2016/06/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/とある屋根の上」にグレイさんが現れました。
グレイ > 平民地区、富裕地区よりの一角。
立ち並ぶ家の灯の無い屋根の上で密やかに影が動いた。最早一家の人間は寝付いて仕舞った後か、辺りは静まり返るが、少し遠くには幾つかの捕り物の火が瞬いている。
木々伝い、建造物を伝ってロープを用いて降り立った後は、闇に紛れるフードの下で毀れる吐息交じりの、解呪…

「――…」

を、唱え掛けて小さな唇を結んだ。
未だ仕事の途中には代わり無く、見付かれば少なくとも囲まれた誰かの敷地への侵入の罪は現行だ。代わりに2、3言の呪文の重ね掛けをして、髪の色を金に変えていたのを、白へと。眸の色は紫へと入れ替えた。其の間にも、動き続ける光りが半刻程度しかもたない自分の幻を追い駆けて、見当違いの方向へ向かって行くのを横目に確認する。
夜気を吸い込んで冷えた煙突の縁へと音の無い仕種で腰下ろすと、今更この程度の事で緊張も無い、褪めた眼差しを更けた夜空へと移し。

今日も今日とて仕掛けた鼬ごっこは、仕掛け人を蚊帳の外に置く。
遠い物を見る様に知らぬ振りで懐から飴玉を一つ取り出すと、唇の隙間から口に押し込みつつ、――

グレイ > 舌先に乗せた糖の固まりを、滑らせて咥内に納めた。器用に動く舌先は姿を隠していてさえほんのりと獣の気配を漂わせる。
――夜の落ちた気温に肩の根が疼く。通り過ぎた雨の残り香。今宵は痛みと云う程強くは無い。
けれど、意識を切り離すには辺りは只静か過ぎて

「退屈……」

意識をせずには居られないのがもどかしく、唇が其れとは違う言葉を捜して小さく動いた。
誤魔化しにはあんまりに稚拙だから、稚拙だと判っているから如何にも何者かに怒り剥れた様な表情になる悪循環。
失敗した。無駄な事。必要な時間であって、退屈でこそ無ければならないと重々知っている上で。
幾つも過ぎる思考故千路に乱れる感情を肚の内に収めかね、二の句が続かず、膝を折り引き寄せて煙突の上へ腹を庇う様に蹲ると、空からも目を離して瞑った。
傍に立つ庭の木々が、伸ばした葉を震えさせて雨粒を払い除ける音に隠れたがるように小さく。
無意識に肩辺りを擦り。

グレイ > 雲間の月が中天に届く――そろそろ、仕掛けた幻はよっつに分かれて追手の幾人かを引き連れて路地へと紛れた筈だ。あたかも、術者の乱れた思考を移した様な仕掛けになったのも、聊か癪だが。
注ぐ淡い光に蹲る身体がぴくりと揺れ、身を起こす。

遠くを眺め遣る視線の先、別種のざわめきが起こり始めているのかも、しれない。
遠見の力は無い故に予測――期待でしか、無いけれど、身の危険は幾分遠ざかったと信じるしか無い。
羽織っていた外套の裏を返すと、まるで己の変化術の様に違う色。
身に纏い直して、不意と其の屋根の上から姿を消そう。
負け惜しみを、残して。

「雨の夜って本当に、きらい…」

ご案内:「王都マグメール 平民地区/とある屋根の上」からグレイさんが去りました。