2019/07/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にタマモさんが現れました。
タマモ > ここは王都マグメール、平民地区のどこか。
とん、とん、と屋根伝いに移動する人影。
一旦移動を止め、ちらり、と視線を下へ。

「………おぉ…まだ追って来ておる…」

視線の先に見えるは、路地や大通りを駆け、こちらへ向かう幾つもの、冒険者らしき者達の姿。
時折、こちらを指差し、何かを言い合っている。

偶にこう、前にあった噂を覚えていたり、その時に返り討ちにしたり、そんな者達に出会う時がある。
何だったか…そう、金色の悪魔?とか、酷い言われようであった噂。
ちょっと小悪党をのめしたり、追い剝ぎをやり返したり、偶に楽しめそうな相手で楽しんだりしていただけ。
それなのに、悪い噂ばかり広まって、捕まえたら報酬とか、そんな依頼まで出ていた始末。
………最後のがいけないって?…気にしたら負けだ。

ともあれ、細かい話は置いといて、今は追われてる状態。
まぁ、これはこれで楽しめるのだから、悪くは無いのだが。
しかし、耳も尻尾も隠してたのに、よく気付くものだと感心させられる。

着物が悪い?…言ってくれるな。

タマモ > 「さて、逃げ切るのは簡単じゃが…良い場所はないものか」

ぐるりと、周囲を見渡す少女。
言葉の通り、追い付けない程の移動速度で逃げ切る、は簡単と言えよう。
だが、それでは面白くない。
距離は最低限度に保ち、隠れてやり過ごす、それが楽しいのだ。
逃げ切れば良し、見付かっても、また逃げて次の挑戦とか。
後はあれだ、追い付けた相手が、楽しめそうな相手なら…以下略。
だから、冒険者達の一部に、余計な敵対心を抱かせるんじゃないのか?
そんな問いを、前に式の一人に掛けられたが…まぁ、うん。

と、今のところ、都合の良い場所は、まだ見付からない。
もう少し、移動をしてみるか、そう思えば、たんっ、と次の屋根へと跳び移る。

タマモ > 「ふむふむ…こちらはどうじゃろうか?」

次の屋根、そして、先に進む…と見せ掛け、くるりと直角に身を翻す。
そこから、裏路地へと飛び降りた。

しゅたっ、と着地をすれば、適当な物陰に、こっそりと。
そうしながらも、次なる逃げ先を決めるように、周囲をまた見回して。
更に路地を進むか、適当な建物へと入るのも手だろう。
まぁ、それがあれば、の話だが。

さすがは慣れたものか、冒険者達、その一部はそれを見越し散らばって探しているっぽい。
聞こえる足音で、少女はそれを理解している。
さてはて、当たりを引ける者は、居るのだろうか?
それとも、無関係な相手でも、遭遇したりするのか?
それは、今のところ、まだ分からない。

タマモ > と、偶然か、足音の一つがこちらへと近付いてくる。
そうなれば、少女は側にある建物へと近付き…

「………ちと失礼」

かたん、と建物の窓を器用に開け、するりと中へと入り込む。
この先に、何も居ないのは確認済みだ。
そのまま、ぱたん、と窓は閉じられ…後は、何事も無いかのような、路地があるだけだった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からタマモさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 服飾店通り」にエダさんが現れました。
エダ > ついてない。久々の休みの日、今日こそ夏服を揃えようと意気込んで服飾店通りにやってきたというのに。

急にどじゃああああ、と、バケツをひっくり返したような雨。
店舗と露天が半々といった風情の通りからあっという間に人出が失せ、軒下は多かれ少なかれ雨に降られた買い物客がひしめいている。
栗色の髪の女がとっさに避難した店は、平民女性向け服飾店というより、冒険者向けの装備品販売店のようで。

「冒険者の振りして雨宿り……とかしても、バレバレよね、きっと……」

濡れた髪をハンカチでおさえながら、とほんと眉尻を下げる。
自慢ではないがどう見ても鍛えてはいなさそうな体つきをしている自覚はある。
軒先に並んだ鎧や肩当ての形状から見ると、女性用の装備もあるようだ。
ああいうものを着て様になる冒険者は、さぞかっこいい女性なのだろうな、などと想像しつつ。
しばしの雨宿り。

