2017/09/20 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にオデットさんが現れました。
■オデット > 夕刻、旅篭の入り口で箒を手に落ち葉を掃く仲居の姿。
それは日常であり、今日に限らずたびたび目撃される光景であったが、
唯一違うことは仲居が背に赤ん坊を抱えていることだった。
おんぶ紐で固定された赤ん坊は現在睡魔と戦っている様子で、目を閉じたかと思えば
ビクッと痙攣して覚醒し、また瞼が重くなる、の繰り返しをひとりで続けている。
仲居は ふと、その様子に気付き。
「…あら?ようやく寝そうなの?
待っててね。これが終わったらお布団に寝かせてあげるわ」
当然ながら、己の子ではない。
客の夫婦が街を散策する間引き受けただけの いわゆるベビーシッター中である。
しかしこうしていると現状は妊娠など許されぬだろうし、夫に申し訳が立たない己の立場が少し寂しく思える。
いつかまた誰かを愛し愛され、子を育む。
生き物として当然の生活に戻れるのだろうかと、女は ぼう、と考えるのだ。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にロレンスさんが現れました。
■ロレンス > 「人の子は大変だね、育つのに時間が掛かる」
不意に響く低くも涼やかな声、その主はあの夜の様に姿を消していた。
夕暮れ時でも影は至る所にあり、旅館の軒下から伸びる影からぬっと姿を表せば、こつこつと足音を響かせながら彼女の方へと近付いていく。
直ぐ側まで寄れば、赤子の顔を確かめてから、柔らかに微笑みながら彼女の方へと視線を移す。
「オデットの子……ではないね、旅館のお客さんのかな?」
王都の観光に子連れでは気兼ねなく楽しめないだろうと思えば、そんな予測に至る。
いつもなら、さも当たり前のように頬へ手をのばすことが多いが、今日は手を伸ばす様子はない。
眠たげな赤子に微笑みつつ、いつもよりも強く自身の魔力を抑え込む。
所謂、魔族特有の異質を思わせる気配を綺麗に抑え込めば、そこらの男達と変わらぬ普通の人のような気配に変わっていく。
クスッと微笑みながら眺める姿は、格好に適う貴族の男といったところか。
■オデット > 「―――――…!」
相変わらず“彼”の登場は心臓に悪い。
何度体験したって慣れない様子で、女は動揺に満ちた顔で辺りを見回していた。
やがてその姿が確認できると、戸惑いと、以前通じた際の己の醜態を思い出しての羞恥と。
様々な感情を微笑みで覆い隠す余裕もなく、彼の言葉に頷くのみ。
しかし赤ん坊の動きが止まり、柔らかな体重を全て己の背にかけてくるような気配に思わず訊いてしまう。
「………あら…?眠りました?」
ついに完全な眠りに落ちたのだろう赤子を見ようとしても己の背ごと動いてしまい、確認できず。
ただ背に感じる温かさが愛しくて、女は戸惑いを瞬時忘れたように ほのかな幸福を感じていた。
■ロレンス > 西洋の世界にぽつんと佇む和の世界、彼女が見渡す中、一度見たはずの場所から唐突に姿を表すのは、魔の者ならではといったところだが、都度驚かせている事を忘れてしまう。
驚きに、ごめんねと謝罪を紡ぎつつ近づくと、恥じらいに変わっていく様子に柔らかに微笑みかける。
「今日はオデットとの夜を楽しむのは難しいかな? 可愛い先客がいるからね」
流石に純真無垢な赤子を差し置いて、母代わりの彼女を奪うことは出来ないらしい。
困ったように眉をひそめながらも、楽しげに笑っていた。
そして赤子を見やれば瞼がとうとう落ちきってしまい、背に体を寄りかからせながら眠りこける姿を確かめ、問いの言葉に頷いた。
