2019/03/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > 日が落ちてからは肌寒さが残るが、それでも厳寒とは程遠くなってきた夜。
昼と夜の長さが等しくなる日が指折り数えられる頃。
平素、鷹揚で性悪で厚顔無恥の上、傲岸不遜である小さな人外の姿は、平民地区の運河沿いにあった。
何がある訳でもない、荷の上げ下ろしをするだけの倉庫街。
遊興の種を探すにしても、聊か以上に難のある立地。
「……ふん。」
夜な夜な遊び回ることを日課としている道楽者が、仏頂面で川面を見遣る。
人形めいて整い過ぎる程に整った顔立ちは、喜と楽を削ぎ落とすと、一層彫像めいて見えよう。
一年の内で、ほぼ唯一といってよいこの時期。
己の根源の一つに思い至ってしまうこの時期だけは、上っ面の表層部より深い所で神経がささくれ立つ。
荒れる、というような短絡さとは無縁だが、呼吸するように唇から垂れ流す皮肉にも酸味が利き過ぎるというように。
■ホウセン > 人工的な川が、ゆっくりと流れている。
どこで落ち込んだのか分からぬ木の葉が、一定の方向に進んでいなければ流れていることさえ知る術は無い。
歓楽街とは異なって、最小限しか整えられていない街灯が、緩く緩く波打つ水面に乱反射している。
懐から煙管入れを取り出し、愛用している黒と銀の煙管を咥える。
「今更恨みがましく被害者ぶるのも性に合わぬが…
気分故、致し方なかろう。」
己の情動を、概ね理性的に分析しているし、理解も納得もしているが故の弁解口調。
慣れた手付きで一服の準備を整え、指先に火気を集めて静かに着火。
深呼吸の代替品として、紫煙を肺腑の奥まで吸い込み、ふっくらとした唇の端から煙を吐き出す。
――流し雛。
凶事や穢れを形代に押し付けて、自分達から遠く離れた場所へ追いやる事で保身を図る原始的な呪い。
その成れの果てとしての要素を持つ妖仙は、小さく頭を振った。
■ホウセン > 聊か以上に感傷的な風情だけれど、特段に大きく何かが変わるでもない。
いつもどおりに、遊興も打算も謀略も、どれもこれもを好んで戯れる。
そこに少しだけ、自分に対しても達観気味の妖仙だからこそ辛うじて自覚できる範囲で、陰湿さが割り増しになるだけだ。
「気晴らしの一つでもせねば、精神衛生上宜しくないのぅ。」
小器用に煙管を唇の左端に寄せ、ピコピコと上下に揺らして思案顔。
真っ当なことを言っている様子だが、その”気晴らし”とやらは、誰彼かの不幸によって成就するものだ。
計略によって没落させられるなり、嗜虐によって尊厳を剥奪されるなり、研究の名の下に呪の実験台にされるなり。
普段よりは格段に好戦的にもなっているから、人外同士で戯れる事さえあり得よう。
踵を返す。
紫煙と夜風を肩で切り、歩む先を川上へ。
少し歩けば歓楽街の端に着くだろうが、今はまだ閑散とした人気のない倉庫街。
何かあっても、誰かの耳目に届くことは稀だろう。
■ホウセン > ゆらりと身体が揺れる。
街灯に照らされるだけの薄い影を伴い、程なくして――
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からホウセンさんが去りました。