2022/06/04 のログ
■影時 > 「……さて、問題は、だ」
遠出がし辛くなった、というのは少し厄介か。
一週のうちに何日、何時間の講義というのは、何も事前準備もなしに即興で遣るのは難しい。
前任者がギルドと特別講師先である王立コクマー・ラジエル学院に、資料を残してくれていたお陰でどうにかできている。
その事前準備ともいえる資料のタネが尽きてきた場合、そこから先は自己流となる。
今はまだいいが、そこから先というのは経過をよく見て、確認して構築しなければならないだろう。
「弟子の講義とはまた違うなァ。
そも、教えるもの自体が違う以上当たり前なンだが……この辺り、得意な奴いねぇかな」
忍者の素質があるものを教え導き、育てるのとは違う。
使えないもの、大成しないものを篩い落としてゆく作業ではない。赴く先は、落伍者の扱いが過酷ではない筈だ。恐らく。
合間を見て、他の講師・教師が教える内容を遠目に眺め、確かめておく必要もあるだろう。
教師の資格でも取得しておけば違うのかもしれないが、冒険者の仕事を辞めるつもりはまだない。毛頭ない。
兼業できているものたちのやり方、暮らし方を聞ける機会があれば、聞いておきたい気がしてきた。
そんな感慨を内心で得つつ、カウンターの向こうから出される串焼き肉を受け取る。
細い串に刺した鶏や獣の肉に岩塩や香辛料をまぶし、炭火であぶり焼いただけのシンプルな料理だが、強い酒によく合う。
麦酒に合わせてもいい。これに野菜、薄焼きのパンでもあれば、夕餉には事足りる。
■影時 > 「……ん」
背後にする他の客、利用者の声や叫びを聞きつつ酒杯を傾け、合間に肉を齧る。
そうしていれば、おのずと皿と酒杯は空となる。
そろそろ頃合いだろう。羽織の袖の中に手を入れ、取り出す財布から支払い分の硬貨をテーブル席に置く。
まだ残りがある酒瓶については栓をして持ち帰るつもりだが、思い出したように卓上に目を遣る。
「呑まずに帰る訳にも、な」
供え物として置いた酒を、このまま呑まずにおいて帰る訳にもいくまい。今更瓶に戻すわけにもいかない。
故に強い酒を一口で呷らず、噛みしめるように味わって飲み下す。
臓腑を焼くような強い酒精の気配が過ぎ去るのを確かめれば、席を立つ。
腰に差したままの刀を直し、羽織の裾を翻して酒場を出る。
今日の営業が終わったギルドの受付を横目に、外に出よう。他の店に寄るか、宿にそのまま向かうか考えながら――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」から影時さんが去りました。