2017/11/29 のログ
ご案内:「ナイトクラブ『ミニュイ』」にアムリージュさんが現れました。
■アムリージュ > 耳の上で二つに結わえた金の髪を乱さないよう、背や尻を天井に向けて寝椅子に横たわる。
いつ呼び出されるかわからないから、顔に跡がつかないよう、クッションを抱いて頭部を浮かせて。
壁に描かれた色鮮やかな、無数の花が見える。
巷で人気の画家が無名時代に描いたものだが、絵師の名前は忘れてしまった。
上流階級相手の仕事。文化や芸術に疎ければ甘く見られてしまうのだが。
(でも、わたしがここにいるのは、別の仕事のためだから…)
――そう自分に言い訳しながら、まとわりつくような眠気を退けようとする。
■アムリージュ > …いや、わかっている。そんなことは言い訳にならない。
自分の本来の仕事は、暗殺や諜報なのだから。
むしろ巷で人気の画家の名前と筆致も知らないようでは別人のふりもろくにできない。
気がつくと、クッションを抱きかかえる腕にぐっと力を込めていた。
艶やかでなめらかな布地が心地良いが、いつ滑り落ちるかわからない不安定さも同時に感じる。
「はぁ…、憂鬱…。やっぱり薬くらい買っておけばよかった…」
大きくあくびをして、顎をクッションに乗せる。
顔に跡がつかないように。柔らかいクッションで喉を締めるかのように。
天井の黒いシャンデリアは、この角度からは見えない。
寝椅子に掘られた彫刻も、今は目に入らない。
ご案内:「ナイトクラブ『ミニュイ』」にキルシュナさんが現れました。
■アムリージュ > 勤務を終えてベッドに入ると、神経が昂ぶって眠れない。
朝日を浴びて浅く眠り、開店前のナイトクラブ『ミニュイ』の個室で待機していると、強烈な睡魔に襲われる。
眠りをもたらす薬ならばここでも購入できるのだが、己の心身の不具合について、雇用主に把握されたくなかった。
華やかなナイトクラブ『ミニュイ』の奥には、社会の闇が広がっている。
使い物にならないと見なされれば、ありもしない罪を負わされて始末されかねない。
それでなくとも暗殺者などという危険な仕事をしているのだ。
それもこの店の顧客を通じて請け負っているという状況。
一度の依頼で高級娼婦のひと月の稼ぎに匹敵する額を稼ぐこともあるからこそ、こうして個室をあてがわれているが、それもいつまで続くやら。
切り捨てるための口実になり得るような不具合は隠し通さなければ、と思う。
「…転落って、突然だから…」
目元が険しくなり、青い瞳に影が落ちる。
■キルシュナ > 不意に響いた控えめな物音は、窓が開かれ閉ざされた音。
ふわりと揺れたカーテンの動きは、一陣の寒風によるものか、共に室内に入り込んだ黒豹めいてしなやかな人影によるものか。
短く切りそろえられた黒髪を押さえつける鬼面を模した鉢金の中、禍々しく光る瞳がぎょろりと蠢き窓の外を観察する。
黒色の獣耳とにょろりと伸びた猫尻尾。
無駄なく鍛え上げられた、それでいて女らしい色気を保った褐色の肢体を覆うのは、下着じみて露出の高い黒装束と、ヴェールの如き薄マント。
そんな怪しさ満点の侵入者は、鬼面の瞳とは逆方向に金の瞳を向け、寝椅子の上でクッションを抱きかかえた先客の姿を捉えた。
「――――あちゃぁ……、ヤバいなぁ、もぉ。」
困った様な笑みを浮かべたかと思えば、影に溶けるかの動きで室内を駆けた。
物音一つ起こすことのない、にも関わらず獲物に飛びかかる猫科の肉食獣の如き素早い動きは吐息を零す間すら与えず互いの距離をゼロにする。
褐色の細腕を伸ばしつつ、娘の背後へと回り込む挙動。
しなやかな細腕が狙い通りに口元を押さえ、逆手にて彼女の腕を後手に捻りあげる事が出来たなら、背後から娘を抱きかかえる様な格好にて飛び上がり、寝椅子の背もたれの後方へと転がり込もうとする。
もしもそれが叶わぬならば、少々乱暴な手段を取らざるを得ないだろう。
■アムリージュ > (…え…、なに…?)
