2018/06/18 のログ
クウィン > 酒場やいかがわしい店が立ち並ぶあたりにやって来ると、
店先に立つ娼婦らが男に向かって手を振り、物欲しそうな視線を投げかけてくる。
適当な笑みでごまかしその場を通り過ぎると、背後から女の不満そうな声が聞こえて男は肩を竦めた。
職で相手を選ぶわけではなく、むしろ彼女達とは望む行為が合致しているのだが、
何度か『摂取』してみたところ、染みついた他の雄の匂いが濃いのか、
ああした女達から得られる精気はあまり上等とは言えなかった。

「難儀なものですねえ……」

手持無沙汰にスペード型の尾が左右へ揺れ、長身の割に細い腰にくるりと絡んだ。

クウィン > 素っ気ない態度が気に入らなかったのか、悪戯心による暇つぶしか。
娼婦の一人がヒールを響かせて駆け寄り、男の背中めがけて飛びついた。

「おっ…とと、」

軽いものとは言え思わぬ衝撃を受け、男は二、三歩よたよたとよろめく。
押し付けられた胸が背中で不格好に潰れ、大きく開いたドレスの生地から零れ落ちそうになっていた。
その柔らかな感触に、今度は男の方が悪戯っぽい笑みを作る。

「……まったく、危ないですよ。お転婆なお嬢さんですね」

笑う女を引きはがし正面から覗きこむと、そのまま顎を引き寄せて唇を重ね、長い舌をねじ入れた。
蛇がぞろぞろと這うように熱い舌で口内を密に舐め、呼吸を奪うほど犯してゆくと、
女の足腰は小刻みに震えて崩れ、やがて地面にへたり込んだ。
熱に侵されたように唇の端から涎を垂らし、焦点の合わないとろんとした瞳で空を見つめている。

「うん、やはり……私の求める味とは違うようですね。残念です」

長い舌を口内に収め納得したよう呟くと、座り込む女を残し、男は再び歩み始めた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 歓楽街」からクウィンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に紅月さんが現れました。
紅月 > ーーーかつ、かつ、かつ…

夜の街を街頭が照らす。
夜空や街角、路地裏の影…それを色濃く引き立てる灯火。

大通りをのんびりと歩く、夜風を感じながら。
何の気なしの散歩だった。
強いて言うなら故郷の夢を見て、人恋しくなった…そんなところか。

「……、…星が綺麗…」

だから、空を見上げたのも何となし、立ち止まったのも何となし…だった。

紅月 > 「………あいたい、な」

言葉漏れたのも、きっと何となしに違いない。

トレジャーハンターとして、治癒術師として、魔道具職人として…冒険者として。
それなりに楽しく思うままに生きているのだ。
面倒なアレやコレもぜんぶ異界に置いてきた。
親も兄弟も従妹も拾い子達も、友も。
いやさ、妖精たちのイタズラに巻き込まれて置いて来ざるをえなかったのだが。
それでも何だかんだ楽しくやっている。

…淋しい訳なんか、ない。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にジェルヴェさんが現れました。
ジェルヴェ > (夜風に体を撫でられるたび、花の匂いが香った。自身の髪から、衣服から。
すっかり染み付いてしまった甘ったるい残り香を内心で疎みながら、暗い路地を抜けて大通りへ。
街灯と月明かりによって照らし出された通りは、夜のしじまに立ち並ぶ家々の影を伸ばし閑散としていた。)

「―――…あ。」

(路地から大通りに沿い進行方向を変えた先に、見付けたのは佇むひとの姿。結われた深紅の長い髪が夜風に揺らめく光景は覚えがあった。
思わず足を止める。街灯のお陰で夜目が利かずとも一応は顔が分かる、そんな距離を隔て。一人夜道で空を仰ぐ女へ声を掛けるか否か、頭の中で躊躇いが生じていた。)

紅月 > …ふと、気配に気付く。
ぼんやりとしたまま、緩慢に、気配の方へ顔を向ける。
その表情がどこか寂しげな、迷子みたいに心細げなものになっているとも気付かずに。

