2017/03/21 のログ
■ティエンファ > 安全な場所に出れば、この神官見習いの少年は慌てて逃げ出すだろうか、と思っていた。
だから、わざと緩く手の力を抜いて逃げやすくしたのだけれど。
「え、あ、お、おう? 驚いたってか、え、嫌な思いしたろ?
だから、ごめんってー…あ、ああ、いや、おう、どういたしましてだ」
首を振ってから、むしろ自分から手を握りしめるツァリエルに目を丸くする。
しかし、自分の予想が良い意味で裏切られたと知れば、照れ臭さと気恥ずかしさが顔ににじみ出てしまう。
手を握り返しつつくすぐったそうに笑って頭を掻いて頷く。
「うん、その時は声をかけるよ。 王城の教会でツァリエルを探せばいるんだろ?」
握手を返し、改めてツァリエルの目を見て笑う。
儚い印象だけど素直で純粋な、新しいこの友人を大事にしたいと思ったから。
「ツァリも、何かあったら俺を呼びな 王城の中にだって助けに行くから」
強くその手を握りなおし、一度しっかり頷く。
そして、手を離せば、王城の門が見える場所で手を離して軽くツァリエルの肩を叩いた。
「またな、ツァリエル 次は、近道じゃなくってもっと安全な道を案内するよ」
■ツァリエル > 逃げ出そうとは万に一つも考えなかった。
そんなことより自分を言葉通りに守ってくれた相手がひどく尊い存在だったから。
照れくさそうに笑うティエンファに何度も何度もしつこいぐらいにお礼を告げる。
「嫌な思いなんて、そんな……!ちょっとだけ怖かったけど、本当に少しだけです。
ありがとう、ティエンファさん……!
はい、ツァリエルの名前を出せば、多分大丈夫だと思います」
実際には教会にはおらず、王子の一人として面会が叶うのだろうが……。
そこはまた後日明かせばよい事実であるから今は黙っておくことにした。
出会いはびっくりするようなものだが、こうして出会えたことが奇跡のようで
嬉しそうにツァリエルは笑った。
名残惜しいが、そろそろ行かねばと門の見える辺りで別れる。
そっとティエンファの手を離し、叩かれた肩に嬉しそうに笑って
「それじゃあまた、ティエンファさん。
はい、次はもっとゆっくりした道を行きましょうね」
そう言って相手に手を振って王城の門をくぐっていった。
途中何度か振り返り何度も頭を下げて──そうしてツァリエルは去っていった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/案内所」からツァリエルさんが去りました。
■ティエンファ > 「な、なんというか、そんなに礼を言われるとこう、居場所がなくなる感じがするぜ!?
勘弁してくれよ、そんな大した奴じゃあないんだから…ああ、うう…」
重ねられる礼の言葉に、じわっと目元を赤く染める。 照れ臭い。
こんなに素直に感謝の気持ちを向けられると、誇らしい気持ちと、同じ位くすぐったい気持ちがないまぜになる。
ましてや、ツァリエルのような真っ直ぐな少年が相手なら猶更、何となく背筋が伸びてしまう。
…悪い感覚ではなかった。
「こっちこそ、信じてくれて有難うだよ、ツァリ 逃げないでくれたのが、何よりも嬉しいぜ」
そして、王城に会いに行くことを約束する。
次の会合は、身分が違う相手になってしまう事を、今はまだ知らないけれど。
それでも、この夜に新しく出来た友人に会いに行く事に躊躇いは無いのだ。
「ああ、またなツァリ 王城で迷うなよ!」
おやすみ、とその背に軽く手を振って…門が閉まるのを見送ってから、踵を返す。
「…うん、今日も良い夜だ」
手の中に残る、ツァリが握り返す力の残滓。
ぐっと握りしめれば、ちょっと笑って歩き出すのだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/案内所」からティエンファさんが去りました。