる。
彼女が視線を隠したままなのをいいことに、私は更に悪戯を続ける。
耳の縁を唇で咥え、ハムハムと挟んでいた。

ルーシェ > 「そ、そうじゃなくてっ。普通の歌を歌ってるってことだよっ」

色々と焦りで言葉が抜け落ちた分に、あわあわとしながら更に言葉を付け足していく。
こちらでは馴染みのない言語で歌っていたというのはあれど、喘ぎ声を散らしているのとは異なる。
貝殻に集まる甘い音色に、自分の普通の歌声を混ぜ合わせ、貝の中で自身の魔力と同じものとして結合させていく。
説明下手が祟って、余計に恥ずかしくなっていき、耳まで真っ赤になっていた。

「……お母さんがスキュラで、お父さんはマーマンなの。だから、血や肉に人魚と同じ様な力が宿ってるの。そっちでも聞いたことないかなぁ、人魚の伝説とかって」

マーメイド、もしくはマーマンの体に宿る特性。
血は傷をすぐに癒やすほどの力に溢れ、肉には永遠の若さと命を約束する力を宿す。
つまり、目の前にいる自身が彼女の望む物の答えでもある。
直接的に言わなかったのは、それだけ憚れるものがあるということ。
勢いに押されるように、おずおずと言葉を紡ぎ出すも、少しだけ怖くなっていく。
彼女の雰囲気が変わってしまったら…と、不安げに改めて顔を上げれば、甘い香りを宿した柔らかな髪が、彼女の指にしっとりと絡んでいった。

「絶対それ、意地悪で言ってるでしょ…うぅ…可愛いって言われるのは嬉し――っ!? ちょっ、くすぐった……んっ
…!?」

顔を背けていると、視線がそれている合間に頬を撫でる指先が細い顎のラインをなぞっていく。
こそばゆさにふるりと体を震わせるも、悪戯が重なっていけば、耳元の刺激は先程までよりも強い。
ぞくっと擽ったさに甘味が混じっていくと、声を詰まらせながら押さえ込み、潰れた嬌声じみた我慢の音が溢れる。
びくびくっと体が大きく震えると、恥ずかしさは更に強くなって顔を上げらずにいる。

フォーコ > 「なんだ。 普通の歌か。
安心したぞ。 変態のヴェパールは少し見たくなかったからな。
もっとも、そっち方面に興味があるのなら私も喜んで付き合うぞ。」

漸く、彼女が普通の歌を歌っているだけであると言う事実に辿り着いた。
最初に聴いた甘い声は貝がこの場所で拾っていた声と言うことだ。
私はほっと肩が揺れると同時に、そんなものが魔力になるのかと少し驚いた。

「聴いたことはあるが、君がそうだったのか。
…できれば私を不老不死にして欲しい。
尤も、私にとっては君は恩人だ。
君がそれで構わないようになるまで私は待つことにしよう。
当然、対価も支払える範囲で支払おう。」

髪を触る手が止まる。 しかし、それは私が酷く驚いたことによるもの。
今彼女に対して口にしたことは全て本音だ。
彼女の肉を無理矢理はぎ取って喰らうことはできない。
そもそも、私の今の力でそれが出来るとも思えないが。

「意地悪ではないぞ。
魔王クラスが皆君みたいに可愛いと良かったのだがな。」

耳を甘噛みしていたが、今度は先ほどまで指を味わっていた舌で耳を愛撫する。
俯いたまま、貝殻にも負けないような甘い声を吐いているのが聞こえると、
私は彼女の唇を己のソレで塞いでしまう。
しばし、唇を密着させた状態で数秒経った所で漸く離して。

「我々の声もその貝殻に入れるのはどうだ?」

ルーシェ > そうだよっ! と再び飛びつくように肯定していくも、卑猥な話に繋げられていけば、しないと言わんばかりに勢いよくそっぽを向いた。
ぷくっと頬を膨らませながら、不服そうに紫色の瞳が見上げていたが、血肉の話を口にしていけばそれもすぐに消えてしまう。

「……ごめんね、肉をあげるのは…すごく不安なんだ。だって、私と同じ様に不老不死になっちゃう。自分で…抗えない存在を、作っちゃうかも知れないって…怖いよ?」

亡き両親に幼き頃に語られた言葉は、確りと脳裏に焼き付いている。
彼女の何も惜しまぬ言葉にゆっくりと瞳を伏せると、先程までとは異なり、緩やかに頭を振った。
血は力を与えども、死は訪れる。
しかし肉は異なり、自分と同じく死ねない体になる。
彼女を疑うというわけではなく、それが外に出ていってしまう事に不安は隠せず、僅かに最後の言葉は魔王らしかぬ事に震えてしまった。

