2022/06/14 のログ
ご案内:「平民地区 北西門付近」にイェンさんが現れました。
イェン > 『暴れ馬だぁぁああ!』『逃げろ逃げろーーー!』

(そんな大声が響いたのは、雨続きだった王都に久方ぶりの蒼空が広がる晴れの日の午後だった。ぎょろりと白く目を向いて、剥き出しの歯列から唾液を散らして駆けるのは栗毛の毛並みも立派な三歳馬。幸いにして北西門から真っすぐに伸びるメインストリートは広い割に人通りは少なく、暴れ馬が駆けているのもそのど真ん中であったため今の所誰も被害にはあっていない。そんな馬の後を類まれな美貌を有する黒セーラーの女学生が追いかけていた。その姿を見た者は、一瞬暴れ馬の存在すら忘れる程の驚愕を覚える事だろう。持ち手なく宙に現れ暗紫色のオーラを颶風と共に吹き散らしながら空を薙ぐ巨大剣。その巨剣の平をハイソックスの楚々たる細脚が受け蹴って、プリーツスカートを大いにはためかせながら砲弾の如く跳ね飛んで行くのだから。その後ろ姿をぽかんと見送る多くの人が黒色プリーツの奥にちらつく純白を目にする事だろう。しかし気にしてなんかいられない。なぜならば、門での入街処理の最中いきなり暴れ始めた栗毛馬は、イェン自身が冒険者依頼を受けて王都へと連れて来たのだから。)

「いい加減止まって下さい。いざとなればその馬首、斬り落としますよ」

(何度かの跳躍を経て馬体の間近に迫ったセーラー服が上空から語り掛けるも、そんな声一つで止まるのならばとうに大人しくなっている。当然の如くそれを無視してますます荒ぶる栗毛を眼下に仏頂面の眉根が歪む。無論、この馬を斬ってしまえば依頼は失敗。それどころか、何かしらのペナルティを課せられる事になるだろう。とはいえこのまま暴走を放置して無辜の街人を轢くという惨事を許すわけにもいかない。)

ご案内:「平民地区 北西門付近」にエズラさんが現れました。
エズラ > 「よぉ~しよしよし……落ち着け落ち着け~……――」

騒ぐ群衆の中から、よく通る、しかしどこか呆けたような声が聞こえてくる。
逃げ惑う群衆を掻き分け、地面の上に剣帯ごと武器を放り捨てながら、興奮した馬の真正面から緩やかに歩みを進める。
左右に手を広げて馬の行く手を妨害すると、後ろ足で立った馬の強力無比な蹄が迫るが大袈裟に動いて躱しつつ、さらに近づいていく。
そうして、常に馬の真正面に陣取るような足捌きで距離を詰め――いつの間にか、馬が走行をやめていた。
とはいえ、容易に静止するわけでなしに、その場でぐるぐると身体を振り回しているが、その馬体に柔らかく触れながら、どうどう、と少しずつなだめていく。

「おお、立派な身体してやがるな――よしよし、そうだ、それでいい――」

ほどなくして、未だ鼻息は荒くも、男が手綱を取ることを許し、ゆらゆらと首を振る程度の動きにまで落ち着いて――
――その間、男の視線は徹頭徹尾、馬に向いていて、美少女の存在に気付いていない――この男にしては珍しいことである。

イェン > 「―――――ッ!?」

(覚悟を決めるか……なんて考えていた矢先だった。切迫した状況からすればあまりに場違いな声音がイェンの耳に入ったのだ。人々の悲鳴と喧騒の中にあって明らかに異物と言えるその声は妙によく通っていて、蜘蛛の子を散らすかの様に馬の行き先から逃げる群衆からのっそりと姿を現した逞しい長躯も自然と目についた。それは我を失った馬からしても同じだったのだろう。元々臆病な気質の馬が正気の感じられない嘶きと共に馬体を持ち上げ、能天気な大男を蹴り潰そうと蹄を落とすも)

「――――――嘘……どうして………?」

(歩み出たのと調子の変わらぬ体捌きがふわりとそれを往なし、気付けば狂乱状態にあった馬の瞳が理性の光を取り戻していた。それに対してザシャァァァアアアッと派手な土煙を上げながら着地した黒セーラーの細身は、ポーカーフェイスの双眸を僅か見開き、瞬く紫瞳で冒険者と思しき巨漢と早くも彼に気を許したかの栗毛馬とのやり取りを見つめていた。しばし茫然としていたイェンではあったが夏風に揺れた黒の横髪に頬を撫でられハッとして)

