2023/04/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2/路地裏」にアロガンさんが現れました。
■アロガン > ────深夜に近い時間帯に、平民地区の路地裏をすり抜けるように急ぐ人影があった。
190㎝近い巨躯に、鍛えられた筋肉質な身体に黒いコートを羽織って裾を翻し、路地を軽く蹴りながら大きな歩幅で行く姿。
その頭部には狼の耳、腰のあたりには尾が揺れて、獣人種──王都では迫害の対象であるミレー族であることが一目でわかるだろう。
その首には銀の首輪。奴隷商館の商品である証が見える位置にある。
男──アロガンは無表情のままだが、入り組んで広がる路地裏を進んで、急いで、やがてその歩の速さが緩やかなものへと変わっていく。
「────、はぁ」
短く息を吐いて、アロガンは急き気味に移動して乱れた呼吸を整えた。
夜も更けた時間に聞こえてくるのは遠くからの酒場の喧騒と、風の音、かすかな人の足音。
商館からの指示で貧民地区まで出向いていたアロガンは、平民地区まで戻ってきたばかり。
このまま富裕地区まで戻る必要があるのだが。
「っ、……」
ざり、と砂混じりの映像が瞼の裏を過った。
夜、暗がりの路地裏で、何かを見つけている自分の姿が見えて、頭痛にも似た熱が額を抜ける。
遠い昔から続いてきたアロガンの一族の血が見せる異能の力。未来を見る力。
しかしそれもアロガンの世代ではだいぶ弱まっていて、ほんの一瞬垣間見るだけのものにすぎない。
今の一瞬でさえ何を見つけたか、いつ見つけるのかすらわからない。
役に立ちそうでいて、実際コントロールも出来ず、存外役に立たない力だ。
小さく息を吐いて、再び歩き出した。──果たしてこの先に何を見つけるのか。
■アロガン > いくつかの壁を曲がった先に、見覚えのある風景が映る。
未来を映す瞳に一瞬過っていった場所だ。
夜、暗がりの中に月明かりが差して伺えた路地の奥に、何かがいた。
────ニャァン
そこにいたのは、黄色の毛並みの猫だった。
廃材の上にすらりと伸びた尾を揺らして、まるで笑うかのように鳴いている。
その姿を見て、アロガンはふ、と小さく吹き出して、眦をわずかばかり下げた。
「……悪いが餌はないぞ、お嬢さん」
ポケットを漁ってみたが、猫に上げてもよさそうな餌は生憎と持ち合わせていなかった。
それが伝わったのか、"なによ、媚び売るんじゃなかったわ"とでも言いたげに立ち上がって、しゃなりと美しい歩き方で路地の何処かへと去っていってしまった。
苦笑しながら肩を竦ませて、次にここを通る時は小魚の乾物か何か持ってくるようにしようと決め、アロガンは踵を返す。
その姿はそのまま、富裕地区へ続く方へと向かって消えていっただろう。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2/路地裏」からアロガンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にティカさんが現れました。
■ティカ > 「リザードマンに……こっちはオークか……。チッ、ゴブリンとかコボルトだったらどーとでもなるってのに、流石にこの辺はまだきついよな………って、おい! 押してくんじゃねぇよ!」
早朝の冒険者ギルド、クエスト掲示板前。
押し合い圧し合い依頼用紙を引っ剥がしていく冒険者のラッシュアワーの中に、布鎧と安物の皮装備で身を固めた小躯が混じっていた。
短く切った朱色の髪や、小生意気に吊り上がった猫目、そして何より蓮っ葉な口調の少年めいた駆け出し冒険者だ。
しかし、キルトアーマーの胸元を膨らませる双丘や、剣帯に締め付けられた腰の括れ、ショートパンツとニーハイブーツの絶対領域に覗く柔腿は、ティカと呼ばれる新米が女である事をはっきりと示していた。
特にここ最近は『お前、女だったんだな……』とそれまでの粗雑な態度を改める知り合いだとか、好色な視線を向けてくる連中なんかが増えて来て、ティカはそんな突然の変化を少々薄気味悪くも感じていた。
何故その様な事になっているのか。
その要因はパトロンが付いた事による生活環境の向上にあった。
ティカ自身は浮いた宿代を装備のアップグレードに充てて冒険者としてのランクアップを果たすつもりなのだが、それに必要なだけのお金は未だに貯まってはいない。
対して、日々の食事内容や風呂屋の利用頻度のアップといった栄養状態・衛生状態の改善には著しい物がある。それがこの新米冒険者から薄汚れて余裕のないスラムの鶏ガラの風情を取り除き、元々悪い訳では無い、どころかそこいらの商売女とは比ぶべくもない女としての価値を正しく見せつけ始めた結果が昨今の状況なのだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にグスタフさんが現れました。
