2022/07/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にフォイアルディアさんが現れました。
フォイアルディア > 昨日は「九頭龍の水浴び場」で出会った妖精(?)の少女と一夜を共に(卑猥なし)し、
昼ごろまで熟睡してしまった自分は――漸く、任務の報告を終え、再び潤った財布をその手に露店を歩いている。
酒場などを思わせる本格的なものから、もっとシンプルな焼き物のお店。はたまた、胡散臭い武器や雑貨を置いてある店と、品揃えは様々――。

「ん。美味ぃ。やっぱ……こゆのは、たっぷり味わってこそ吉、らよねぇ。」

その口には肉串。右手にはじゃがバター。左手にはビンに入ったしゅわしゅわとした飲み物を持った完全武装状態で、ひょいひょい。と人の流れを縫うように、歩いて行く。
今日の目的は買い食い+いい感じのアーティファクト探し。
目に入ったのは――。
いかにもな感じのツボ。悪魔の角みたいなものがついた頭蓋骨。引き抜けたらプレゼント!と書かれた漆黒の剣。

「うん、完全にヤクいな、あれ。……だいじょぶなのかなー……。」

まぁ、営業が止められるとかはないだろうけど。好奇心で購入する人がいたらどうするんだろうな。って懸念――。

フォイアルディア > 「特に剣。うん、ありゃ、肌にぴりぴり来る。
 ……多分、呪われてるなー。まぁ、魔族のハーフだからギリ分かるぐらいだけど……。」

おそらく、店主も気付いてなさそうだ。大方、冒険者か魔族に鞘から抜けない剣を格安で買い取ったとかそういったもの……だと思う。
間違ってたら恥ずかしいので、その辺りはあんまり考えないでおいた。

「んー……買い取っといたほうがいいかー……? 気付いちゃうと、気になるよねー……んー。むー。むぐむぐ。」

――傍から見れば。
店に並ぶ高額な漆黒の剣を見て、物欲しそうにしている少女。的な構図。
しかも、格好はマント1枚とどこかみずぼらしい。声の一つでも色々な意味で掛けられそうなものだけど……。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にシロさんが現れました。
シロ > 本日は自主休講日。
理由は朝起きるのが怠かったから。
義父にそう告げ、困らせた後──使用人すら置き去りにして、
サボりという名の賛否に出掛けた一人の少女。

直ぐに着替えて家を出れる服が学院の制服のみだったこともあり、
いつもと変わらぬ恰好で富裕地区を歩けば予想以上に目立ってしまうので、平民地区へとやってくる。

薄桃色の髪をふわふわ揺らし、立ち並ぶ露天を眺めながらボーっとしていると、
とある店の前で足を止めた。

いかにも怪しい、きな臭い店だ。
壺やら骨やらと、見ていれば故郷を思い出し、少女は不機嫌な顔で舌打ちをする。
何よりも一番禍々しかったのは、店頭に置かれた漆黒の剣だ。
完全に呪われている。恐らく、持ち主の生気を奪う類の呪い。
どこぞのダンジョンで、罠の一つとして用いられていそうな代物。

シロにとってはガラクタ同然の剣だが、そんな剣に向けて熱烈な視線を送る少女の姿が視界に入る。
まさかあれを欲しがっているのか。物好きな人間も居るんだなと、視線を彼女の頭部へ向ければ羊の様な角が生えていることに気付く。

なるほど、人間じゃないのか。
それにしたってあんな悪趣味な物に興味を持つなんて。

「その剣、やめておいた方がいいよ」

少女の背後から、シロは声を掛ける。
持っていてもロクなことにならない。
相手がただの人間であるならば、絶対に声を掛けることはしなかっただろうが。
同じ魔族としての忠告。

彼女がその声に耳を傾けるはわからないが──。

フォイアルディア > 「んー……定価、高いんだよなー。まぁ、無理矢理鞘から引っこ抜いちゃえばいいんだろうけど……んー。」

冒険者として、魔族のハーフながら結果を残しているお陰で財布の中身は潤っている。
特に、自分は普通の冒険者なら特に資材を注ぎ込む武器や防具というものを利用していないのもあり、
このローブの中の秘密ポケットに入った袋の中身は、その剣を数本は買えるほど。