エダ > 「あっ」

小さく声を上げ、片手に下げた買い物袋の中身が無事かどうかを確かめる。
下を向くと、湿気と雨水でほつれた髪が首筋やそばかすの頰に張り付いてくすぐったい。

が、今は雨が降り出す前にかろうじて買えた、つば広の麦わら帽子がダメになっていないか確認する方が先。
露草に似た小ぶりの花飾りが気に入って買ったものだ。それも濡れていないし、潰れてもいない。
よかった、と安堵してからまた一人、雨宿りの誰かがこちらへ駆けてくるのが見えて。

買い物袋をそっと胸元に抱えながら横にずれて、その人が入る分の場所を空けた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 服飾店通り」にセイン=ディバンさんが現れました。
セイン=ディバン > 「ぐっ。ぬぬっ、ぬっ……」

そんな雨の中、一人の男が、うめき声を上げながら歩いていた。
額に汗を流しつつ歩く男の頭上には、いかなことか。
雨が、皿の様に溜まっていた。不慣れな水操作の呪文で、雨を受け止め、ぬれぬようにしているのだが。

「……うん?」

男の目的地の、冒険者向けの装備の販売店の軒下。
明らかに、冒険者生活とは無縁な女性の姿を見かければ。
何だ? と思うも、集中が切れてしまい。溜まっていた大量の雨が、ざばぁ、と男に降り注ぐことになり。

「……はい。お嬢さん。
 お困りかな?」

完全にびしょぬれになりながら、そう言う男。
もしも手助けできるなら、手伝うよ、と。
男は、店内へと入ろうとしていく。

エダ > 最初、熱病にでもかかっているのかと思ったほどに、その人の足取りは重々しかった。
頭上に水が幾層も溜まっているのがわかる程度に近づくと、女はぱちくりと目を瞬かせ、口が知らず知らず半開きに。つまりぽかんとして、そちらを見ていたのだったが。

「きゃ……!!」

どざあっと雨水を滝のように浴びたその人が、何もなかったように声をかけてくるものだから、目も口も、丸くなってしまった。

「お困りなのはあなたの方じゃないでしょうか……! え、えっ待ってください、
そのまま入っていいんですか……!?」

どうやら常連客らしい雰囲気ではあるが、濡れ鼠のまま入っていいのだろうか。店のカウンターの前にいる、貫禄からいって店主らしい女性の表情を伺いながら、一人で慌てている。

エダ >
セイン=ディバン > そもそも、この男は四元素魔術の習得は不得手である。
雨を凌ぐように水を操作していたのは、純粋な魔力で誤魔化しているだけであり。
集中さえ切れてしまえば、水は地面に向かい落ち、男は体を濡らすだけ。

「……ぁ~」

くすくす、と周りの人間に笑われつつも、男は頬を掻くのみ。
そのまま、相手に声をかけつつ、店内へと入り。
同時に、懐から一つの石を取り出し、それを殴りつける。

「あぁ、大丈夫大丈夫。
 返り血とかに比べれば全然。
 それより、中に入りなよ。外は寒いだろ」

瞬間、石からは凄まじい熱風が、ぶわっ、と噴出する。
離れていた相手にも、暖かい、というよりは。やや熱いくらいの風を感じられるかもしれない。
その熱風で体を乾かすと、男は店主である女性に片手を上げて挨拶する。
店主は、やれやれ、といったような表情を浮かべるが、咎めたりはしてこない。

エダ > すたすたと、店内へ入っていった男。今にも怒られてしまうのではないかとハラハラしていたら、
不意に彼のいる場所から熱風が吹き付けて。

「ふ……!?」

反射的につぶった目を開いた次の瞬間には、余慶にあずかったらしく、栗色の濡れた髪も乾いていた。
驚いた勢いで、入んなよ、とこともなげに言われた通りの行動をとっている。

「お、お邪魔します……」

店主の女性も、機嫌は悪くなさそうだ。軒先を貸してもらった以上は、一般人でも使えそうでかさばらないアイテムのひとつも、
買うべきだろうか。物珍しげな視線が、店内を一巡した。
革製の装備の防水目的だろうか、嗅いだことのない油のにおいがする。薬草のにおいも。

