2016/12/17 のログ
ご案内:「大通り」にヘルミーナさんが現れました。
■ヘルミーナ > 日が暮れてきた。足早に行き交う人波の中に彼女はいた。
(思ったより遅くなっちゃった)
彼女も気持ち、足早に歩きながら、心の中で小さく苦笑する。
日用雑貨の買い出しに出ていたのだが、馴染みの店で、店主との談笑に時間を費やした。有意義な時間だった。……が、日が出ているうちに帰宅したかった彼女は、外の暗がりに気づくや否や、またいつでもできる話を中断して、慌てて店を出た。
■ヘルミーナ > そして、今に至る。日用品が詰まった紙袋を片手に、早足で帰り道を辿る今に。
「――あ。……いい匂い」
誘惑的な香りが、鼻腔をくすぐった。スパイシーでボリュームのありそうな香りだ。大通りに並ぶ料理屋からだろう。彼女はつい立ち止まり、その出どころを探そうとしたが――。
「きゃっ……!」
後ろにいる誰かとぶつかった。人の流れがあるというのに、急に立ち止まったからだ。
「ご、ごめんなさい?」
恐る恐る、後ろを振り返る。
ご案内:「大通り」にガルフさんが現れました。
■ガルフ > 「っち。はした金か」
裏路地から出ていきながら誰の目を憚ることなく手元の巾着を改め、
がりがりと頭をかき、吐き捨てる男。
背後には数名折り重なって倒れているものの建物の陰に放り込んでおいたので
注視しなければ見つかることもあるまいと高をくくっている。
見つかったところで特に問題はないが。
「確かに肌寒い季節になってきたな。
しかしまぁ……財布まで隙間風が吹いているとはどういう了見だ?
回収できる金が減っただろうが。全く」
理不尽極まりない発言をしながら歩き出す。
幾人も人通りのあるこの通り、往来は盛んで、
その間を縫うようにのんびりと歩を進める。
けれど特に目的地があるわけではなかった。
「……こっちは娼館の案内、これは……なんだこれは。小汚い絵だな。
ん?」
前方でふらふらしていた女が急に立ち止まる。
巾着の中身を改めながら歩いていたため前方に注意などしていなかった。
いや、注意していても除けなかった可能性は高いが。
「どこを見て歩いている低能」
後ろからぶつかっておいてこの言い草である。
■ヘルミーナ > 「……うっ」
相手の遠慮ない物言いに、ぐさりと来る。定番と思われる「どこを見て歩いている」はまだ受け入れることができたが、それに続く言葉には堪えた。……せめて、頭の中で「低脳」を「バカ」に変換して、受けるダメージを和らげよう。
どっちも似たような意味だが、彼女にとって、後者のほうが自分の心にはやさしかった。
ひとまず、気を取り直す。
「本当にごめんなさい……」
相手の顔を真っ直ぐ見てから、頭を深く下げる。数秒間、お辞儀の体勢を持続させると、ゆっくりと面を上げ。
「お怪我はありませんでしたか」
言いながら、遠慮しがちに相手を見回す。
■ガルフ > 「悪いと思うなら初めからこんな場所で留まるな
場をわきまえろ場を。
それとも何か?貴様はそうせざるを得ない発作か何かの持ち主か?
であれば家に籠っていればよい」
相手が腰が低いのを良いことに言いたい放題だが
この男の場合これが平常運転だった。
まったくどこの頭が軽い女だ。どうせ間抜けな顔立ちなのだろうと
脳内でごちながら頭を下げる女を見下ろして
「怪我?怪我だと?
