2020/09/20 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にスバルさんが現れました。
スバル > 「――――すぅ。」

温泉宿の大浴場に、そんな声が小さく消えていく。欲情の片隅にポツンと子供が一人入っていて、浴槽の淵に凭れ掛かる様にして寝ていた。
温泉の温度は人肌位の温度で、逆上せるほどの温度ではなかったのが理由なのだろう。心地よく入っていて、うっかり眠ってしまっていた。

「ふにゃ?」

寝ぼけた声と共に、身を揺らし、ちゃぷんとお湯が揺れて少年は目覚める。ビクンと体が震えて慌てて身を起して、きょろきょろと周囲を見回した。
自分の知らない場所、知らない天井知らない、お風呂、大きすぎるお風呂。
理解が追い付いていないのか、戸惑いの様子できょろきょろ見まわす黒髪の少年は、顔半分を髪の毛で隠していて、目元が見えない。
中からはちゃんと見えているようで、くるり、くるり、と周囲を見回して。

「ぁ。」

そして、思い出す。今自分が何処にいるのか。なぜ此処にいるのか。
思い出し、納得できたら安心したのか、ふにゃり、と脱力して、お湯に浸かった。

今日は、温泉に来ていたのだった。
近くに家族の姿は、無い。

スバル > 既に、皆お風呂から上がってしまったのだろうか。居ないという事はそういう事だ。
それなら、何時までもここにいても仕方がない、知らない人が来たら怖いし、一人きりと言うのも心細い。
だから、お母さんかお姉ちゃんか、何方でもいいから、一緒にいたいと思う。
とは言え、おふろでゆっくりあたたまっておかないと。

「あれ?」

よくよく考えてみれば、自分は今の今までお風呂の中にいた、ゆっくりどころか、ずっと寝ていたからしっかりと温まっていたはずだ。
自分の肌を見てみれば、ほんのりと赤く成っている。
あ、大丈夫かも、そんな風に思って少年は立ち上がる。寒くは感じない。
それなら、と少年はとことこと、湯船から出る。

「おかーさーん?おねーちゃーん?」

近くにいるといいけれど、いなければ後で部屋に戻ろう、そう考えながら、少年は声を上げながら、大浴場の中を歩く。

スバル > 「やっぱいないか……。」

多分部屋に戻っているのだろう、寝ていた自分が悪いし、姉や母の性格を考えれば、寝てること幸いに、何処かで誰かと交わってるだろう。
やれやれ、と軽くため息を零して、少年は出入り口の方に歩き始める。
ペタペタと音がして、足の裏がちょっと気持ちいい、濡れているからだろうか、温泉の床の製だろうか。
気になる蹴れど、それよりも今は家族の元に帰りたい。

ブルり、と身を震わせるのは寒さではなくて恐怖。
こんな所に一人で居るのは、とても怖い、誰かが来るのも怖いのだ、それを認識し始めたら震えが止まらなくなりそうで。
それでも、と少年は我慢して、歯を食いしばる。
ちっぽけな感覚かもしれないけれど、これが少年の必至なのである。

そして、少し足早に歩き、大浴場から去っていく。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からスバルさんが去りました。