「あ……ありがとうございました。見事な物ですね。助かりました」

(彼に近付きながら涼やかな声音で礼の言葉を向けた。距離を狭めれば頭一つ分は優にあるだろう身長差と、比べるのも馬鹿らしい身幅の違いがはっきりと感じられた。そうしてイェンが差し出した白腕には、馬前に歩み出た彼が直前に放り投げた武器とそれを吊るための剣帯が携えられている。)

エズラ > 馬がようよう、正気を取り戻したあたりで――初めて男は追跡者の存在に気が付いた。
ある意味で、暴走馬よりも激しい土煙を上げて到着した彼女の方が、男にとってはずっと意外な存在であった。

「おっ、おおっ、なんだビックリした――」

馬の首や頭部を柔くなで続けながら、唐突に出現した存在である相手の存在を暫し見つめるが――その手にあるものを見て、また、彼女の言葉を聞いて――合点がいく。

「……あんたの馬かい、良い馬だ」

差し出された自身の得物を受け取りながら、その代わりにと、手綱をその華奢な手の中に預ける。

「しかしこの馬、見た目よりずっとビビリなようだぜ――おお、おいおい、怒るな怒るな――」

男の言葉はわからずとも、己がからかわれたらしいことがわかるのか、馬が男の頭を――正確には髪を食もうと歯を鳴らす。
それをあやすようにまた頬を撫でて――

「――あんたのような美人に追われちゃ、尚更ビビっちまうだろうな」

歯の浮くような台詞を紡ぐのであった。

イェン > (下方から見上げる双眸は切れ長の鋭さが特徴的な朱化粧で一層鮮烈な印象を刻み付ける物。愛想無く引き結んだ桜唇も相まってエルフめいた容姿の整いは冷淡に睨みつけるかの迫力を醸している。前髪と横髪を残してきゅっとひっ詰めたポニーテイルの黒髪も、あれだけの大立ち回りの後だというのに乱れ一つ見当たらぬ制服姿と合わせて硬い印象を与えるだろうか。とはいえそれも傍から見ればという話であり、当人としては言葉通りの感謝の気持ちを覚えているのだけれども。)

「正確には私の馬ではなく、私の依頼人の馬となります。ですが、この子が人を跳ねるなどの被害を出した場合、責任は私が取る事となったでしょうから貴方が落ち着かせてくれて本当に助かりました。 ――――そう、蜂にやられたのですね。気を付けなくては駄目よ」

(彼の言葉を訂正しつつ手綱を受け取り、僅かに汗ばむ栗色の馬体を撫でて行けば後脚上部にぷくりと膨らむ虫刺され。ヴルルと唸るその馬首を改めて優しく撫でる顔は紫眼をわずかに細めた柔らかな物。そんな栗毛馬が男の軽口に反応するのを目にすれば、思わずくすりと笑いが漏れた。緩く握った白手にて口元を隠しながらではあったが、それでも笑いの気配は感じ取れよう。そしてこちらにも向けられた軽口には再び紫眼を丸くした後)

「――――美人に追われたのなら殿方は普通、喜ぶのではないのですか?」

(こてんと倒した小顔がさらりと黒髪を揺らしつつ問いかける。己の容姿が優れている事を十分に理解しているイェンにとって《美人》という誉め言葉には然したる感慨を覚えぬ物。その上、《華》としての教育以外では男というものをあまり知らぬ生娘なので、その返答は少々的外れな物となる。)

エズラ > なるほど、蜂か――と彼女の言葉に反応しつつ、腰にしっかりと剣帯を結び付け直し。
乱れた衣服をわずかばかり、直す風を見せるが、そうしたところで基本的には「街のごろつき」そのもの。
対して、今目の前にある、手綱を握る女――否、少女の姿をようやく視界の真ん中に捉えて、改めて嘆息したくなった。

「ハァ~……フフ、いやなに――そんじょそこらの美人なら、追われて喜ばねぇ男はいねぇ――」

彼女の出で立ちは学生のそれであったが、顔立ちは明らかに異国のそれ。
それよりも何よりも素直に驚愕せざるを得ないのは――

「だがよ、その相手が絶世の美女てんなら話は変わってくるというわけよ」

男の目が、馬に向けていたそれとは異なる、一種の好戦的な色合いを帯びて、その筆で引いたように鋭い少女の瞳を見つめている。
不意に自身の目尻のあたりを指して――

「その目の――そういう化粧はシェンヤンでよく見た――あんたほど似合ってるのは見たことがねぇがな」

イェン > (纏う着衣はお世辞にも上等とは言い難い着古した物。しかし、その袖や襟から覗く筋骨は野太く、刻まれた戦傷もかなりの物。冒険者ギルドに所属して以来そうした相手を見る機会は増えた物の、その中でも間違いなくベテラン以上にカテゴライズされるだろう魁偉だった。それでも威圧を覚えぬのは、黒髪黒眼の顔立ちは精悍なれど悪相を形作ってはおらず、栗毛馬に見せた人懐っこい一面も既に目にした後だからだろう。)