貴様がぶつかった程度で俺が怪我などするわけがなかろう。
……いや、そうだな」
顔を上げた相手を見て多少評価を改める。
なかなかの美人だ。いや、かなりのものだ。
色の違う瞳と抱き心地のよさそうな雰囲気がとても良い。
先ほど畳んだ者たちの言い草を思い出す。
あの馬鹿どもは何と言っていたか。
「いたた、胸の骨が折れた
これは重症だ。なんということをする」
見事な棒読みで先ほどと180度逆のことを言いながら痛がって見せる。
胸と言いながら腹あたりを抑えているあたり
本人のやる気のほどが如実に伝わってくるかもしれない。
■ヘルミーナ > さらに続く刺激的な言葉に、何も感じない彼女ではない。
しかし、落ち度は自分にあったと思っている。……そして、内心「言われ過ぎだ」と思っていたが、反論しても相手の機嫌をなおさら損ねるだけ。彼女はそう判断して、言われるがまま。
「…………」
表情は依然として、申し訳なさそうに眉根を寄せている。だが、「大事無い」と受け取れる言葉が彼から聞こえてくれば、その表情は和らぎ。そして数秒後。
「――え」
訝しそうに、顔を顰めた。取って付けたような台詞に、違和感を強く覚えたのだ。
そして案の定、さっきとはあべこべの言葉が聞こえてきたではないか。……だが。
「え、えーと……」
恐喝されるかも知れない! ……心の中でそう身構えていたのは、意味があったのかよくわからない。あまりに真実味のない声音と動作に、「この人の職業は大根役者?」と。すっかり呆気に取られてしまった。
「ご、ごめんなさい。こういう冗談慣れてないものでして……どう返すのが正解なんでしょうか」
相手の言動に、彼女も調子を崩したのか。しょうもないことを真顔で確認する。
■ガルフ > 「冗談?冗談ではない。
俺の貴重な骨が傷んだのだ。
これは貴様が立ち止まりぶつかったことが原因なのは
誰がどう見ても確定的に明らかだろう。
それともあれか?ごめんなさいですむ程度の話だと思っているのか?」
正直このバカバカしい三文芝居が思いの外楽しくなってきたとはいえない。
いやなんだかこれ楽しいんだよ。馬鹿っぽくて。
内心誰に言うでもなく言い訳しつつも表面は眉を寄せ、
怒ったような表情を形作る。それっぽくない感じにするのがミソだろう。
「これは然るべき対応というものを所望するべきだろう。
誠意位は見せてもらってもよいと思うのだが」
そういいつつ男の視線は荷物を抱える胸元に注がれている。
■ヘルミーナ > 「誰がどう見ても……って」
誰かに助け舟を出して欲しくて、周囲を目線だけで見回すが。
「……そりゃ、そうよね」
相手に聞こえないよう、努めて小声での独り言。通行人たちは、明らかに自分たちを避けていた。彼女と目が合いそうになると、慌ててばつが悪そうに視線を逸らしていた。途中から「そろそろ道の隅に行くべきかなあ」と心配していたが、無問題だった。皆さんが全力で自分たちを避けてくれているから……! 皆、面倒事に関わりたくないのだ。
まあ、気を取り直して。
「あの」
やや、語気を強める。
「最初、『なんともない』ようなこと、言ってましたよね? 誠意と言われましても、私は十分謝……ん?」
反論が中断される。男の視線に気づいて、気まずそうな顔をする。
「あのー。この中、面白いもの入ってませんよ?」
日用雑貨が詰まっている紙袋が目当てなのだろうと思い込んでの言葉。
■ガルフ > 戸惑っている相手の様子を見ながらまぁ順当な対応だろうと考える。
ふつう戸惑うだろう。こんな対応をされたら。
けれど相手の迷惑や事情など微塵も鑑みないのがこの男だった。
「ほほぅ……まさかただで帰れるとは思っていないだろうな?
往来で相手に迷惑をかけてそのまま逃げ切れると思っているなら
なかなかの楽観主義と称賛はさせてもらうが、
立ち止まる発作とは別に頭の病院に行かねばなるまいて。
最も逃がすつもりもないがな。
逃げ切れると思うのならばどことなりと逃げてみるがいい
もちろん怪我人に手間をかけさせた分上乗せさせてもらう」
堂々とこんなお約束を往来で仁王立ちになっていう
これを真面目にいうやつがいればそやつも病院に行ったほうがいいだろう。頭の。
少なくとも今限りなく馬鹿の真似が上手になっている自信がある。
「しかし……そうだな。
俺も鬼ではない。悪魔かもしれんが。
今すぐ高価な何かを用意しろとは言わん」
腕を組み、顎に手を当て考えるふりをする。
その間視線が動かないのは言うまでもない。
「よかろう。これで手を打とう」
数秒後に腕組を解き重々しく告げる。
そうして彼女を指さし一言告げた。
「食わせろ」
■ヘルミーナ > 「……もうっ。言いがかりよ!!」
一瞬、通行の流れが止まり、人目を集めるほどの声を上げた。
彼女は穏便に済ませたかったが、そうもいかないと判断した結果だ。
「本当に骨折しているなら、こんなに流暢にバカげた言いがかりを続けられるはずないわ! それにこんなに元気なら、怪我してても『怪我人』に数えられないです!!」
正論と屁理屈を交互にぶつける。後者は相手が彼だからこそ、言うことができた「無茶苦茶」かも知れない。
非常識な相手には、非常識をぶつけたくなるのだ。
「ちょっと! 損害賠償の話を勝手にすすめないで! ……だから、この中には面白いもの――食べ物なんて、ないですよ」
困ったような表情で、首を小さく横に振る。紙袋の中身を少し見せて、「ほら」と証明してみせる。
……実は、なんとなく解っている。彼が言わんとしていることを。そして彼女は精いっぱい、勘違いを続けた振りをしている。
■ガルフ > 「俺の目に留まって幸運だったな?