不意に鋭い気配を感じ、床に身を転がして侵入者の腕を避ける。
すっかり油断していた。厚手のガウンが足に絡まり、思うように動けない。
スタッフとして呼び出されたなら踊り子の装束を、依頼客が来たときには来客用のドレスを。
どちらにでも着替えられるようラフな格好をしていたのが仇となってしまったようだ。
体勢を整えながら、つい今しがたまで自分がいた場所に鋭く手を伸ばす来客の姿を確認する。
初めて目にする相手のようだ。それとも誰かの変装だろうか。
重いガウンが邪魔だ。次の手を打たれたら避け切れそうにないだろう。
「なんの用…?」
■キルシュナ > かつては暗殺者として闇の世界に名を轟かせ、数年前までは冒険者としての勇名を王都に響かせた黒猫は、今、複数の同業者に追われていた。
暗殺者として所属していた邪教の生き残りか、はたまたどこぞで恨みを買った貴族に雇われた者たちか、その正体は判然とせぬ物の複数人にて気配を殺し、じわじわと真綿で首を締める様に距離を狭めるその動きは、間違いなく同業者のそれ。
滲む殺気を鑑みれば、己の命を狙う者達であるのは明白で、キルシュナは即座に地を蹴り壁を駆け上がり、逃走へと移ったのである。
その最中、連中の死角へと入り込んだ僅かな間に、偶然見つけた建物の鍵の開いた窓に飛びつき、その室内へと入り込んだというのが此度の顛末。
「―――おぉうっ!?」
華奢な見目は素人の、おそらくは水商売に身をやつした娘のそれ。
にも関わらず、とっさの野戦反応は同業の熟練を感じさせるプロの動き。
忍び込んだ室内に、先客が居る可能性は無論織り込み済みではあったが、よもやその先客が同業者であるなどとはさすがの黒猫も想像だにしていなかった。
思わず感嘆の声音をあげる黒猫の心中にて『殺すか』という怜悧な刃の如き思考がよぎるも、だらりと下げた細腕は獲物を引き抜く事もなく無手のまま。
とは言え時間的余裕はほとんどない。
彼女の唇が動き、何事かを告げようとしたその瞬間、鬼面と猫の双眸、そろって4つの金眼がギュッと瞳孔を狭めつつ、油断なく姿勢を整える娘の瞳を凝視した。
刹那の麻痺を与える邪眼の如き催眠術。
同時に地を蹴り少女に飛びかかった黒猫は、右の細腕にてガウンを掴み引き寄せて、逆腕の掌底にて軽く彼女の喉を打ち声を奪おうと。
更に流れる動きで折りたたんだ肘骨が彼女の鳩尾を強かに打ち据えて昏倒させようとする。
素人相手であれば、間違いなくその意識を刈り取るであろう連撃は、同業の少女からどの程度の抵抗力を奪えるだろうか。
■アムリージュ > (まさか…わたしを殺すつもりで…?)
