2023/01/06 のログ
カティア >  
 
「――――」

 重く、不機嫌な吐息。
 ワインを一気飲みしたせいなのか、ほんのりを頬が赤い。
 しばしの沈黙の間に、コースの一品目が運ばれてきて、スタッフが去ると、重い空気のまま、カティアが口を開く。

「――面白い、面白くないじゃない」

 そんな事、どうでもいい。
 目の前の少女の人生が、一度の理不尽で滅茶苦茶にされたのだ。
 それがただただ、無性に腹が立って仕方ない。
 それは多分――カティアもまた、理不尽に狂わされる事を知っているからなのかもしれない。

「――リラ」

 不機嫌を隠そうともしない、けれど、静かな声で名前を呼ぶ。
 一度俯いた顔は、ゆっくりを少女に向くと、据わった目で、けれど真剣な視線を向ける。

「貴女、私に抱かれなさい」

 ゆっくりと詰めるつもりだった距離なんて、もはやどうでもよくなっていた。

「そのクソッたれな記憶がどうでもよくなるくらい、徹底的に上書きしてあげる。
 怖いとか痛いとか、気持ち悪いとか――そんな事、気にならないくらいにしてあげるわ」

 そう、ふつふつと煮えるような苛立ちを隠そうともせず。
 乱暴な口調で、無茶苦茶な事を言い出すのだ。
 

リラ >  

剣呑とした空気の中、料理を持ってきたスタッフを見遣る。
我関せず、と言いたげな涼しい顔のまま一礼して去っていった。
じゃあ食べましょうか、なんて言える雰囲気でもない。

「カティアさ───」

何か言わなくては、と口を開きかけるのと、あなたが言葉を発したのは、ほぼ同時だった。
その威圧感にも似た剣幕に言葉が詰まり、ぱくぱくと唇だけが戦慄いて。
恐ろしさを感じる一方、自分の事で怒りを露わにしてくれることが少しだけ嬉しい。

「ひゃいっ」

名前を呼ばれ、思わずぴしっと背筋を正す。
しかし、次に放たれた一言によって、その緊張は弾け飛んだ。

「抱っ──なな、何を言って……!?
 わたし、そういうつもりで話したわけじゃ……!」

ない、とも言い切れなかった。
同性で"する"こともあると聞かされたその時から、
心のどこかで想像……いや、期待をしていたのかもしれない。
戸惑いがちに胸元を手で抑え、視線を彷徨わせる。

カティア >  
 
「はあ――」

 苛立ちを重いため息に乗せて吐き出す。
 戸惑い、視線を泳がせる少女を見てから、前のめりになっていた姿勢を戻して、瞳を閉じる。

「すー、はー」

 ゆっくり呼吸をすると、頭の中でカチリと意識が切り替わる。
 理不尽に対して荒れ狂っていた感情が、急速に凪いでいく。

「――ごめん、忘れて。
 貴女を抱きたいのは本当だけど。
 それで、リラが楽になれるかなんてわからないし、無責任な事、したくない」

 もう一度、ふう、と息をついて。
 食べましょう、と声を掛けた。
 

リラ >  

「えっ……ぁ、え……?」

対する少女は意識の切り替えが上手くいっていない様子。
唐突に平静を取り戻したあなたを見て、呆然と目を瞬かせている。

躊躇うような素振りを見せたから?
だって、いきなり抱かせろなんて言われたら面食らうのも仕方ない。
お互いのことを話して、もっと親密になりたい──くらいのつもりだったのだ。
心臓は未だに破裂しそうなくらい早鐘を打っている。

「…………あ、の」

これでは食事どころではない。
何か言わなくては、と考えるより先に口を開いていた。

「今はまだ……ちょっとだけ怖い、ですけど……
 もっと色んな話とか、カティアさんのこと知ったりして……
 その気に、させてくれるなら……いいです、よ?」

たぶん、彼女はとても不器用な人なのだ。
距離の詰め方も、気持ちのぶつけ方も。
今まで知らなかったそういう一面を、もっと知っていきたい。
そうすれば──きっと怖くないはずだから。
臆さずに、あなたの目を見てそう告げた。

