2022/12/29 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にドラゴン・ジーンさんが現れました。
ドラゴン・ジーン > 王都マグメールの夜。余り人通りの無いその場所には立ち並ぶ商店街の商い人達が共用で借りている、在庫品の集まった倉庫群が犇めいていた。
普段ならば警備や衛兵の人間達が注意深く見張っているような場所なのだが、今は遠くからも聞こえる年末に向けて浮かれ気分の喧噪に満ちた大通りの雑踏に紛れ込んでサボタージュをキメているのだろう。此処に人気と言えるものは殆ど見掛ける事は無い。

その堅牢そうな建物に面する舗装された歩道上にだが。差し込む月明かりを浴びてその反射光を照り返すものがある。それは吃驚するぐらい無造作に捨て置かれている貴金属類だった。
より正確に描写するのであればそこらの宝石店で展示されていてもおかしくないような指輪に首飾り、腕輪、耳飾り、黄金を練り上げ、銀をあしらい、宝石を埋め込んだ装飾品ばかりがごろごろと転がっている。乾燥しきった冷たい風が荒む中、月光に照り返される高貴な金属光沢が点々と。

ドラゴン・ジーン > それらを辿る者が、もしかしたらいるかも知れない。御伽噺に出て来る兄妹の落としたパン屑の痕跡を追い掛けるかのように。疎らな距離間隔でひた続いているそれが間も無くして辿り着くのは、先程にも描写した辺りの区画を埋め立てて倉庫群の中でも一際に立派な一つとなる。年末年始に向けて大人数のマグメールに在住する人々を賄う食料や日用雑貨品などの多くを集積している場所だ。

普段ならば厳重に閉じられている筈のその扉は薄っすらと開いており。月光すらも及ばぬ倉庫内に満ちた暗がりの深淵への路は続いている。そしてあたかも怪物の口腔のように開け放たれたその内部にまで誰かの落としものの値打ち物は転がっているのだ。

ドラゴン・ジーン > 倉庫内に尚も足を踏み入れるというのならば、その目に見えているものは次第に様変わりをして来る。陳列収納棚に多くの荷が押し込められている窮屈な倉庫内に続く黄金の道標。それは少しずつ金の輝きを損ねて石炭色の滴る何かの粘液に変質して行き。
そして驚くべきことにそれは見る間において渦を描きながら少しずつ形を変えて、豪華にして絢爛な装飾品にへと変身を遂げる、今まで落ちていたものと同様に。

「………」

そしてその終着点には数多くの物品の影の色に埋もれるようにして、ぬばたまの彩を湛えた一匹の怪物が潜んでいる。という所に対面する事になる。
何者かに刺し貫かれたか切り裂かれたのか下半身の一部が傷に開き、その粘膜皮の開口部からはだらだらに滴り流れ落ちる体液が床面にへと伝い。その剥離した体細胞の一部は瞬く間に装飾品の形状にへと擬態する。
つまるところは単純にして明解ながらに、目に見える宝物は、此処に欲の皮を突っ張らせた誰かをおびき寄せる為の罠という訳だ。薄暗い、人気など皆無に等しい冷たい空間に、怪物の触角の燐光が青白く瞬いている。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からドラゴン・ジーンさんが去りました。