2023/06/10 のログ
■ティカ > 「―――――おっ…? おぉっ!? どわぁぁあぁああッ!!?」
見てぇなら好きに見やがれこんちくしょう!
そんなやけっぱちな気持ちで大通りを練り歩いていた痴女―――もとい、駆け出し冒険者は、いきなり転がり込んできた不審人物に紅目を丸くし足を止める。
続いて颯爽と現れたのは、ティカと同じくらいの年齢と思しき女学生。
新入り冒険者でも知っている王立学院の制服に身を包んだ見事なプロポーションの金髪美少女に、ティカの驚きがますます膨らむ。
そうして見るうち、声を掛ける間も無く鞘走り白昼の往来に鋼の銀光を煌めかせた彼女が一閃。
ごろりと不審人物の首が飛び、噴水めいて血潮が撒き散らされるに至ってティカの驚きも爆発した。
チビっ子痴女の行進などとは比べ物にならぬ大騒ぎ。
流石にこの様な状況に至っては作戦がどうのなどと言ってられなくなったのか、あちこちの物陰から無数の冒険者が飛び出してきて
『おいおい……誰かと思やぁコイツ、オレ達が狙ってた変態じゃねぇか』
『あちらの少女は辺境伯の一粒種か。確かに手打ちも仕方のない状況か』
『な、なんつうタイミングで自爆しやがるんだ……』
言われてみれば、目を見開き転がる生首は事前に似顔絵で見た物とそっくり同じ。
ベテラン冒険者や《指揮官》達が群衆のパニックを抑え、駆けつけてきた衛士達に状況を説明する中、アホみたいな格好でぽかんと立ち尽くすティカに騒動の主からの声掛けが。
「―――――ううううううっせぇよ!? 好きでこんな格好してんじゃねぇ!!」
思わずかぁっと童顔を赤らめて、優良な発育ぶりを見せる双乳を小気味よく揺らしながら反射的な抗言を口にしていた。
■ヴィルヘルミナ > 騒ぎながら逃げ出す野次馬に逆らい、物陰から出てくる冒険者達の姿。
彼らの会話を聞く限り、己が刎ねた首は有名人のものらしい。
そのうち冒険者や駆けつけた衛兵に声をかけられ、こちらもいくつか質問し、状況を把握し…。
「…え?囮?」
再度奇特な格好の少女冒険者に目を向けて、
「ふ、ふふ…あはははははは!」
笑い出した。
「い、いくら何でもその恰好は不自然すぎやしないかしら!」
明らかに注目を集めるような異常な格好。野次馬だらけの状況でお尋ね者が出てくるはずもない。
囮ならば目の前の貴族少女のような、不自然さのない学生服姿などであるべきだろう。
最も、腰から下げた剣に気付かなかったあたり目的の男もかなり迂闊ではあったが。
「ふふ…くくく…ご、ごめんなさいね…そんな恰好までしたのに私が先に仕留めちゃって…!」
笑いながら、少女はティカに謝る。
そう、ティカの新装備代がかかった獲物は、見ず知らずの赤の他人が勝手に討伐してしまったのだ。
■ティカ > 「―――チッ。あたしだってそう思ってたよ。んでも、あいつらがやれっつーから仕方なく……」
とりあえず、この格好がただのシュミであるという誤解は解けた。
『あたしは忘れてねぇからな、後で覚えてろよ!』
という目で事後処理を進めているベテラン共に一瞥を向けておき
「…………………………」
いつまでも笑い続ける貴族令嬢にイラッとしつつも、先程の苛烈な斬首を目にして『貴族様怖ぇぇえ……』という思いを抱いていたので、むすっと唇を尖らせつつも普段のように噛みつきはせずにおく。
ころころと笑う彼女が存外に可愛らしくて毒気を抜かれたという部分も多少はあった。
ちなみに先の性犯罪者。とある界隈では《蛇使い》という異名を持ち、特殊な捕縛術で白昼だろうが人混みの中だろうが好みの獲物を無力化して暗がりに連れ込むという特殊な技能を有する凄腕。
そんな相手であるため、『とりあえずエロい格好させて目立つように移動させればいいんじゃねぇの?』などという雑な意見が採用されたという背景があった。心底どうでもいい。
「ま、まぁ、あたしの仕事はあくまでも囮だけだったし、その分の報酬はちゃんと貰えるはずだから――――――貰えるんだよな? おいこら、目ぇ逸らすんじゃねぇ!!」
令嬢の目の前で、しばし《指揮官》とやり取りをして約束通りの報酬と貢献値を得られる事となったティカは、機嫌良さげに彼女の元へと戻ってくる。