しかし、そこまでする義理はない。故に手が伸びない。
店主のおじさんが「お嬢ちゃん、気になるのかい? 触ってみるかい?」なんて煽ってくる。
魔力のない一般人のおじさんは、其処に宿る呪いに気付いておらず、ただ錆びて抜けない剣とかとでも思ってるのだろう。
いや、もしくは。既に魔剣に魅了されてるのかもしれないが、それは、それ。

「んー。そーね。……じゃあ、買…… お?」

覚悟を決めた瞬間、後ろから投げかけられた声にそっと振り向いた。

――驚いた。ハーフだから理解する。
一見、普通の人に見えるが、僅かに残っている魔力の残滓から、自分と同じハーフか、もしくは魔族だと。
そんな彼女はどうやら、自分にそれを触れさせないように注意喚起をしてくれたらしい。なるほど、優しい少女だ。

と言っても、魔族は外見の年齢と実年齢が噛み合わない存在が多い。自分もだ。故に――。

「あはは。やっぱり?やー、やめておいたほうがいいって思っててもさ?
 ……ここで他の人が手ぇ取ってどうにかなるより、まだ我みたいなのがどうにかした方がなんとかなると思わない?
 こう見えても、長く生きてて、普通の人より精気とか魔力とか?あるほーだしさー。」

――その厄ネタに関して気付いている事を告げ、敢えてこちらもフレンドリーに微笑みかける。
同時に、頭の角をこつん。と叩き、示し。

シロ > 此方に気づき、振り返った少女。
その身から漂う異様な魔力に、シロは怪訝な表情を浮かべる。
純粋な魔族とは毛色も匂いも違う。
左側頭部から伸びる角を見れば、魔族であることは間違いないのだろうけれど。

「……キミはアレか。お人好しってヤツか。
ボクにはまったく共感できない感情だ。
他人がどうなろうと、自分に害がなければそれでいいじゃないか」

角を小突きながら微笑む彼女へ、シロはやや引き攣った顔を浮かべながら言う。
その言葉は、彼女へ忠告した自分に対しても返ってくる言葉ではあったが、
そこはまったく気にしていない様だ。

フォイアルディア > 外見。長く生きているという言葉。そして、内包する魔力。
どれを取っても、魔族。と言ってもいいだろうが、純粋な魔族である彼女には分かってしまう。
其処に人の要素が入り混じった事で、毛色も、匂いも。性格も。違うのだと。

「まーねー。それにさ。こう見えてギルド所属の冒険者なわけ。
 ……此処で見逃して、なんか剣回収とか。謎の衰弱死体発見!とかになるとねー。
 こっちの作業が増えてめんどーなのよ。……つまり、間接的に害になるかもしれなくてさー……。

 ……ま、お人好しかはわかんないけどね。……わざわざ声掛けてくれる君も、優しい子だと思うけど、な?」

そう言葉を紡ぎ、彼女のことを見上げ、にんまりと口元を緩め――微笑んだ。

なお、こんな会話を店先でされている店主は困惑中。
『挑戦もしないし、買わないんなら、店じまいするが……?』と、自分達に声を掛けてきたりはする。
おっと、そこで帰すわけにはいかない―――ってことで。

彼女の心配は置いといて、まずは手元に引き寄せることとする。

「あー。いやいや、その剣を貸してよ。鞘から抜ければ無料なんでしょ? そうじゃなくても売ってくれるみたいだし。」

シロ > 人間と友好的な魔族も存在する。
中には人間の為に身を張って、己を犠牲にする馬鹿な魔族だっている。
彼女もその類の者か。それにしては、やけに人間味の強い魔族だ。

「冒険者……。なるほど、ね」

彼女の言い分を聞けば腑に落ちた様子で頷く。
仕事となれば、面倒を増やしたくないという気持ちもわかる。
が、しかし──その剣にどんな呪いが掛けられているのかはシロでも感知することができない。

恐らく、彼女も同じだろう。

ならば、尚更自身に危険が向く可能性のある物だと思うのだが。
そこは考え方の違いか。

暫く彼女を見つめていると、店主が間に割って入り込んでくる。
睨みつけて黙らせてやろうかとも思ったが、先に彼女が口を開いたので傍観。
魔族であれば呪いの武具を扱うことも容易いことだろう。