「よく眠ってるよ、オデットの温もりに安心したのかな? ……それに、オデットも嬉しそうだね。そういう顔も好きだよ、凄く優しい顔をしてる」
夫に先立たれたと聞いたが、彼女の子供については確りと問いかけたことはなかった。
だが、この様子が答えなのだろうと思う。
授かれず、忘れ形見なく失ってしまった。
過去が脳裏をよぎり、彼女の痛みもよく分かる気がすれば、赤茶の瞳へ視線を重ねていく。
「やっぱり、その子がここを離れるまでの間を貰えるかな? 今日は一番、悪い男に掴まえられたくないだろうからね。私も良いとはいえないけど、幸せな時間ぐらい守れる甲斐性はあるよ」
自分のためにでなく彼女のために、そんなことを宣う魔族は、柔和な微笑みを浮かべたまま彼女を見つめる。
■オデット > 二晩過ごした間柄とはいえ、未だ彼を掴めきれていない。
魔に相応しい嗜虐性を覗かせる一方、心優しい言葉をかけてくれたり――
今もまた、赤子を優先する言動に女は感心するやら、驚くやら。
ただ己が嬉しそうに見えたことには自覚がなかった様子で、恥ずかしさから笑みを含ませ。
「ま…、まぁ…私、よほどだらしない顔をしておりましたのね。
母親ではないからこそ可愛さだけに夢中になれてしまうのでしょうね。
今はこんなに静かですけれど、先ほどまでこの子、宿中に響くような声で泣いておりましたのよ」
その苦労も一時だからこそ苦ではなかった。
己には手に入らぬ宝物を預けてもらったような気分に、女が感じるのはやはり幸せなのだ。
のんびりと話していると視線が交わり、前言撤回といった申し出に女の瞳は1度まばたいた。
「……それは、…どういった意味で…?」
男女の時間を、という意味なのか。赤子と3人で穏やかな時間を、という意味なのか。
女には判断がつかず訊ねる一方、赤ん坊のことまで考えてくれない男に捕まることまでは考えが及んでいなかった。
彼が客として一定時間己を所有するのなら、たしかにそういった危険性はなくなる。
ちら、と旅篭の中を見遣るように視線を1度外し。
■ロレンス > 魔族と人間の特性を併せ持つような感情の揺れ動き、それは人は魔より幼く、己を知らぬままに死ぬとすら思うような男だからか。
本人は自身を異様だということを認めているも、そこまで驚くことだろうかと思えば、驚きに苦笑いを浮かべていた。
「ふふっ、幸せな顔がだらしないというなら、皆だらしない顔をしてしまうね? 人の子は泣くのも仕事だと言うからね…魔の子は、数ヶ月で自立してしまう者も多くてね、オデットには向かないかな?」
魔の子を育てる、その意味する裏側を指し示すように彼女の瞳を見つめる。
少しだけ瞳に魔族の雄らしい欲望を浮かべて見つめれば、あの夜と重なるだろうか?
彼の子を孕んだならそうなると。
確りと言葉にはせず、言葉遊びのように静かに語りながら見つめていた。
「ここは私みたいにオデットとの夜を楽しみにやってくる男がいるだろう? 母親に返すまでの間ぐらい、静かにしていたいだろうから…それまでは私が買っておくよってことだね。勿論、手出しはしないさ。束の間でも、穏やかに過ごして欲しいからね」
微笑みながらゆったりと語る言葉は、想定した意味通りの事。
事実、日が暮れてからは近くの通りに娼婦が出回り、宿の中でも酒とともに女を楽しむ宴の声が徐々に活気づいてきた頃だ。
彼女が宿を見やった瞬間、僅かながら響いた艶やかな女性の悲鳴。
甲高く、濡れながらも、もっとと求める甘ったるい声にクスクスと微笑みながら軽く首を傾けた。
「オデットをああしたいという男が、そろそろ来る頃だよって意味だね」
わかっただろうかと確かめるように、その顔を見やった。