この店の顧客を通じて暗殺の依頼を請けていることは、経営者も知っている。
だから誰かが口を割れば、足がつくリスクは高かった。
過去に殺した者の関係者が、おそらくは報復目的で刺客を差し向けたのか。
それともそう見せかけて不要になった“従業員”を始末するつもりなのだろうか。
あるいは己の出生の秘密を知っている者の仕業か――心当たりは山ほどある。
そしていつかはこのようなことになるのでは、と予感していた。
この世に未練はないのだが、せめて去り際くらい、苦痛は勘弁願いたい。
襲撃者の顔を確認すべく、視線をそちらに転じる。
鼻筋の通った美女と鬼の面、どちらが本当の顔なのか、一瞬、混乱してしまう。
判断が遅れた隙に四つの目が細くなり、危険を察知したときには身体が動かなくなっていた。
(なに…これは…)
襲撃者の手がガウンに伸び、そちらに引き寄せられるのを感じた。
とっさの判断で、その勢いには逆らわず、むしろ利用しようと決める。
まだ、術は解けていない。無駄な抵抗は試みず、襲撃者の元に引き寄せられ、そして術が解けた瞬間に、この勢いを利用して彼女に体当たりをしようと――
■キルシュナ > 麻痺の邪眼にて身体の自由は奪えても、瞳の奥に宿る感情の動きは抑えられない。
未だに抵抗を諦めぬ往生際の悪い意志の強さの裏に、命を奪われる物達が見せる諦念と覚悟を見て取った黒猫は
「――――あぁ、もぉっ! ほんま困るわぁっ!」
と短く吐き捨て、身を引くどころか勢い良く身体を浴びせて来る少女への攻撃を止めた。
そして体当たりの衝撃を軽く身を引く事でやんわりと受け止めて、豊乳のクッションで彼女の頭部を抱きとめながら、金の髪束に唇を寄せて慌てた口調で囁いた。
「なんや誤解させてもうたみたいやけど、ウチは別にあんたを殺すつもりはあらへんのよ。ウチも今悪モンに追われとって、そんでここに逃げ込んだっちゅうだけなんやから。せやから、ちょっとだけ匿ったって。な、ええやろ? なっ、なっ?」
言いつつ猫の尻尾をしゅるりと彼女の腰に巻き付けて、華奢な体躯を抱きかかえたまま窓辺の脇、家具の物陰へと潜り込む。
そしてその直後、音も無く窓に張り付いた黒装束が爬虫類の如き眼差しで室内を見回した。
つい先刻の騒ぎなどまるで感じさせない室内は、その利用者がクッションを放り出して厠にでも駆け込んだ様な、怪しい所など何一つ無い静寂を保っている。
『……………………。』
程なく空へと視線を向けた黒装束が窓際から飛び去って、それでも更にしばらくの間キルシュナは捉えた少女を抱きかかえたまま、物陰にて気配を殺す。
片手で彼女の口元を押さえつけ、もう一方は彼女のお腹の辺りをきゅっと抱き寄せる。
その上、毛艶の良い猫尻尾まで彼女の下肢に絡ませて、動きを封じる念の入れよう。
彼女の背筋に密着させた柔乳が、鋼鎧の硬さと共に瑞々しい弾力を感じさせる。
そこから伝わる体温は火照りを帯びて微かに汗ばみ、柑橘を思わせる猫娘の体臭をほのかに漂わせる。
彼女が大人しくしていてくれるのであれば、ばっくんばっくんと跳ね回る心音も、ゆっくりと、ゆっくりと、落ち着きを取り戻していくはずだ。
■アムリージュ > 嫌だと言っても聞き入れてくれそうにないし、嫌だと言うつもりもなかった。
できれば彼女を追っているという“悪モン”とやらのことを詳しく聞きたいとは思ったけれど。
それは彼女が無事に追っ手を巻いてからでいいだろう。
彼女に身を任せたまま、物陰で息を殺す。
見るともなしに床を見ると、窓から差し込む光の影が落ちているのが見えた。
そこに人らしき影が映る。二階であるにもかかわらず。
人影が小さく揺らぐ。その動きは室内の様子を探っているように見える。
彼女が追われているという話は事実なのだろう。しかもどうやら厄介な相手に。
彼女の汗ばんだ肌とかすかに伝わる心音が、それを物語っている。
あれほどの腕を持つ襲撃者が、ここまで緊張するような相手――
巻き込まれたくない、と思うと同時に、もう遅いだろう、と思っていた。
そもそも“悪モン”とやらについて詳しく知りたいと思った時点で、巻き込まれることを受け入れたようなものだ。
