2017/09/06 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にオデットさんが現れました。
オデット > 今宵賑わう宴会場。
ご贔屓の貴族が宿泊する夜はいつもこうであった。
中はむせ返るような香が焚かれ、それに理性と常識を灼かれた従業員数人が獣のごとく本能を剝き出しにし、交わる。
経験した同僚曰く、翌日は仕事にならないとのことで厄介な行事だったが、その分宿は潤うのだという。
幸いにも貴族は、若く華奢な肢体にしか興味がなかったので仲居は参加することはなかったが、雑用は回ってくる。

「…っ…、相変わらず頭が痛くなるような匂いだこと…」

『雑用』を済ませ、廊下へと出てきた仲居は ぴしゃんと襖を閉めて漏れ出る中の空気をシャットアウト。
本格的に宴が始まっていたので もうしばらく呼ばれることはないだろうと思えば、
一旦休憩を挟もうと従業員室へ向かう――足取りは少しふらつく。

「………長居しすぎたわ」

壁に凭れ、うんざりした様子で呟いた。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」にロレンスさんが現れました。
ロレンス > 「あれはまた随分と危険なモノを使うね……人間の身だと、人によっては尾を引くほど、本能を引きずり出すからね」

壁に凭れ掛かり、呟く彼女へ何処からともなく、透き通るような男の声が聞こえるだろう。
辺りを見渡したとしても、その主は見えないはずだ。
夜の眷属らしく、その身体は影の中に溶け込み、実態となってこの世には晒されていない。
ただ、影から影へ伝っていく合間、音が近づき、気配もまた近付いてくるのは分かるかもしれない。

「こういう媚薬漬けにして、本能を剥き出しにさせるのは…嫌いじゃないけどね。どちらかといえば、じっくりと注ぎ込んで、理性が潰れていく様を眺めたいかな。するのは、おまけ程度になるから、失礼だけどね」

クツクツと笑いながら影の合間をすり抜けていく。
そして最後に、廊下の門で実体となって現れ、そこを曲がって彼女の前へと現れる。
気配を追っていたとすれば、直ぐ傍に居たのに、唐突に離れたような、違和感を与えるような移動。
あの夜と変わらぬ、優しげな微笑みを浮かべながら彼女へと近づき、その頬に触れようと掌を伸ばした。

「こんばんわ、オデット。君の香りを辿ったらここについたよ。ここが勤め先かな?」

軽く辺りを一瞥し、それから首を傾けながら問いかける。
温泉はそこそこいいと聞いているが、嫌な噂も耐えない場所だ。
問いかける言葉、浮かべる表情は眉をひそめた憂うものだった。

オデット > 「………?」

聞き覚えのある声に仲居は左右を順に見た。
それが人ならざる者の声であると分かるのに、少しかかる。
どこかに立っている誰かが声を発しているのではない。
それに、この声は―――

声の主を思い出すのと同時に実体は現れた。
女が思わず びくっと体を緊張させたのは物腰柔らかな男に潜む、己を惑わす魔を知っているからである。
頬に触れられた刹那、ふと気まずそうに視線を逸らして。

「……さようにございます」

それから視線を彼へと戻すとその表情が無ではないことに気付き、少々不思議にも。
魔にこそ好かれそうな場所だと思っただけに、ここをよく思っていないと受ける貌の真意は分からない。
それより仲居が気になったのは先日の件であった。

「…先日はお別れの時には少々…記憶が混濁しておりまして…
 私、きちんとお礼を申しましたでしょうか?
 あのような高額な報酬を頂戴致しまして、ありがとうございました」

ロレンス > 頬に触れれば、あの夜と変わらぬ感触が掌に感じる。
しかし、見せられた仕草は、何処かこちらを避けるようにも感じた。
苦笑いを浮かべたまま、すんなりと掌を話すと、隣に並ぶように寄りかかる。

「そっか……個人的には、何処か普通の宿屋を切り盛りしてるような姿が似合いそうだと思うけど……いや、そうあって欲しいって私が思うだけかもね。オデットを壊されるのは嫌だから」

