2017/09/15 のログ
ご案内:「王都マグメール富裕地区 教会」にコンスタンスさんが現れました。
■コンスタンス > (宵闇に紛れるよう、一人、供も連れず訪れたのは、富裕層の住まう界隈に佇む教会。
ある有力貴族の寄進により建てられたという其処は、小さいけれど瀟洒な外観と、
繊細なデザインのステンドグラスが自慢であると、専らの噂だった。
巻きつけたロングストールの裾を翻し、頑丈な木製の扉を押し開けて、
静まり返った聖堂の中、緋色の絨毯が敷かれた中央の通路を辿り、
艶やかな天鵞絨で彩られた祭壇の前へと進み出る。
――――碌に祈りの言葉も知らぬゆえ、俯いて呟く其れはひどく拙かったが、
想いだけは深く籠めたつもりだった。
身体の前、ウエストの辺りで組み合わせた両掌の中には、銀のロザリオが握られており)
■コンスタンス > (城内にも王族の為の礼拝堂はあるけれど、其処は時折、否、しばしば、
王族同士、或いは王族と其の従者の逢引の場になっていたりするので、
己の性格上、おいそれとは近づけなかった。
―――そういった点では、此処も然して変わらぬ、という噂も聞くが、
取り敢えず今現在、此処は己の独占状態である。
心ゆくまで、指先で辿る銀色が己の体温を移し、仄かに温かく感じられるまで、
拙くも祈りの言葉を紡ぎながら―――思考は、昏く巡る。
心の真っ直ぐで硬い部分と、柔らかく傷つき易いところとが、
其々に喚き合い、泣き叫び、激しくぶつかり合っていた。
どうしたら良いのか、どれを選ぶべきなのか、何から解決すれば良いのか、
―――何ひとつ、分からなかった)
ご案内:「王都マグメール富裕地区 教会」にエルバートさんが現れました。
■エルバート > (本部からの要請で一日派遣されたのは、富裕地区にある小さな聖堂だった。
粛々と勤めを果たし、予定ではとうに帰路についているはずだったが、
こんな時間まで居残っていたのは、先輩にあたる神官達に呼び止められ、無駄話を聞かされていたからに他ならない。
ぐだぐだと続く話の執着は決まって、君もあのように侘しい教会ではなく、こちらに転属を願えばいいのに――だとか、
お父上の名前を出せばいくらでも好きに出来るだろう――だとか、そんなものばかり。
これだからこの街が苦手だ。
張り付けた笑みで話をはぐらかし、神官たちをなんとか先に帰すと、
戸締りを兼ねて事務室から礼拝堂へ繋がる扉を静かに開いた。
すると、祭壇の前にぽつんと佇む人影が目に入る。
祭壇の脇に灯された燭台の弱い明かりではその正体をはっきりと捉えることは出来ないが、
俯いた拍子に薄色の短い髪が揺れるのがわかった。背丈から言って少年だろうか。
祈りを捧げる様子はひどく熱心で、とても邪魔をして良い雰囲気ではないのだが――)
――こんな時間にお祈りですか?
(声を掛けないわけにもいかない。
男は礼拝堂の中へ踏み入ると、ランプを手に人影へ向けゆっくりと歩み寄って行く)
ご案内:「王都マグメール富裕地区 教会」にイグナスさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール富裕地区 教会」からイグナスさんが去りました。
■コンスタンス > (祈りとは無縁の何事かに耽る者が居ないのは良いが、
灯火を護る神官の一人も居ないのは、本来の彼らの責務を考えれば、
少しばかり頂けないことかも知れない。
然し己の場合、誰も居ないことが寧ろ幸いだった。
扉の開く音に気づかぬほど、己の裡深くへ意識を沈ませていたらしい。
投げかけられた声に不意打ちを喰らった形で、ぎくりと肩が震えてしまい)
っ、――――― あ、………
(彼の携えたランプの灯りが、其の端整な容貌を鮮やかに浮かばせる。
振り仰いで、彼が何者であるか気づいて―――大きく目を見開き、返す言葉を失った。
手の中のロザリオを握り締めた指に、知らず、深く力が籠る。
長い髪も無い、優美に身を飾るドレスも無い、化粧もしていない。
己があの夜の娘だと、果たして彼は気づくだろうか。
気づいて欲しいような、決して気づいて欲しくないような――――
相反する感情が胸を圧し、呼吸すら覚束無くなってくる。
声も無く、ぎこちなく頭を振って、一歩。
じり、と後退るように、ブーツの踵を滑らせて)
■エルバート > (声を掛けた拍子に、人影の細い肩が短く跳ねる。
振り向き男の姿を認めるや、狼狽えるように言葉を失って、
頭を振り被り、こちらから逃げるように一歩分の距離を取った。
直感だったか、そうであれば良いという期待のせいだったかはわからない。
姿はおぼろげにしか見えず、何より髪の色がまるで違う。
それでも、その華奢な体が纏う空気が、しなやかな手指が紡ぐ仕草が、薄く漏れた声が。
切ないほどにその正体を知らせてくれる。
公爵から届けられた言付けには応と返事を出したものの、まさかこの場で会うなんて。
小さく弾む自身の胸の音へはひとまず気付かぬふりをして、
男は長椅子にランプを置くと、彼女に背を向けたまま感情の見えぬ声で呟くように言った)
夜に一人で過ごされることが如何に危険か……貴女はもう、それを十分知っているはずです。
――何故、ここへ?