さほど恐怖を感じないのは、かすかに漂う柑橘系の香りで気分が安らいだからだろうか。
それとも既に多くのことを諦めてしまったからだろうか。
彼女の心音が落ち着くのを待ってから、小声で尋ねる。
「…行ったみたいだけど。追っ手は一人だけなの…?」
■キルシュナ > 返り討ちにしようと思えばやれない事も無かったはずだ。
とはいえ、包囲を狭める手際を見れば一流の刺客であることだけは確かであり、下手を打てば面倒なことになると思えたからこその逃げである。
一端包囲を抜けた後、末端の一人を捕らえて情報を聞き出し、その後に反撃に打って出るつもりであったのだ。
しかし、今はまだ早い。
幸いにして大人しくしてくれてはいるが、腕に抱いたこの少女が敵か味方かすら分からないのだから。
ようやく、刺客の気配が遠ざかる。
安堵の溜息を吐き出そうとしたタイミングで、控えめな声音に問いかけられて
「―――んにゃ、少なくとも5……いや、あの包囲からしたら8はおったやろな。全員結構な手練みたいやったし、正面からやりあうのは流石にちょっと勘弁したくて……すまんかったね。びっくりさせてもたね。」
少女の体躯を抱きしめていた腕から力を抜き、下肢に絡めた猫の尻尾をしゅるりと解く。
そうして彼女の肩に手を置けば、その身を反転させつつ膝を曲げ、視線を合わせて笑顔を向けて、お礼代わりに彼女の頭を撫でようと。
■アムリージュ > 驚かなかったと言えば嘘になるが、謝られるとそれ以上は何も言えなくなる。
手段など選んではいられなかったのだろう、と察することはできるだけに。
彼女に笑顔を向けられて、少し困ったような顔になる。
彼女の手が頭に伸びて、身をかわそうかと思ったが、しぶしぶながら撫でられる。
「…髪、乱れると困るの。お客さんの前に出るから…」
言いながら、先程のことを思い出す。今更気にしても遅いだろう。
そんなことより気になるのは、彼女を追っている者たちのこと。
いや、彼女のことも気にならないわけではないが――
「…それよりも、包囲って、どういうこと…?
状況によってはわたし、あなたの手伝いをするけれど…」
微妙に語尾を濁す。善意で助けるわけではない。
本来ならば報酬がなければ手を貸すことはないのだが、この店だけを拠点にするのは危険だと感じ始めたときに舞い込んだこの状況。
巻き込まれてみるのも悪くはなさそうだが――
■キルシュナ > 「―――っとぉ、そっかそっか。お嬢ちゃんはこっちの仕事だけやなくて、そっちの仕事もさせられとるんやねぇ。」
先刻の反応の良さを考えれば、少なくともそれなりの腕を持っている事は明らかである。
そんな優秀な暗殺者に娼婦としての仕事も斡旋するとは……いや、その仕事も暗殺のための手段の一つとしているのかも。
なんて手持ち無沙汰に考えながら、乱してしまった髪を手櫛にて整えていた黒猫は、続く問いかけと申し出にきょとんと金眼を丸くした。
「あー……ん~~……まぁ、せやったらせやったで、そん時はもぉ覚悟決めてやりあうしかないな、うん。」
金の瞳を天井に向け、尖らせた唇を人差し指で弄びつつ何事かを考え込んでいた黒猫だったが、何かしらの決意を固めたのだろう。
改めて少女に目を向けて、微かに緊張を孕んだ声音で言い放つ。
「ウチの名前はキルシュナや。お嬢ちゃんも只者やなさそう……ちゅうか、ぶっちゃけ同業者やろ?」
先刻の刺客の仲間なんてことは流石に無いだろうけれど、彼女の所属する組織のブラックリストに己の名が載っている可能性は無くもない。
とは言えこうして巻き込んでしまって、更には手伝いまで申し出てくる彼女に対し、名すら明かさぬままというのは気が引けた。
「正直言うて、ウチもまだ状況把握しとらんのよね。ウチはもぉ足洗ったんやけど、暗殺なんぞしとったら色々と恨み買うのもしゃあないやん? しかもウチ、足抜けする時組織ぶっつぶして逃げてきたし、まぁ、心当たりがありすぎて……ちゅうしょうもない状況やねん。」
言葉を連ねてひとまずの状況説明を行いつつ、改めて眼前の少女に目を向ける。
艶やかな金の巻き髪、宝石の様な蒼瞳。
