2020/04/13 のログ
ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「それで良い。まあ、私は余り丁寧な言葉を使う方では無い故な。言葉が悪くても、気にしないで貰えれば有難い」

はにかんだ様な素振りではあるが、幾分砕けた口調で話し始めた相手に満足そうに頷いた。
固くならなくても良い、と言いながら此方の言葉が相変わらず尊大で有る事は、一応言い訳にもならない言い訳を告げつつ。

「所詮は付け焼刃の知識に過ぎぬし、それを勿体ぶって言葉にしているだけに過ぎんよ。
……ふむ。自分に出来る事を行う、というのは大事な事だと思うがな。何よりも、そうする事を選択し、実際に行動している事は評価されて然るべきだろう。
思想や理想に大小があるわけでもなし。貧者を救いたいというお前の行動は、お前自身の思想や理想では無く、仕方なく行っている訳でもあるまい」

恥じる様な仕草の少年に、少し長ったらしく言葉を続けてしまうのは、ちょっとした老婆心だろうか。
或いは、弟が居ればこんな気分なのだろうかと、柄にもない事をしている自分に内心苦笑していたり。

そんな話を続けている間に、此方も桜餅を平らげてしまった。胸ポケットからハンカチを取り出して指先や口元を軽く拭いつつ、相手からの言葉に幾分きょとんとした様な表情を向けた後――

「……それは、まあ、構わないが。何というか、物好きな奴だな。私の噂話を、知らない訳でもあるまいに。友達になりたい、とはな」

クスクスと、面白いものを見たと言わんばかりに笑みを零しながら緩く瞳を細めて頷いてみせる。
彼の様に人の良い少年相手に、己が悪影響を及ぼさないだろうかとちょっと心配していたりするのだが。

ツァリエル > 「ううん、言葉が悪いだなんて。
 ギュンターくんはギュンターくんのままの話し方でいいと思います」

にっこりと笑ってそう告げる。実際のところ微塵も嫌な気分はしていない。
自分が貴族らしい堂々とした振る舞いが出来ないように、ギュンターにだって
出来るできないがあってしかるべきだろう。
彼の話し方がそれが自然なのなら、それが一番いい。

「そうかな、でもきちんとお勉強をして、身につけた知識なら誇ってもいいと思う。
 僕はその、まだまだ勉強は不得手だから、身についているのはすごく素敵だなって思いました。

 ふふ、ありがとう。励ましてくれて、いるんだよね?
 本当はもっと大きな力で貧しい人や国民を助けたいんだけど、まだそうできる力はなくて……。
 少しでも力になれればいいなと思って、自己満足でやっていることなんですけどね」

友達になろう、とつげた言葉にきょとんとされると何か失敗してしまったかと思って慌てたが、
実際はそうではなかったようだ。
構わない、と言われれば満面の笑みで嬉しそうにギュンターを見つめる。

「……ありがとうっ! ううん、だって噂は噂でしかなくて……それよりも
 僕は自分の目で確かめたことを信じたいから……
 だからギュンターくんとも友だちになりたかったんです。」

クスクスと笑うギュンターにこちらも照れたように笑う。
しばしの間、笑い合うだけの間ができる。
と、更に夕刻から夜に移り変わる時を知らせる鐘がなって
ツァリエルはしまった!という顔をして席から立ち上がった。

「ご、ごめんなさい。僕門限が……、夜にお城に居ないと知られたら怒られるんだった。
 先に失礼しますね! またお城で会ったときにはよろしくお願いします!」

そうしてぺこりとギュンターに頭を下げ、小さく手をふると急いで城への帰路へつく。
市場の雑踏に紛れてすぐにツァリエルの姿は見えなくなるだろう――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 市場」からツァリエルさんが去りました。
ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「そう言って貰えれば助かる。まあ、互いに慣れぬ口調で話すよりは、自然体のままでいられるだろうしな」

そもそも、所謂人受けの良い、好感度の高い話し方というのは彼の様な純粋で善性なものである筈。それとは真逆を直走る己の言葉遣いこそ、本来は直すべきものなのだろう。
とはいえ、そこはお互いにありのままでと言い合った仲。結果として、純朴な少年と尊大な少年が語り合うという不思議な光景が生まれる事になる。

「…世辞を言われても出せるものはないぞ。精々が金貨くらいだ。とはいえ、其処まで言われて悪い気はしないな。素直に感謝しておくとしようか。

…別に励ましている訳では無い。唯、ツァリエル自身の選択と行動を自らが否定する様な事はせぬ様に、と言っているだけだ」

フン、と言わんばかりの口調で告げつつも、次いで彼が浮かべた満面の笑みには、思わず此方も表情を綻ばせる事になる。

「…そうか。なら、精々その目で確かめてみると良いさ。
ツァリエルが友人に選んだ相手が、どんな奴だったのかをな」

そんな語らいも、鳴り響く鐘の音で終わりを告げる。
慌てた様に立ち上がる彼を横目に、のんびりと立ち上がって——―

「ああ。また王城で。或いは、違う場所で。次は、もっと計画的に脱走する事だな」

王城へと急ぐ彼をひらひらと手を振って見送った後、此方は王都の屋敷への帰路へとつく。
帰り道を進む己の足は、何時もより少し軽やかだったのかもしれない。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 市場」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。