2019/02/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 庭園広場」にシシィさんが現れました。
■シシィ > 「月が綺麗、ですねー」
ぽつ、とつぶやくのは少しずつ冬の寒さの緩む中、防寒用の外套で首元までをきっちりと覆い隠した人影。
夕刻までは仕事にいそしんでいたこともあって大きめの革の鞄を肩から下げて、昼間とはまた違う風情をにおわせる庭園広場へと足を踏み入れる。
満ちた月を愛でるのに、繁華街や街中にいるのは味気ない。
かといって夜の森に足を踏み入れるのも己の実力を鑑みれば現実的ではなく。
自然と足が向いた形だが、ここも危険がないわけではないんだよなあ、なんてゆったりと構えつつ、足を動かす。
背中で揺れるのは緩く編み込んだ銀の髪。少し癖のあるそれが挙措に合わせてふわふわ流れて。
先ずは落ち着く場所を探すよう。
昼間はそぞろ歩きに向いたこの場所は、夜は夜でまた違うものも見えてくる。
人がまばらで、あえて訪れるようなもの好きも少ない場所だ。
娼婦や浮浪者、あるいは後ろ暗い事のあるものもいるだろう。
そんな面倒ごとにはかかわりたくはないので少し開けた場所を探すことにする、のだが。
「んー…噴水の、傍、それともあっちの四阿のあたりとか…」
独り言ちる声音が、のんびりと流れて消える。
■シシィ > 「あ…、四阿は、無しですね、誰かいるみたい」
薄い氷色の双眸を細め、嘯く声音。
いい月夜だ、それを肴に逢引なり、なんなりいそしんでいる誰かがいるのは想像に難くない。
己もまた、そのうちの一人なのだから。
判じてあっさりと噴水のある広場に向かうことに決める。
憩う人のためのカウチがあるのも知っているから、足取りは目指すものを定めているよどみのないものに変わる。
ぽつぽつと、夜の静寂を照らす街燈に、影が影絵のように伸びて、踊る。
それを横目にふわ、と外套を広げるように一度ターンする稚気は、誰もいない、と思っているからこその行動で。
「ああ、いけない。ちょっと浮かれてるんですかね」
月の、光。それを浴びることによってどうこうなる種族でも、職にもついていない。
でも、闇夜を照らす月に、その美しさに酔うことはできるのだ。
ひた、と小さな足音をたてて噴水傍のカウチにたどり着く。
昼間とは違って、ここには誰もいない。
がらんとした中に、ただ噴水の水面がゆらゆらと揺れている。
腰を落ち着けると、深く背を預けて空を見上げる。
藍の滲む夜の空に、真珠のような月が柔らかな光をはなっている。
それを見上げ、今はただ言葉もなく双眸を細め──。
■シシィ > 何か言葉を謳うわけでもない。
ただ、そこにあるものを愛でる眼差し。
魔術師でも異族でもない己はこの光を浴びることによって何かが変わるわけではない。
しいていうなら、旅の道、月と星の光は、時に太陽以上に道しるべとなりうるくらい。
だが今は、ただ、カウチに深く体を預けて、空を見ていた。
それ以上でも以下でもない、ただそれだけの、行為。
酔狂そのものの行為だった。
■シシィ > ──ゆる、とどこか停滞したような時間も、終わりは訪れるものだ。
くしゅ、と小さなくしゃみを潮に、時間は動き出す。
外套の上から寒さに震える肩を抑えて。
「ぁあ──長居、しすぎました、ね」
ため息交じりのそんな囁きがしじまをそっと揺らす。
する、と外套の衣擦れの音だけを伴って立ち上がると、冷えて凝り固まった腰を伸ばすようにちょっとだけ、背伸びして──。
長逗留の宿に向けて静かに足を向けた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 庭園広場」からシシィさんが去りました。