セイン=ディバン > 服を一瞬で乾かした男は、カウンターに向かい、店主と少し会話をし、コートと執事服を預ける。

「あぁ、自己紹介しないとな。
 俺ぁセイン=ディバン。冒険者だ。
 キミは? お嬢さん」

男から服を受け取って店主は、店の奥に一度消える。
ラフなチュニックと丈の短いパンツ姿になった男は相手に名乗りつつ。
店に並ぶ商品を確認する。

「……大型商店もいいが、やっぱり専門店は品揃えが違うな」

棚や机から、商品をぽんぽん手に取る男だが。
相手をちら、と見ると、ふむ、と顎をさすり。

「雨宿りさせてもらったから、商品を買ってお礼を、とか考えてる?
 だったら、どんな物が欲しいか教えてごらん?
 見繕ってあげるからさ」

クス、と笑いつつ、相手にそう声をかける男。
微かに買い物袋から見えた帽子に、更に微笑み。

「キミに似合いそうな、可愛らしい帽子だな」

なんて、ぽろっと漏らす。

エダ > 武器防具はともかく、よく見ると何に使うのかわからないアイテムも盛りだくさんだった。
箱に満杯になっているこの植物の種のようなものは何なのだろう?
頭にいくつもの「?」を浮かべて首を傾げていたが、相手からの自己紹介の声に、体ごと向き直って。

「あ、私はエダと申します。仕事は冒険者ではなくて、その……あるお屋敷で働いているだけの一般人なのですが」

専門店。だから何だかよくわからないものも多いのか。ならば、見透かしたように促されるまま、
プロ(っぽさを醸し出している人)に見立ててもらった方がよさそうである。買い物袋からのぞく帽子を褒められて、そうですか、と照れ笑いしたその後に、

「では、お言葉に甘えて。一般人でも役に立って、あまりかさばらなくて、
値段もお手頃なものがあれば是非、教えていただけますでしょうか」

そして一礼。

セイン=ディバン > 店内の様子に興味津々、という相手に、男は笑顔を浮かべるが。
相手が自己紹介をしてくれるのであれば。
冒険者には似つかわしくない、胸元に手を当てての完璧な一礼を。

「エダちゃんね。……なるほど。
 だから店の中に入らないで外で雨宿りしてたのか」

冒険者向けの店というのは、一般人には入りづらいよなぁ、などと思いつつ。
相手の笑顔に、おもわずほっこりとした気分になる男。

「……そうだなぁ。屋敷で働いてる、ってことはメイドさん的なお仕事だろ?
 だったら、これなんてどうかな」

相手の言葉に、う~ん、と考えていた男だが。
近くにあった小さな丸い小箱のようなものを見せる。

「本来は皮膚からの毒物の吸収なんかを防ぐ為のコーティングを施すものなんだけど。
 これを塗ると、水仕事をしても手も荒れないし、お肌もすべすべになるんだぜ?」

ハンドクレアム、って言うらしい、と言いながら箱を開け、白いクリームを見せる男。
冒険者用の装備には、想定外の遣い方も出来るものも結構ある。
先ほど男が使用した石も、本来は火薬などを湿気らせない溜めの乾燥効果のある魔石なのだが。
男は、それに衝撃を与え、熱気を噴出させた物を乾かしたり、という使用法をしている。

エダ > 「はい、冷やかしだと思われるかもって、妙な心配をしてしまって。……!」

頭をかくような口調と表情になっていたら。
思いがけず非の打ち所がない礼を返されて、何度目かの瞬きを。そういえばさっきまで執事っぽい格好をしていたような気もする。
目があって1秒で濡れ鼠のインパクトが強くて忘れていたが。

