2021/08/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区裏路地」にグリセルダさんが現れました。
■グリセルダ > お値段も客層もお手頃な宿屋近く、先刻足早に辿ったばかりの裏路地を、
日も暮れ落ちた宵の刻、うろうろと逆に辿り返す、ローブ姿の娘が一人。
被っていたフードは肩にずり落ち、俯き加減でいるために、
普段は髪で隠れている特徴的な尖り耳が、ちらちらと覗いてしまっている。
けれどもそんなことには構っていられないほど、娘は困り果てていた。
「えぇえ………どうしよ、……どこで落としたのかな……」
探し物は、掌大の水晶玉。
宿についてローブを脱いだ、その時に気付いた失くしもの。
あれ自体は特に力のあるもの、という訳でもないけれど、一応商売道具である。
新調すれば良い話かも知れないが、出来れば無駄遣いはしたくなかった。
とは言え、暗い路地の片隅に、ひっそり転がっているとしたら。
こうしてうろついているだけで、果たして見つけられるものか、どうか。
ご案内:「王都マグメール 平民地区裏路地」にジェイクさんが現れました。
■ジェイク > 平民地区であっても背徳蔓延る王都の路地裏ともなれば、犯罪の温床と成り得る。
そんな場所であれば、彼のような王都の治安を預かる衛兵が屯していても何ら不思議ではない。
尤も、この街に相応しい不良兵士である彼が、路地裏で行なう事は犯罪者の摘発ではなく、
諸々の犯罪への目溢しをする代わりの賄賂を受け取って懐に収める事であった。
「んっ、……何だ、こりゃ? ……水晶玉?」
昏い路地裏の先、娘の方に向けて足音と共に近付いてきた男の影が不意に蹲る。
その靴の爪先に当たった代物を拾い上げて見れば、偶然にも彼女の探し物である水晶玉。
別段、初めて見る訳でもなく、街中の辻占い等が利用している所を幾度か目撃した事はあるが、
何故、このような場所に落ちているのかと小首を傾げながら、手の中にて水晶玉を転がして弄び。
■グリセルダ > 「――――――、あ」
滅多に人の通らない場所であれば、誰かの足音には直ぐ気付く。
何気無く振り仰いだ視線の先で、男が何かを拾い上げるのを認めた。
どこかの家の窓明かりが、きらりと反射する手許の丸み。
思わず小さな声を上げ、うっかり指を差しかけて、危うく踏み止まる。
代わりにかつりと靴音を刻み、男の方へ歩み寄って、
「もし、………あの、失礼ですが。
その、お手許にございますのは……水晶玉、ではございませんか?」
娘の歩幅で、彼我の距離は五、六歩ほど。
手懐けた猫を素早く被り、控えめな微笑と共に問いを投げる。
■ジェイク > 若しかしたら、価値のあるものだろうか、と淡い期待を抱きつつ、
手の中で水晶玉を転がして、近所の窓明かりから路地に差し込む光に照らす。
生憎と何の変哲もないガラス球にしか見えない其れは、拾った場所が場所であれば、
それ程に大した価値はないのだろうと容易に思い至った。
「ん? 確かに、こいつは水晶玉だが、……そういうアンタは?」
精々、質屋に横流しにすれば、飲み代程度にはなるだろうか、と、
そんな事を考えていた折、不意に近付いてきた女に視線を向ける。
なめし革の胸甲に腰に剣を佩き、一目で衛兵と分かる格好にて、
微笑を浮かべる娘に視線を向ければ、職業柄なのか何なのか、自然と誰何の言葉が真っ先に零れ落ちる。
■グリセルダ > 一見したところ、相手の職業は兵士か、それに類するもの。
王都に於いては珍しくない、そして彼らについて、良い噂はあまり聞かない。
けれども、まあ、――――積極的に、敵に回すべき存在でないことも、また確か。
なので、接客モードの微笑は継続したまま。
「あぁ、……申し遅れました、わたくし、占星術を生業としております、
グリセルダ、と申します」
ローブの端を片手で摘み、そっと膝を折る御辞儀の後に。
「実はさきほど、この道を通りました際に、水晶玉を落としてしまったのです。
慌てて探しに参りましたところ、……貴方様が、ちょうど」
そのお手に、と掌で指し示す、相手の手の中の丸いもの。
もちろん、それが娘の落としたものであるという確証は無い。
なので、続く言葉はこうだ。
「よろしければ、……わたくしに、触れさせて頂けませんか?
そうさせて頂ければ、多分……わたくしのものかどうか、はっきりすると思いますので」
触れてみれば、掌への馴染み具合で直ぐ判別がつく。
両掌を上に向け、胸元へ揃えてみせる仕草で、そこへ落として欲しい、と。
■ジェイク > 「占い師か、……成る程な。
俺はジェイク。見ての通りの衛兵だ」
微笑みを浮かべながらお辞儀をして見せる女の仕草を眺め、
その髪から覗いた特徴的な亜人種のを目敏く見付けると双眸を細める。
だが、その事を敢えて触れる事もせずに、娘の口上に耳を傾け、
差し出される両掌に視線を寄せると、肩を竦めて苦笑を漏らした。
「いや、別に其処までして確かめる必要はなさそうだ。
ただ、悪いが衛兵の規則でな。拾得物を此の場で渡す事は出来ない。
手間を掛けさせないので、一緒に詰め所まで来て、受け取りの書類を書いてくれるか?」
彼女に触らせて、それが馴染んだ所で、一体、誰がその事を証明するのか。
結局、本人の弁であれば確かめる術はない。だが、状況的に持ち主に違いないのだろう。
故に引き渡し自体には問題ないが、手続きが必要だと告げると付いてくるように促して歩き始める。
彼女が付いてくるにせよ、付いてこないにせよ、その足は衛兵の詰め所へと向かっていき――――。
■グリセルダ > ジェイク様、と、告げられた名を繰り返す声に揺らぎはない。
しかし――――――詰め所まで。
その言葉を聞くや、ほんの微かに眉間へ皺が寄る。
特段、やましい事など無い身だけれども。
「そう、ですか……ああ、でも、でしたら、
わたくしが今、このままご一緒しても、身分を証するものがございませんわ」
王都の民とは違う、流れ者の田舎者である。
身分証明になるものも、身元引受人も――――そこまで考えて、
ぱっと顔を明るくさせた。
「そうですわ、宿のおかみさんに、御一緒して頂けば良いんだわ。
恐れ入ります、少し後から伺いますわ。
おかみさん、まだ起きていて下さると良いのですけれど……」
相手に特別、不審を抱いたのではない。
ただ、単純に、第三者の証言が必要かと思っただけのこと。
無事に水晶玉が手許に戻るかは、かくして、宿のおかみが夜更かしであるかに委ねられた、という――――――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区裏路地」からグリセルダさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区裏路地」からジェイクさんが去りました。