2017/03/16 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にシャドウさんが現れました。
■シャドウ > 今宵闇夜に浮かぶは青紫色の不可思議な人魂……ではなく、それは黒基調のジャケットをまとった青年が口に咥えている煙草に似た何かの先端に灯った小さな火。浮かぶ煙すら薄ら紫色をした不思議な何かを咥えたまま、時折灰が零れて富裕地区の路面に落ちようが風に吹かれて飛ぼうが気にもとめず、口先で煙草モドキを揺らし、不可思議な色の火を揺らし、ふらふらと一人で人気のない道を歩いていた。
煙草とは違うコレがアノ晩愚痴ったアレであり、煙草とは似て非なるモノ。極普通に呼吸するように煙草モドキの煙を肺に吸い上げれば、満ちていくのは高揚感と常人が一度に摂取すれば腰砕けになる程に濃密な魔力。その魔力が身体に満ちていくのと同時に急激に失われていく喪失感を堪能しながら、誰か探す様子もなく歩く姿は不審者以外の何者でもない。歩く軌跡は薄紫色の煙が奇跡を描き、煙草モドキの光が帯を描く、美しくも儚い光景……吸っているのが美女であればの話ではある。
「……ったく、何であの日はコイツを忘れちまったかネェ……無いと笑い話にもなりゃしないのに……。」
結果から言えば吸おうが吸うまいが口から零れてしまうのは愚痴である。ただあの日と違うのは琥珀色の瞳に宿す輝き、今宵は何処か蕩けるように輝き薄く、去れど意志の強さはあの晩より強く宿していた。煙草もどき、言うなれば急速に魔力を補給する為の霊薬である。魔力を増幅する事だけに特化した薬草を集めて紙に包んで作る特注品で有り、これ1本で結構なお値段がする代物で、好き好まなくても1日1本吸わないと面倒な事になると自覚している、のでこうやって外で気分転換をしながら吸い続けている。今日も……きっと明日も……身が朽ちるまで。で、副作用は色々とあるが、死ぬよりはましであった。
■シャドウ > 歩く速度は何時もと同じかそれ以上に緩やかで、身体に魔力が満ちていく感覚と喪失感の両者が絡み合い領分を奪い合うからこその味わえる感覚に若干穏やかな気持ちに浸っている。無くなれば何時も通りなのだがこの1本を終えて数分くらいは持ちそうか、ふと魔獣の革で作られたジャケットのポケットに残りの煙草モドキが何本あるか確認しようと手を突っ込んで指先でかき混ぜて探り、指先にケースを捕らえて外に引っ張り出してみたが、軽い、もうこれ以上に無いほど軽い。――…もしや?と軽く首をかしげ、まてまてまて、とぼやきながらケースを逆さにして振ってみると、パラパラと薬草の破片が落ちてくるだけで、残りが1本も無い……本当にない。
「マジか、マジか……くっそ……よりによってハズレ持ってきちまったか……。」
眉間に皺寄せて、苦味をたっぷりと噛み締めたそんな笑みを口元に浮かべ、煙草モドキを咥えた唇の隅からそーっと溜息を吐き出した。今宵は肌寒いくらいの気温、口の隅からはモドキの煙とは違う白い蒸気が上り立つ……。と、流石にこの1本じゃ足りないと、一度歩みを止めるともう片方のポケットにも手を突っ込み、ケースを路面に放り投げてから、網から方の手でズボンのポケットにも手を突っ込んで、予備のケースは無いかごそごそと探り始める。やっぱりその様子は不審者以外には見えないだろう、その証拠に治安を維持する為にパトロールしているいけ好かない兵士が先程からちらちらと此方を見ている。
■シャドウ > へいへい、スイマセンねー怪しい男は立ち去りますよー
とは口にしたら其処で理由も無く捕まりそうなんで、心の中でだけ悪態をつく。叩けば埃どころか泥まで出そうな自分としては面倒ごとを起こしたくもなく、ついでに煙草モドキの在庫も無いわけだし、のんびりと散歩する理由も無くて……素直に帰る事にする。裕福な貴族や商人がいるからこそ商売のねたが転がっているかと思ったが空振りに終り、無事家に着くまでに眉間の皺が消える事は無かったのであった。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からシャドウさんが去りました。