「……あ。はい、何でしょう? 」

丸い小箱を差し出されると、相手の方へ近づいて。説明を一通り聴くと、栗色の目を見開いた。表情の動きがわかりやすい女だった。

「え! すごくよさげじゃないですか……! な、なんで化粧品店に卸さないんでしょう?
女の子の間で奪い合いになりそうなのに」

小箱を受け取って、ためつすがめつ眺めてみる。成分がわかるような表示はとくにない。

「材料が何かは、聞かないほうがいい感じですか……?」

という可能性に思い当たって、おそるおそる尋ねる。

セイン=ディバン > 「ははは、分かる分かる。
 買い物して、会計の時に金を忘れた、とか気付いたりとかも最悪だよな」

くくくっ、と笑う男。どうやら、男も相手が抱えていた不安や心配については共感できるようで。
そのまま、相手に商品をオススメすれば、質問を返され。
男が小さく頷き。

「まぁ、本来の目的はあくまでも毒や、望まな薬とかの皮膚吸収の妨害用だからね。
 肌をケアできる、って。知らないやつも多いのよ」

冒険者は別段自分の肌なんて気にしないもんなぁ、と嘯く男。
事実、このクリームだって、男が使ってたら。
『やたら肌ツヤツヤになるなぁ』と気付いただけのことなのである。

「……ふふっ。かもね?」

もちろん、その可能性もあるのだろう。
男は思わせぶりに笑うと、相手の手から小箱をすっ、と取り。カウンターへと向かう。
いつの間にか戻っていた店主に、手にしていた商品を差し出し、会計を済ませるとき。
男は、そのクリームも一緒に買い……そして、相手に軽く放り投げる。

「はい、プレゼント」

相変わらずの微笑を浮かべたまま、男は相手にそう告げる。

エダ > 本来の用途とは違う副産物的な効果だから、という説明を素直に受け取って。
女はへええ、と面白そうな声を上げた。

「すごい! すごいプロっぽいです、セインさん! ……あ、疑っていたわけでは、ないんですけど。成分のこととかも」

最後が少し言い訳がましくなった。じゃあさっそく、と商品を会計しに行こうとしたら、それより早く。
ひょいと取り上げられ、先に金を払われてしまった。

「え!? そんな、会ったばかりの方に買っていただくわけには、」

ぽいと投げ返された小箱は反射的に受け取ってしまうのだが。相手についてカウンターまで小走りで近寄りながら、財布を取り出そうと。

「セインさん、おいくらですか? プロの方に見立てていただいた上にお金も出していただくなんて、申し訳なさすぎます」

思えば店先で会った瞬間から一連の流れがスムーズにすぎて、少しは抵抗しないとどこまでも相手のペースに流されてしまいそうだ。
眉尻を下げて言葉そのままの表情になりながら、ほとんど哀願するように相手を見上げて。

セイン=ディバン > 「あははははは、正直だなぁ、キミ」

相手の言葉には、大声で笑う男。
まぁ確かに。執事服の冒険者、なんて。
ちょっと、冒険者らしくはないよね、と。自覚症状だってあるのだ。

「いや、さっき石割った時、巻き添えで熱風あびちゃっただろ?
 そのお詫びだと思ってくれよ」

相手が焦ったように言うのであれば、手の平をひらひらと振る男。
いきなり熱風を浴びたら、普通は驚く。
女性相手にそんな失礼をしたのだから、と言うのだが。

「いやぁ、もう払っちまったし。素人の女性から金を貰うわけにはなぁ……。
 ……ん。そうだなぁ。じゃあ、もしもエダちゃんが良かったらだけど。
 体で払ってみる?」

クリームの値段は、男にしてみたら小遣いのようなものであるからして。
わざわざお金を貰うのものなぁ、と思っていた男だが。
そこで、相手にそんな提案をしてみる。
もちろん、距離は少し離したまま。無理矢理詰め寄ることなどしない。

「もちろん、払わなくてもいいよ?
 あくまでもプレゼント、だしね。
 それに、俺の服の調整、もうちょっとかかりそうなんだよ」

店主をチラ、と見るのだが。ふるふる、と首を横に振られる男。
男の執事服は冒険者仕様の特別製なので、時折、調整をしなくてはならないのだが。
それが案外に時間がかかるのである。

エダ > 「そんなの! あの風のおかげで髪も乾きましたし、むしろありがたかったくらいなのに。
え、もしかして実はものすごく高いものだったり……?」

熱風の詫びという方便は通らない、と頑固に首を振って、とはいえない袖は振れぬので、
手持ちで足りるだろうか、と今度は不安気な表情に。
だが、続く言葉はまたも事もなげな調子だったものだから、つい吊り込まれ。

「はい! カラダで払わせてください、って、え!?
カラダって、……労働で、という意味、では……?」

おうむ返しにしてしまってから、本来の意味にようやく思い当たる体たらく。
やはりペースに呑まれてしまっているようだ。
真意をはかるような質問をしてはいるが、服が乾くまでに、という注釈がついたことから、
男から返ってくる答えは明白であったろう。みるみる、そばかすの浮いた頰が赤くなる。

