2021/03/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にアミスタさんが現れました。
■アミスタ > この日もまた、定位置と決めたかのように、少女は酒場の隅に陣取っていた。
薄い酒を一杯と、痩躯に見合うだけの食事の皿。
それだけをテーブルの上に残して、近くの暖炉の火を灯りに本を読んでいる。
昨今、主に成人男性に流行りの、猥雑と退廃に満ちた物語本。
そんなものをぱらぱらと捲りながら、少女は時間を潰している。
「……ふぅ」
ページの間に指を挟んで、顔を上げ、息継ぎをした。
ほんのりと色づく頬の赤は、きっと暖炉の火の為ばかりでもない。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にブレイドさんが現れました。
■ブレイド > 酒場も混み合ってくる時間帯、たまたま入った酒場はどうもほぼほぼ満席なようで。
中央のテーブル群などは冒険者の一団が談笑していると言った具合。
「うへぇ…」
うんざりとした声を上げ、少々辟易した表情。
このまま引き返そうと思ったが、ちょうどウェイトレスと目があってしまった。
運がない。
『隅のテーブルで相席でよろしいですか?』
などと笑顔で聞かれてしまえば、ため息を付いてうなずく。
真ん中の喧騒に巻き込まれないならばまぁまだマシだろう。
その笑顔の眩しいウェイトレスに案内されたテーブルには少女が一人。
どうやら読書中のようで、少し安心した。
「わりぃな、邪魔するぜ」
言葉少なに挨拶すれば少女の対面にすわる。
■アミスタ > 「……………………」
ぱらぱらと読書を進める少女。大きく首が動くことはない。
対面の相手の挨拶にも、視線だけで応じた。
そのまま注文をすることもなく、暫し沈黙の続く座席。
「……………………」
ぱらり。ぱらり。
ページを捲る手が──止まる。
「……お客さん? ……随分若いんだね」
顔の下半分を本の向こうに隠したまま、目だけがすうっと持ち上がる。
■ブレイド > 席に座っても少女の反応は薄い。
こちらとしてはそのほうが気が楽ではあるが。
こんなところで読書を続ける少女の方へと視線を送れば…
本の表紙に書かれた題字はたしか聞いたことがある。
最近平民地区の男たちに話題の本だ。その内容から、女性にはあまり好まれていないと聞いたが
変わったものを読むものだ。
ウェイトレスには軽食と果実酒を注文する。
それきりこの一角はしばしの沈黙に包まれるのだが、意外なことにそれを破ったのは少女の方。
「ん?ぇ…ああ、そうだがよ…」
お客さん?彼女もそうではないのだろうか?
それに、酒場のテーブルにつくのが客以外のなにかというのか。
恐らく同年代であろう少女に答えるものの、内心は不思議に思っていた。
■アミスタ > 暫しの間、見定めるような視線が続いた。
その間はページを捲る手も進まず、じいっと人形のように動かずに。
瞬きの回数さえ惜しむような静けさの後で、
「……いいけど。お金持ってるなら」
抑揚の薄い声で、そう言った。
「……宿代と食事代、それに合わせて……これくらい。
区切りは朝まで。……前払い」
ともすれば喧騒に紛れていきそうな静かな声音のまま、淡々と言葉を続ける。
そうしながら、読み進めていた本をテーブルの上に置く。
目次には折り目がついていて、抑えるものが無ければそこが自然に開く。
扇情的な行為が羅列された実用的な目次だ。
「……そこに書いてることなら、できる……よ」
後ろの方のページは少し高いけど。そう言葉を継いで、椅子の背もたれをぎしっと軋ませた。
■ブレイド > やはり反応は薄い。
いや、それどころかこちらをみたまま動かなくなっている。
一体何なのか…相席に不満があるのか?
と思い始めた矢先、妙なことを言い出した。
「持ってなきゃこんなところ来ねぇって」
一介の客が、酒場の売上を心配するとはおかしな話だ。
彼女が、この店の用心棒かなにかで食い逃げに目を光らせているというのなら話は別だが
さきほどまで本を読んでいたくらいだ。それはないだろう。
考えを巡らせていると、さらに妙な言葉を放つ。
「やど、だい?」
宿と食事を奢れということだろうか?