「へへっ、きっちりぶんどってやったぜ。っつーわけで、結果的にはあんたのおかげでさっさと解決したし、礼代わりに奢ってやるよ。飯でもいこうぜ…………あー、あたし、見ての通り育ちが悪ぃから、敬語使えっつーならこの話はなしだ。ぜってぇボロ出るし。あ、あと店はあたしが選ぶからな! お貴族様御用達の高級店とかに連れてかれたら一文無しになっちまうし」
■ヴィルヘルミナ > 「あらあら、良かったわね…ふぐ、くくく…」
話がまとまった頃には、貴族令嬢の笑い声も幾分収まっていて。
彼女自身は自衛しただけだからと報酬を受け取る気は無いようだ。
いくら凄腕の犯罪者といえど所詮は平民のごろつき。
大人と子供、男と少女の差以上に平民と武闘派貴族の戦闘力の差はあったらしい。
「ふーん、奢りねぇ…貴女が?私に?」
しかし、ティカのお礼の提案には、貴族令嬢は首を傾げる。
「別に平民の冒険者に奢ってもらうほど金にも食にも困ってはないわ。貴女の稼ぎで行ける店なんてそれなりでしょうし…。
それと、貴族を食事に誘いたいなら礼儀作法を学んだ方がいいわ。というより、貴女も冒険者なら将来的には貴族の依頼を受けるはずよ?その時に困るでしょう?」
そうすげなくティカに返す貴族令嬢。
しかし、彼女のお礼の気持ちを無下にするのも心苦しいところ。
うんうん唸って考え、ちらりとティカの方を見て…にやりと悪い笑みを浮かべ。
「でも貴女の気持ちは無駄にしたくないし…そうね、こちらが貴女にお金を払うから、私に抱かれてくださる?気持ち悪い男に迫られて、悪くなった気分を晴らしたいの」
ティカに近寄り、指先をするりと、彼女の褐色肌に這わせながら、紅い瞳がじいっと彼女を見る。
「それによく見たら、貴女も結構可愛らしいもの」
■ティカ > 「ハ、これだからお貴族様ってぇやつは。いいんだよ。どーせあたしはそこまでの冒険者になんざなれねぇし」
謙遜でも諦念でもなく単なる事実。
山賊共への復讐を目的として修羅の道に踏み込んだ少女戦士なれど、己の身体が戦いを生業とするには致命的に向いていないと気付き、それを呑み込んだ上での言葉である。
ティカが戦うのはあくまでも山賊共を殺すため。
ただそれだけの剣力しか求めぬティカには貴族からの指名依頼なんて厄ネタは面倒なだけでメリットなど一つも無いのだ。出来る事なら極力関わりたくないというのが偽らざる本音であった。
「へぇ? 貴族娘にしちゃあ話が分か………ん? 今なんて??」
『貴女の気持ちを無駄にしたくない』という言葉から、前言を撤回して大人しく奢られる気になったかと思えば、何やらおかしな言葉が飛び出して、ティカは思わず紅目を瞬かせた。
「い、いやいやいやいや、たしかにあたし、そこそこ可愛いとは思うけど、あ、あたし女だぞっ!? ほ、ほら、胸だってあるし!!」
訳も分からず頬に灯る熱を自覚しつつ、妖艶に近付いてくる貴族令嬢を前にとりあえずは分かりきった確認事項で時間稼ぎ。
女同士で事に至る。
そうしたシュミがある事は理解しているし、なんならティカとてそういう感じになった事も少しはある。とはいえ、それを当たり前に受け入れているほど爛れているわけでもなく、戦士少女はたじたじとなって後退る。
しかし、ティカ自身、心の中では理解していた。
この貴族令嬢とそうした関係を結ぶ事に、嫌悪感などが湧いてこないという事実を。
■ヴィルヘルミナ > 「あるわね胸、嬉しいわ♪」
貴族令嬢は迫りながら、ティカの胸を下着越しに撫でる。
ちなみにそういう彼女自身はティカ以上の立派なものを持っていた。
「女の子だからいいんじゃない?男なんてごつごつして不潔だもの」
趣味というレベルでもなく、生まれつきこうな貴族令嬢。
学院で数多の女生徒を虜にした指が、慣れた手つきでティカの褐色肌を這う。
後退れば、その分踏み出し、楽し気な笑みで迫るも、周囲の何とも言えない視線に気付き。
「……ここは人が多いから、場所を変えましょうか。いいわよね?」
そう、ティカの上司らしき冒険者に確認してから、彼女の手を取って有無を言わさず連れ出す。
軽やかに見えて、実戦で鍛えられた確かな力を持つその手は、ティカを逃がすことはなさそうだ。
「自己紹介がまだだったわね?ゾルドナー辺境伯家のヴィルヘルミナよ。よろしくね冒険者さん?」
己の名を明かしたヴィルヘルミナは、ティカを連れて大通りを行く…。
■ヴィルヘルミナ > 【後日継続します】
ご案内:「平民地区 白昼の大通り」からティカさんが去りました。
ご案内:「平民地区 白昼の大通り」からヴィルヘルミナさんが去りました。