2016/09/22 のログ
ご案内:「富裕地区にある酒場」にチェシャ=ベルベットさんが現れました。
チェシャ=ベルベット > 一仕事終えた後は常に気が立って仕方なかった。
このままうろうろしていたらきっと怪しまれた上に憲兵などに難癖をつけられるかもしれないので
退避場所として適当な酒場へと乗り込んだ。

規定の料金を払い、豪奢な衝立で区切られたスペースに案内される。
ホステスなどはいるかと聞かれれば首を振って追い払った。
かしこまりましたと従業員が下がると、どっかりと疲れたようにチェシャは豪奢なソファに座り込んだ。
スプリングがきいたそれがかなりの反発でチェシャを跳ね飛ばしそうになったが
かっこ悪いのでなんとかバランスを保って耐えた。

仕事の内容は知人に頼まれたとある富豪を殺すことだった。

チェシャ=ベルベット > 入念に下調べをし、下働きを募集していたことから容易に潜入は出来た。
知人が手を出されたと言うだけ合って、どうやらそれなりの容姿の少年にも目がないらしい。
度し難いことに妻帯者でもあり、奥方の手前隠していたようだが
こっそり出かけてはそういった相手を買い漁ってもいたし
立場の弱い子供に出逢えば言葉巧みにだまくらかして迫り、手篭めにしていたらしい。

そうして犠牲になった何人かを見送ってから、彼がチェシャに目をつけるのは予想の範囲内だった。
下働きだから抗えぬはずと何度となく抱かれその度に胸の内に冷ややかさが募っていった。

準備が整ったある日の晩、伽ごとに呼ばれて向かった寝室でチェシャは男を絞め殺した。
不可視の魔法の糸にかかれば造作もない殺人だった。
彼の屍体を自殺に見せかけるために張りにロープで首吊りをさせ、
貧民窟の偽造屋に仕立ててもらった遺書と、
こっそり撮りためていた少年少女をなぶる富豪の醜い姿を納めた魔法の水晶をその場に置いて
こうしてさっさと逃げ出してきたのだ。

チェシャ=ベルベット > あくまでショッキングな映像の方は奥方宛への警告と深入りするなというメッセージだったのだが
夫がそのような品性の人間であったことに悲しむのか腹をたてるのか
あるいは貴族のプライドとしてけっしてこのことを口外できぬのではないかとか
もしかしたらとうに夫婦仲は冷え切っていて死んだことで得られる莫大な財産のことに気が行っているのかもしれない。

それならそれで構わないし、要はチェシャの足取りを掴まれなければいいのだ。
あとは数日屋敷に通いつめて何喰わぬ顔で事件を知り、こんな所恐ろしくていられません!お暇をください!
などといって適当にやめればいいかもしれない。あるいはこのまま行方をくらませるのでも。

そうこうしている内に頼んであったオーダーが来た。
季節のフルーツ山盛りのパフェとミルクである。
明らかに持ってきた店員がこちらを小馬鹿にした様子で笑ったので氷の視線で睨みつけてやった。

チェシャ=ベルベット > どでんと目の前に置かれたパフェとそそくさと去っていく店員の後ろ姿を交互に睨みつける。
まったく高級店とは名前と看板ばかりでここの店員の質は最低レベルだな。ふざけんな。
と胸の中で毒づいて、パフェスプーンをいそいそと持ち上げさくっとフルーツを一つ選びだす。

食べるのかと思いきや、好きな具材と嫌いな具材を分け始めて皿に乗せる。
生クリームやアイスはちろちろと赤い舌で舐めて、嫌いなフルーツはより分けた後触りもしない。
チェシャは酷いレベルの偏食家だった。

「……うーん、まぁまぁかなぁ……」

正直酒場のパフェなどに期待してはいなかったがそれなりに食べられるレベルではある。
果たしてその食べ方で正しい採点など出来るのだろうか、
そして作った相手はこの様子に卒倒するのではないだろうか。
どちらもチェシャの知ったことではない。

チェシャ=ベルベット > 中身を約半分ほど残して食事を終える。ほとんど嫌いな食べ物を残しては
完食とはとうてい言い切れないのだが。
からんと器にスプーンを放り込んでミルクを飲み干す。
やはり仕事の後のミルクはうまい。

「ごちそうさま」
もう二度と来ないであろう店にそれでも一応の礼儀としてそう挨拶してから
立ち上がり残りのお代を支払い終える。金貨を数枚投げて店員に渡した。

値段の割にそれほどでもなかった食事を思い返して
少々損した気分になりながら店を出た。
さて次の仕事はどれを片付けようか、次の仕事はもう少し実入りのよいものにしよう。
遠出することも視野に入れて、猫は夜の街へと去っていった。

ご案内:「富裕地区にある酒場」からチェシャ=ベルベットさんが去りました。