いや、そうではない。
淡々と告げる少女がテーブルに置いた本がひらけば
そこに書いてあるのは、目次?いや、できるということは…
娼婦のたぐいか?
とはいえ、客を引くような様子はなく、知る人ぞ知ると言った感じだろうか。
たまたまそれを知らぬ自分が彼女とテーブルをともにしてしまった。
おそらくはそういうことだろう。
「あー、なるほどな…そういうことか
女を買う趣味はねぇんだが…困ってるってなら手伝わねぇでもねぇよ」
彼女の服装や態度を見れば、日常的に体を売っているという感じではなく
やむなしと言った様子だ。
それに、ここで断れば彼女に恥をかかせることになるだろう。
硬貨の詰まった袋を少女の前において。
■アミスタ > 重い音がする袋の方に、僅かばかり視線は向いた。
だがその目はすぐ、また眼前の少年へと戻っていく。
手は、開いた本を手元へ引き戻し、顔の前へ衝立のように広げ直した。
「……勘違いをしないで欲しいのだけど」
そう前置きをして、少しの沈黙。
吐き出す言葉を探しているのだろう。瞬きの回数が少し増える。
「私は……恵んで欲しいとか……助けて欲しいとか……
そういうのじゃ、ないから……お金に困ってないとは言わない、けど……」
一瞬、視線が周囲を見渡した。
特に誰も、自分達へ興味を向けていないことを確かめるように。
周りの酔客は己の美食や美酒に手一杯で、周囲を気に掛ける事は無い。
それを見て取ってから、テーブルの上に身を乗り出して。
「……〝こういうこと〟をしてる女だとしても……物乞いじゃない。
場末の娼婦に施しを……みたいなことは、そうだね……。
怒られるかも。そういうお店で、専門の人に言ったら」
幾分か声を潜めて、囁くように言った。
また椅子に戻り、背を預ける。
「……そのお金は隠しておいたほうがいい。……見られたら、物取りの一人くらいは追ってくるかもよ」
結構な金額が窺える袋の形状、音。そこから老婆心までの忠言をした。
善良な少年なのだろうと思ったからだ。
■ブレイド > 物乞い扱いしているわけではないのだが
どうやら少しばかり彼女の自尊心を傷つけてしまったようだ。
とはいえ、こちらに注意をしてくれているあたり
彼女もまた、悪い人間ではないように見えた。
困ってはいないとは言わない…というあたり、そのためにこういうことをしているのだろう。
とはいえ、『専門の人』でもないらしい。
「別に、ただで恵むってわけじゃねぇよ。
買わせてもらうってだけだよ、あんたを」
物乞いではないと言う少女に対してはそう返す。
悪人ではない少女。体を売っているとはいえ表情や声色から
それを望んでいるとはお世辞にもいえない。
彼女の差し出した本の目次にはけっこうなハードな行為もかかれていた。
そういうことを続けていればこうもなるだろうが…
「宿と飯代、だろ?
これで足りるんじゃねぇか?いこうぜ」
相手がこちらを善良だと思ってくれているように
こちらも相手を哀れな女だとは思ってはいない。
善良なれど、たまたま運が向かないものもいるのだ。
■アミスタ > ふるふる……と首を左右に動かした。
ぱらり。本のページを捲る。
そうしながら、また言葉を探すような間を挟んで──。
「〝女を買う趣味はねぇ〟……でしょう……?
……無理をしない方がいい。たぶん……あなたが、まともなんだろうね。
それで……もう少し助けやすい相手を助けるといい」
椅子を引き、立ち上がった。飲み食い分の支払いの為、幾らかの硬貨を外套のポケットから引きずり出して。
急ぎの用は無いのだろう。ゆっくりと歩き始めて、少年の横を通り過ぎる時。
「……それに。どうせ相手をするなら、本心から……私を欲しがる人がいい。
それくらいの欲は……私にだって、あるし……」
足を止めて、耳元に口を寄せた。
「……優しい人は嫌いじゃないけど。ベッドでは……乱暴なくらいの方がいい」
それじゃあ、と。
少女は酒場の喧騒を擦り抜けて、夜の街へと迷い出ていった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からアミスタさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からブレイドさんが去りました。