どこか茫洋な雰囲気を纏いつつも整った顔立ちは愛らしく、先程抱きしめた体躯は華奢なれど程よく引き締まっていた気がする。
■アムリージュ > 「させられてる、ってわけじゃないの…」
寂しげに微笑みながら答える。
好きでしているわけでもないが、足を洗おうとはしなかった。機会があったにもかかわらず。
こういう世界でしか生きられないことを受け入れてしまったのかもしれないし、死に場所を求めているのかもしれない。
くるくる変わる相手の表情を黙って見詰めながらその話を聞いていたが、やがて彼女が名乗ると、安堵したように微笑んだ。
「…そうね。同業者よ。わたしはアムリージュ。
この店に在籍しているけれど、娼婦はほとんどしていないわ。
上流社会の人たちから、その…、依頼を請けるためにここにいるようなもの…。
でも、いつまでもこの店にいるわけにはいかないから…」
声が沈む。この店から去ったところでこの世界からは抜け出せない。
他ならぬ自分自身がこのような世界に身を置くことを望んでいるのだから。
足を洗った、と言った彼女を眩しげに感じる。
「…わたしはキルシュナを追ってる人には、たぶん…顔は割れていないから…」
疑わしい場所に潜入することはできるはず、と協力を申し出る。
■キルシュナ > あー……この目、よぉ知っとる。
色々諦めてもうとる目やなぁ……。
諦念の滲む彼女の瞳を困ったような笑顔のまま見下ろす猫娘。
かつて、暗殺を生業とさせられていた頃、同年代の仲間達の目も似たような色合いで曇っていたのだ。
なんとも言えぬ苦い気持ちにさせられながら、しかし、こちらの名乗りに敵対反応を向けることの無い彼女の様子には同様の安堵で口元を綻ばせる。
「――――なるほど、な。他所との繋ぎのために、ウチに協力してくれるっちゅうわけなんやね。ん……そういう事なら、手伝ってもらう事にするわ。せやけど、死ぬ様なマネはせえへんといてな? これでアムちゃんに死なれでもしたら、流石にウチもたまらんしな。」
鋭く尖った八重歯を覗かせつつニヤリと笑うと、改めて彼女に向き直り作戦の概要を伝える。
少し離れた位置にて探索を続ける連中を、端から一人づつ返り討ちにしていくのだ。
『匂い』を辿って二人でターゲットに近づき、平民を装ったアムリージュがすれ違いざまにナイフを突き立てる。
それで仕留められればそれでよし。
たとえ回避されたとて、予想外の相手からの突然の攻撃に心を乱した暗殺者の背後から、気配を殺したキルシュナが必殺の攻撃を放つのだ。
事は随分と容易くなる。
そうして連中を排除した後、生き残りから情報を引き出して、その際には改めて彼女に潜入工作を頼むことになるかも知れない。
「―――さて、そんじゃいっちょ始めよか。あ、とりあえずなんや羽織るもん貸してもらってえぇ?」
なんて言いつつ、二人揃って店を出る。
奴らの殲滅は、きっと滞りなくこなすことが出来るだろう。
傍らを行く小さな同業者の歩みに、猫娘はそんな予感を覚えるのだった―――。
■アムリージュ > 「大丈夫…わたしは死なないから…」
にやりと笑う彼女に、寂しげに微笑んで答える。
無論、不死身だという意味ではない。
たとえ窮地に立たされても反撃できてしまうことを知っているだけだった。
作戦の概要を聞き、出発の準備に取り掛かる。
服ならこの待機室に私物が何着かあるのだが、彼女の豊満な胸には窮屈すぎるに違いない。
それならば、と店内の衣装室に二人で向かう。
開店前のこの時刻は店内のスタッフもまばらで、彼女を訝る者もいない。
貸し出し用の衣装ならば、デザインもサイズもさまざまだし、特定の職種の制服もあって、変装にも使えそうだ。
それにここは高級店、コスプレ用のものではなく、本物とまったく同じ制服を備えている。
「いつもと違う格好のほうがいいんじゃないかな…。
キルシュナはいつもこういう服なの…? それなら…」
そんな会話を交わしながら、服を着替えて店の外へ。
目にするたびに閉塞感を抱いたはず光景が、今日は少し違って見える。
ご案内:「ナイトクラブ『ミニュイ』」からアムリージュさんが去りました。
ご案内:「ナイトクラブ『ミニュイ』」からキルシュナさんが去りました。