シロは彼女が剣を抜くところを一歩下がった位置で見守ることにした。

フォイアルディア > 自分はまさに中立の立場。人間も魔族も、自分に敵対する存在でなければ――というもの。
それはそれとして、無辜の存在が傷つくのは、なんかめんどくさいなーってノリでどうにかするタイプ。
そういうのが、彼女が思う『人間味の強い魔族』というコトなのかもしれないけど。

「そゆことさ。物わかりが良い子で、我も助かるねー。
 
 ってことで、店主さん。受け取るよー。」

自分の説明を受け、納得した素振り。そして、剣を握るコトに反対もせず、見守る様子を向けた相手。
色々な意味で自分の意思を組んでくれたのだろうと内心で感謝しつつ――。

差し出される漆黒の剣を、そっと握り、鞘に掌を添えた。

――ずんっ……!!

その瞬間、腕全体に伝わるのは倦怠感。それはつまり、所有者の膂力ごと精気を奪うものだ。
この全身を襲う気怠さと筋力の低下。並の人間では、剣を抜くチカラすら込められない。
……剣が鞘から抜けないのも納得である。

「お、ぉぉ……っ。これまた、ずいぶんと……がっつり持ってくねぇ……。
 あ、ちょっと。そこの子さん。なんかこう、強化魔法とか使えたりする?」

――普通の魔族なら。呪いに長けた存在なら、軽々とそれを制圧出来たかもしれないが、
こちらは焔にしか適正を持たない魔族のハーフ。まだ、解呪等を出来るわけではない。
少しだけふらふら。けど、がっちりと両手で剣を握り締めたまま――少女に問いかけてみて。

シロ > 「理解をしただけだよ。言い方を変えれば諦めとも言う」

物分かりが良いタイプではない。
ただ、彼女に何を忠告しても曲がらない意思を感じた。
だから諦めたと言った方が正しい。

とはいえ、まったく心配していないわけではなく、
今もこうして背後から彼女を見守っているわけだけど。

彼女が剣の柄に触れた途端、嫌な魔力を感じた。
肌がピリつくような刺激的な悪寒。
近くに居るだけで呪いは作用するようで、シロも表情を歪めながら体を震わせる。

どうやら魔力を持つ者が触れると呪いが拡散する仕組みになっているらしい。
あれでは人間どころか、低級の魔族ですら抜くのは難しいだろう。

「……強化魔法なんて使えないよ。
ボクが優秀な魔法使いにでも見える?」

眉を顰めつつ、憎まれ口を叩けば彼女の元へと歩み寄り、
その手を、柄を握る彼女の手に重ね、瞳を閉じる。
さすれば己の魔力も相当量吸われ、あの嫌な悪寒も更に酷くなる。
それでもシロは手を離さずに、神経を尖らせる。

周囲のギャラリーは二人の少女へ視線を向ける。
そのほとんどのモノは、シロが何をしているのか理解できていないだろう。
シロは己の魔力を故意に剣へ注ぎ込んでいた。
魔力の吸われ方によって、呪いの術式を逆算的に解読し、その剣に組み込まれた呪いそのものを破壊しようと試みている様で、それは間接的に彼女の頭の中にも流れ込んでいくことだろう。

「……解読は終わった。後は剣を引き抜くだけ」

呪いの術式を解読し終え、大分弱った声で告げれば共に剣を引き抜こうと腕に力を込める。

フォイアルディア > 「ははー。……理解してくれるだけでも、重畳ってやつだよ。我としては、ね。

……あ、マジかー。いや、優秀な魔法使いに見えたから振ったんだけど。
……んー。なかなか、容赦ない……。」

そう、容赦のない魔力の喰らい方。自分だけじゃなく、周りにまで拡散しているのだから、
ギャラリーに関しても僅かな倦怠感を覚えている人たちがいるに違いない。――だから、ここでなんとかしなければ、と思ってしまっている。

と、後ろにいた彼女が此方へ近付いて来たかと思えば、柄を握る自分の手を包み込み、"何か"を始めた。
自身の魔力を吸われているからこそ、その魔力のうねりを理解する。逆に、魔力を吸わせているということを。

