2023/01/16 のログ
ご案内:「平民地区/公園」にミューさんが現れました。
■ミュー > 雨の夜。
風雨に葉を揺らす音がざわめく小さな公園で、石造りのベンチに姿勢良く腰掛ける白色の、ほんのり薄桃色に染まった布の塊。
よく見れば人のようであるその膝の上には開いた本のようなものが一冊。
雨の中、屋根もない場所で本? と思えば、そのすぐ傍らには一振りの短い木製の杖、そこからうっすら立ち上る煙のような魔力が頭上に広がる膜を作って、雨から守っているようだった。
眼前の通りを、雨具を忘れたのか小走りに行く人々や、それを尻目に少々高級そうな傘をさして悠々と歩く者、そんな光景にはまったく興味がないようで――正しくは、座ってじっと目を閉じたままだから、眠っているようにすら思えるその少女からは通りの様子は見えていない。
眠っている、のかと言うなれば。時折少し持ちあげた右手の指先が、すっと開いた本の上を横切って。
そのたびに、見えない手がめくったかのようにページが次へ、次へと動く。
その本の中は、行けども行けども白紙。何も書かれていないのか、それとも少女にしか解らない何かがそこにあるのか。
ずいぶんと大きく見える魔女の帽子の下で、俯く顔はその本の上に向いているようではあった。
■ミュー > 茂みからがさごそと現れた野良猫が一匹、足元にやってくる。
魔力の膜の下、あれ、ここは濡れないぞと不思議そうに頭上を見上げた猫に、少女の顔が少しだけ、その気配を伺うように動く。
猫にとってはそこに生き物が居るとは思っていなかったのか、びくり、と背を丸めて身構えるものの。不思議と、すぐに警戒心を無くして濡れた毛先を繕い始める。
「……あなたはどこから来たの? 迷子……それとも近くに住んでいるの……?
そう、子供がいるのね……雨の中、食べるものを探して歩くのは大変そう……」
細く、小さな声を少女は猫へ向けて。
まるで言葉が通じているように、毛づくろいの合間に小さく鳴いて返す猫。やはり通じ合っているのだろう様子で、鳴き声に答えるように言葉を紡ぐ少女。
猫の頭上にゆったりと手を伸ばすと、数言何か呟いて。
淡い光が少女の手から降りると、猫の身体を優しく包み込む。それはすぐに、染み込むように消えて。
「少しだけ、ね。……本来のあなたの生きる姿を、邪魔してしまわない程度に」
なんだか温かくなった気がするぞ、と目をぱちくりさせる猫は、また一言鳴いてから、もと来た方向とは反対の、もともと行くつもりだった方の別の茂みの先へと歩いていく。
今夜一晩だけ、身体が冷え切ってしまわないようにかけられた、小さな魔法。その気になればずっと長くそうすることもできるけど、それは自然な姿ではないのだから、一時の出会いに感謝するように、一晩だけのささやかな贈り物。
茂みに消えていった猫の気配が消えてから、また膝の上の本、のようなものへと意識を向けて。
■ミュー > 「お店……寄ってから、帰りましょうか……
それなら、そろそろ行かないと……下の子は、特にもう寝てしまいそう……?」
ぱたん、閉じた本を、どうやったのか、本の大きさよりも小さな肩掛け鞄の中にするりと仕舞い込む。
ふわりと立ち上がり、横へ少し伸ばした手の中へ、椅子の上から杖が引き寄せられて。
ゆらめく煙の天幕を、ふわふわした足取りで伴わせながら、公園の出口へと歩き始める。
「……この形では、私はいいけれど……置いて使う方が向いていて、あまり便利ではないかもしれない……?」
ゆったりとした足取りにこそ、雨除けの天幕は付いてこれるけれど。足早に歩いたらきっと遅れてしまって意味がない、と感じる不安定さ。
戯れに作ってみたもの、と言うのはそれなりのものにしかならないもの、と手元の雨除けの杖を先へと向けながら。
向かう先は、自らが所有する魔道具のお店のある方角。お店を任せる二人の顔を思い浮かべて、揃って居るかしら、と会うのをほんのり楽しみに。
ご案内:「平民地区/公園」からミューさんが去りました。