2023/02/27 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にドラゴン・ジーンさんが現れました。
ドラゴン・ジーン > 九頭竜の水浴び場。その施設内で、湯治客の為に趣向を凝らした薬湯の浴槽が在る。本来は透き通った清水の色も、湯底に敷き詰められた布包みの薬草から煮出された成分が染み出して、すっかりと濃い琥珀色にへと変じてしまっていた。人によっては独特に感じるかも知れないハーブティーのような香りが湯気に乗って入浴場内に籠り切っている。

湯温は調節されていて然程暑くはなく、寧ろ多くの人間の体感的には微温湯程度に感じる程だろう。それもその筈であり、石造りの浴槽内には、小さな小魚達が放たれ、群を成して泳ぎ回っているからだ。ドクターフィッシュの近種であるそれらは蛋白質を求め、浸かる湯治客達の余分な角質や汚れを啄んでケアをするように、調教されているという訳である。

「…………」

だが、今日はそれらの比較的に無害な魚類だけではなく、別のものもまた混在していることに殆どの浸かりに来た客達は気付いてはいない。刻一刻と時間が経過して行くに連れて継ぎ足しのペースの緩やかな薬湯の色の濃さに紛れ込んでしまい、そこには悠々と泳ぎまわる怪物の姿があった。

肉体の大半を構成する水分は薬湯を吸収してその色に限りなく近しくなり、カメレオンが色を変えて周囲に溶け込むがごとくに湯中に馴染んでしまっており、今も閉じられた部屋の中にくゆり続けている湯煙も相俟って何処に居るかを見通すのは難儀する始末になっている。

ドラゴン・ジーン > この湯治場の一角に潜伏している理由の一つとして、自らの生きる目的でもある遺伝子の確保は勿論の事だが。外敵に対して吐き掛ける濃縮毒の原料を集積する為でも在る。生物の生理的濾過から濾し出される余剰な成分、あるいは廃棄して然るべき毒素である老廃物に在り付く為だ。

その為に、時折にドクターフィッシュ達に紛れ込んで、時折に薬湯に浸かりに来る客にへと擦り寄っている。皮膚の上に堆積されている垢は無論のこと、温められて血行が拡がり緩んでいる毛穴一つ一つに残留する穢れすらも不定形の手によればこそぎ落とすにはさしたる苦労も要さない。

外皮を中心にして指の股の溝や爪の内側に至るまでにアメーバのように包み込んで張り吸い付き、細かな歯牙やゼリー状のスポンジで磨き取るかのようにしてその一部を摂取、あるいは採取していた。湯治場というとやはり訪問している者達も寛ぎ油断する場所でもあるのだろう、現状においては察知されている様子は見受けられず、順調に搔き集めた成果物で肥え太り続けている。
呼吸すらも一切必要ではない為に、潜伏待機している際には薬草類の沈み込んでいる湯底で眠っているだけで事足りる。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からドラゴン・ジーンさんが去りました。