他の馬鹿であれば今頃裏路地に引き込まれて来週には
奴隷市場に並んでいることになっただろう。
事実少し後ろに行けばそんな輩が今たくさんうろついているぞ?
何故かは知らんが躍起になって誰かを探している
そんな連中がふらふら道を歩いてぶつかるような女を見つけたらなぁ?」
くつくつと笑いをこぼす。
理由は簡単。絡んできたそいつ等を伸した挙句財布を全回収したのだから
お仲間は殺気立っている。
今頃は介抱と犯人探しとストレス発散に躍起になっているはずだ。
とはいえあの馬鹿共が目覚めることはもう二度とないが。
一瞬だけそんな深淵の笑みを零すもそもそも有象無象にあまり興味はない。
今は目の前の事が大事でそれを優先しよう。
「とはいえ、ここは往来だ。
気の休まる場所でもない。
……そうだな。貴様の家にでもするか。
もちろんこのまま衆人環視の下でも俺は一向にかまわんが。
選択肢は、はい、もしくはYesだ。好きなほうを選ぶといい」
相手の逡巡を一蹴し楽しげな笑みを浮かべて涼しげに言い放つ。
相手の言い分を一切顧みないあたり真面目に鬼畜か何かかと
謗られても仕方がないかもしれない。
■ヘルミーナ > 「……何を言っているのかよくわからないわ」
もう少し丁寧に頭を回せば、わかりそうな気もする。……だけど、わかりたくなかった。
「これ以上、まともに相手をしないほうがいい」と、頭の中で警告がうるさく繰り返されていたから。
「……初対面の相手に抱かれるなんて嫌。あなたはそう思わないの?」
何かに縋りたくなって、無意味に紙袋を抱えなおす。彼女の顔色は悪くなかった。むしろ、屈辱に耐え兼ねて、本来、色白の顔が赤らんでいた。
■ガルフ > 「なぁに、気がないならその気にすればよいだけの話よ
多少目論見は狂ったが損失は少ないほうがよいだろう?
先ほど言ったように俺も鬼ではない。
多少は配慮してやろうではないか。
それとも……そうなりたい願望でもあるのか?」
人の悪い笑みを浮かべて小さく首をかしげる。
見るものによっては爽やかな笑みに見えるかもしれないが
邪悪成分が120%ほど追加されたその笑みはどこからどう見ても悪人のそれ。
完全に相手の反応を見て遊んでいた。
「あきらめろ。俺に見初められた時点で貴様にほかの選択肢はない。
大人しく従うか無理やり従わされるかそのどちらかだ」
■ヘルミーナ > 「ひとりではなく、二人じゃないとできないことなのに……!! 私の気持ちを無視して、話をすすめないで!?」
顔を真っ赤にして言いながら。……途中で、付き合い始めの相手に物申しているような気分になってきた。反論の論点もビミョーにずれてる気がするし。
「初対面で『見初めたとか』! そんなこと言うなんて! ……『あなたのルックスにしか興味ありません』と言っているようなものじゃない!!」
最初は「どうなることか」と心配そうにしていた一部の通行人たち。……途中から痴話喧嘩のように聞こえ始めて、心配することをやめて、とっとと家に帰っていった。
■ガルフ > 「気持ちの問題か。
それは勿論大事だが……それを聞くとそれさえ問題なければ
そうなっても良いといわんばかりだぞ?
先ほどと矛盾しているが大丈夫か?」
会話の内容は完全に痴話喧嘩の其れ
見学人もああねぇ。といった雰囲気で散っていきつつある。
それを確認しつつ眼前の女をからかうことも忘れない。
「なんだ、初対面の相手に好いたとでも言ってもらいたいのか?
ずいぶん自信があるではないか。そういう所は嫌いではないぞ?」
腕組をしてうんうんと頷きながらちらりと視線を背後に走らせる。
そろそろ潮時か。もう少し遊びたかったのだが。
腕組みをとくと笑みに深淵を覗かせ一つため息をつく。
そうして影のように女の前に近づき……
「わからん女だな。
何なら四肢をそいで連れて行こうか?
