2019/07/13 のログ
■イグナス > 「………。」
ぶつかったものの正体は、立て看板、だった。
なんだかあんまり間抜けな話にがくりと肩を落として、荷物を回収・その場を去った――
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からイグナスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にナータさんが現れました。
■ナータ > 長雨は減ったものの、まだ今日のように雨の後、厚い雲が空を覆い
月すら顔を覗かせない夜もある。
貧民地区近くの路地、一人の少女が歩く姿があった。
「今日は、どうしよう……手持ちは……うーん……」
全財産の入った小袋を覗き込む。
日払いの仕事の後。
定宿となっている安宿の値段を考えても、ほんの僅か余裕はある。
まだ食事には行っておらず―――貧民地区の平均価格の料理を食べるには足らない―――普段の安食堂ならばもう一品付けられる程度。
立ち止まり、覗き込み、考え、歩き、立ち止まり、覗き込み……
そんなことを手持ちは増えないけれど、そうやって考えるのも
決して裕福ではない少女の愉しみであった。
■ナータ > いつの間にか少女の姿は消えていた。
そしてまた、ぽつぽつと雨が降り始めた―――
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からナータさんが去りました。
ご案内:「平民地区・旧市街地通り」にルビィ・ガレットさんが現れました。
■ルビィ・ガレット > 石造橋を渡ってこちらに来る際、すれ違ったのは一台の馬車くらいだった。
旧市街地に足を踏み入れると、道の端に咲いている、野草の類いの花が視界を掠めた。
色鮮やかな黄色い花弁の、小振りな花。名前はわからないが、可憐だと思った。
……しかし。
「少し、萎れてる。……暑さや湿度にやられたのかしら」
人通りは少ないほうだが、なるべく隅のほうへ寄ってから、花の前でしゃがんで。
そっと白い手を伸ばしかけて……やめる。勝手に摘み取ると、誰かに責められるかも知れない。
……とは、思っていない。ただ、一時の感情で憐れんで、自分の元へ手繰り寄せて。保護して。
――それが、何になる? 唐突に湧いた自問に、手折るのが少し躊躇われたのだ。
■ルビィ・ガレット > 人を殺すのは好きだ。同胞によっては、エルフや妖精を好んで殺める者もいる。
自分の場合、殺人衝動は常にある。そのせいで感覚が麻痺して、かえって人を殺めないで済む場合もあった。
……そして、なぜか小さな動植物は例外だった。
鳥や蝶、目の前にあるような花たちはなぜか、妄りに踏みにじる気にはなれなかった。
それは昔からだ。人間とてか弱く、見目麗しい者や儚い者だって在るのに――なぜか。
庇護欲は刺激されず、むしろ壊したくなる。捕食対象であることが、原因なんだろうか。
……わからない。
「――確か、読み掛けの本があったはず……」
いったん、道の端。花の前で立ち上がれば。
肩から提げているカバンの中に手を突っ込んだ。手探りで読み掛けの小説を探す。
自分の勘違いでなければ、カバンから本を取り出して、目の前の花を押し花にするつもりだ。
■ルビィ・ガレット > 曇り空だから、月明かりはぼやけて頼りにならない。
等間隔で道の端に設置されている街灯は、一つあたりの光度がそんなに高くない。
だから、旧市街地の夜道、その隅のほうで立ち尽くして、何かをしている女など……。
あたりの風景に馴染んで、あるいは紛れて――気づく者は、いないかも知れない。
しかし。
「――あっ」
短くも鋭い、女の感嘆詞。続いて、硬質な金属音……というか、硬貨が石畳に落ちた音。
カバンの中をまさぐり、手で探り当てた本を取り出す際、祖国の硬貨も巻き込んで出してしまったらしい。
表の面には、王冠に蔓草が巻き付いた意匠。裏の面には、少額を示す数字の表記。
――そんな硬貨が、いったんは石畳の上に落ちて、跳ね返って。
側面が地に触れた状態で転がっていく。
「やだ……ちょっと。――待って!!」
せっかく取り出した小説をカバンの中に乱暴に戻すと、それを追いかける。
■ルビィ・ガレット > 途中、石畳の僅かな隙間やへこみに躓きそうになりながらも、
どうにか転ぶのだけは耐えて、視界から転がっていく硬貨を見失わないでいた。
やがて、軽快な、揺れるような金属音を立てながら、表の面を上にした状態で止まる硬貨。
その近くまで駆け寄れば、弾む息遣いを整えるのもそこそこに、その場にしゃがんで手を伸ばす。
ひんやりとした感触が手の中に宿る。……心持ち、皮膚に引っかかる感触も。
落として転がしてしまった際、瑕を増やしたか。その事実に眉を顰める。
――今度からは裸で持ち歩かず、小さな革か布の袋に入れて携帯するか。
祖国の硬貨をお守りのつもりで常備する半吸血鬼は、そんなことを考えながら、
少し元気のない、黄色い小花のほうへ。歩いて戻って行き……。
ご案内:「平民地区・旧市街地通り」からルビィ・ガレットさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 公園」にボブさんが現れました。