2017/10/26 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 露店通り」にエインセルさんが現れました。
■エインセル > 夜の露店通りは何とも賑やかだ。
軒を連ねる店の数々は、暖かく湯気立つ料理をイチ押しにしている。
中でも、煮込み料理を推す一角は、昼も夜も人が絶えない。
そんな中、少女はと言うと、漸く買えた鶏肉と根菜の煮込みが入った器を両手で支えながら、近くの席を探していた。
きょろきょろと忙しなく視線を動かし、向こうから歩いてくる人にぶつからないように気を付けて。
ぽてぽて、ぽてり、軽く見まわしてみたものの、近場にはいい場所が見つからない。
どこまで歩くか、と悩みながら、こぼさぬようにゆっくりと、少女は歩みを進めていた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 露店通り」にリンさんが現れました。
■リン > 「今日も冷えるな……」
藍髪の少年が、簡素なベンチに座ってホットワインで暖を取っていた。
二人がけの席のもう片方は、青いヴァイオリンのケースという荷物が専有している。
料理を出す露店はどこも並んでいて、とりあえず手っ取り早く温まろうとすぐに買い求められる飲み物を選んだのだ。
白い息を吐いて、ひとごこちついたら何か買いに行こうと顔をあげると、
たまたまいかにも席に困っていますと言った少女が通りかかった。
「あ、ここ座る? あいてるよ」
にこりと笑み、隣の席からヴァイオリンのケースをどかして、少女に声をかけるだろう。
■エインセル > 吹く風はすでに冷たく、冬の始まりを告げている。
今は秋の装いだが、この調子だと冬服を出すのも、きっと近い。
帰ったら引き出しを整理しなきゃ、と由無し事を考えながら、席探しは続行中。
少し行けば、通りの中でも広場に近い、道幅の比較的広めの場所に出る。
とは言え、その道幅を露店と客席が狭めており、大雨でもなければ通れる部分は変わらない。
きょろり、きょろり。どうしようかと悩んでいれば、かかる声には向き直って
「ん、本当……?助かる」
相手の笑みには、慣れないながらも笑みを返すと、ちょこちょこと寄っていく。
ようやっと煮込みにありつける。そう思うと、腹が小さく、くぅぅ、と鳴った。
■リン > 「仕事が終わったってところかな? お疲れ様。
ぼくはリン。その日暮らしのキリギリスの音楽家」
青いケースを、ベンチの傍らに移動させて少女を迎える。
隣に座った少女の腹の虫はしっかりと聴こえてしまう。
間近で見る少女には小動物的な印象があった。
「どういたしまして。
代わりと言ってはなんだけど、よかったら一口だけわけてくれない?
おいしそうだよねー、それ」
にこにことした視線は、少女と、少女が手にする器に注がれている。
■エインセル > 「ん、ご明察の通り。今日は風が冷たいから、早めに帰ってきたけれど。
……私は、エインセル。一応、ギルドに登録している冒険者。よろしく」
席にちょこんと腰かけると、煮込みの匂いに臨戦態勢。
そわそわとしながら、店主に貰った木製のフォークで肉を刺す。
じっくりと長時間に込まれ続けた肉は、ただそれだけでほぐれていく。
「……一口?構わないけど、一口って大きく口開けて、全部飲んじゃだめだからね。
それじゃ……ん、どうぞ。私が口付けるより前の方が、いいよね?」
この人だかりで席を譲ってくれたのだから、一口上げる位は構わない。
故に少女は、口をつける前に器とフォークをそっと差し出した。
お肉と根菜を少しずつ――なんだかんだ二口くらいは許すつもりで。
■リン > 「お気遣いありがとう。気にしないけどね」
などとは言いながらも、ホットワインの入ったコップを傍らに置いて
煮込みの器を遠慮なく受け取る。ローブから覗いた細い手首が目に入る。
フォークで一口いただくと、口の中で解ける肉に、満足そうに頷いた。
「ありがと。むしろぼくが先に口をつけちゃってよかったのかなあ。
……戦士という感じには見えないね。魔法使いかな?
どんな魔法が使えるの? かぼちゃを馬車に変えたりとか、人をカエルに変えたりとか?」
冗談めかしてそんなことを口にして、器を差し出し返す。
■エインセル > 「そかそか、うん、その方が楽だよね」
こういう時は先に譲るものだと親から躾けられている。
そして、冒険者として生きる上で、飲みかけ食べかけは気にしていられない。
基本的には自分で食料を持ち込むが、緊急時には誰かの食べかけ等を貰うこともあるのだから。
「構わない。それに、君の様子を見る限り、煮込みの味は良さそう。
ん、鋭いね。魔法使いだよ。そんなにすごい魔法はできないけれど……。
とりあえず、魔物と戦える程度、って言う感じかな?」
くす、と先ほどよりは柔らかな笑顔を浮かべると、帰ってきた器を受け取る。
そのまま煮込みをむぐむぐと頬張ると、幸せそうに味わって。
■リン > 「と言うと、火の球を魔物にぶつけたりとか?
うんうん。それでも充分すごいよ。ぼくはそういうのもからっきしだからね」
コップを手中に弄ぶ。温かいロゼに浮かんだオレンジが揺れる。
欲求に素直になり、実に美味しそうに食事をする幼気な少女を、遠慮ない眼差しで見つめていた。
「ぼくが出来るのは、せいぜい楽器の演奏ぐらいかなー。
……あ、そうだ。人をカエルにすることはできないけど
カエルみたいな大きさに縮めてしまう魔法は使えたな。そういえば」
くすくすと、笑みを悪戯っぽいものに変えて。
戯けた様子の言葉は本気か冗談か判別しづらい。
■エインセル > 「そんな感じだね。一応基本の、四元素は全て使える。
……ん、町で過ごせるなら、それが一番。無理に外に出る必要はないよ?」
少女はたまたま冒険者になって、それ以外の道を歩まなかった。
しかし、別の道があるならば、わざわざ外に出る必要はない。
目の前、透き通ったピンクに浮かぶオレンジが、小舟のように見えた。
「楽器の演奏……素敵だと思うよ?
私は、そう言うのあんまり得意じゃないから。
……カエルみたいな大きさに?えと、それって私の魔法より大分凄いんじゃない……?」
冗談かはともかく、そういう魔法が存在することは知っている。
真に強力な魔法は、人や物の在り方すらもゆがめてしまうものなのだ。
少女の反応は、彼の冗談に乗ったようにとられるか、それとも本気で興味を惹かれた様にとられるか。
実際は若干後者より。何せ魔法使いはみな、未知に貪欲なのだから。
■リン > 「地・水・火・風ってやつ?
全部使えるってだけですごく聞こえちゃうな。全然詳しくないからかもだけど。
まあ、無理して覚えなくてもいいというのはそうだけど。
必要がないのと、欲しくなったり憧れたりするのは別だろ?
もしそうじゃなかったら、音楽も料理も発達しなかったよ」
『魔法』の話に驚いた少女に気を良くしたふうで、
残っていたホットワインをくい、ともう一口。
酒気で色白な顔にほんのりと朱が乗った。
「本当だよ。まあ、人を小さくするのは相当難しくて……
確実に小さく出来るのはぼく自身ぐらいだけど。
……それでいいなら、特別に見せてあげてもいいよ、ぼくの部屋に来てくれるなら」
少女の瞳を覗き込む。
ただのナンパの口実でしかないようにも聞こえるが、どう判断するだろうか?