それが望みなら物の数秒とかからんぞ。
貴様が指一本動かす間に終わらせてやろう。
安心するがいい。命まではとらん。命まではな」
そう顔を寄せ、耳元で低い声で囁きながら強い殺気を一瞬走らせた。
明確に、相手がそれを成しえるのだと教え込むように。
「わかったら大人しく従え。
これ以上煩わせるなら本当にそうするぞ」
そうしてにっこりとほほ笑むとその肩を抱きよせようとするだろう。
彼女の顔がこれ以上往来に見られないように。
まぁ見られたところでやることは変わらないが。
■ヘルミーナ > 「う、うるさい! 反論できればなんでもよくって、勢い任せに言ったらああなったのよ!!」
適切に指摘されるも、勢いを削がないまま、彼女のめちゃくちゃな反論は続く。
「……あ、あなたねえ……! わざと人の話を曲解して、面白おかしくしているでしょう……?」
声が震える。いつの間にか作られていた彼女の拳も震える。
感情が沸騰していた。「一発ぐらい、殴ってもいいよね?」と錯覚を覚えるぐらいに。
だが、感情の種類が急速に、別のものに変わっていく。
「……っ」
ただならぬ気配に息を呑む。薄々、相手は人外だと感じ取っていたが、それが顕著に言葉と態度で示されれば、彼女の表情は凍り付き。肩の感触に気づいても、頭が追いつかず対処し切れない。
されるがまま。お互いの距離は縮まって。
■ガルフ > 「良い子だ」
そう微笑むと彼女を胸元に抱き込むようにしながらその場所から離れ
背後の喧騒をどこ吹く風と流しながら女の家へと案内させていく。
その口元にはこれから起きることへの期待と愉悦が漂っていて……
----数分後----
「いやぁ。旨い!お前は料理の才能があるな。
うちの給仕は味覚を知らん。
この体になって舌が肥えてしまってな。まったく旨い物には目がないのだ。
てっきり初めはわからん女かと思ったが良い良い。
料理の上手い女はよい女だ。
うまい飯にうまい酒、その酌の相手が美人と来れば言う事はないな!」
全力で楽しんで全力で食っていた。
何を?勿論食事を。
胸元に抱えた荷物に食材が入っていなかったのは
完全に想定外だったが帰路に就く間に馬鹿から奪った金で食材をたらふく買い込み
家に着いた途端にそれの調理を完全に眼前の女に任せて本人は酒を飲んでいた。
テンションは高いがそれ以上女に手を付ける様子はなく、
何よりも食事を楽しんでいるように見える。
■ヘルミーナ > 途中から雲行きがおかしいと思っていた。――いや、今を思えば、最初から暗雲が立ち込めていた気がする。
「胸骨折った人――まあどこでもいいんですけどね! ――が、こんなにご飯をかき込めるわけない……」
力なく、項垂れる。今日はいろんな意味で疲れた。普段より長く、我が家のキッチンに立っていたのもあるが――ともかく、疲れた。感情の浮き沈みが激しかったし、先の読めない展開に精神をすり減らしたのもあるが。
「――ともかく! 怪我が本当にせよ、嘘にせよ、あとこの一杯でお酒は終わりですからね!」
「飲み過ぎは禁物!」と、一杯分を注いでしまったら、酒がまだ残っている酒瓶を彼の遠くにやってしまう。
■ガルフ > 「けちるな。食材は自腹なのだ。
たまにはうまいものを食わせてもらっても罰は当たるまい。
せっかく助けてやったのだ。酒くらいは飲ませろ。
食わせろといった後にそのまま食い物がないといわれた時には
正直このまま見捨ててやろうかと思ったがこれが先見の明というものよ。
我ながら人を見る才能が恐ろしいわ」
素直に瓶を取り上げられながら杯を傾け、全力で自画自賛。
その間もつまみを口に運んでせわしない。
とはいえ食材は全て自費……強奪した金を自費というならだが
とにかく自費なのだからこの女の懐は痛まない。
むしろ余った食材は好きにすればいいと言ってあるのだから
数日はこれで食事ができるだろう。
■ヘルミーナ > 「あなたみたいな人が酔っ払って、正体なくして、さらに傍若無人になるのが嫌なのっ。……た、『助けてやった』? ――ど、どの口が言うの、どの口が……」
彼女の右手が、彼の口元に伸びかける。頬を引っ張りながらつねってやろうと思って。……が、やめる。
「ヘルミーナ。この人は、『こういう』人なの。……諦めましょ」
自分で自分に言い聞かせた。そして、食材はありがたく頂戴しておいた。
彼女の相手に対する印象は、もう――めちゃくちゃだ。
■ガルフ > 「ん?ああ、やはり自覚なしか。愚か者め。
後ろで騒いでいた馬鹿がいただろう?」
含み笑いを零しながら鮮魚の切り身に手を伸ばす。
これがまっこと酒に合う。考えたやつは天才か。
それくらいどうでも良いと思いながらのんびりと種明かししていく。
「愚かにも俺に喧嘩を売った馬鹿共の一員だが……
あやつらが欲している条件に貴様がよく合っていたものでな。
たまには人助けでもしてやろうかと思った次第よ。
貴様を助けたのは親切9割の嫌がらせ1割だな。実に運がよかったな?