カティア >  
 甘いトマトとモッツァレラのオードブル。
 それに手を付けようとした手が止まる。

「――ん」

 躊躇い、戸惑いながらも、まっすぐに伝えられた気持ち。
 その言葉は、またやっぱり、未熟な酸味を孕んだ甘さで。
 香り立つには少し早い、淡い蕾の匂い。

「はあ――殺し文句、ね」

 呆れたような、疲れたようなため息。
 これはきっと天然もので、血筋なんて関係ない、少女の才能なんだろう。
 本当に困った才能だと思った。

「ん――」

 トマトを口の中に放り込んで、少女の味を誤魔化す。
 そうしないと、今すぐにでも押し倒してしまいそうだった。
 それくらい、目の前の少女は、無自覚に誘ってきたのだから。

「――私ね、頭の中。
 脳が半分以上溶けちゃってるの」

 ふ、と。
 大した前置きをする事もなく、さらっと口にした。

「どうして生きてるのか、理屈もわからない状態で、今は安定してるけど、いつ死ぬかもわからない。
 しかも、そのせいで私の感覚器は滅茶苦茶に壊れてる」

 そしてまた、グラスに注いだワインを、今度は小さく一口、味わう程度に含んで飲み落とす。

「共感覚、ってものなんだけど。
 味を音で聞いたり、音を色で見たり、匂いを触覚で感じたり、ね」

 はあ、と一息つきながら、再びトマトを口に含む。
 程よい甘さとチーズの塩気が、軽やかで涼し気な音になって脳に響いた。

「これも全部、生まれつきの奇病の後遺症。
 おかげで、いつ死ぬかもしれない日々よ。
 ついでに、年中感覚が煩すぎて、ろくに落ちつけもしないし――」

 慣れるまで、何度気が狂いそうになった事だか、覚えていない。
 薬やリハビリ、訓練で何とか折り合って付き合ってきているけれど。
 それも、再発して症状が進行すれば――あっという間に死んでしまうかもしれないのだった。

「秘密、ってほどの事でもないけど。
 リラにだけ話させて、私が何も教えないのは不公平だし」

 ほんの少し、むくれたような表情で、ワインを一気に煽る。
 自分の事を知ってもらおうと思っても、なにを話していいかもわからない。
 だから、ただ自分の壊れかけている体の事を、他人事のように話すのが精いっぱいだった。
 

リラ >  

「……?」

呆れ混じりの反応に小さく首を傾げる。
個室に入ってから、自衛のための態度は全く取っていない。
つまり、先の言動は打算も何もない無意識のものだ。
それだけで少女の危なっかしさが伝わるだろう。

「っ……」

続くあなたの話を聞いて、僅かに目を見開いた。
皿に盛り付けられたスライストマトの断面が視界に映り、眉を顰める。
そんな状態で、しかも人より過敏な感覚を持っているなんて───
想像のつかない世界に眩暈がしそうだ。

「そっか……だから、いきなり距離を詰めたりしてきてたんだ」

明日をも知れない身というのは傭兵稼業の話だと思っていた。
実際は日常生活すら危ぶまれるほどの状態だったのだ。
悠長にしてはいられない、というあなたの言葉が腹の底に重くのしかかる。

それ以上なんて言葉をかければ良いかも分からず、おもむろにトマトを一切れ口に運んだ。
爽やかな酸味と果実のような甘味、濃厚なチーズの風味が広がる。
自分があなたと共有できるのはそこまでで、あなたはもっと多くのものを感じているのだと思うと、やるせない。

「ううん……嬉しいです。話してもらえて……
 カティアさんのこと、また一つ知れたから。
 良かったら、好きな食べ物とか……好みの話も聞きたいです」

理解と呼ぶには程遠いけれど。
それでも、少しでも多く知ることができたなら──そう思った。

カティア >  
 
「え――ん、うん、まあ、ね?」

 距離を急に詰めてしまうのは、カティアのコミュ力の低さが原因なのだが。
 まあまあ、都合よく好意的な誤解をしてくれているなら、そのままにしておこう。
 とはいえ、少し重たい話をしてしまったかもしれないと思う。
 まだ思春期の終わっていない少女に、死ぬや生きるやの話は、性の話よりも刺激が強いかもしれない。

