2023/02/20 のログ
ベルナデッタ > 「……」

しばらく読み進めているうちに、一枚の報告書が目を引く。
よりにもよってこの王都で、主教の信徒が次々と何者かに襲われ、昏睡状態になっているというのだ。

「調査してみますか……」

ベルナデッタは書類を纏め鞄に入れると、カフェを後にした。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からベルナデッタさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にインビジブルさんが現れました。
インビジブル >  
 夕方頃の平民地区、そこの裏路地。
 そこの一角はまるで迷宮のようになっていた。
 地形が変化したわけではない。元々入り組んだ路地が霧によって遠近感覚や目印がわからなくなり迷路のように見えるようになっていた。

「おなかすいたー!」

 元気な声が響く

「そろそろ誰か来るから落ち着いて」

 冷静な声が続く。

「そうそう、この道はそれなりに取れますから」

 優しそうな声が響く。
 彼女たちの狙いは帰り道を歩く人達。
 この路地は近道を通ろうとしたら高確率で通る道。入り込めば最後、霧のせいで迷子になったところを自身達が喰らってしまう。そういう魂胆だった。

インビジブル >  
「おなかすいたー!!」

 我慢の限界なのか、元気な声が大声で響く。

「うるさっ、ねぇ姉さん。そろそろ移動しない? 無理っぽいよ」

 冷静な声があきれたように続く。

「そうですねぇ……じゃあ、非常食を食べに行きましょうか」

 クスクスと笑う優し気な声。だが発言は欠片も優しくない。
 非常食というのは殺さずに逃がした存在。自分達を知りながら生きながらえた存在。自分達の恐怖を知っている存在。
 生きながらえたそれらの場所へと霧は移動する。今日もどこかで非常食と呼ばれた人達の恐怖が響く。
 そしてより深い恐怖を刻み込み、その者は生かされるのだろう。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からインビジブルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にエヌさんが現れました。
エヌ >  
 天下の往来、人の波、様々な種族の者どもの間を歩く。
 どこにでも居るような旅装束と、肩掛けに背負う荷物入れ。
 傍目には帯剣して居らず、一見して流浪者と判る。
 みすぼらしく擦り切れた衣の、そのフードの奥に、氷のような色が一対瞬く。

「着いたぁ~……」

 暮れなずむ空をみあげて、白い息を吐いて……
 結ばれていた唇がふにゃっ、と緩んだ。

「王都……マグメール? だっけ? だったっけ」

 さむさむ……と両手に息を吹きかける。
 旅ぐらしには不自然に美しい女の両手。
 きょろきょろと周囲を見渡し、新鮮なような懐かしいような顔。

「まんなかなだけあって、賑わってるねえ」

エヌ >  
 ぶらり、軽い足取り。
 誰にもぶつからずに、見えてもいないかのように静かに。
 誘われるまま向かったのは、朦々と煙の立つ屋台の前。

「おなかがすいているの」

 ゆるりと手を上げるところで、店主が口を挟む。 
 曰く二本で十分だ、と訝る語調に氷の蒼が見開かれた。

「じゃあこれとこれ」

 串焼きと包み焼きを、空きっ腹が欲しがっている。
 都の食は旅の癒やしだ、野と山、川や海の恵みとは、また違う趣。

「おかね?あー…ちょっと待ってくださる?」

 肝心なことを忘れていた。
 この都で使える通貨を持っていただろうか。
 懐や袖を漁る。空腹に急かされながら。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にクレイさんが現れました。
クレイ >  
 フラフラと街を彷徨う。仕事が無いわけではない、というか散々仕事をした翌週だ。少し位の休暇を謳歌しても文句はあるまい。
 そうして歩いていると見かけたのはよくありそうな光景。旅人らしい服装を着た女が店の前でゴソゴソと服を漁っている。
 大体の状況は察した。大方買い物をしたものの金が見当たらないといった所だろう。
 何時もの彼ならば放置していただろう。見たところ飢えているわけではないだろうし。死ぬことはないだろう。
 だが、今日の彼は非常に暇を持て余していた。何かの話のタネにでもなればいいかとその店に近寄った。