人を玩具のように扱う魔族の端くれにしては、妙に彼女を気遣う。
美しく感じるものから頂く血こそが、自身を潤す唯一の糧。
壊れ、廃人となった彼女からはそれを得ることが出来ない。
利害によるものといえばそうだが、今の彼女に美しさを覚えるのは、玩具とは思っていないからで。
もう一度掌を伸ばすと、今度は 触っていいかな? と、問いかける。
赦されるなら、その頬に改めて触れるだろう。

「お礼は……どうかな、結構激しくやっちゃったからね。いいや、あれぐらい…寧ろ全て買い上げて、奪いたいぐらいだよ」

ちらりと彼女の左手を見やり、それから視線を赤茶色の瞳に戻す。
誓いの証を立てた男は、もうここにいない。
それでも、その男に操を立てる彼女の純心を貪りたくなる。
まだ、諦めたわけではないというように、それらしい言葉をかけながら微笑みかけた。

オデット > 彼の心根が優しいことは それとなく感じられるが、魔特有の歪みを有していることも知っている。
あの一夜は女にとってトラウマにもなっている。
ただ乱暴に凌辱された方が忘れるのは容易かっただろう。
亡き夫に見られながら犯されるなど、そうそう経験するものではない。

「…私、壊れそうに見えますか?
 女は意外と丈夫ですのよ。そうでなくては生きられませんもの」

心配されているとは意外であった。
そして己が壊されそうに見えるのだということも。
彼のことは本当に理解しきれぬ複雑さがあり、仲居は選ぶように言葉を紡いでいた。
―――と、己に触れることを尋ねられて ほんの少し戸惑いを見せた後、頷く。
このかすかな触れ合いが何を生み出すのか、よく分からぬままに。

「…、気紛れで人を買うものではございませんわ。
 ロレンスさまが人でしたら、たまにご宿泊にいらっしゃってくださいと申しますところですけれど…
 そうではありませんものね。人が世話をする宿にお泊りになることなど、されないのでしょう?」

唐突に甘い戯言をかけられて女は言葉に詰まり、頬を薄く染め上げる。
人との関わり方なら学んでいるが、彼とはどのような関係を築いたらよいのか、少々悩んでいる様子。

ロレンス > 「……直ぐには、壊れないと思うよ。でも、丈夫な分……溜まり切った感情が溢れたら、粉々に砕けるのも知ってるからね」

脆いガラス細工とは言わないが、敢えて例えるなら、木工性の細工品とでもいうところか。
木の温かみ、柔らかさ、香り、そして変化する模様。
壊れにくくもあるが、じっくりとその中に経年とともに生まれる脆さが広がる。
それは人で言うところの、心の奥に溜まった負の感情。
不安、寂しさ、そして欲望。
一通り耐えれそうな分、この欲の坩堝にいる彼女は、それに沈んで染み込んだ時、壊れるのだろうと不安に思う。
淋しげに瞳を伏せながら呟くと、頬に触れる。
柔らかな感触、心地よい熱、そして眼の前にいる艶やかに熟れた姿。
綺麗だ と、小さく呟いて目を細める。

「気まぐれに深く求めたりはしないさ。オデットの様に艶やかな人はそう見ないからね、特に……そういう顔、恥じらう顔が綺麗だったり、可愛い人はとても好きだよ」

言葉に困りながらも恥じらいを見せる彼女の頬骨のあたりを、親指でなぞるように撫でていく。
壁から体を離すと、彼女の正面に回り込みながら、より間近にその顔を見つめる。
物腰は柔らかだが、魔族らしい欲への忠実さは失われない。
人のようで人ではない、彼女が戸惑うのは隠れた魔の本性故か。
そんなことも気にせず、更に顔を近づければ、唇が触れそうなほどに迫るだろう。

「それに……抱え込んだ本能にも、もっと触れたくなる。私が見つけたんだ、花開くのを誰かに奪われたくはないね」

被虐性の深さ、そして彼女は確かに奪われそうになる交わりに興奮した。
失ったものを愛すると言いながら、その悲劇から始まる欲望に飢えているようにも思える。
認めないなら、認めるほどに溶かしたい。
誰かに形作られる前に欲するのは、男が誰しも持つ醜い欲。
女の初めてでありたいという、歪んだ独占欲。