「まあ、今日明日にどうこうってわけでも――」

 深刻に受け止められすぎても困ると思って、言葉をつづけようとしたのだが。
 少女がしみじみと発した言葉に、舌が縺れてしまう。

「――はあ、もう。
 リラってば、人を誑し込む才能があるわ、きっと」

 こんなふうに言われてしまえば。
 きっと、血統の事がなくたって少女に『魅了』されてしまうだろう。
 心底、少女が仮面を被ってくれていてよかったと思う。
 そうでなければ、今頃、混合クラスは大変な事になっていたかもしれない。

「まあ、そう、ね。
 まだまだ時間はあるし、ゆっくり、お互いの事、知りあっていきましょ。
 他の誰かにお手付きされちゃう前に、リラの事しっかり私のモノにしておきたいし、ね」

 なんて、半ば以上本気の言葉をのたまいつつ。
 ゆっくりと運ばれてくる料理を楽しみながら、些細な事を少しずつ、知ってもらうために言葉を交わしていくのだった。
 

リラ >  

「そんな才能あっても困るから、どうにかしたくてお勉強してるんですよ……」

あくまで体質だけのせいだと思い込んでいるため、溜息が漏れた。
確かに生き死にの話となると自分には荷が勝ちすぎるものだが、
それ以上にあなたのことを知られた喜びもある。
あっさりした語り口もあって、変に気を遣ってしまうようなこともなさそうだ。

「わたしが素を見せる相手なんて、他にはお母さんくらいですよ。
 頑張って本気にさせてくださいね、カティアさん?」

気が抜けたら酔いが回ってきたのだろう。
学院で見せる仮面越しとはまた違う、小悪魔めいた笑みを浮かべるのだった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からカティアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からリラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2 道具屋」にムツキさんが現れました。
ムツキ > 【待ち合わせ待機中】
ご案内:「王都マグメール 平民地区2 道具屋」にレキ・キドーさんが現れました。
ムツキ > 平民地区の一角、冒険用の道具や、ポーション、魔道具などを雑多に扱う目立たない道具屋。
店番が客を眺めながら、会計台の内側から店内を見つめ。
数人の客がそれぞれに道具などを確認している店内。

その中で、魔道具の棚の前に立ち、其処に並べた魔道具を確認し、元に戻す。
本来の店主であり、普段は仕入れメインで動く冒険者でもあり。
様々な情報を扱う情報屋でもる青年、本日は見つけてきた火つけ等の簡単な魔道具を開いている場所に並べていく。

「んー、こんなもんか、他のは出せないし」

ディスプレイした魔道具を見ながら、頷く。
その後で、薬草やポーション類の方を確認し、足らない物をメモに取っていく。
毛布や、火口箱など、雑貨類も確認し、足らない物で倉庫にあるものは後で取ってくる事を頭に止めて。
それらを熟しながらとりあえずと言う様に、店内を見渡して、ふと扉の開く音に声をあげる。

「いらっしゃい、買い物適当にみてくれるか」

そんな言葉を入ってきた相手に掛けて。
相手の姿自体は、ちらりと見て…買い物ならと言う言葉は、情報が必要なら合言葉をという意味でもあって。

レキ・キドー > 勝手知ったるとはいかないけれど、一度来た事がある店の扉は軽い。
合言葉で奥へ通されるくだり、ちょっとくすぐったいんだよねなどと考えていたら、入るなり目当ての声が聞こえた。

「邪魔するよ。あの、レキだけど…」

前回は奥でお話してから店を出てしまって、道具屋スペースの方はよく見ていなかった。
衣料品は扱っているのかなとキョロキョロしながら、声のした方にひょっこり顔を出す。
何やら気まずそうな顔をしているのは、借り物であるコクマー・ラジエル学院の学生服を着ているせいだろう。
別にそんなにおかしくないかもしれないが、本人は衣装に着られている感があってしょうがない。

「…何か、目星のつけられるような話あったかなと思って―― あと、仕入れて欲しい物が…
 手が空いてからで良いよ。 荷物運びくらいなら手伝うけど。」

お店を見ていても良いし、なんて言葉に殊勝な「手伝う」が混ざるのは、気恥ずかしさを紛らわせるためか。

ムツキ > 声を聞き、名乗りまで聞いてから、はいってきた少女を見て。
一回、上を向いて、目じりを揉んだ後で、もう一度見直して。

「…あ、レキか…ってか、なんでそんな恰好してるんだ?」

そうした動きから、少女の姿が予想外に過ぎた事は伺える。
上から下まで、見直して、珍しい物を見たという驚きと、似合ってる気もするという複雑な感覚とを浮かべて。

「あぁ、一寸した情報はあったぞ。それとまぁ、印付きのが一個、今は下だけど。
仕入れ…まぁ、物次第だけど普通に流通してるのなら大丈夫だけど…あぁ、そうしたら時間あったら荷卸し手伝ってくれるか?」

