2015/10/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にシドさんが現れました。
シド > 街並みが衣を纏ったかのように中央広場の市場は色取りどりの店舗に埋め尽くされる。色鮮やかな花に招かれる蝶のように人も群れを為す。
秋の昼時といえど熱気が盛りて肌と肌がぶつかりあうほど活気溢れ、それに負けずと商人の甲高い声が賑わいを添えていた。
貴族の青年も活気の中に……。群衆より頭一つ抜きんでた身長で周囲をくるりと見渡して、一点にと閃き渡る。
押し合い圧し合いする人々を上手く手で払い、ぶつかりそうになれば身を翻して交わしゆき――

「煙草……マグメール産の。いいものあるかい?」

アクセサリーから贈り物まで、嗜好品ばかり扱う店舗の前にとたどり着き、長駆を狭苦しそうにかがめて並べられた品々を物色する。

シド > 葉をつめた缶の銘柄を眸に移してはまた別のものを取り、添えられた紙巻の繊維さえ透かすばかりに目の前に寄せてじっと睥睨する。
後ろが閊えていつのもお構いなし。抗議に叩かれる背は生憎と鍛えられて痛みも然程ない。

「これを貰うぞ。 …釣りは要らん、とっておけ。」

眼鏡に叶う逸品を手にいれて気分は良し。雑踏溢れる混雑も軽やかに避け、或いはぶつかり、また店舗を巡りゆくのにフードの下で革袋は重みを増していく。
腰につけたそれが膨らみ上がりてそろそろ外套で隠すには不格好になる頃合いとなる頃に漸く市場の輪から抜けてゆく。
その外套についた皺や土埃を掌で拭いながら改めて人々の移ろい激しい市場を眺む。

シド > 瑞々しい果実を所狭しと並べるもの。国外に取り寄せた物珍しきもの。庶民にも扱える武具を取り寄せ売りつけるもの。
巨大な噴水を中央に造られた広場を円状に並べられた店達に群がる人々は貴族やその召使か。買い物から離れて話に華を咲かせるものもいる。
またその集まりの中に踊りを披露しておひねりを強請る庶民まで。絶えることなき人々の交流に目が奪われたのだ。
青年は買ったばかりの煙草草を紙に巻きつけ火を灯して楽しんでいた。

「ここだけは平和だな……豊かさに溢れてる。」

富裕層の街並みに憧れたのはいつだったか。初めて足を踏み込むのに緊張を隠せなかったのは誰だったか。
平和な時間につい訪れる追憶に、懐かしいようなおかしいような、そんなひとひらの感情に弓月の描く唇から紫煙を吐き出す。
暫しはそのまま喫煙にて街並みを観察してゆく。蜷局を巻いて昇る煙はまだ青々とした空に消えていく。

シド > 「この平和が長く続きますように、と。あとは俺の領土もこの半分くらい賑わいますように、と。」

半分ほど削がれた紙巻を投げ捨て厚い靴底で踏み消す。王都にと徴税を納める帰りに寄り道が過ぎた。
そろそろ仕事に入ろう。落ち着くどころか賑わい増していくその市場、今度こそ背を向けて去っていく。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からシドさんが去りました。