「だからって、この間もそうだけど唐突――」

舌先が耳孔を擽れば、そのこそばゆい刺激に鼻に掛かった声が溢れ、小刻みに体を震わせていく。
突き飛ばすこともなく受け入れてしまうのは、魔族らしい快楽への抵抗の薄さか。
抗議の言葉は口吻に奪われ、唐突のキスに重なったまま瞳が大きく見開かれる。
紫色の瞳孔が忙しなく震えるも、唇が離れれば熱っぽい吐息を溢しながら、僅かに体が後ろへよろけていく。

「……フォーコさんも変態だ~」

言葉の指し示す意味を理解するも、照れ隠しの様に茶化した言葉を紡いで微笑む。
緩やかに笑みを描く表情、頬の赤さは変わらぬままだが、その誘いかけを断るつもりはなかった。

フォーコ > 「そんなに私が怖いのなら私に呪いか動きを制限する道具でも付けたらどうだ?
ヴェパールには逆らえなくなるような類の者をな。
私は我が師団の脅威になりうる者から守りたいだけだからな。
それに、君が望むのなら君も私の下にくればいい。
そうすれば私を強くすることは君にとってもメリットがあるだろう?」

震える彼女を私は両の手で抱きしめる。
胸元に彼女の顔を受け止め、頭を撫でる。
彼女は魔王や魔族にありがちな凶悪さを感じさせない。
彼女が望むのなら彼女のことも私が守ろうではないか。
ただし、彼女はどう応えるかだが。

「今頃気が付いたのか?
私はこの国の典型的な変態貴族だぞ。
どうする? ここでは人目もあることだし、君が良ければ手近な宿に入ろうか。」

よろめいた彼女の背に手を差しだし、受け止める。
彼女が笑みを浮かべると、私はもう一度唇を重ねようと。

そして、彼女が首を縦に動かせば我が家で所有する宿へと向かうことだろう。

ルーシェ > 「ヤダよ、だって血もそうだけど…私が上げていいよって思った上で呪文唱えないと意味がないから。いいよって言った人を縛るのは…嘘みたいでヤダ」

先程口ずさんだ呪文は、誰彼構わず奪われないためのセイフティ。
そして操って呪文を口にさせても、血肉には本来の力は宿らない。
自分が赦した相手を縛る矛盾、それに頭を振って否定する。
そこで嘘がつけないところは、魔族らしからぬともいえるが、感情や欲望に従順な魔族ならではとも言えるか。
暗くなる表情の中、続く言葉は自分すらも背負うという大それたもの。
ぱちぱちと瞳が瞬き、呆気にとられた様子で彼女を見上げるものの、くすっと笑みへと変わっていく。
しかしそれは、憂いの混じった悲しい笑い方だった。

「ただの女の子なら堕ちちゃってたかもねぇ…これでも、魔王だもん。フォーコさんと一緒、領地の皆が美味しいご飯と静かな一日を過ごせるように、私も頑張らないといけないから」

彼女が師団の長であるように、領地の長でもある自身が誰かの下で守られるわけにはいかない。
無邪気に微笑んでいた時と異なり、誰が為には魔王らしく責務を抱え込み、優しい言葉からすり抜けていく。
微笑みながらも続く言葉に耳を傾ければ、抱きとめられた背中。
そのまま重なる唇を受け入れれ、離れると同時にこくりと小さく頷くだろう。
肌を重ねるぐらいは自由に、少し照れくさい心地のまま導かれ、彼女の宿へと向かうのだろう。

フォーコ > 「私は不老不死が得られるのなら多少の足かせくらい全く問題ないぞ?
まあ、仕方がない。 君も私も困らない良いやり方を模索していくとするか。」

姦計で私を縛れば早いのにとは思ったが、それを好まないことが彼女の良さと言えるだろう。
おおよそ魔王らしからぬ彼女の苦悩は私が求めたことによる。
私は口元に手をやり、眉間には深い溝が出来ていた。

「私が拠点を君の領土内に移せればよかったのだが、そう簡単にはいかんからな。
どうにも難しいものだ。」

彼女や彼女の領土をこちらに連れてこさせるだけの力量は私にもこの国にも今はないだろう。
私はままならない現実に溜息をつくと、同じように難しい表情の彼女を
抱き寄せたまま我が家で所有している宿へと向かう。
宿についた後は、二人のみが知ることであった。

ルーシェ > 「フォーコさんが良くても、私がモヤっとするからイヤなの」

彼女の言葉のほうが尤もかも知れないが、それでも心が張れるかと言えば変わらない。
それほどに求める彼女に微笑みながらも歩き出せば、ところんこちらを守ろうとする心づもりにクスクスと微笑みは深まっていく。

「それでも駄目だよ、私がやらないと駄目なんだから。でも、ありがとね?」

魔王として、自身で領地を守って、彼等のために働かなければ、母や父が作った威厳は消えてしまう。
けれど、そこまでしようとする心は嬉しいもので、普段と変わらぬ明るい微笑みのまま宿の扉をくぐっていく。
その先は、二人のみが知る夜となり、交わりのデュエットは貝殻の奥底にひっそりと溜まっていくのだろう。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からフォーコさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からルーシェさんが去りました。