少女の問いに答え、仕入れと聞いてそれにもこたえる。
火口箱などが置いてある棚の下を開けて、其処から少なくなっていた雑貨類を箱ごと取り出して。

店内を見れば、冒険で使う雑貨は一通りあるが、衣服関係は精々マント程度が置かれている。
ポーション類は、生命、魔力回復系、状態異常の解除系は一通りある様子。
魔道具涙で棚に置いてあるのは火付け、水の浄化、簡易の感知結界(地上の事しか感知できない)などがあり、これらは魔力を自分で込め直すタイプらしい。

「箱から出して、同じのが並んでる横に置いてってくれるか」

箱を開けながら、少女にそう告げる。

レキ・キドー > 「出先で装束がボロになったから借りたんだ。返そうと思ってたんだけど、いよいよ着るのが無くなって…」

戦闘集団の隊服など消耗品だけれど、持って来た分は破かれたり溶かされたりであっという間に修繕では追い付かなくなったという話。
吹き出されたりしたらちょっとショックだったかもしれないので、紳士な反応にほっとする。可笑しいのは分かってるよって態度だ。

「――って、え、あんの!?」

さらりと自分が情報を求める呪物の「印付き」があると聞くと、マジかと目を丸くした。
私が一件見つけたら小物でもお祝いだ。さすが情報屋を名乗るだけはあるのだなと舌を巻く。

あんまり人を褒めるような性分ではないので黙ったまま、荷卸しと聞けば同意を示すように上着を脱いで来よう。
適当な所にかけさせてもらって。

「あいよ。」

指示されるまま、見よう見まねで単純作業。
神殿育ちはけっこうきっちりした所があるようで、箱の向きやら間隔には几帳面だ。

「で、用意して欲しいのが、私がいつも… というかこの前着てたみたいなクニ(故郷)の装束なんだけど。
 あもちろん、実際の隊服は無理があると思うから、袴着なら… あとそこそこ頑丈なら… できれば黒ければ… なんでもいい。」

既に全然何でもは良くない条件が並ぶが最低限。
アイデンティティーを保てそうなものが欲しいのだと、出奔した身で口にするのもはばかられるが、
マイナーな異国の民族衣装を仕入れてもらうのにこの店は自分が知る中で一番希望を持てそうで、
何よりムツキは私達の隊服をよく知っているだろうと思っている。

とはいえ店内を見回すに衣料品は扱っていなさそうで。

「難しかったら、そういう店を知らないか。」

無理でもしょうがないんだよとあらかじめ。

ムツキ > 「なるほど…というか、色々巻き込まれてるのと、顔ツッコんでるっぽいのは判った。
頼んだのはそっちだろう、驚かれると俺も傷つくぞ?」

先日聞いた話からすれば、おかしな事件を聞けば顔を突っ込みそうだと想像は付き。
それ以外でも、この国だと色んな意味でおかしな事件には事欠かない。

見つけた事に驚かれるが、件の邪神関係の能力を聞いた後、この国の貴族等、ある程度の身分持ちを調べてみれば。
怪しい人間はいくらもおり、その中で流れてきた話から、それを深く調べていき、見つけた品が一個。

「荷卸し終わったら、下行って確認してくれ」

少女の作業を見つつ、自分も別の品を並べて。
その置き方に、ぱっと見以上に丁寧だなと、昔も浮かべていた、ある意味で失礼な事を考えて。

「あー…いや、どうしても欲しいなら、隊服も行けると思うぞ、幾つか伝手とか、作ってた貸しとか使って、少し時間掛かるけどな。
ちなみに普通の袴着でいいなら、そこそこ早く仕入れられると思うし、どうする?」