俺に捕まらなければあのまま誘拐されていたかもしれんぞ」
実際は絡んできた馬鹿に対する嫌がらせが9割だったりする。
誘拐する相手を相談していたところに偶然鉢合わせ、
口封じに武器を取り出されたというのが先ほどの顛末。
分不相応に獅子にケンカを売った罪は重い。代償に魂ごと喰らってやったが。
「身の程を知れというものだ。安易に手を出すのは遠回りの自殺だろうに」
条件に合う獲物も見つからず、仲間は原因不明の昏倒。
今頃上司と失態の板挟みで相当追い込まれているはずだ。
とはいえ相手を見極められない愚か者の末路はそれがお似合いだろう。
馬鹿の仲間だったという不運を嘆き連帯責任で始末されればいい。
「良い女を馬鹿の手元に置くというのも趣味ではない。
下郎は下郎らしく相応の相手を抱いておればよいのだ。
花を相手にするには身に余るというもの。
かくして哀れにもネズミ捕りは失敗したわけだ。哀れな話よの」
グラスを傾け口の端を吊り上げる。
■ヘルミーナ > お互いに色の異なる双眸を瞬かせる。
「そんなこと言われても。ほかにも人はたくさんいたし、私は因縁つけてくるあなたの相手に忙しかったし……」
こちらの物言いも、随分と遠慮がなくなってきた。
どういうつもりだったのか、気持ちの割合を聞かされて、思わず苦笑いを浮かべる。
「善意で動かないような人が、よくそんなことを言うわね」
彼の雰囲気や言動から、そう判断したわけではない。彼女は「直感」でそう思った。
自分「も」善意で動くような人間ではないからだ。そんな風に受け取られることはあっても、彼女にそういった意図はないのだ。
「…………」
話はちゃんと聞いているが、彼女の視線の向けどころは曖昧だ。
自分を異性として肯定するような言葉が聞こえた気がして、気持ちが落ち着かないのだ。ほかにも証拠はある。彼女の頬が薄っすら赤らんでいる。
■ガルフ > 「だから愚か者というのだ。
花は花としての自覚を持て。特にこの国ではな。
さもないと手折られ身を散らすだけになるぞ?」
さらりと言い放つ。
美しいもの、良いものはその価値がわかるものの手元にあって
はじめてその輝きを存分に発揮するものだ。
「当たり前だ。俺は善人でも正義の味方でもない。
むしろ相対するものだ。そんなつまらん物と一緒にされては困る」
人の悪い笑みを浮かべながら紅潮した表情の女を見つめる。
「なんだ、言われ慣れていないのか?
なら今の内に自覚しておくことだな。
貴様はよい女だ。惜しむらくは愚かだが……
今のところはそれもかわいげの範囲といえる」
くつくつと笑いながら杯を傾ける。それはそれで面白い。
「まぁ及第点はつけてやろう。
今後どうなるかは知らんが、まぁ励めよ」
■ヘルミーナ > 「……あなたが途中で路線変更してくれたから、その結末は今日、なんとか逃れられたけれど、ね」
耐性のない言葉に言い回し。けれど、相手は彼女を動揺させようと言っているのではなく。
きっと、本心。……ゆえに、湧き上がってくるむずがゆさは、何とか堪えて。返事の言葉も無難なものを選んだ。
「善人でも悪人でも、自分の理屈で力を振るおうとするのだから、大差はないわよ」
嫌味ではなく、本心である。いつもなら、自分のこういう奥まった部分は吐露しないのだが――どうも彼相手に、調子が狂いっぱなしだ。
「嫌いな人にそう言われても、気持ち悪いだけだけど。……あなたは、そうでもないし」
散々振り回されたが、今のところ、相手のことは憎み切れない。若干の好感はあるかも知れない。――先ほどからだいぶ長いこと、「おもちゃ」にされているのは面白いことではなかったが。
「何に?」
目をぱちぱちさせる。彼にもっと気に入られるよう、努めろということだろうか。
■ガルフ > 「まぁ何度もこの幸運が続くと思わないことだ
酒がきれた。追加をよこせ。何ならお前も飲んでも構わん」
杯をあけ、そのままもう一杯を要求する。
随分飲んでいるが少なくとも酔ったような様子はないだろう。
「大体あそこで俺が親切にあなたは狙われてますよ。
おうちに帰りなさい……なんて言ったところで信じる馬鹿が
どれ位の割合でいるというのだ?