「泊まるなら……オデットが世話してくれるのかな? 全部。それなら喜んで泊まるよ」

それなら寧ろと、彼女の持て成しを求めながら微笑みかける。
頬に触れていた掌が滑り、指先を顎に掛けるようにして此方を向かせれば、唇を重ねようとした。
押さえ込みもしなければ、抱擁もしない。
触れているのは指先だけ。
彼女が受け入れるかどうかを、試すように重ねるだけのキスを求めて近づけていく。

オデット > 「それは――…何方が壊しましたの?」

まるで丈夫な誰かが壊れるところを見たような口ぶりに、思わず訊ねた。
彼が壊れる誰かを傍観者として見たのなら、その感想はどうだったのだろう。
万が一彼が壊した本人ならば―――己の目の前にいるのは恐ろしい存在である。
そんな得体の知れぬ存在に触れられながら、甘い言葉をかけられる倒錯に、胸がざわめくのを感じる。
恐怖か、期待か、慾なのか、そのどれにも当てはまるようでもあり、どれにも属さぬ感情のようでもあり。

「―――…、っ…
 ロレンスさまは…柔和なようでいらっしゃって――…怖い方です。
 私のことは…放っておいてくださればよろしいのに…」

互いの吐息がかかる距離。
襖の向こうで繰り広げられる獣の宴とはまた違う、異様な空気が重く、甘い。
彼が近付けば近付くほど己の内の何かを奪い、作り替えようとされているようで、背筋が冷たくなった。
それなのに彼の触れる頬はこんなにも熱い。

「…―――全部…? ………」

聞き返す女の唇は かすかに震えていた。
怖い。己の内側にじわじわと浸透し、染みを広げていく魔が。
怖いのに、拒絶するだけの決意も持ち合わせていないのだ。
あの夜の高揚と快楽が呼び覚まされて、肉体が縛められてゆく。
唇が触れ合う瞬間、女は固く目を瞑った。
丈夫だと自称したくせに、弱く脆く、拒絶の勇気を持たぬ己から逃れるように。

ロレンス > 問いかけられた瞬間、笑みが一瞬凍りついた。
銀髪の下で、紺色の瞳孔が毛先よりも大きくブレたようにみえるかもしれない。
緩慢な動きで視線をそらしながら、深呼吸を一つ。
それから開かれた瞳は、僅かに濡れていた。

「……そうだね、私が…壊したと言われても仕方ないね。私に一生血を捧げたいと言ってくれた人に…死を選ばせてしまったから」

壊したくて壊したわけではなかった。
もし、その原因を先に知れたなら、こんな思い出は残らなかったはず。
そんな後悔が脳裏で渦巻くと、先程までの余裕が一気に崩れた。
その痛みを抑えるかのように、掌を胸元にあてる。
数秒ほどの間を経て、浮かべた苦笑いは、先程のような明るさを失っていた。

「怖い? 別にオデットが怖がるようなことは何もしてないと思うけど…怖いのは寧ろ、自分自身じゃないのかな? 私に触れられるオデットが、知らない自分に変わりそうなのが…怖い、とかね」

隠れている本性を引きずり出し、甘くもドロドロとした欲望の沼に引きずり込む。
手を引く自分が悪魔だというのなら、その因子を持つ彼女はどうなのかと問い返して、意地悪に微笑んだ。
気付きつつあるが、気づきたくない。
そう言っているようにも聞こえて、笑みが一層深まる。

「そう、全部……オデットの純心も、被虐性も、全て」

嫌だといい、意志の強さも示したが、唇からは逃げない。
重なっていく柔らかな感触に瞳を閉ざしつつ、するりとその体を抱き寄せた。
大きく熟れた房が身体に重なり、和服独特の布地の感触から柔らかな双丘の感触を感じていく。
重ねるだけの口吻を数秒ほど…それからゆっくりと離せば、瞳を開き、彼女の瞳を見つめ返す。
何も言わず、再び重ねては、抱きしめて、息継ぎの様に唇を離すと見つめてキスをと繰り返す。
嫌なら顔を背ければいい、それなのにしないなら、欲しているのだろう。
それを突きつけるように、キスの度に見つめ、時折、綺麗だと甘ったるく囁きながら、心を突き崩そうとしていく。