「……、…あっ…マスターさん、だ」

彼を認識して瞬きをひとつ…その一瞬でころりと替わった表情は、笑顔だった。
かつかつと靴音をたて、軽く手を振りながら嬉しげに近付く。

「奇遇だねぇ、お散歩?」

ジェルヴェ > (能天気に呼びかける選択を取りかねたのには複数の理由があった。
まず、彼女の名前を知らない。泥酔した夜の出会いだったが、体質として後に残る記憶は鮮明だ。そんな中でも名乗りあった覚えがないので、あの日の自分は正しく酔っていたのだろうと今更思う。改めて反省。
それからもう一つ。―――彼女が、泣いているように見えた。空を見上げて涙を堪える、夜更けの街で一人。場面としては有り得なくもない。呼ぶ名を持ち合わせていない事より、こちらの理由のほうが大きかった。

彼女がこちらへ気付いて顔を合わせるなり、それは稀有だと分かったが。
月明かりのせいか。涙の痕跡こそないものの、浮かぶ白い顔が、どこか儚げに見えたのは。)

「――…や、赤毛チャン。
 俺は帰り道。赤毛チャンはまた散歩?」

(ほんの一瞬伺えた繊細な表情まで気のせいと思わせるような明るい笑みに、口を開くまでの間で男は掛ける言葉と表情を決めた。
彼女に合わせた何気ない笑みで、問いかけに答え)

紅月 > 「ふふっ、今日は酔っ払ってな…いのね?
んっ…う、うん、お散歩~」

冗談混じりに初めて出会った日のネタを軽く持ち出そうとすれば…男から香る、甘い香り。
男性がつけるそれよりも甘く感じるそれは、何というか…時間帯的にも、男女のそういうアレでは、と思い至るもので。
気付いてしまうとどうしていいやら、何だか不自然な返事になってしまったが流してくれる事を祈ろう。
…と、うっすら頬が桃色に染まっている事に気付かない紅娘は思っていた。

「…そだ、赤じゃなくて紅ね!
私の名前、コウゲツっていうの。
故郷の字では紅の月って書くんだよー?」

ごまかすように今更名乗ってみる。
名乗ってなかった、ハズ…ちょっとアブサンのインパクトが強すぎて名乗ったか覚えてないけども。

ジェルヴェ > 「酔ってな…、い。超シラフ」

(妙な所で区切られた、相手の口調をそのまま真似て言い切る。酒は幾らか入っているので断言する割に明らかな虚偽申告だが、酒気を帯びた様子は外に出ていない筈だ。酒の匂いも焚かれていた香に掻き消されていることだろう。
―――その移り香が、彼女に薄っすら動揺を与えているとは気付かずに。
やや歯切れの悪くなった応答を転じさせた話題で上書きしたと、その不思議な間合いには気を向かせたものの)

「コーゲツ?……紅月。
 へえ、赤毛チャンは月なのかー」

(告げられた名を、素直に復唱。二度目でしっくり声と舌に馴染ませたが、つい訂正された呼び方を繰り返し空を仰いだ。
今夜の月は黄金色だ。時折どう言う理屈でか、夜空に煌く大きなあれが赤く見える時がある。その名を冠した彼女の髪色も、そういえばそんな夜と同じく妖しい美しさがあった。)

「…紅月。覚えた。
 あ。俺ね、ジェルヴェ。平凡なおっさんって書くんだよ」

(見上げた夜空から相手へ顔を向けなおし。紅の月と言う、名の由来にちなんで何かそれらしく綺麗な響きをでっち上げようとしたが、特に思い浮かばなかった。)

紅月 > 「こっちじゃ馴染みのない響きかな?」

なんて、復唱している彼に相槌を打つが…やはりからかい半分らしき一言には「赤毛ちゃんゆーなっ!」と、ちょっぴり笑いながらツッコんでおこうか。

「いやいやいやぁ、まぁだオッサンって程じゃないでしょ!
ん…じぇるべ、ジェ…ル、ヴェ……ジェルさんとルベさん、どっちがいい?
間をとってルーさんでもいいよ?」

さらに増えるツッコミ所に思わず笑いつつ、オッサンには若すぎるといってやり。
しかし、彼の名を復唱してみるものの…何だろう、この舌足らずな感じ。
かなり真剣に頑張るんだけどもヴェが難しい、ヴェが。
…と、言うことで。
笑顔でサクッと諦めて本人に選んでもらおうと提案を投げる。