■コンスタンス > (あの夜、宴を催した公爵からの書状が届いたのは、つい先刻のこと。
一夜を共にした相手が聖職に就く者だと、はっきりと知らされて―――
混乱はますます深まり、其れは今や、恐怖に近い感情へと変わっていた。
訪ねて行けば、きっと何かが変わってしまう。
大切なものを、喪ってしまう―――――そう思ってしまったのは、何故だろう。
だからこそ、こうして彼の来る筈の無いところへ祈りの場を求めたのに、
其処で彼と出逢ってしまう、なんて。
一歩、後退りはしたけれど、其れ以上は凍りついたように動けない己に、
彼の声が再度届けられる。
あの夜よりもずっと遠く、ずっと低く―――其れでも、耳朶を甘く擽る声。
びく、とまた小さく肩を震わせて、痛みを堪えるよう、きつく目を瞑ってから)
―――――独りで、過ごすより……独りでは、無い方が、ずっと危険だ、と、
知ってしまったから。
だから、……独りで、来たのに……どうして、
(どうして、貴方に逢ってしまったのか。
そう、直截に尋ねるほど、明け透けにはなれなかったけれど―――
握り締めたロザリオを、無意識に己が胸元へぎゅっと押し付けて)
………ねぇ。
私からもひとつ、訊いても良いかしら?
―――――此れ、は、……忘れた、の?其れとも……、
(態と、置いて行ったの―――そう、言外に付け加え)
■エルバート > (ああ、やはり。躊躇いがちに告げる人影の声は、思った通りの音色をしていた。
わずかに後退したものの、彼女は逃げ出そうとはせず、その場に縫い留められたように立ち尽くしている。
男が振り向いたと同時に投げかけられた質問。
此れ、とはつまり男が残していった名入りのロザリオのことだ。
彼女の胸元に握りしめられたそれは、薄闇の中で蝋燭の明かりを受け上品に光る。
男はわずかに目を伏せると、あの日と同じ底意地の悪い微笑みを作った)
貴女のご所望は?
そもそも何故私のものだとお思いになったのです?
ふふっ……それほどまでに私に会いたかったのですか?
(彼女に向けて歩み寄り、正面から表情を見据えようとする。
初めて見る彼女の本当の髪は白に近い色をしていて、
陽の光の元で見ればきっと、輝くように美しいのだろうと、そんな思いが胸に過った)
貴女は私を探してはいけなかった。
――会えばまた、何をされるか想像はつくでしょう?
それとも……それをお望みで会いにいらしたのですか、姫君。
(いつも通り余裕めいた表情と声を携えて言う。
けれどどこか、彼女の胸の内にあるものに怯えてさえいた。
酷い男だとそう突き放してくれなければ――泣き喚いて拒絶の言葉を繰り返してくれなければ。
彼女との唯一の繋がりが途端に崩れてしまう、そんな気がした。
伸ばされた手は娘のこめかみに触れ、指先はそのまま頬をなぞろうと滑り落ちていく)
■コンスタンス > (此処には他人の眼も無く、己は動き難いドレス姿でもない。
あの夜とは何もかも違うのに、そして己はもう、彼という男を知っているのに、
―――どうして、逃げようとしないのだろう。
そもそも、どうして捜そうと思ってしまったのだろう。
真っ向から視線を重ねられれば、一歩、二歩と近づかれれば、
彼を見つめる青い瞳は、微かな怯えの色さえ宿してしまう癖に。
向けられる笑みは決して、優しさも甘さも感じさせはしないのに―――)
――――もう、一度、逢い……たかった、のは……
貴方の方、だと……思って、たわ。
こんな、思わせ振りな真似をして……なんて、図々しい男だろう、って、
(しゃら、り。
やっとの思いで握り締めていた手を解き、繊細な鎖を胸元へ垂らす。
ゆらゆらと其れを揺らしながら、精一杯の憎まれ口を利いてみたが、
―――声が、眼差しが、如何しようも無く震えていた。
――――姫君。
己をそう呼ぶ癖に、男は少なくとも表向きだけは平然と、己に手を伸ばしてくる。
ひくりと震えた蟀谷から、蒼白く強張った頬へ。
背筋へ不意に駆け上った、悪寒にも似た震えの意味を考えたくなくて。
彼のものであるロザリオを手指に絡ませた儘、己は右手を鋭く振りかぶる。
避けようと思えば避けられるだろう、止めることも容易かろう。
けれど兎に角、思い切り力を籠めて―――男の頬を、張り飛ばしてやろう、と)
■エルバート > (図々しいと揶揄されれば、反論の余地はない。