「……やっぱり優秀じゃなーい?……土壇場でそゆこと、出来るってさ。」

向けたのは軽口。少なくとも、自分には出来ないし、何なら強化魔法を受けて無理矢理底上げした筋力で引っこ抜こうかと思ったほど。
ただ、彼女の魔力の循環により、その呪いは着実に弱っていく。
何せ……魔族二人分の精気と魔力を過剰に吸わされ、さらに内側から破壊されていくのだから。
故に――彼女の言葉を聞く。それは、破壊が済んだという証拠。同時に、自分達の身体に僅かに活力が戻り。

「うーい。……せぇ、の……!」
彼女と共に、しゃりん――ッ。と音を立てて、剣を抜き放った。
夕焼け空に照らされる銀色の刀身。それは、今数秒前まで呪いをブチ負けていたものとは思えない程、まばゆく輝いており――。

「……ぁー。ってことで、抜けたから我らのものってことで、いいよね。

――うん、よし。……よーし。ちょっと休憩しよー。」

その剣の切っ先を店主に向けて、少し脅しめいた対応でこの所有権を自分達に移したなら。
向かう先は近くのベンチ。正直、立ってるのも割と気怠いので、彼女と共に休憩タイムに移りたい。

シロ > 「……ボクが優秀なのは当たり前。
ただ、少し……いや、大分……疲れた……」

彼女の軽口に答える程度の元気は残っていたが、
それも剣を引き抜くころには殆ど持っていかれてしまい、
魔力がすっからかんになってしまったシロは、息を乱しながら引き抜かれた銀色の刀身へ視線を向けた。

魔族としては高位に立つ悪魔でも、弱体化されてしまった体では自由に魔力を使うこともできず、
呪いなんて粗末な物にすら、この有様だ。

「……はぁ、っ……ちょっと、吸われ過ぎた……」

彼女に連れられるように、重たい体を引きずってベンチへと向かう。
これは一度、どこかで休息を取らなければ満足に動くこともできないだろう。

ベンチの背もたれに背を預け、ぐったりと疲労した顔を晒す。
普段は晒すこともしないであろう己の隙を、この時ばかりは存分に晒し続けていた。

フォイアルディア > 「うんー……我も疲れたわ。ま、キミのお陰で呪いは半壊してるし、まー……これから悪さするってことはないっしょー……。」

こっちも言葉を交わし合う程の元気はあるが、かなりの魔力を持っていかれた。
それでも彼女程疲弊した様子ではないのは、元々のスタミナの高さ故か。

かちん。と抜き身のままだった剣を再び鞘にしまい、その手に握り締めたまま、彼女と共に向かうはベンチ。
色々な人が使えるようにと大きめに設計されたそれは、ふたりで腰掛けても十二分な幅があるもの。
其処に彼女が腰掛けたのを見れば、適当に剣をそのベンチに立てかけ――。

「んー。ちょい、待ってて。お礼、しなきゃだからさ。」

――ぐったりした彼女を後目に、雑踏の中に消え。

…… 2分後。 ……

「……おまたー。はい、スタミナ満点のはちみつレモネード。今日のお礼に、飲んでくれたまえよー。」

何故か冷たい飲み物を持って、戻ってきた。思いっきり疲弊した彼女の顔に、そのカップを近づけて。
それだけで氷の入ったカップの涼やかさと、鼻孔を擽る甘酸っぱい香りが、疲れた身体がまさに求めているモノのはず。

シロ > 「……ボクよりも吸われてるはずなのに、ボクよりも遥かに元気そうだね」

ジトッとした視線を彼女へ送り、溜息を吐き出した。
此方はすっかり疲弊しきり、足腰が小鹿の様に震えている。
ベンチに腰を掛けてもなお、その疲れは取れずに身体に残っており。

「お礼なんて、別に……って、行っちゃった」

特に礼を言われるようなことはしていない。
あのまま魔力を吸われ続けるのは自分にとっても彼女にとっても良いものではなかっただろうし、
自分達以外の人間がどうなろうと知ったことではなかったが──。

まあ、結果的に人助けをしてしまったわけだ。
悪い気はしないが、なんだか複雑な気分。

「……はちみつ、レモネード……」

戻ってきた彼女が差し出したカップへ視線を送れば、
息をごくりと飲み込み、そのカップを両手で受け取る。
ストローでレモネードを吸い上げ、その甘さに思わず頬が綻んだ。
学院では絶対に見せない緩んだ表情。
それは外見に見合った可愛さを持ち合わせており、本人はそのことに気付いていない様だ。