■グスタフ > 「また随分と背伸びしたのを狙い始めたんだな」
少女の背から飛び越えてきた声は、その少女が覗いている視線の先を探るように目線を合わせていた。
まだ布装備がほとんどの少女にこいつらの相手はしんどそうだ。
「興味があるなら付き合ってやろうか?」
親し気に、少女へとウインクをしながらトントンと指を叩いて彼女の耳元で囁く。
それは道中ともにするという意味で、男にとってはそちらが目的なのだが。
改めて少女を見ると最初に会った頃より大分…小奇麗になって。
自分の目は間違いではなかったと握りこぶしを心の中で作った。
「別に、金の無心の方もできるけどな」
少女の腰に手を回しながらいう台詞はいわずもがな。
■ティカ > 「――――あァ?」
不意に掛けられた言葉に振り向く紅眼は、そのままぐぐぐっと首を仰け反らしてようやく相手と視線を合わせた。相変わらずのクソデカさ。
ティカにはどう足掻いたとて手に入れられそうもない、一般人が冒険者に望む暴力装置としての頼りがいを体現したかの巨躯。
「別にこんな無茶な依頼を受けようと思ってる訳じゃあねぇよ。あたしだって一応は自分の実力を弁えてるし……………なゃッ、マジかっ!」
むすっと唇を尖らせ言った舌の根が乾く間もなく、ベテラン戦士からの協力提案に新米の童顔が輝いた。
とは言え単なる善意を期待する程ティカとて子供ではない。腰を折り曲げ耳元に囁き掛けてきた大男の表情には間違いなく対価を要求する心根が透けていて
「―――――あー……そっちか。ま、そーだよな。アンタはそーゆー奴だった」
馴れ馴れしく腰に回された太腕に呆れた様なジト目を向けて呟く。
分かりやすい程に分かりやすい女としての身体狙い。
これまで生活費の捻出のために娼婦まがいの事もして来たティカだが、あくまでも冒険者として身を立てたいと考えている。
情婦まがいの扱いには納得いかぬ物も無いでは無いが
「分かった。けど、そーゆー話ならこっちの報酬はあたしの総取りにさせてもらうぜ。アンタへの支払いはあたしの身体で済ますっつー事になるんだろうからな」
言いながらビッと破いたのは、リザードマンの群の討伐。
ティカ一人では1対1でも勝ち目の怪しい依頼なれど、傍らの大男なれば鼻歌交じりに殲滅してのけるだろう相手。
■グスタフ > 「リザードマンの報酬を総取り? 強欲だねぇ……じゃあ決まりだ」
契約代わりに不意にキスを交わして。依頼を受けながら。肩を回す。
彼女は気付いていないかもしれないが、その依頼は桁が一つ違うのだ。
群れで討伐数の倍々で報酬が上がっていく。
「それなりの対価になるぞ。覚悟しとけよ」
珍しく真面目な口調で言いながら、顔はこれからの行為を思い描いてニヤけていた。
こりゃあ、普通の行為じゃとうてい埋められないなぁと舌なめずりしながら。
■ティカ > 男の誘いを受けたのは、リザードマンとベテラン冒険者の戦いぶりを間近で見る事が出来るのは、この仕事を続けていく上で間違いなく財産となるだろうと考えての事。
まぁ、恵まれた体躯の膂力を生かしてのバトルスタイルなのだろうから、軽戦士の中でも特に軽量なティカが参考に出来る部分は少なかろうが、だとしても何かしら拾う事の出来る物はあるはずだ。
「この依頼料なら十分黒字になるし馬車使おうぜ。運が良ければそっち方面に向かう馬車に安く乗っけて貰えるかもだし。あたしの方はすぐにでも出発出来るけど、アンタの方は準備とか必要か?」
目的地までは馬車なら半日掛からぬ程度。
獲物を見つけるまでどれほど掛かるか次第ではあるが、予定外のトラブルに見舞われるなんて事がなければ3日もあれば十分に戻って来られるだろう依頼である。
幸いにして水場も多い場所でもあり、今の季節ならば食べられる野草や冬眠明けの動物なんかも獲る事が出来るだろうし、持っていく食料は少なめでも問題なかろう。背負い袋の中には1週間分の糧食が入っているし、目的地は湖沼の近くとは言え足元もぬかるんではいない森の中。
特別な準備は必要ないはずだ。
「――――んぁっ。ば、馬鹿野郎、こういうのは……む、向こうに行ってからだ」
いきなり唇を奪われて紅眼を白黒させた新米冒険者は、周囲から向けられるニヤニヤ笑いにかぁぁ……っと赤らめた童顔をぷいと背けて男に言う。
「覚悟の上だ。その分、戦働きには期待してっからな」
大男の逞しい胸板にどすっと小さな拳を打ち当てて、少女戦士は男と二人依頼受注の処理を済ませてギルドを出る。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からティカさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からグスタフさんが去りました。