2018/06/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 図書館」にクウィンさんが現れました。
■クウィン > 空が黄昏色に染まる頃だった。
比較的治安の良い通りを散策する内、図書館と書かれた大きな建物が目に入った。
既に日は落ちかけていたが鍵は掛かっておらず、好奇心に駆られて足を踏み入れれば、
目の前に広がるのはホールのような、天井の高い一室だった。
しんと冷えた静寂の中、背の高い本棚がずらりと立ち並んでおり、
室内だと言うのになんだか森の中にいるような気分になる。
ところどころ貼り出された案内書きを見るに、この建物は深夜まで開放されているらしい。
盗難の恐れは無いのかと思ったが、図書館全体に高度な魔法がかけられているらしく、
カウンターで正式な手順を踏まなければ本を持ち出すことは出来ないそうだ。
今もちらほらと利用者の姿があり、時折頁をめくる音だけが響いている。
■クウィン > 適当な本を手に取り目を通してみたが、
小難しい歴史書に医学書、子供向けの神話の本――といった具合で、
男の興味を引くものはなかなか見当たらなかった。
半ば飽き飽きしながら本棚の迷路を進み、今度は使い古された薄めの本を手に取る。
その本を開くや否や、男の紅色の瞳に光が宿った。
「ああ…、これは素晴らしい!」
ペン画で繊細に描かれたイラストと、そこに添えられた細かな文字。
それはさまざまな国の郷土料理について記されたレシピ本だった。
人間という枠の外に存在する男にとって、食事は唯一の趣味と言える。
見たこともない異国の味に思いを馳せ、食い入るように本を見つめていると、
近くを通りがかった女性が男の眼前に指を差し出した。
曰く――図書館ではお静かに。
「…おっと。失礼しました」
自分の口を押えて詫びると、女は微笑みその場を離れていった。
■クウィン > 離れていく女の背を追うようにふわりと甘い残り香が伝う。
その瞬間、男は手元の本からまるで興味を失った。
美味なる期待に胸が高鳴り、無意識のうちに唇の端を舐めると、
手にしていた本を棚に押し込み、彼女の進んだ道筋をゆっくりと辿り始めた。
図書館では静かにせねばならないらしい。――では、初めに口を塞いでしまうとするか。
男が右手を掲げると、床から闇色の手が数本這い出しわらわらと女を追いかけて行った。
その手はやがて小さな口元を抑え、華奢な足首に絡みつき、彼女の全てを封じてしまうことだろう。
本棚の森の奥深くにて。
悲鳴さえも奪われた女が居ると、知る者はない。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 図書館」からクウィンさんが去りました。