ジェルヴェ > 「……んん、そうか。あれか」

(どうやら舌に慣れない発音は自分だけではなかったらしい。年齢についての自虐はフォローが入ったので納得されずに安心したが、言い難そうに紡がれた自身の名が数度の挑戦を経て早々に諦められると、眉を寄せて可笑しそうに笑い声を零した。
互いが互いに上手く名を呼べないと言うのも、中々に珍妙である。
もっとも、彼女の名のほうは響きに馴染みがないだけで、発音に難解さは感じられなかったが。)

「紅月ちゃんは東の方の子か。まあ、『マスター』でもいいんだけどさ。
 この辺だと、えーと」

(彼女が挙げた呼び名候補は、どれも生まれてこの方身に覚えのないものばかり。新鮮さに笑い声を引き摺りつつ、片手を持ち上げ指先で宙に文字を――書こうとして、その場にしゃがみ込む。伸ばした人差し指で空を掻き、彼女にも屈むか地面を見るか、ともかく注意を石畳へ向かわせようと。
体勢を低くした男は、手ごろな小石を拾い上げて地面へと己の名前を書き綴った。
対面する彼女から見て正しくなるよう向きは逆さに、そして握るのはただの石なので、多少悪筆になるのは大目に見てもらおう。そんな心地で、がりがりと白い線で名の綴りを記していき)

「これ俺の綴り。…で、ココと、…ココの音取って、ジジ。
 だから店の常連からは大体そう呼ばれてんだけど。…いーよ、赤毛チャンの好きに呼んでくれれば」

紅月 > 「あぅ、笑われたった…
さすがに舌足らず具合でツボられるのは恥ずかしいぞ、ジェル兵衛…ああっ、やっぱダメだった!」

思わず口許を隠して恥じらう。
また発音が変に…ホント西って難しい。

「ん、そう、東の…たまに此方の発音できないんだよね」

頬をぽりぽり掻きながら苦笑して、相手がその場にしゃがめば自分もしゃが…みたかったのだが。
この格好で下手にしゃがむと下着やヘソやガーターベルトなんかが正面から丸見えになる故、とりあえず、ちょこんと正座をば。
彼の名の綴りを眺めつつに、ふんふん、ほおぅ、と相槌を。

「む、ぅ…ジジとルー兄ぃで悩むなぁ…やっぱジジ、かなぁ?」

口許に手をやり、唇を弄りながら悩む。
また赤毛チャンと呼ばれているのだが、目の前の呼び名問題に真剣。
真っ直ぐ石畳の文字を見詰めている。

ジェルヴェ > 「おん、今語尾伸びたな。それだと愉快な間抜け野郎に聞こえるからな、ベエは却下な」

(綴りの中にある二つの文字を丸で囲って記し、音を繋げる最中。彼女の口から飛び出た名前は訛っているようにも聞こえて不思議な心地がしたが、もたらす印象が直感的にひょうきんな三枚目をイメージさせた。
好きに呼べと言いながらも指摘を挟み、まじまじと地面を覗く彼女が考察する間、その様子を眺める。
膝へ乗せた腕を垂らして石を傍らに投げ捨て、口許へ手を当てながら考え込む姿を微笑ましげに。
――面白がった笑い顔になってしまっているだろうが、仕方ない。そうした性分である。)

「イケメンでもいいよ。悩むならもうイケメンと呼ぶがいいよ。
 ……あっ。やべー思い出した、ごめん。俺いま」

(悩んでいる彼女にしれっとした顔で妄言を勧めた直後のことだった。その平静さがはっと何かに気付いて固まると、地面と睨みあう彼女を他所に、徐に自らの腕へ鼻先を埋める。
立ち込める香の匂い。近くで嗅げば咽そうな慣れない甘さに眉を寄せ、顔半分を腕に隠しながら険しい顔を相手へ向けた。)

