2021/08/16 のログ
イグナス > ―――おや、気のせいであったろうか。
姿は見えず、まあいいかと男はその場を去っていった

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からイグナスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にミンティさんが現れました。
ミンティ > 仕事終わり、もう薄暗くなっている時間になってから足りない食材を買いに出かける。閉店間際だったお店のご主人に申し訳なさそうに頭を下げたりしつつも、とりあえず切れていた調味料を買い足し、ついでに新鮮な夏野菜を八百屋で買いこんだころには、すっかり日が沈んでしまっていた。
それでもまだ大通りを行き交う人の数は多く、自分と同じように買い物帰りらしい人や、宿を探して歩きまわる冒険者風の一行、今日はどこで騒ごうかと賑やかな酒場目当ての人たち、あちこちから、いろんな声が聞こえてくる。
そんな雑然とした空間を、小石を蹴飛ばしながら通過しようとする大きな馬車に、一瞬目を惹かれた。おそらく貴族か名のある商人が乗っているのだろう、細かな部分にまで華美な装飾が施された客車を、逞しい黒い馬が引いている。
自分がああいったものを所有したいとか、一度でいいから乗ってみたいとか、そんな贅沢な考えは頭に浮かばない。けれど商売柄、職人の高い技術が散りばめられたものには、どうしても目が向いてしまい。

「……っ」

思わず見惚れてしまっていたけれど、あんまりじっと見つめていて、不躾を咎められたりしたらたまらない。はっと我に返ると、頭を振って思考を切り替えようとして。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にメレクさんが現れました。
メレク > 我に返り、頭を振るう少女の目の前で黒馬が嘶きを上げると、その場に馬車が停車する。
暫しの間、手綱を握り締めた御者が、馬車内の主人と二言、三言と言葉を交わした後、
彼は馬車から降りると、その場に立ち尽くした儘の少女の傍へと歩いて近付いていく。
御者と言えども、その身形は相応の出で立ちで、馬車の主が貴人である事を示しているだろう。
彼は少女の前に立つと深々と丁寧な態度にて頭を下げて見せて、

『今晩は、お嬢様。我が主の馬車に何か御用が御座いましたでしょうか?』

傍から見れば身動ぎもせず、馬車を見詰める不審者じみた行動の相手。
その奇異な行動が馬車の主の目に留まり、関心を抱かせたらしい。
御者の言葉には疑問の色が滲めども、批難するような色合いは持たず、

『……もしも、我が主の馬車に興味がおありでしたら、
 ご乗車になられて共に話でもされませぬか、と主が申しております。』

奇異な娘に対して興味を抱く馬車の主も、また可笑しな人間なのだろう。
恭しく誘いの言葉を放つ御者は、主の言葉はこれで伝え終わった、と、相手の返答を待ち。

ミンティ > 頭を振ったあと、胸元にかかえた紙袋の中に視線を落とす。新鮮な野菜は傷まないうちに手を加えたいところ。どんな献立に仕上げようかと考えながら、ふたたび歩き出そうとして。
そのまますれ違っていくものだとばかり思っていた馬車がすぐ近くで動きを止めた事実に目を丸くする。反射的に一歩後ずさりながら、しまった、やっぱりじっと見すぎていただろうかと後悔。いつ飛んでくるかもしれない叱責の声に身構えて、肩をすくめたけれど。

「っ……、え?…あ、あの、わたし……でしょうか。ええ、と、
 いえ、その、すごく、立派な馬車、だなあ…って、それだけで……」

お嬢様なんて呼びかけられるような機会は、冗談でもなければ滅多にない話。当然相手の方に、ふざけているような態度が透けて見える事もない。
てっきり注意されるか、罵声を浴びせられるかとばかり思っていたから戸惑いが深く、受け答えをする口調もしどろもどろ。
急な誘いには、いつもなら過度な人見知りを発揮して尻すごんでしまうところだったけれど、思いもよらなかった事態を前に、臆病さが普段よりも薄れていて。

「……あ、あの、でも、わたし…その、こんな、ですし…、荷物も、ありますし……
 お邪魔になってしまったり…、その、ご迷惑になりは、しないでしょうか……」

特に不潔にしているわけではないけれど、見るからに地味で野暮ったい平民の装い。そんな自分が目の前の馬車に乗るなんて、と思いはするけれど、外観でもこれだけ立派な装飾が施された客車、その中を見てみたいという興味も、すこしだけあって。
すっかり恐縮して縮こまっていながら、好奇心に背中を押されて、迷惑にならないようならと相手の反応を窺って。