「よう大将、俺にも3本。肉な、支払いは一緒でかまわねぇよ」

 そう言ってゴルドをジャラジャラと支払う。
 そして女の方に目線を向ける。

「旅でこの辺の金がねぇとかだろ。初めての王都記念だ。今回は受け持ってやる」

 なんて冗談めかして伝えるだろう。

エヌ >  
 店先にだされた通貨の群れ、夕焼けをうつす金属の光沢。
 視線をそこから顔ごと隣あう男に向けると、フードの下の顔が微笑んだ。

「無償の善意、ありがたく……」

 軽く会釈。施しを貰い慣れている、そんな感じ。
 ちゃっかり無償と断定した。記念についても、曖昧に。
 それでも感謝は本物で、ありがたく串と包みを受け取った。

「最近いいことありましたか、若旦那。
 国境のあたり、戦の匂いにぴりぴりとしてたね。
 稼げるでしょう、いまは」

 それを手に持ったまま、羽振りが良さそうな男に問うた。
 荒事慣れしているように見えたのだろう。
 そう問うてから、白い歯を肉に突き立てた。
 串から外して咀嚼する。舌先が零れかける脂を拭った。

クレイ >  
「丁度その戦場に先週に行ってきた所だ。変な思想に目覚めた奴らが武装蜂起しやがってな」

 大方他国の影響を受けたんだろうが。なんて言いながら自分も肉を食う。
 それにしても戦場の様子知ってるのかなんて思って。

「そう言うアンタはあれか、そのピリピリした国境を超えての旅人ってか? 度胸あるねぇ」

 変な騎士とか傭兵とか盗賊とか。ピリピリしてくるとそういうのが沸いてくる。
 それを乗り越えての女1人旅なんて度胸があるなんてものじゃない。

「ま、良いけどさ。後別に無償って訳じゃねぇよ。退屈しててな、飯の礼って訳じゃないが、退屈凌ぎの相手してくれよ」

 休日は休日で退屈なんだよと笑う。
 実際休日を謳歌とか思っていても退屈が嫌いな男である。今日もネタ探しに街をぶらついて、何も無ければどこかに遊びに行くかなんて考えていたくらいなのだから。

エヌ >  
「どんな思想に?」
 
 満悦の吐息、久々の焼いた肉。目を瞑ってしばし。
 その後に問いをむけた。
 興味をそそられたのは、彼に敗れただろう者どもの物言い。
 
「旅に危険はつきもの。
 読みやすいぶん、戦は嵐より御しやすいですよ。
 身を置くとなると話は変わってくるのでしょうが、ふふ。
 ……いいよ、少しの話相手くらいなら。
 ちょうど陽暮れ前、街が夜化粧をするまでの、ほんのすこしの暇つぶしに」

 狭間の時間を持て余すなら、夕暮れの使者らしく従容と。
 これは無償の善意だ。

「どこかに座りましょうか、若旦那。早くしてくれと、後ろの列にせがまれている」

クレイ >  
「ん、そうだな」

 とりあえず列から移動。座る場所を探しながら適当にブラブラ。
 歩きながらも会話を続ける。

「よくある矛盾した思想だ。王政は間違ってる、全員が平等に生きられる社会を……ここまでは綺麗だ」

 と言って適当なベンチを見つければそこに腰を下ろす。
 そして肉を1本食べ終わる。

「で、それを手に入れる為に武装して、力で従わせる。そうした途端に矛盾だ、その後に待ってるのなんて武装した奴らが平等の仮面をかぶって行う圧政でしかない。事実その村じゃ奴隷や子供を矢面に立たせてやがったしな」

 勿論力が時には必要なのも理解できる。だがそれは話し合いを重ねた末に不可能だと判断した後にするべきことであって始めから力で従わせるのなら意味がない。そう男は語る。
 更に力が弱い者が割を食っているのなら猶更だ。

「にしても、こんな話題に興味あるなんて変わった奴だな、あれか? 傭兵仲間だったりするか? それならこの王都の傭兵のルールとか教えてやるぜ?」

 別に料金とかもらうけどななんて笑う。

エヌ >  
 ふたきれの肉。眼前にかざし、よく見てから歯を立てた。
 さっきよりも少し長くなった串から抜いて、口腔に納めた。
 今度はゆっくりと咀嚼する。屋台らしい味を噛み分ける。