「超くさいね?娼館帰りモロバレだね?
 イケメンとか言ってる場合じゃねーなオイ。ごめん、きつくない?」

紅月 > 「はいな、勿論…っ!」

愉快な間抜け野郎…とまで行くかはわからないが、愉快なカンジになってしまうのは間違いない。

さて真剣に呼び名を考えて居れば視線、それも何だか楽しげな。
顔をあげればもれなく目が合い、思わずぱちくりと瞬きして…コテリ、と、首を傾げてみる。
己なぞ見て面白いのだろうか…?

「え、イケメ…?……、…っ!!」

確かにあんさんイケメンだけど、公衆の面前で呼ばれまくるのは逆に羞恥プレイなのでは、と、ツッコミを入れようと思ったのだが…急に自分の腕の香りを嗅ぎ始めた彼、を見てビキリと固まる紅娘。
口許を腕に埋めて微妙な表情をしつつ放たれた言葉は、案の定で。
娼館と聞くなりかぁあっと頬を染める。

「う、ぁ、っあの……っだ、大丈夫、だけど、さ…?」

なんだかもう本気でしどろもどろになりつつに、正座を崩して。
ちら、とジェルヴェを見、スッと手をのばすと…ぽんぽん、ぽんぽんっ、と男の肩を2回ずつ軽いタッチで両方払う。
すると濃い花の匂いは霧散して、いつもどうりの男の香りになるだろう。
…気恥ずかしさのあまり、無言で清浄魔法を使い、彼に染み付いた臭気を払ったのだった。

「……、…こっちの方が、イケメンだと思う…ジジ」

肩を払った手を太股の上に戻すと…地面にぺたりと座ったままに、耳までそまった顔ごと逸らす。

ジェルヴェ > 「いや俺は大丈夫じゃない。あの店怪しげな香焚き過ぎなんだよ、魅惑の花園への誘いとかそれらしいこと謳って…、……?」

(すんすんと鼻を鳴らしては、鼻腔を突きぬけ目が眩むような。本当に危うげな成分でも含まれているのでは、そう疑いたくなる、重く甘ったるい匂いだった。

声の調子をひっくり返した相手の返答に間髪いれず自らの主張を挟み苦い顔で腕を下ろすと、前方から手が伸びてくる。僅かに俯けた頭を戻した拍子にそれを確認した男は、浅く眉間へ皺を寄せたまま不思議そうに彼女の手の行方を目で追った。
その手が己の肩へ。何かを払うように数回ずつ両肩を撫でる仕草を、言葉もなくただ疑問符を滲ませた目で見届けて)

「―――…あれ。
 ………あれ、臭くない。…え。いまの、赤毛チャンが」

(ぽつりと続く彼女の言葉の後。吹き抜けた緩い夜風が互いの身体の間を通り抜け、空気の流れに香の匂いが乗っていないことに気が付いた。
もう一度腕を鼻先へ近付けて確認。もう片方の腕、肩口も、再確認。娼館で貰ったわざとらしい香りは、己の身体のどこからも漂わない。彼女のなにかを払うような仕草と後に続いた言葉から、驚いた様子で改めて彼女へ顔を向け。
術の類だろうか。問いかけようとした矢先、男の言葉は終わりまで発せられることなく、半ばで途切れた。
赤い髪に負けじと染まる赤い顔。空に伸びる街灯だけでは少々薄暗さが拭えず判断し兼ねるが、見遣った相手の顔色は、赤面しているように見える。
緩やかに、男の顔が傾いた。彼女が頭を背けた方向に、角度を合わせるように。)

「……うん、ありがとう。
 でもなんで君が照れてんの。…どこで?娼館?」

紅月 > 「み、魅惑の花園…」

なにそれアヤシイ、と、ツッコんでいいんだろうか…それとも香油薫ってるのが普通なんだろうか。
紅ちゃん、そんなトコ行かないからわかんない。
とりあえず恥ずかしい。
…という、何とも脳内パニック状態で放ったわりには普通に成功してくれてる清浄魔法、もとい、お風呂や洗濯いらずのピカピカ魔法。