メレク > 『成る程、そうでございましたか。お褒めに預かり光栄です。
 我が主はさる貴人で御座いますので……』

華美な装飾の施された馬車を操る御者に相応しい出で立ちの彼の前に立つのは、
見た目からして平民層の出自である事が疑いようもない娘。
それでも、一流の仕事場にて礼儀作法を身に着けた御者は慇懃な態度を崩さない。

『迷惑と捉えるか否かは、主がお考えになる事ですので私め如きでは分かりません。
 ですが、主はお嬢様にご興味を抱かれた様子ですので、
 お時間が許すのであればお付き合い頂ければ、と存じ上げます。』

御者は彼女の前で腰を折れば、片手を差し出して荷物を預かろうとして、
其の侭、彼女を馬車の客車の前へと誘えば、扉を開いて中へと招き入れようとする。
もし、彼女がその誘いに応じて馬車の中へと乗り込んだならば、その扉は閉ざされて、
主と彼女と二人きりの密室が作られた後、黒馬の嘶きと共に馬車は街の中へと走り始める事だろう――――。

ミンティ > なんとか商売を任されて、いろいろな縁もあって平民地区で暮らしていけているけれど、もともとは身寄りのない孤児。こうも恭しく扱ってもらえる事に慣れていないせいで、なにか裏があるのではないかと勘繰るような思考も働かない。
おろおろしながらも、高い身分の人に興味を持たれたのであれば、それを無碍にするわけにもいかないだろう、と考えるのが精いっぱいで。

「…え、あの、で、では…すこし、だけ。お邪魔させて、いただきます…」

おそるおそる誘いを受け入れて、ぎこちない動きでかかえていた紙袋を差し出した。自分の荷物を誰かに持ってもらうような出来事だけでも恐縮しきり。
乗り慣れない馬車のステップに足をかけて、客車の中へと姿を消す途中、以前に読んだロマンス小説の一場面がふっと頭に浮かんだ。
身分違いの奇妙な出会いを描いた物語はたくさんあって、そのお話のとおりなら、自分を待っているのは落ち着いた印象の紳士だったり、見目麗しい王子様であったりするのだろうけれど、はたしてどんな人物と出会う事になるのだろうかと、ほんのすこし胸を高鳴らせる。
実際の馬車の主を見た反応がどうだったか。それは、扉を閉ざされた客車の中にいる者のみが知る事になるはず…。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からメレクさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にレイさんが現れました。
レイ > 「こういう仕事って退屈だね…いつでもあるから助かるんだけど」

日も暮れた平民地区の大通り。
灯りを灯している場所と言えば酒場か宿ぐらいしかない道を灯りを手に歩く。
普段ならばこんな時間に出歩くことは先ず無いのだが通りの巡回というそれなりなお給金の仕事を受けたためであり。
本当ならば他にも受けた冒険者は居たのだが早々にどこかにさぼりいなくなっている有様で。

「これって僕も早めに引き上げる方がいいよね。どう考えても危ないし…」

複数で行う仕事を一人で行うのだから危険は増えている。
そう考えると本来は数往復する必要のある仕事であるが一往復で戻るべきかと考えつつも巡回コースを歩いて。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2/河川敷」にルヴナンさんが現れました。
ルヴナン > 月が薄ぼんやりとした雲に隠される夜。
仕事の終わった者達が、帰宅途中で酒場で一杯やろうかという時間帯。
言い換えれば、人気のない場所を歩いていれば襲われても文句は言えない時間。
そんな刻限に、平民地区と貧民地区を隔てる河川敷を歩いていた。
もう少し歩けば、橋が見えるというところ。
暑さを和らげる風だけを共として、一人歩いていた。

「ああ――静かな夜だ。
 静か過ぎて、いささか面白みに欠けるね。」

風が運んだのはそんな、不満を訴える声。
声を漏らす唇は、淡い苦笑を形作っていて、その上の鏡の仮面は夜景と川の景色を映すだけ。
逢引してる誰かでもいないか、あるいは逢引の相手でもいないか。
トラブルになっている誰かはいないか、あるいはトラブルの相手はいないか。

襲われても文句は言えない時間帯。
――むしろ、襲ってくれる相手、襲われてくれる相手でもいないか
退屈は最悪の敵だ。今日はその敵との孤独な戦いに白旗を上げよう。
そんな理由で、一人夜の散策としている。