2022/11/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にマーシュさんが現れました。
マーシュ > 賑やかな通りから一、二本ほどずれた路地、商工ギルドの建物が多く並ぶ場所で、看板に視線を向けている修道女の姿があった。

「────」

随分街には慣れたが、それでもまだ不案内な部分もある。
今回は私事で訪れているということもあってか、いくつかある看板のうち、どの扉をくぐればいいかを思案しているよう。

特に急ぎでもない。海もわたる必要はない。

「仕事のたしかな運搬業者、であればいいのですが───?」

冒険者ギルドに依頼をするには、彼等の興味をそそる仕事ではないだろう。
運搬、輸送系を担う商工ギルドの施設の看板を探すように、道なりに下がっているそれらに向けた目を細めながら。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にユーダスさんが現れました。
マーシュ > 斜陽の街並み。
目的は定まらないながらもつと歩を進め始める。

近況をしたためた手紙を、育った教会に運搬依頼をしたかったのだが、意外とそういった輸送業を生業にする商会は多く、選びあぐねているところ。

私事のため教会の輸送網を頼るのを憚った結果ではあるものの──、それぞれに特徴があるようだし、と看板に下がった文言に思案しながら。

ただ、陽が落ちつつあっても……否、だからこその喧騒に満ちた街並みは、活気に満ちていていやなものではない。

ユーダス > カツン―――と靴音を鳴らして男は足を止める。

表通りから数本外れた夕暮れ時の路地、商工ギルドの施設に出入りする人の流れが比較的多い場所とは言えど、
灯された照明は夕闇を照らしきるには表通りの其れと比べてやや心許無い。
そんな夕闇の中、建物の陰に溶け込むかの如く、黒服を身に纏った長身痩躯の男は通りを彷徨う女性の姿を其処に認め、

「―――…御機嫌よう、お嬢様。 見た所教会のシスター様とお見受けしますが、商工ギルドに何かご入用で?」

穏やかな物言いで、彼女へとそう声を掛ける。
商工ギルドに出入りする人物は関係者、依頼者を交えれば身分や種族、職業も様々だ。
無論、その中には聖職者も含まれるのだろうが、少々物珍しく感じられたその出で立ちに、男は興味を示した風に。

マーシュ > 「────」

街の明かりの影、あるいは建物の影から、黒衣の男が姿を見せる。
硬い靴底の音が響くのに視線を上げると、こちらをとらえる眼差しに修道女は静かに首を垂れた。

「───ええ、そう……ですね。私事にて少々用向きがありまして」

己の姿を見てそれ以外を想起するものは少ないだろう。
静かに頷き、かけられた言葉に対して嘘を吐く必要もない。
立ち止まり、穏やかに言葉を返す。

教会内のことであれば教会は自己完結するから、こうした場所に赴くものが少ないのは理解ができる。
それ故に興味をひいたのだろうということも。

ユーダス > 女性の藍色の双眸が男の存在を捉え、静かに頭を垂れる彼女の仕草に倣う様に男もまた腰を折って見せる。
そうしてから、再度男の黒目が女性の容姿を観察する。
其の装いは誰が如何見ても、神に仕える修道女のものだ。分かりきった確認の文句に、愚問でしたねと自戒混じりに呟き、

「―――そうでしたか。しかし私の見間違いで無ければ、どうやらこの辺りには不慣れなご様子。
 僭越ながら、私でよろしければご相談に乗りますが………?」

軒先に掲げられた幾つもの看板を眺めながら、何やら思案していたと思しき女性の様子。
それが道を見失っていた故なのか、訪問先の商会を吟味していた故なのか、彼女の真意までは男には分からないが。
その表情には穏やかな笑みを浮かべて見せながら、女性の方へと己の手を差し伸べる様にして男はそう提案の言葉を投げ掛けた。

マーシュ > 恭しい所作に、そこまでされるいわれはないのだと身振りで示しつつ。
再度向けられた眼差しに映るのは、何の変哲もない……おそらくは高位ですらない聖職の姿。