「…う、ん…消した……」

不思議そうにあちこち嗅いでみている彼に、他に何といったらいいかわからず…端的に、yesと。
すると、逸らした先に追ってくる視線。
問われる声、やはり紅娘は『娼館』というワードにピクリと肩を揺らす。

「……見ないでよ、恥ずかしい」

ほんのり唇を尖らせて、やっぱり目は合わせられないらしい。

ジェルヴェ > 「……っく、は」

(彼女の顔を赤らめた要因を探って重ねた疑問符が、一つ目で答えを見出す。
小さく跳ねる肩を見て、拗ねた様相の横顔を眺め。
―――疎んでいた香を消してくれた。魔術の類に疎い男からすればどういった術式なのか想像もできないが、とにかく彼女の力のお陰だ。
だからせめて。せめて堪えようと思ったのだけれど、努力はあえなく失敗に終わる。
不意に、真一文字に引き結んだ男の唇が緩んだ。漏れ出る空気は、短い笑い声として夜道に幾らか響くほど。)

「いや、…っごめん、悪い。
 なんか妙な想像させたみたいで。娼館って聞いただけでそこまで赤くなる子も、この辺じゃ珍しいけど」

(噴出した声が軽く木霊したので、斜めに顔を俯けて深く一呼吸。どうにか笑い声を収めるが、肩は震えていた。
侘びの言葉は大して意味を成さないかもしれない。吐き出す呼気もまたどこか上擦り気味である。)

「…はー。……面白いなー紅月ちゃん。
 でもあれだ、残念ながら赤面される程のことはしてきてないんだ。想像裏切ってもーしわけないけども」

紅月 > 「…うぅぅー、笑うなら笑えよーぅ……」

逸らしていた顔や視線を戻して、じとーっと彼を見詰める。
無論、頬はバッチリ染まったまま故に、威圧のイの字も無いだろう。

「…うっそだぁー。
見目の良い色男が、こんな夜更けに、女物の花の香りを身に纏って…帰路にだよ?
…何もないとかうっそだぁー」

思いっきり疑ってかかる紅娘…笑われたぶん、ヤケである。

「そりゃあまぁ大なり小なり、殿方は多少遊んでいるものと知ってはおれど…うぅ~……この国は性に奔放過ぎる」

頬の熱を冷ますように、口許を隠しつつ両手で頬をおさえつつに…思わずぼやく。

ジェルヴェ > 「あっはー、色男の部分は大いにありがとう。俺からは否定しない。ありがとう」

(重ねて紡ぐ謝辞は軽口のそれだった。眉を寄せた笑い顔で注ぐ視線を受け止めるが、迫力はない。睨まれているのだろうが、子供が拗ねているように見えて、ついつい揶揄してしまいそうになる。)

「まあ、俺も全く遊ばねぇって言ったら嘘だけど。今日は友達の店に顔出して、喋ってただけだよ。
 娼婦のねーちゃんたちも営業ノルマこなすのに必死なんだってさ」

(彼女が男の告げた言葉をどう取るか、頬に手を当てた顔をじっくり見詰めていたならば、判断出来たのかもしれない。
しかし誤解を解けたか否かを見届けるより前に、男は笑いながら立ち上がり、正座した彼女の方へ片手を差し伸べる。
身動きを取ってみても、矢張りあのしつこかった香のにおいはしなかった。心なしか、身も心も爽やかな気分である。
事実身体や服まで洗いたての清潔さに包まれているとは、気付かないまま。)

「とにかく、匂い取ってくれたのはマジで助かった。家帰る前に気持ち悪くなるところだった。
 …さっぱりした所で俺そろそろ帰るけど、紅月ちゃんは。まだ散歩続けんの?」

紅月 > 「つまり、友達の店で魅惑の花園の香り…それはそれで如何なのよ?
官能に作用する植物なら…イランイランの花とジャスミンの花、ベチバーの根で充分でしょうに」

