2018/11/13 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > 紅葉を見ながらの露天風呂への入浴。
そんな趣きのある一夜を欲し、温泉旅館を訪れる客は少なくない。
静かに穏やかに、日頃の喧騒を離れて羽を伸ばすという粋人もいる訳なのだが、そうでない者もチラホラ。
お国柄なのか、それとも国に纏わり付いている閉塞感の裏返しなのか。
汗を流した後で、逗留客なら誰でも足を踏み入れられる大宴会場も盛況で。
知り合いの商人の伝で、新たな取引先への顔繋ぎということで連れてこられた小さなシルエットも、其処で見られた。

「主眼たる顔繋ぎは出来たには出来たが、この分では明日まで儂の挨拶を記憶しておるか分からぬのぅ。」

乱痴気騒ぎの又従兄弟を名乗れそうな、初見同士の無礼講。
予め、決め事があった訳ではなく、自然発生的に始まった騒ぎは、概ね収拾が付かない状況にある。
己に出来ることは、精々とばっちりを受けぬようにと広間の端の方に移動することぐらい。
――の筈なのに、しれっと酒を口にしている辺り、環境に馴染めていない訳でもないらしい。

ホウセン > 見た目は、何処を如何取っても子供でしかない妖仙。
真っ当な良識が罷り通る空間なら、手にしているお猪口を取り上げられて然るべき所だが、同室の客が雁首揃えて酒精により理性を蒸発させているのだから咎められる事もない。
加えて、温泉宿は、客の振る舞いに関してノータッチを貫いている。
何しろ、この辺りの不健全ながらに健全な騒ぎは兎も角、不健全極まりない使われ方も容認している宿なのだから言わずもがな。
故に、通り掛かった女中に、中身が空になった徳利を掲げて見せれば、程なくして中身の満たされた器が手元に運ばれよう。

「くくっ…堅苦しゅうないというのは、居心地が良い。
 これで、酌をしてくれる見目麗しい女子でも転がっておれば、酒の味も良くなろうというものじゃが…」

比較対象のせいだろう。
妖仙の手が小さいせいで、持っているお猪口は、やや大ぶりに見えなくもない。
手酌で、酒盃の縁から透明な雫が零れそうになるギリギリまで、慣れた手付きで危なげなく継ぎ足し、余計な衝撃で零してしまわぬよう柔らかそうな唇を尖らせて啜り飲む。

ホウセン > 黒い瞳が、グルリと大宴会場たる広間を見回す。
悠々三桁の客を収容できそうな畳敷きの部屋は、恐らく宴が始まった当初こそキチンと並べられていたであろう膳と座布団の列が蛇行し、客が思い思いの位置に陣取っている。
気の合う知り合い同士で、或いはこの場で意気投合した者同士で。
老若男女入り乱れての四方山話は、酒の力を借りて花盛り。
何処かの集まりに加わっても良いのだろうが、長風呂をしていたせいで出遅れ、既に出来上がっている連中との温度差に二の足を踏んでいるといった状況。

「ふん。まともな話さえ出来るか怪しい故に、無駄に疲弊せぬに越したことはなかろう。」

というのは、全くの欺瞞ではないにしても、強がり成分がない訳でもない。
自身のような年頃の容姿の者が酔っ払いの群れに放り込まれれば、面白がって弄り倒されるのは目に見えてるし、酔漢に加減を求める非現実的な行為に希望を抱いていないのだし。
健啖家かつざるっぷりを披露して、つまみと酒を平らげると、気分転換の物見遊山な心地で立ち上がる。
何処かに見知った顔でも転がっていれば重畳だし、そうでなくとも抱き心地やら抱かれ心地が良さそうな女でもいれば顔を突っ込もうかという打算含みで。

ホウセン > そそっと広間を一巡りしたものの、目当てとなるような相手はおらず、その足で深夜にも拘らず賑わいが失せない部屋を後にする。
その道すがら、他の宿泊客なり女中なりを”抱き枕”として調達したかもしれないが――

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からホウセンさんが去りました。