「だから潰したの?」

 飲み込んだ後に、視線を向けて問いかけを重ねた。
 雑談の、軽い調子で、男の言葉を引き出そうとする。

「その主張が矛盾しているから……?
 奴隷や子供が傷ついているから?
 それとも、現王政を支持しているからだとか。
 支払いの額が、良かったからか」

 誰が戦えと金を払ったのだろう。
 視線を肉に向けて三切れ目を食べようとした。
 問われると、ぴたり、と止まった。

「ふふ。傭兵じゃないよ。
 己は旅人、まつろわぬ者。
 荒事からは遠く離れて気儘に生きさせてもらっています。
 金のため命を賭けた戦働きは、己に向いたものではない」

 ゆっくりとかぶりを振った。

「暇、なんでしょう?」

 戯れに、お話にお付き合いしているから。
 微笑む唇を開いて、最後の肉に噛みついた。 

クレイ > 「潰した理由? そんなもん一言だろ。依頼だったから。傭兵なんてそんなもんだ。相手が武装して、攻撃して来てた。そして傭兵に依頼が回ってきた。その時点で滅ぼすか滅ぼされるか。傭兵がそれ以上を考える必要はねぇよ」

 だからさっきのはあくまで俺の考えでしかないと断言してから。

「ま、ガキや奴隷を肉壁にしてやがったのは少しムカついたけどな……ああ、そいつらは一応保護済みだ。孤児院とかで暮らしてんじゃねぇの?」

 それが幸せかは別だけどなと。
 助かったから幸せなんていうのはエゴでしかない。この街なら猶更だ。だけど生きている限りもしかしたら希望もあるかもしれない。
 だから生かしたというだけだ。
 暇に付き合ってるだけ、そんな言葉を聞けば少し笑って。

「なるほど、酒のんで女に話す店みたいに聞いてやってるって感じか」

 理解できたよと笑う。

「ま、話した所でつまらねぇ話しかないぜ傭兵なんて。常に殺した殺されたって話だしな。後話せそうな話題なんて……追撃戦したくなくてバックレたら軟禁された話程度か?」

 話してもしょうがねぇ話題だと。

「だから、次はお前の番でもいいぜ。旅してるなら色々面白い話題とかあるだろ」

エヌ >  
「己には、傭兵の領分を超えて、ずいぶん考えているように思う。
 でなければ覚えないでしょう、過日の戦場で打倒した者どものことなど」

 裸になった串を手に、もう片手の包み焼きに噛みつく。
 生地の中に閉じ込められていた熱い肉汁を零れないように啜る。

「話が判りやすくて、助かりますよ、若旦那。
 考えるようになっているのは、何か物事を伝える相手がいるからか。
 もしかして、保護した子供や奴隷の顔も思い出せるかな……?」

 人の流れを眺めつつ、咀嚼してから嚥下した。
 残りはゆっくり食べようと、腹も膨れて満足顔だ。

「色々ありすぎるくらい、そうだな、ではひとつ直近で耳にしたことを」

 眠気を待つような心地だったが、話を請われると不思議そうにする。

「あるところに金にがめつい男がいた。
 男は頭がまわり、金を稼ぐことに長けていた。
 男は己にそう語った。夢見る者は普段は金を稼いでくれる、筈だった、と」

 思い出しながら、時折包み焼きを食みつつ喋りだす。

クレイ >  
「覚えてるぜ、ブルブル震えながら果物ナイフで腹を刺しやがったミレーのガキとか、矢が届けば俺の頭をぶち抜けただろう子供の射手とかな」

 子供や奴隷は覚えているらしくケラケラ笑ってそう答える。
 それから少しだけ真面目な顔になる。

「ま、たしかに傭兵にしちゃ考えてるかもな……けど、俺は傭兵だからこそ考えるべきだと思う。それをしなかったらただの都合の良い道具だ。俺は鬼や悪魔かもしれねぇけど、ただの道具に成り下がるつもりはねぇからよ」

 だから考えるし、嫌なら拒否するし、自分が納得したら依頼を受ける。
 今回もそんな風に考えてその結果受けたのだと。
 それから相手が話を始めたらそちらの目線を向けて。