それを素直に信じる相手なんぞ逆に恐ろしい。
であれば分かりやすい因縁をつけるのが一番だろう
聡い相手であれば自身で悟るだろうしな?」
さり気なくしっかり揶揄うのは忘れない。
あそこまでやる必要があったかはお互いによく分かっているはずだ。
結局のところ女で遊んだのは間違いないのだから。
「阿呆。さっき言っただろう。
花は花としての務めがある。それに励めということだ。
……ああそうそう、初心を気取るであればもう少しうまくやれ。
俺も随分と酷かったがな。いや我ながら飛んだ道化を演じたものだ」
ケラケラと笑い声を響かせながら横目で女の表情を眺める。
ころころと色々な表情が表に現れてこれはこれで飽きないと言える。
■ヘルミーナ > 「『これで終わり』と言ったのに……もう」
――しょうがないな。そう言いたげに、諦めたような笑みを浮かべると、取り上げておいた酒瓶をまた持ってくる。
「私はいいです」とひと言断ってから、からの杯に酒を足し。
「あなたが恩着せがましいのはよくわかったわ」
丁寧にひとつひとつ指摘して、言い返していると、その2倍、3倍になって言葉が返ってくるだろう。
よって、言葉少なに言い切る形で応酬した。さすがにからかわれ続けると、耐性が付いてくる。
「ああ、そういうこと。……気取るも何も、あれは別に『素』……こほんっ」
咳払いをひとつすると、言いかけた言葉をなかったことにする。
あまり正直に自分を出すと、また指摘されかねない。
■ガルフ > 「まぁ、あのまま抱いてもよかったのだが。
まんざらでもない印象もあったしな?」
にやりと笑みを浮かべながら揶揄う様に口にする。
そうして一瞥した後小さく純粋な笑みをこぼし、尊大な口調で続けるだろう。
「だが今はまだ時ではないな。
もう少し花らしさを身に着けることだ。
今のままでも悪くはないが……もう少し自覚すれば
貴様は良い花になる。大輪の椿のようにな。
その時はまぁ抱いてやらんこともない。」
そのまま大きく呷り盃を空ける。
これが最後の一杯といわんばかりの所作で飲み干すと
グラスを静かに机に置いた。
「まぁ労働費は授業料ということにしてやろう。
台所に女が立つ姿は見ていて飽きないものだ。
食事も口に合った。」
そう告げるとゆっくり立ち上がる。
「ではな、ヘルミーナ。
しばらくあの辺りには近寄らないことだ。
なに、1週間もすれば収まるだろう」
後ろ手に振り返ると見慣れた意地の悪い表情をむける。
そうして影のように玄関から出ていくだろう。
もしも女がその後を追ったなら……玄関先にはだれ一人いない。
まるで質の悪い冗談であったかのようにその人影は消え失せていた。
■ヘルミーナ > 相変わらずな、尊大な物言いに態度。
その大半を受け流し、何割かはちゃんと聞いておいた。
冗談を言っているかどうかの区別は付いたので。
「――ああ、そろそろ?」
立ち上がった相手を見て、ゆっくり歩み寄ろうとする。見送ろうと思ってのこと。
しかしそれは叶わず、彼は彼女を待たずに出て行ってしまう。
すばやく追い掛けても、きっと暗いせいではないのだろう、彼の後ろ姿は見つからなかった。
「……ほんと、勝手で自由な人」
薄気味悪く思うことはなかった。
代わりにただ、薄い苦笑いを浮かべて、玄関の扉を閉める。
――夜が、更けていく。
ご案内:「大通り」からガルフさんが去りました。
ご案内:「大通り」からヘルミーナさんが去りました。