「──そうですね、道には慣れましたが、まだ少し不案内なようです。───失礼ですが、いずれかの商会の方……なのでしょうか?」

その姿はともすれば、貴族的。
仕草の優美さとも相まって、その手を煩わせてしまっていいものかどうかを悩むようにわずかに躊躇いをのぞかせつつも、相手の厚意に甘えることにしてみた。

「……手紙の輸送をお願いしたいだけだったので、あまり厳重でも、急ぎではないのでどこにしたものか、と」

ユーダス > 目の前の女性の所作を眺めては、くすりと口許の笑みを深くする。
これまでに聖職者を相手に取引を行った事も少なく無かったが、
目の前に立つのは恐らくは彼らよりも下位の、後ろ盾も財力も豊富では無い修道女。
しかしながら、その所作のひとつひとつからは彼らには無い優雅さと気位が感じられて。

「―――これは失敬。自己紹介が遅れました、ユーダス・オクト・アラーネアと申します。
 商会と名乗るには何分弱小ですが、王都とダイラスを中心に貿易商を営んでおります。」

以後お見知り置きを、と会釈と共に述べてから、女性の質問に少し思案する素振りを見せ、

「成程。輸送を主とする商会の中でも、それぞれ得意とする分野が御座いますからね。
 速さを売りにするもの、信頼を売りにするもの………ですがどちらも其処まで重きを置かぬのでしたら、
 向こうに赤文字の看板が出ている場所が御座いましょう?あちらなどは、報酬もお手頃で評判も良くお勧めかと。」

マーシュ > 「アラーネア、様………私はマーシュと申します。今現在は王城に出向の身とさせていただいております」

名乗る声音に、こちらも礼とともに己の身を明らかにした。
問いへの返答は、己にとっては十分すぎるもの。
ふ、と安堵の息を零して──。

「貿易を生業とする方のお言葉であれば間違いはないでしょう。私のようなものにご親切にご教示いただき感謝いたします。」

大した用向きではない、大体のあたりがつけば重畳と思っていた節もあるため、明確な指針を示されると穏やかな笑みとともに礼の言葉をむけた。

あちら、と示された赤文字の看板に改めて視線を向けると、建物の様子や特徴を覚えるように暫し視線を留め。

ユーダス > 「―――ええ。どうぞ宜しく、ミス・マーシュ。
 ほぅ、王城に。出向と言いますと、矢張りご出身はヤルダバオートで?」

投げ掛ける質問は、取引の商談とも奸計の相談とも違う、何気ない世間話の体で。
もし彼女からそれ以上の無闇な詮索を厭う素振りを感じ取ったのならばすぐに止める、その程度のもの。

「いいえ、貴女の様な目麗しい御方のお役に立てたのなら、此方も幸いというもの。
 私もちょうど、あちらにはダイラスより届いた仕入れの品を検める為赴くつもりだった所です。
 宜しければ、御一緒いたしましょう。」

そう、にこやかな笑みを浮かべながら言うと。
今しがた男の指し示した看板の特徴を覚えようとしていると思しき女性の所作が落ち着くのを待ってから、
長身痩躯の細長い腕を彼女の背中へと回すと、相手の歩調に合わせながら付き添う風に件の建物の方へと歩を進め。
ギィィ―――と古びた金具の軋む音色を響かせながら古びた木製の大扉を開け、その中へと足を踏み入れて行こうとする。

マーシュ > 「こちらこそ、何かお役に立てるかは、わかりませんが──。……ええ、おそらくは。育ったのはそちらになります」

相手の言葉に、気負いなく答える。
孤児など珍しくもないし、己は育ててくれた場所もある。
それ故にそのこと自体にこだわりは特にない様子で言葉を返す。
ただ出身かと問われるとはっきりとは言えない程度のものだった。

「………ありがとうございます」
己の容姿に言及されると少々困ったように眉尻を下げた。
醜悪ではないと思うが───その程度の認識。賛美を固辞するのもどうかと思ったのかあいまいなままに。

「────ええ、と………?……、あまりお手数をおかけするわけには──」

近くなった距離に困惑をにじませつつも、目的が定まった以上赴くだけ。
此方の歩調に合わせるように歩きだす相手に、こちらもそれに促されるように歩きだした。

さほど距離のないその場所、先んじて足を踏み入れる相手に続いて扉をくぐることになるのだろう──。