すこし考えて、少女が着ていた物とほぼ同じものも行けるかもと告げる。
国なら此方よりも上の方に伝手はあり、少女がいた場所の人に対しての貸しもあるしと、肩を竦め。

「ここら辺で扱ってる店はどうだろうな、着てる人間は偶に見るけど。
その人等も旅の途中な人間が多いだろうし…きちんと探してみればまた違うかもだけどな」

貴族の中にも、浴衣などを着ている人間もいるので、皆無ではないか、少ないだけなのか。
青年自身は、服装に拘りは強くなく、認識阻害などで入り込むときにそこに似合った服装に着替える程度。
此方の冒険者や貴族が使う衣料店などは判るが、独特な衣装までは今は判らないと苦笑する。

レキ・キドー > 「荒事の方が金払いが良いんだよ。アイツ(私の呪い主)に繋がる事かもしれないし。 …土方やるのが安過ぎて驚いた。」

世間知らずの感覚では肉体労働って大変そうなので払いも良いと思ってしまいがちだが、そうでもないんだよねと、ちょっとしんみり。

「あいや、当てにしてなかった訳じゃなくて、私からするとあっという間に見つかったなと。」

手間が軽かったわけではなく仕事が早かったのだと、どこまで認識出来ているか。
傷つく、と言うのには慌てて「感心したんだよ」と修正し。

「……え、じゃあ。 ん… んー… んン… まって、それは、高いでしょ。」

隊服もイケると聞くと食指が動くが「貸しを使う」となるとどれほどの金額になるものか。
隊内では消耗品としてガンガン消費されていくものだけど、
格式を重んじる公的機関の制服が安価で流出するかというと疑問だし、流出されていてもそれはそれでショックだ。
普通の袴着でも自分でお裁縫すればアタッチメントの装着も出来るだろうし、こんなところで贅沢は良くないと思う。
ガマンのしどころかなと思いつつ、大まかな見積もりは尋ねてしまう。

お喋りしながらも手作業は淡々と進行中。
大雑把そうに見えてもそのように教育されていれば、それが丁寧なんて自覚も無くさっさか片付ける。
一箱終えて、続けるか、下りてもいいかとうかがう視線。

ムツキ > 「土方はな…家がある人間ならありだけど、宿暮らしだと宿代で飛ぶからな。
あぁ、そういう事か…情報関係は専門だし、便利な術や能力もあるからレキよりは調べるの速いと、自負してるぞ」

冒険者をしていると判り辛いが、土木工事などは泊り場所ありでそれだけをするなら生活もできる。
逆に言えば、他の事をする時間が無くなる訳で。
その場合は、荒事ありの依頼を冒険者で受けたほうが稼げるよなと、苦笑し。

青年の言う術や能力は、認識阻害の術や遁󠄀行術に、さとりの能力。
よほどの相手でなければ気づかれず、情報集めにも有利なのは確か。
そして、近くへ行けば、呪いの気配から特定も可能という、今回の事に関すればかなり有利な力で。

「流石にそこそこ掛かるな…まぁ、安くするなら、袴着だけでも仕入れるか?
クニの方からの旅人にも売れるだろうし、それなら其処まで値段は上がらないし」

悩む少女に、苦笑しつつ取りあえずの提案をして。
一箱並べた少女の視線を受け、小さく頷く。

「そんじゃ、休憩にするか、こっち来てくれるか」

そうして、箱を棚の下に戻すと、認識阻害の術を発動してから、少女の手を取って奥の部屋へ入る。
以前と同じ様に、幾つかの呪物が並んでいる部屋を抜け、隠し階段を降りて、呪物の保管庫へ。

「その奥にある奴、腕輪型の魔道具で、体力増強の効果があるんだけど、ある程度付けて使うと魔力充填されて発動するみたいだ。
発動すると、発情して近くの異性を襲うってさ…これまでの犠牲者は、見つけた冒険者と貴族が数人で。
最初はそれのせいって判って無かったみたいだな…んで、腕輪の内側、付ける側にきちんと見ると、イチョウの葉の紋様があった、と」

結界に包まれた小箱の中身を見せ、説明をして、少女へ差し出して。
俺には使い道ないし、仕入れにかかった値段くれれば良いぞ、後払いでも、前言った体払いでもな。
と、値段については青年自身はそれほど気にしてない様子で、体の方は冗談めかしつつ、けれど何処か本音をにじませて。