「へぇ、中々面白そうな話じゃねぇの。その夢見る者に裏切られたって話……って素直に着地しなさそうだな。お前の場合」

 なんとなく、普通の話をする気がしなかった。
 こちらと話した時も見た目以上に達観しているような雰囲気を感じたから。まるでそう、物語の聖女かなにかのように。

エヌ >  
「しかし金を払う者は、都合の良い道具を求めていると思います。
 傭兵の癖に余計な知恵を働かせるなと、そう言う者も珍しくはないでしょう。
 では汝は何故、傭兵をしているのだろう……と考えてみると暇も紛れるかもしれない」

 よく暇を持て余すようなので、頭の中を玩具箱に見立てるようにした。
 もむもむと咀嚼するから、話の進みは緩やかだ。
 時間を潰すテクニックなのかもしれない。

「その男が言うに、掘られなくなって久しい鉱山に
 地下水脈の質を見るにまだ良質な鉱石が残っている筈だと。
 しかし山を持つ村の者たちは、そこには神がいると言って触れさせなかったのです。
 要するに、土地の権利者と、商売人との取引が、うまくいかなかった」

 串をくわえ、荷物袋を漁る。
 水筒を取り出して、串を指の間に挟むと、水で喉を洗い流す。

「商売人はそこで知恵を巡らせ、まずは探りを入れた。
 その村の神は村に慈悲を与えずに干上がる一途を辿っていた。
 手を差し伸べるおらぬまま、村を発つこともできなかった。
 そこで。商売人は村人の背中を押したのだ。
 汝らが苦しんでいるのは、民草に目を向けぬ形骸化した王政の怠慢である。
 動けば変わる。人の心は動く。信じれば未来は開ける。
 村籠もりの民はそうして蜂起し、過日、戦場にて蹴散らされた」

 空を見上げる。陽はまだ赤くゆらゆら揺らめいていた。
 女は思い出しながら文を読むように語った。

「ほぼ空っぽになった村を後は踏み荒らせば良かったが。
 結局、鉱山で少し掘っても何も見つけられず。
 村の者共に武器と奴隷と孤児を買わせる支度金を丸々損したと。
 彼らは考えることができず日々を生きることに精一杯だった。
 理想が実現できるか、その方法が正しいかも考えられなかったと。
 だから、どんな嘘でも聞こえ良ければ有難がってしまうのだと。
 村と神を安値で売ることが、一番の正解だったのに……と」

 水筒を飲みきった。逆さまにしても水滴も出てこない。

「己にその話をした夜に、商売人は毒で死んだ。
 誰ぞに盛られたかは、己には判らない。
 汝は誰であって欲しい?」

クレイ >  
「残念ながらそれはもう数年前に考えた結論でな。そして俺を道具にしたい奴はこちらから願い下げだって言い切ってある」

 だからたまに命狙われんのよと明るい口調で笑う。
 しかしそれも終わり、少しだけ相手の言葉について考えるように。

「なるほど、よくある話だな。鉱山の利権欲しさに商人が村から退居させるための戦争を起こしたと。ついでに武器も買わせれば儲けられる」

 肉をこちらも食い切り。背もたれに深くもたれる。

「さて、ザックリ表だけを見るなら……毒を盛ったのは村人の生き残りだ。自分達の村や家族、神を踏みにじられた訳だからな。でもそれはない。武装蜂起したってことはその商人を信じたはずだ。つまり村人から見れば商人は味方のはずだ」

 生き残った後に嘘だったじゃないか。そんなことを言う事はない。彼女の話が本当ならばそんな風に考える余裕は村人にはない。
 むしろもっと武器をくれ、もっと力をくれ。そう縋るはずだから。

「それに誰であってほしい。そういうのも少しだけいやらしい聞き方だな。心理を読まれてるみてぇだ」

 誰だと思う? なら答えやすいが、誰であってほしい? と聞かれた場合それは答えがない、もしくは自分の答え次第で解釈が変わる問題でしかない。
 それでも考えてから。

「まぁ、そうだな……1番納得できるのは自分で飲んだってパターンじゃねぇの? お前がそれだけ重要な人物ならともかく、旅人にそんなことを話すなんて相当そいつ精神的に参ってただろ。村が関係したか否かはともかくな……そう言う奴ららしい最後でもある。悪人のフリしてるのに最後には良心に負けて、心が折れて死ぬ」