フォイアルディア > 「魔力は正直な所すっからかんだけど、精気はねー。
 こう見えて、バフォメットだしさ。我。人の何倍も精気、持て余してるわけよ。はははー。」

バフォメットと言えば、屈強な肉体を持つ羊の魔物。
大体の創作物でも割といい立ち位置を貰えるが、ミノタウロス程は目立たない――そんな魔物である。
頭を揺らし、其処から生えた角がその証拠だと言わんばかりに主張させて――。

――結果、その精気有り余る身体は、彼女の返事を聞く前に買い物に向かってしまった。
疲れた身体によく効く。自分も冒険から戻ってきた時に良く飲むソレ。
熟した栄養満点のレモン汁にハチ型の魔物の濃厚な蜜を絡め、爽やかな酸味の奥に濃い甘さを含んだ――それ。

「そうそう。疲れた身体にばっちりの奴。この蜂蜜が魔力回復にも良い奴なわけよー。
 ほら。我のおごり。受け取ってよ。」

彼女の元に戻ってきて、差し出せば――彼女は迷わずにそれに口を付けてくれた。
甘み。酸味。そして冷たさ。どれもこれも、今。疲れ火照った肉体を正常に戻すに相応しいもの。

「――美味いっしょ。我もお気に入りなやつ。ひと仕事終えた後に、一杯!ってすると、これまた格別でねー。」

敢えて、指摘はしない。緩んだ表情に関しては。
ただ、一緒に何かをやり遂げた相手とこうやって一緒の飲み物を飲むのは、悪くない。
こっちもストローに口を付け、吸い上げ――。「ふへー……。」と、凄く緩んだ表情を彼女に晒した。

シロ > 「バフォメット……」

まさかの遠縁であり、シロは一瞬だけ目を見開いてみせるも己の素性は語らない。
聞かれれば魔族の一人とは答えるやもしれんが、わざわざ悪魔であることを明かしたりはしないだろう。
彼女の角を見つめつつ……元気いっぱいに去っていき、そして戻ってくる彼女に内心呆れ顔を浮かべ。

「ん……ありがとう」

ちゅーっとレモネードを飲みながら礼を告げれば立てるほどには体力も回復する。
疲れた体には甘い物が良いとはよく言うが、それが真実だったとは。
普段の生活ではここまで疲弊することもないので知らなかった。

「そうなんだ。まあ、確かに……美味しい」

シロにすればいい表情で笑み、レモネードを一気に飲み干した。
日が沈む空を眺めながら、シロは彼女へ視線を向ける。

「そういえば名前を聞いていなかった。ボクはシロ。キミの名前、聞いてもいい?」

空になったカップを太股に挟むように置き、首を傾げながら問い掛ける。

フォイアルディア > ……バフォメットなのは本当。
然し、バフォメットと人間とハーフという事実は、敢えて告げない。
魔族にはそういったハーフに対する偏見を持つ存在もいるからこそ。
協力出来た相手にも、敢えて告げるコトは、ない。それこそ、違和感に気付かれるまでは。

「どーいたしましてー。
 や、感謝の言葉はこっちなんだけどね。我一人じゃー……まぁ、無理だったしね。
 あー……疲れたー。うまー。……――でしょ。後で、店教えるから、よかったら常連さんになったげて。」

改めてベンチに腰掛け、脱力。明らかな無気力感をぷんぷん醸し出しながら、こっちもレモネードを数口。
さり気なく、宣伝とかまでしつつ、顔を緩めながら舌鼓していた最中。
ふと、視線を感じ――。

「そういえば。んー。名前はフォイアルディア。……けど、ほら。長いんでー。
 ……みんなはルディって呼ぶから、ルディって呼んでよ。我もシロの事はシロって呼ぶからさ。

自身の名前を告げる。母親の故郷で焔を表す言葉。それと、愛称を。

シロ > 純粋な魔族との違いは感じつつも、それ以上の詮索はしない。
興味がないと言ってしまえば冷たい言い方かもしれないが、
この悪魔の他人に対する関心なんてその程度なのである。