実際に今、こうして利を得ているのはこちらの方だろう)
――お会いしたかったですよ。
(唇が勝手に、呟くような小さな声でそう言った。
指先が柔な頬を通り越し顎を掬い上げようかというところで、
娘の白い右手がロザリオをきつく握りしめる。
作られた小さな拳。――嗚呼、これが罰ならあまりに温い。
咄嗟に振り被られた手首を掴み、相手の身体ごと強く引き寄せる。
小柄なその身を抱くことが出来たなら、肩口に顔を埋めてしまうだろう)
……こんなもの、罠に決まっています。
貴女が会いに来て下さるように……。貴女を思うままにするために。
それなのに……何故そのようにいたいけでいらっしゃるのです。
こんなに震えているくせに、逃げ出しもしないで。
(己が残した印を胸に抱き、祈りを捧げる彼女を前に、あったはずの打算が音を立てて崩れ去っていくのがわかった。
混乱していた。これ以上近づけばきっと、酷いだけの男でいられない)
困ります。……貴女を欲しくなってしまう。
(口端から漏れたのは縋るような台詞に似合いの、情けない声だった)
■コンスタンス > (―――逢いたかった、と、只、ひと言だけ。
其の言葉に籠める意味など、人、其々であると知っているのに、
どうして其の言葉だけで、此れ程までに心が震えるのだろう。
無意識のうち、振り上げた右手の動きが鈍り、容易く男の手に掴み取られてしまう。
引き寄せられてバランスを崩した身体は、あの夜と同様、
呆気無く男の腕のなかへ堕ちて)
っ、………あ、なたが……貴方が、悪いん、だわ。
貴方が、あんな風に………最後まで、酷い儘でいてくれたら、
……憎んで、嫌って、いっそ、牢獄送りにしてやったのに……、
(王族、とは言え、然程の後ろ盾も持たぬ己に、そんな真似が本当に出来るかどうかは兎も角。
彼の所在が掴めたところで、本当ならばそうしてやっても良かった筈だった。
なのに―――
捕まれなかった方の手を伸ばし、躊躇いながらもそっと、
己の肩口へ預けられた、彼の頭へと触れる。
闇夜よりも艶やかな黒髪の感触を、確かめるように指先を滑らせて)
――――なのに、何故、そんな声を出すの。
何故、私にあんな口づけをしたの、何故、……どうして、
こんな罠を仕掛けてまで、酷い目に遭わせるつもりだったなら、
………どうしてあの夜、私が目覚める前に出て行ったの。
もっと脅して、怖がらせて、……好き放題に、傷つけなかったの。
(語尾はやはり、微かに震えているけれど。
とくとくと、心臓の音は早く、忙しなく乱れているけれど。
伏し目がちに彼の首筋辺りを見つめる双眸は、何処か甘く濡れて)
■エルバート > (貴方が悪いとなじられる程に安堵してしまう。
責められたかった。嫌われて憎まれて。自分と言う男をそんな風に残されたかった。
そうであったなら何度でも、彼女の身をただ欲望のままに弄んだだろう。
そこに心が無かったなら――。
抱き寄せた娘は男の長い黒髪を梳くように、柔らかな指を滑らせる。
微かに触れる指先からじわりと滲む熱。それが思いのほか優しくて、男はくすぐったげに笑った。
大人しく抱かれながら何故、どうしてと繰り返す声は、あの夜とは違う熱を孕んでいるように思える。
顔を上げると、あの大きな青い瞳が薄く濡れたヴェールを纏っていた。
その目に見つめられるたび、とうの昔に冷え切ったはずの己の胸が熱くなる)
……今夜の貴女は質問ばかりですね。
――貴女を脅しも、怖がらせもしましたよ。
好き放題に傷つけた……そうでしょう?
(緋い目をきまりが悪そうに伏せ、しばらく逡巡する。
再び彼女を見据えると、表情は自身を嘲るような笑みとなり、わずかにかぶりを振った)
それなのに貴女は……あまりに無垢だった。清い心と体で私を受け止めてしまった。
貴女にあんな風に……他の誰かを求めて欲しくないと、そう思ってしまった。
貴女を置いて行ったのは、目覚めた後の貴女の答えを知るのが怖かったからです。
どうか臆病者めとなじってください。
(彼女の頬に唇を寄せ、あの日部屋を出たときと同じように、両の頬に、額に軽く口づける。
それが終わり顔を離すと、彼女のつま先から頭の先までを視線で撫で上げ、
慈しむような穏やかな声で言った)
長い黒髪でドレスを着た貴女も素敵でしたが……その姿もとても綺麗だ。