 悪人のままでいれば長生きできたのに。そういう話は戦場じゃよく聞く話だった。だから近いパターンだったのだろうと。

「ある意味で村から見れば復讐に成功したわけだ。トゥルーエンドって所だけどな」

エヌ >  
 噛み分ける。傭兵のこたえ、いや思考。
 意地の悪い問いかけに、包み隠さず答える声。
 聞き終えると一つ肯く。
 
「汝の人となりに少しだけ触れられた気がする。
 後味の悪い話を、その場ででっち上げた甲斐がありましたね。
 暇は紛れましたか、若旦那」

 そちらを振り向いた。笑みを向ける。
 最初に望まれた、時間つぶし。こちらはそれだけをしていた。
 気づけば陽はとぷりと暮れて向こうから闇が訪れる。
 立ち上がる。

「ご馳走様でした。
 それでは、己はこれで。
 悪しき者も善心が在れば良いと、善き考えでした。
 ……あ。そうだ」

 離れようとしてから、思い出したように荷物袋を漁る。

クレイ >  
「ハッ、意地悪い奴だ。暇つぶしで心理を読もうとしてくるなんてな」

 やってらんねぇぜと笑う。
 まぁ暇を潰せたのは事実だが。
 しかし彼女が立って荷物袋を探りだせば。

「? 何かくれるのか? 貰える物は遠慮なく貰っちまうぞ俺」

 それを拒否する理由もない。
 彼女が何を差し出すのか、それを見守る。

エヌ >  
「先程、店主に渡そうと思っていたものです。
 己よりも汝のほうが、金の使い方は弁えているでしょう」

 白い布づつみを解くと、中から掌に乗っかる石塊が出てきた。
 いびつな形で、そこらで拾ってきたかのようなものを差し出す。

「旅の身には不要なもの。 
 ここに着く少し前にみつけて、その所為で夕刻の到着になりました。
 みつけたはいいものの使いでに困るし、大きい荷物は整理しておきたいので」

 表面を親指がなぞると石がぱらりと崩れた。
 その石の奥に隠れていた、美しい翡翠色の宝石が覗く。
 剥がして磨けば相当な値打ちだ。 

クレイ >  
 見せられた物を見る。少し考えるが。

「要らねぇ。こんなもんタダでもらうとか弱み握られてるみてぇで気分よくねぇし」

 とその翡翠の宝石を突き返す。
 それからニヤリと笑って。

「貰ってほしければ……厄介事が起きた時にそれで依頼してきな。その辺の酒場に銀鷲のクレイにつないでくれって言えば俺につながるからよ。猫探しから魔王の首を取ってこいって依頼まで依頼次第で受けてやる」

 そうしたら受け取ってやると言えば、押し付けるように荷物袋の中に押し込んで。立ち上がる。

「それか、今この場で依頼するかだ。まぁどっちでも構わないが」

 どっちでもかまわねぇよと言うように歩き出す。引き留めないのならそのまま歩いて行ってしまうだろう。

エヌ >  
 少しだけ、意外そうにする。
 金目のものを受け取らなかったからではなく。
 男がその後口にした言葉でもない。

「いえ」

 ひょいっ、と手首を返す。
 宙に浮いた石塊が、とぷりと噴水の水たまりの中へ。
 ぽちゃりと小さい音を立てて沈んでいった。

「汝には無用のものですから」

 何ひとつ未練もなく。
 装束の裾を返した。

「暇は紛れましたか、銀鷲よ。
 改めてご馳走になりました。
 その思考の先、幸が訪れることを祈っています」

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からエヌさんが去りました。
クレイ >  
「おうおう、もったいないねぇ」

 落とす様子を見てニヤリと笑う。別にそれを拾おうとか考えてはいない。
 無用の物、その言葉はある意味でその通りだ。誰かが見つけてラッキーと思えばそれでいい。
 しかし幸をと言われれば鼻で笑う。

「ああ、暇は紛れたぜ。幸運に関しては俺は無理だろうから、お前の祈りは部下や知り合いに分けとくわ」

 なんて冗談を言って返せば今度こそ人込みの中へ。
 そうしてまた暇を紛らわす場所を探して歩いて行くのだろう。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からクレイさんが去りました。