「ん、あれはボク一人でも無理だよ。
ボク一人の魔力じゃ、術式を壊すよりも早くボクの魔力が尽きてしまう」

悪魔としての本来の力を持っていれば話は別だが、
ともかく彼女のおかげで救われた命があるのは事実。
あの場に居た人間は彼女に感謝すべきだとシロは思う。

「……この辺はあまり来ないけど、そうだね。
近くに来た時は立ち寄ってみる」

このレモネードを目的にやってくるのもいいかもしれない。
とはいえ、平民地区へ足を運ぶことなんて早々ないだろうけれど。

「フォイアルディア……ルディ、ね。わかったよ。
ところでルディ。キミはこの後時間はあるのかな?
せっかくだし、夕飯でも食べて、夜遊びでもしてから帰ろうかなと思ってるんだけど。
この辺りには殆ど来ないからさ、もし時間があるなら案内をしてほしい」

彼女の名前を復唱し、何かを考えるような素振りを見せてから、
視線はそのまま彼女へ夕飯のお誘いを提案してみる。
特に意味はないが、このまま解散しても行くアテもなく、
どうせなら魔族の知り合いを作っておいて損はないだろうとの考え。
断られれば大人しく家に帰るつもりだが──。

フォイアルディア > ――寧ろそれは普通である。ノリノリで詮索する方が珍しい。
そもそもな話。眼の前の彼女が魔族であると気付いた上で、特に詮索せず。
躊躇なく自身の正体を半分だが明かし――ある程度のラインを引いているのは此方も同じ。

「ま、二人分吸ってたからねー……いい感じにこぉ。吸う勢いが分散されてたのかな。
 とりあえず、呪いも解けたこれは……後で、ギルドにでも提出しておくよー。
 同じような事はまぁ……もう、ないと、思う、し?」

流石に、その後どうなるかはフォロー外のお話。
少なくとも、今後この剣が何かしらの事件を起こすことは――可能性として、限りなく低いだろう。
何なら、呪いが解けた剣なら、自分が溶解させてもいいのだから。

「――ん、よってみよってみ。
 
 ……と。うん?時間……ま、あるねー。基本的に宿暮らしで学生さんみたいに門限なんてないし。
 ……それじゃあ、お誘いに応じようかー。このあたりには美味しい料理がたくさんあるしね。

 さっき言ったレモネード屋の場所も含めて、案内してあげるよ。この我がね。」

――せっかくの誘いは、特に断らない。
ひと仕事終えた"仲間"と仲良くするのはよくあること。それが食事や遊びだというのなら、なおさら。
楽しげに口元を揺らせば、レモネードを飲み干し―― 「さ、いこーぅ。」と、先導するように歩き出す。

彼女を連れ込むのは行き付けの酒場。
料理と酒が美味しい店で、そのボリューム満点の料理は、小柄な彼女には少し苦しいかもしれないが、味だけは保証する。
その後も、ちょっとした場所を案内し――適度な時間になったら、「またね。」を告げる。
そんな、どこにでもあるような夜の時間が、自分達にはあるはずで。

シロ > 彼女が自身の正体に気付いていることさえもシロは知る由もない。
それにシロが気付くのはいつになるだろうか。
そんなことすらも、今は考えすらせずに──。

「次は何も見なかったことにして、立ち去るけどね。
ボクはルディみたいにお人好しじゃないし、他人がどうなろうと関係ないからさ」

同じ魔族であれば忠告程度はするかもしれない。
今回手を貸したのは本当に気紛れだ。
その気紛れのおかげでレモネードにもあり付けたのだから、
たまには気紛れも捨てたものではないと思う。

「そうするよ。
そっか、それじゃ……案内はキミに任せるよ。
よろしくね、ルディ」

ベンチから立ち上がり、先頭を歩く彼女の後ろをゆっくりとした足取りで歩く。
陽の沈み始めた空を眺めつつ、彼女と共に入った酒場でたらふく食べて、飲んで。
夜の雰囲気に絆されながら街巡りを楽しみ、そして別れるのだろう。
再会することがあるかどうかは時の運次第だが、珍しく悪魔は楽しかったと素直に礼を告げ、
夜の平民地区を去っていくのだろう。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からフォイアルディアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からシロさんが去りました。