真相を聞けば何の事はない…思わず脱力してしまっては、何となしに思い付いた雰囲気作りによい香りのパターンを呟いていて。
片手を差し出されれば素直に手をとり、何だか凄く清々しい表情の男を見やる。

「あー、うん…よくあそこまで染み込んだなぁ~ってくらいだったもんねぇ。
…ん、どうしよっかな。
初めて会った日と同じ…また故郷の夢みて凄く人恋しかったんだけどさ、ジジに会えたら何か元気出てきた。
やっぱり今日もノープランなのよね」

クスクスと笑って、答える。

ジェルヴェ > 「ああ、よく聞くなーその花。
 …赤毛チャンは耳年増なの?娼館帰りって話題だけでえらい照れてたくせに、詳しいなー」

(羅列される植物由来の効力は、きっとそうした店では馴染みのものだ。然程縁のない男にすら聞き覚えがある位には。
――口角の端を引き上げ笑う顔には、多少の意地の悪さが滲んでいたやもしれない。結局、揚げ足を取るように先程までの慌てぶりをからかう事になってしまった。

彼女が立ち上がると重ねた手を解き、告げられた今夜の予定に僅かな一考。
腕を引っ込めるついでに、手を己の顎先へ運び視線を宙へ逸らしてから程なく。それなら、と口を開くのと同時、視線を相手の方へと戻して)

「じゃあ、礼もあるしまたウチで飲んでけば。今日もセルフでよければだけど」

(彼女の言葉で脳裏に浮かんだのは、今夜最初に見かけた時の夜空を見上げる白い顔だった。あの時見た寂しげな表情はすっかり潜んでいるものの、直後に向けられた笑顔の移り変わりの様は心に印象深く残っている。
移り香を払拭してもらった礼に。そう告げて、男は彼女の答えを待たず歩き出す。最初の出会いで見せたエスコートの素振りは、今夜は皆無。手こそ引きはしないものの、帰路を辿り歩きながら相手へ告げる声は夜道に響き、高らかに。)

「さ、飲み行くぞーむっつり赤毛チャン。今日は俺も付き合いますのでー」

紅月 > 「ち、っ違わい!
趣味で精油も扱ってるのっ!
ちゃんとシトロネラとゼラニウムの蚊除けとか、ホワイトセージで邪気祓いしたりとかもやってるからね!?」

キャンキャンと仔犬が噛みつくように男に向かって言葉を連ねる。
誰が耳年増だ、誰が!
くっそう、この国が魔族と争ってなければ500歳越えてるって暴露してやったものを…ホント戦争なんか糞喰らえだ畜生めぇっ!!

ぷくぅ、と頬を膨らませつつに、何か考えている様子の男を眺める。
すると再び、飲みのお誘い。

「え、いいの?…ホントについてくよ?」

キョトンとした目を向けるが、既に後ろ姿…けれど、続く言葉に小さな安堵と満面の笑み。

「誰がむっつりか、誰が!
あんまりイジワル言うと、いつかジジんとこの酒飲み尽くしたるからねっ!!」

タタッと軽い音をたて、男の後ろをついて歩く。
何となしに、小さく…ありがとうと呟いてみた。

ジェルヴェ > 「ハイハイ、あんまり騒ぐと近所迷惑ですよー」

(賑やかな声が後方に続く。かつかつと響くヒールの足音を伴って。
何も官能的な作用に限定したものにばかり詳しいわけではない、その弁解をさらりと受け流し、夜更けの大通りを二つの人影が抜けてゆく。

途中、後ろから独り言めいた声が聞こえてしまったのは、偶々だった。
互いの話し声と足音以外には目立った音がない静寂具合。それに加えて、自由に前を歩きながら後へ続く相手へ注意を向けていた事が作用したのだろう。
呟かれた礼には聞こえないそぶりで自店へ向かう。礼をしたいのは、男の方だったから。

道中上がる賑やかな話し声は、大通りを過ぎ治安の悪い区画を経て―――そしてきっと、彼女が来る日に限ってセルフサービスデイの店の中まで響き、夜を越す事だろう。)

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からジェルヴェさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から紅月さんが去りました。