2018/02/13 のログ
■ミコト > 「やめよ!」
少年に手を掴まれると初めて鋭く声を上げる。
長く白い睫毛に半分程隠れた白銀の瞳はじっと睨むよう少年を見つめる。
「やめよ。
虎穴に寄らぬもまた勇気ある行動よ。
一時の感情にて無謀に走るな。
汝が命を落とせば悲しむ者がおるのだろう。
汝が愛する者に此れが刻まれても汝は耐えられるのか?」
手を掴まれたまま、形のいいおへそが見えるほど狩衣を捲り上げる。
普段兵士達に好き勝手に弄ばれている身体が今日は体液の跡ひとつない。
それはつまり、この落書きを残した相手は兵士達ですら恐れるような相手なのだろう。
今晩の少女の所有権を主張するその相手に逆らえば……果たして無事で済むものだろうか。
■ブレイド > 「くっ…」
ビクリと身を震わせる。
手を掴んだまま、身を引くことも
連れて走ることもできず。
「くそ、がっ!!」
そのとおりだ。
幸福なことに自身が命を落とせば悲しむものがいる。
そして、彼女の言うように
愛する者に少女と同じ文字が刻まれることなど、耐えられるはずもない。
それでも、少女の手はこんなに小さいのだ。なのに…
解いてしまう、手を。
離してしまった、その小さな手。
自分がもし、奴隷種族でなければ
王都の貴族ならば。王族ならば…何か変えられただろうか?
情けなくて涙も出ない。ただ、顔だけを歪めるにとどまる。
■ミコト > 「其れで良い。」
離された小さな手を下ろす。
少女を救うことは少年の大事な者を危険に晒すと云うこと。
それも救えるのは一時だけのことであろう。
「汝は今、汝の大切な者を救ったのだ。
誇って良い。
自らの感情に振り回されず、真(まこと)に大事な事だけを見よ。
大切な者の為に悔しさに枕を涙に濡らすこともまた闘いなのだ。」
それは少女の戦いでもあるのだろう。
身体も、心も、感情も……すべてを弄ばれてもその細い背中はピンと伸びていた。
「さあ、往け。
もう刻もない。
見つからぬうちに愛する者の胸へと帰るがよい。」
背伸びして、少年の歪んだ頬へとそっと口付ける。
そして、はっきりと微笑みを浮かべた。
■ブレイド > 「ほこ、れるかよ…こんなの……」
離した少年の手は震えている。
それは怒りのせいか、哀しみのせいか。
結局、その手を離したのは己のみのかわいさからなのだから。
「オレはっ…!アイツらと変わんねぇ。
自分のために、アンタを助けるのを止めちまったんだ。
手ぇ離しちまったんだ…誇れねぇよ」
真っ直ぐに立つ少女の瞳。見てはいられなかった。
弄ばれてなお戦う少女にどうすることもできない自分が見ていいものではなかった。
「雪の精、なんかじゃねぇよ。
あんたは、白いけど…冷たくなんてねぇから
こんなにあったけぇのに…ごめん」
唇が触れた頬に雫が伝う。
許されることではないかもしれない。それでも、溢れてしまった。涙が。
一歩後ずさる。ここに居続ける訳にはいかない。
いればおそらくもうすぐ…来るだろう、迎えが。
■ミコト > 「全てを護る等と神の身でも出来ぬ事。
それは我らがこの身で証明している。
ならば、我らは負けたのか?
否、我らはこの身も心も全てを以て護っておる。
そして、汝もまたその心を犠牲に愛する者を護ったのだ。
誇ってくれぬか?
汝が誇ってくれねば、妾も誇れぬよ。」
流れる涙をそっと指先で拭う。
そして、少年から一歩離れる。
「さあ、往け。
そして、大事な者を護ったのだと胸を張れ。
さすれば妾もまた救われるのだから。」
遠く、足音が聞こえてくる。
それはただの通行人か……それとも少女の迎えか……。
■ブレイド > 「く、そ……っ!
わかった……わかったよ!」
拭われた涙は乾くことはない。
悔しさ、情けなさ、哀しみ、悔恨
そして、この少女を蹂躙するものたちへの怒り。
それらが少年の中で渦巻いてとめどなく溢れるのだ。
自分は少女の名も知らない。だが、何があったかは知った。
少女の献身と覚悟に、そう答えるしかない。
「……っ!!
また、な!」
ここで見つかれば、少女は更に苦しむことになるだろう。
だからこそ、促されるままに走るしかなかった。
雪のように白い少女に背を向けて。顔を伏せ、走るしかなかった。
■ミコト > 「うむ。」
走り去る少年の背中を見送る。
その背中が見えなくなるまでずっと見つめ続ける。
走り去る少年は王国軍兵士数人とすれ違うことになるだろう。
だが、兵士達は少年を気にも留めない。
後数分遅ければ……少女の手を引いていれば……話は別だっただろう。
「少し早かったな。」
目の前に現れた兵士へといつもと変わらない感情の読めない白銀の瞳を向ける。
そして、少女は兵士達に連れられ……とある屋敷へと連れられて行くのだ。
悲鳴、嬌声、男を求める声……屋敷から聞こえてくる声が途絶えることはない。
人非ざる少女には慈悲も遠慮も気遣いも与えられない。
クスリの量を誤って殺してしまってもすぐに代わりが現れるのだから。
文字通り死ぬほどの陵辱と快楽の海へと沈められても少女の心は折れず曲がらずそのすべてを以て男達を悦ばせる。
それが……少女の選んだ戦いなのだから。
■ブレイド > 足音が聞こえぬほどに走り
路地裏の出口。明かりの灯る通りへと出る。
荒い息はそのままに、苛立ちを吐き出すように壁を殴る。
「ぐ、、、ああぁぁぁぁぁぁ!!」
絞り出す、嗚咽のような、咆哮のような叫び。
そして振り返ることなく走り出すだろう。
涙を拭うことすらできず。
ご案内:「王都マグメール 平民地区路地裏」からミコトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区路地裏」からブレイドさんが去りました。