2021/05/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にミンティさんが現れました。
■ミンティ > すっかり日が暮れた時間。それでもまだ行き来する人も多い大通りの端の方を、あっちへこっちへ、ふらふらとよろめくように歩いていた。
身体のバランスが安定しないのは胸に抱えた荷物のせい。本棚の整理をしたいからと呼びつけられて向かった買い取り先で、さまざまな本を適当に押しつけられてしまった。
自分の腕でやっと抱えこめるくらいの箱の中にぎっしりと詰まった本の重さは、ずっと持っていると指先の感覚が薄れてきてしまうほど。何度か立ち止まっては荷物を下ろし、手を休めてから、また抱え直す。そんな行動を何度か繰り返して、ようやく家の近くまで戻ってこれたところだった。
「……はぁ…」
自分が任されているお店は、大通りの裏手にあたる静かな商店街の端の方。どうしても途中で細い道を進まないといけなくなるから、周囲が賑やかな大通りにいるうちに最後の休憩を取ろうと、また荷物を下ろす。
両手をぷらぷらと振りながら、疲労感が詰まったような溜息をそっとこぼして。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に飛飛丸さんが現れました。
■飛飛丸 > 武者修行と称して王都までやっては来たものの、野山を駆け巡ったり木々の間を跳ね回るくらいしか出来ぬ日々のわしじゃった。
今日もたっぷりと森を散策して町に戻り、宿へ向かう道すがら大きめの箱を抱えた娘と同じ方向になった。
娘はしばらく箱を運んでは(洒落ではないぞ)休憩を繰り返している。苦労をしているようじゃ。
「だがのう」
もしこの娘が己を鍛えるために重たい荷を抱えているのでは娘の邪魔をすることになる。おなごが鍛えてなにが悪い!
が、数えるのも面倒になったほど娘が箱を降ろして休憩をしたのでわしはみるにみかねて声をかけることにした。
「ずいぶんと難儀をしておるようじゃの」
己を鍛えるにも「ぺぇす」というものがあるのじゃ。それを娘に諭してやろうとわしは思った。
■ミンティ > 箱の角が当たっていたところには、くっきりと赤いあとがついてしまっている。さすがに皮が破けたりするほど痛めてはいないけれど、じんじんと熱がこもったような感覚に眉を下げて、すこしでも痛みが散らないかと、指先で手のひらをさする。
しばらくそうやって手の疲れを癒して、ふたたび荷物を抱えあげるために屈みこもうとして、背後からかかる声に動きを止めた。
振り返ってみると、自分よりも背丈の小さい、重たそうな鎧を身に着けた少年の姿があった。
「……ぁ、え、と。…あ、すみません、…邪魔、でしたよね」
話しかけられた意図を掴みかねて、おろおろとしたあと、自分が前をふらふら歩いていて追い抜きづらかったのだろうと勘違い。
あわてて荷物を抱え上げると、先に行ってもらうために、通りの端の、もっと端の方まで身を寄せて、ぺこりと頭を下げた。
■飛飛丸 > わしの声に気づいた娘が慌てたように頭を下げる。
娘はどうやら自分がわしの進路を塞いでおるのではないかと勘違いをしておるようじゃ。
「気にするでない。天下の公道を歩くのに邪魔もイカの耳もないわ」
わしは娘の顔と身体を大きな眼でじっと見据えた。
細い肢体。筋肉の付き具合。荷を抱えたときの足取り。
日常的に鍛えているようには見えなかった。
ということは、箱を抱えて歩いているのは運搬目的ということになるか。
「わしは飛飛丸(ぴゅんぴゅんまる)という者じゃ。わしの眼に狂いがなければ、お主さきほどからその箱をどこぞに持っていこうとしておるのか?」
初対面の人にちゃんと名乗れてえらい。
わしはこういうことはちゃんとしておるのじゃ。
■ミンティ > 少年の進路を塞いでいた事を咎められたのではないとわかって、ほっと息を吐く。それでも、ふらふら歩いていたのは間違いないから、まだ何度か、ぺこぺこと頭を下げてしまう悪い癖。
気にしないよう言葉をかけてくれる相手に、届くかもあやしい小さい声で、すみませんと返して。
「ぴゅん、…ぴゅん?…ぁ、えと、ミンティ、と……いいます。
……ええ…と、はい。家へ、…持って帰るところ、でした…けど」
観察するような視線に晒されて、反射的に背筋が伸びた。
見るからに年下だろう少年を相手に、ここまで緊張する必要もないのだろうけれど、肩と腰まわりだけとはいえ、物々しい鎧が放つ雰囲気に気圧されているのかもしれない。
そんな風に硬くなっていたところ、先に相手からの名乗りを受けて、頭の上にはてなマークを浮かべたような顔。きょとんとしながら、小首をかしげて復唱しつつ、あいかわらずの小さい声で自分も名乗り返し。
こうして立ち話をしている間にも、箱の角から重さがじわじわと手に食いこんでくるから、それとなく荷物を抱え直して。
■飛飛丸 > 食事を抜いておるかのような小さな声じゃったが、娘の名がミンティということがわかった。
そしてやはり箱を運ぼうとしていることも……。
「ならばわしが手伝ってやろう。この先は道がせまくなるぞ」
何度か通った道なので覚えておる。少なくとも箱を抱えたミンティが通るのはかなりしんどいはずじゃ。
それに何が入っておるかはわからんが、箱がミンティの手からずり落ちそうになっている。
この分ではすぐに箱を落としてしまうことだろう。
わしはミンティが抱えておる箱の下にもぐりこめば、両手で箱の底を支えようとした。
力のない娘が抱えるような重さにへこたれる東国武者ではないのじゃ。
「わしが運んでやろう。こう見えてもわしは人助けをするほど暇をしておるのじゃ」
■ミンティ > 最初から人と会話する心の準備をしていたら、もうすこしくらい大きな声を出せたかもしれない。けれど急に人と話す機会がやってきてしまうと、いつもこうだった。
軽く咳払いをして喉の調子を整えて、ちゃんと相手に届くような声で会話をしようと意識を切り替えようとする。
そんな、自分の内側に注意が向かっている最中だったから、相手との距離が縮まったのを認識するのがすこし遅れて、気がついた時には目の前にいた少年の姿に目を丸くする。
あわてて飛び退こうとしたものの、すでに限界まで道の端まで寄っていたから、下がるだけのスペースもなく、荷物の底を支えてもらってしまい。
「あ…、でも、あの…、……ええと、…じゃあ、途中、まで…で、お願いします…」
自分が重たく感じるものを出会ったばかりの人に持たせるのは気がひける。けれど、退屈しのぎだと言われてしまうと、申し出を断りにくくなって。
考えこんだ末に、家に帰る途中までは、荷物を持ってもらおうと考えた。そのまま盗んで逃げてしまうような人にも見えなかったから、その点は信頼してだいじょうぶだろうと考えて。
おそるおそる少年に荷物を預けると、ぺこりと頭を下げて、自分が帰る方向へと先導して歩きはじめる。そして二つの人影は、すぐに細道の向こうへと消えていっただろう…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からミンティさんが去りました。
■飛飛丸 > 「気にするな。ほんとうにわしは暇なのじゃ」
箱を頭の上に抱えながらわしらは歩いた。
ミンティが難儀をしていた箱は、わしにはそう重たいものではなかった。
袖すり合うも他生の縁という言葉があるとおり「こみゅにけいしょん」の楽しさを知るわしなのであった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から飛飛丸さんが去りました。