2018/09/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/裏通り」にスイさんが現れました。
■スイ > 『―――――翠藍様』
主のお使いに出た商店街で、背後から其の名を呼ばれた時には、
心臓がきゅっと縮み上がる思いだった。
注意深く窺い見た先に居たのは、かつて故国で己の護衛を務めていた男。
慌てて踵を返し、男の腕を掴み、ひと気の無い裏通りへ引き摺り込んで。
心配していたのです、お一人で行かれるなんて、と言い募る男を、顔の前へ差し出した掌で制し。
「良いから、早くシェンヤンへお帰りなさい!
一体何を考えているのです、ただでさえこんな大変な時に…、
わたくしなら、一人でも大丈夫です」
と、いうよりも、一人で居る方がずっと安全だと思われた。
もし今、帝国民と思しき者同士が迂闊に密会などしていたら、
纏めて牢へ放り込んでくれ、と言っているようなものであろう。
渋る男を決然たる眼差しで睨み据え、是が非でも男を帰らせようと、
低く抑えた声で絞り出すように。
「とにかく、今はお帰りなさい!
こうしてお前と一緒に居るところを見られたら、
どんな目に遭うか、お前にも察しはつくでしょう?」
途端に、さっと蒼褪める男。
まさか本当に、其処までの考えも無く捜しに来たのかと思えば、
蟀谷の辺りが引き攣れてしまいそうだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/裏通り」にジェドさんが現れました。
■ジェド > ――こほん。ふむ、そこの君達。あまりそういう話をするのは止めておきなさい。捕まればたとえ要らぬ嫌疑であろうと身に危険が及ぶ。……安心なさい、異国の仔らよ。我らが神、ヤルダバオート神は深き愛を持つ。たとえ遠い国の生まれ、神を信じぬ愛無き者にすら慈悲を向ける尊き神なのです。ならば、私は貴方達にどうして危害を加える真似などできましょうか?……しかし、ふむ。そこのメイドの娘。貴方は、随分酷い呪いが掛けられていますね。いたいげな娘に、何と酷い事を……さぞや辛かったでしょう?……嗚呼、申し遅れました。私はジェド。神聖都市ヤルダバオートの司祭の座に就いております。此処で会ったのも何かの縁。もし悩みを打ち明け、呪いを解きたいと神に縋る事があれば何時でも教会の門を叩きなさい。私の名前を出せば誰かが案内する事でしょう。さすれば、この私が微力ながら力を貸しましょう。
(王国の現状は混沌としている。国単位の交渉、民間単位の交流、個人の欲望がそれぞれ絡み合い、帝国出身というだけで善良な者なら軽い取り調べで済ませるが道士が拷問に等しい尋問を行われたという極端な話もあり、こうして帝国出身二人が陰で出会い内談しているなどともし見られたらそれをネタに脅されるか、金を目当てに王国の役所へ売られるか、どちらにしても良い状況には転ぶまい。そしてそんな二人を見かけたのは――小さな咳払い。まん丸とした肥えた体が表通りから射し込む光を遮る形で裏通りの入り口に立っている。二人へかけられた言葉は、人の心を絆し、落ち着かせる不思議な響きを孕んだ穏やかな声音が作り出す敵意等一切感じさせぬ柔らかなもの。浮かべている笑顔は商店街からの光が逆光の如く背負う事でより神聖な、聖職者のそれである慈悲深くも警戒や緊張を与えるものでなく何処か人懐こい印象を与えやすい好々爺とした笑顔。顎髭を愛でながら二人を交互に皺に埋もれた小さな目で見やり。ふと、そこでメイドの衣装でなく着飾ればたちまち美姫となろう麗しい容姿の相手へ止まれば本心が邪悪そのもので下衆な欲望が渦巻いているのだが表にはおくびにもださず、む、と眉を顰めればかつ、かつと路地裏に靴音を残響させゆっくりと落ち着いた足取りで接近。美しい白磁の面貌を覗き込み、それから護符の収められているであろう袋が隠してある部位をちらりと視線をやれば沈痛な面を浮かべ、声を怒りと悲哀に――実際は愉悦によるものだが――声を震わせ相手が秘めている呪いを一瞥で見抜いたうえで相手へ本心から同情している風を装って。ぽん、と大きくふっくらした掌で相手の肩を軽く叩けば、心優しすぎるあまり我が事の如く辛く感じている演技である今にも泣きそうな顔を慌てて顔を伏せ目尻を抑え涙を拭く素振り。その後、ふうと一息吐いてから二人へと、主に相手へと己が肩書、素性を明かしたうえで自分はこの悪徳に狂った国でも味方であると示し。それからこの場では何もせず、二人より先に元来た光射す道へ踵を返せば何人か獲物の匂いを嗅ぎつけた浮浪者が居たが――そういう裏の住人程己の本性を知っているが故に、深く追求すれば消されると分かっていて――何もありませんよ、とにこやかな笑顔でそっと貨幣を握らせ口封じ。一度だけ振り返り悪戯っぽく肩を揺すって笑えば立ち去って。)
ご案内:「王都マグメール 平民地区/裏通り」からジェドさんが去りました。
■スイ > こほん、とひとつ、誰かが洩らした咳払いが、やけに大きく響いた。
双肩を小さく跳ねさせて振り返れば、其処には見知らぬ男の姿。
恐れていた事態が起こったかと身構えるも―――其の風体、物言いからして、どうやら聖職者であるらしく。
近づいてきた男が、ひと目で己に纏いつく呪の存在に気づいたらしきことに、
僅かばかり、瞠目して其の顔を見つめたものの。
男の言葉に、表情に、嘘が無いかと見極めるには、聊か時間が足りなかった。
立ち去る男の背を見送り、詰めていた息を吐き出すとほぼ同時。
己の背後でも同様に、息を吐く気配が伝わって、はたと思い出した。
「……兎に角、いつ、何処で誰が見ているとも限らないのですから。
帰りなさい、……わたくしは、本当に大丈夫。
お母様に、宜しくお伝えして頂戴」
先刻の男も言っていた、今は少しの嫌疑をかけられても命取りになりかねぬ状況。
背後の男は未だ何か言おうとしていたが、己はもう振り返らず、足早に通りを抜けて行く。
今はただ、其れだけの一幕。
不穏な予兆と感じたのは、己の錯覚だったか、其れとも―――――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/裏通り」からスイさんが去りました。