セイン=ディバン > 「そりゃあ結果論だろ?
 あ~……まぁ、それなり、だな」

もしも。相手がもうちょっと男に近い位置に立っていたなら。
髪が乾くだけではなく、熱い、と思う程度の風は受けていたのかもしれないのだ。
値段を問われれば、はぐらかす男。冒険者にしてみれば安くとも。
一般人の感覚では、ちょっと高いかもしれない。

「……アハハハハハハハッ! エダちゃん面白いなぁ!
 ……ま、多分ご想像の通りの意味でだけど。
 どうする? いまなら、無かった話に出来るけど?」

相手の返事を聞き、そこから真意を問われれば。
男は、笑いながらそう告げ、右手の人差し指を、左手の親指と人差し指で作った輪に、すこすこ、と入れるジェスチャーをする。
もちろん、男は無理強いをするつもりも無い。
ここで相手に拒まれても、その時はまぁ、縁が一つ増えたな、と思うだけだ。

エダ > はぐらかした。値段については。

露骨だった。カラダで払うの意味については。

こういう流れでナンパされるのは初めての経験である。
まだ手に握ったままの箱と、余裕ありげな男の顔を、赤い顔で見比べた。
声のトーンを落として、

「無かったことにした場合、私はすごく厚かましい女ということになりますよね。
反対に、ここで頷いたら、す、……スキモノな女ということに」

どちらの方がよりマシか。という命題を考えるとき、ごく平凡なこの女の平凡さは、
この堕落しきった王都の平凡さだった。
くるり、とにわかに男へ背を向けた。白い横顔が、頰を赤くしたまま俯く。

「……私で、お支払いできるのでしたら……」

答えは短かった。だが、手にした小箱は、帽子の入った袋の中にかさりと、たしかに落ちていった。

セイン=ディバン > 男としては、相手の『代金は払います』を諦めさせる為の提案であった。
もちろん……払ってもらえるのなら、という思いが無かったでもないが。

「かははっ、考えすぎだって。
 常識の無い冒険者が、割と危険なことをして巻き込まれた。
 だから、迷惑料として、プレゼントは貰っておいた、くらいでいいんじゃないか?」

随分真剣に悩む子だなぁ、と思いつつ、笑う男。
だが、返答は意外な物で。

「……あらそう。いや、キミがいいんだったら、是非」

相手の返答に、男は僅かに驚いた表情を見せるが。
すぐさま店主に向き直り、奥の私室貸してー、なんて交渉を始める。
店主は流石にイヤそうな顔をしたが、男が金を払えば、しぶしぶだが了承し。

「……さて。そいじゃ、行こうか?」

そうして、男は相手に向かって手を差し出した。

エダ > 厚かましい女になる方が嫌だった、というのが女の結論。
せっかくの休みの日が雨に降られた、だけで終わってしまうのも寂しかったのかもしれない。

「そ。……そう割り切れるようなお値段でもなさそうだったので……!
セインさんは、本当はすごく高名な冒険者さんなんですか?
お高いものを、かるーくプレゼントできてしまうなんて」

店主と交渉を終えた男が差し出してきた手へ、爪が短く整えられた指が恐る恐る重なる。
荒れてはいないし、柔らかい。屋敷での職務がメイドではないことは、それで知れるだろう。
今更ながらな疑問の答えは、これから行く先で聞くことになるだろうか。

セイン=ディバン > 相手の胸中の思いには気付かぬまま。
男は、す、と目を細める。
こんなことを繰り返しているから、悪評が広まるんだよな、と。

「さて、どうなのかな? あ、値札見るのは無しな?
 ……さぁぁぁぁてねぇ。中堅の、ただのオッサン冒険者さ。
 ただまぁ、稼ぐことに関しては、割と上位だと思うけど」

相手の手を取りながら笑う男。
それは、ある意味、獰猛な肉食獣のような雰囲気で。
男は、相手の手を引いたまま、ゆっくりと店の奥へと消えていった……。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 服飾店通り」からセイン=ディバンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 服飾店通り」からエダさんが去りました。