「――――絶世……。 流石にそれは言い過ぎです―――あぁ、もしかしてこれは私を口説いているのでしょうか? それでしたら貴方には助けて頂いた恩もあります。応じるにやぶさかではないのですが……」

(流石に絶世という形容詞が付くとなれば、常日頃から耳にする誉め言葉から外れてくる。そんな言葉を出会ったばかりの小娘に向けるのは何故なのか。そうした思考が導き出したのは、ナンパという三文字。改めて見当違いと思しき返事を向けかけた所で、続けざまに言葉を掛けられて)

「ありがとうございます」

(返す言葉は端的でいっそ淡々とした物なれど、紫水晶を思わせる瞳の裏には分かりづらくも確かに感情が揺れていた。そうして出来た妙な雰囲気を払拭しようとでもしたのか)

「――――私はイェンと申します。何かしら此度の礼をして差し上げたいのですが、お時間はありますか? それでしたらまず、ギルドにこの子を送り届けて依頼を完遂した後としたいのですが……」

(そう言って改め見上げるのは傍らで二人のやり取りを見つめていた栗毛馬。先の暴走が嘘の様に大人しくしているが、これが本来のこの馬の気性なのだろう。)

エズラ > 「気付いてくれて嬉しいね――後学のために覚えとくといい、あんたに声をかけてくる男は、まず間違いなく「口説く」のが目的だろうぜ――オレを含めてな」

くっくっ、と決して品が良いとは言えないお節介を告げ。

「オレはエズラだ。ま、ご覧の通り以上でも以下でもない男――ムッフフ、そりゃあもちろん、ご一緒いたしますとも」

まったく、良い馬だぜお前は!などと調子よく馬の腰のあたりをポンと叩けば、それが合図となったのか、彼女が手綱を引くままに歩いていくであろう。
自分も、その後に続く――

イェン > 「そうですか……勉強になります。ですが、此度はそのおかげで助かりもしたのですから、悪い事ばかりではありませんね。ではエズラ様、着いてきて下さい」

(手綱を引いて歩き出す。大男と栗毛馬。一人と一匹の巨躯を引き連れての移動に絡んでくる命知らずなどはおらず、イェンの受けていた飼い馬の探索と護送依頼は問題無く果たす事が出来た。そうしてもらい受けた報酬を手に改めて街に出たのは良い物の、外食も最低限のイェンである。先のお礼としてのナンパのお付き合いでどこに向かえばいいのかなんて見当がつくはずもなく)

「――――あの、エズラ様。貴方が察した通り私はシェンヤンからの留学生でして、あまり王都に詳しくありません。殿方からの口説きに応じるに、どこか良い店など案内していただけませんか?」

(冷淡なまでの無表情を崩すことなくポニーテイルの美貌が目弾きの双眸で男を見上げて問いかける。感情というものの感じられない問いかけは淡々としていて色っぽさの欠片も無い。それもそのはず、この生娘はどこか適当な店で食事や酒などを奢るというままごとめいた行為ばかりを想定しているからだ。彼がもしゴロツキ風の見目に見合った《その気》でいるのだとすれば、その案内が誘導するのは近場の連れ込み宿という事になるだろうに、そうした可能性をまるで考慮していないのだ。)

エズラ > 「やっぱりシェンヤンの「お嬢さん」か――いや、侮る風で言ってるんじゃねぇよ、勘違いしねぇでくれ」

彼女の立ち振る舞いの洗練されていること、研ぎ澄まされた容姿等、男の目にはそれが所謂裕福層特有の教育によるものであると映っている。
おまけに、馬を引く姿も、その歩みの進め方も――例えば、彼女が戦う姿を実際に目にしなくても、それがしっかりと鍛えられた肉体を予想させる。
これもまた、いわゆる裕福層に甘んじることを良しとしない――つまりは自分のような種の人間にはない、高尚な意志によるものか――しかし、直後に続く言葉に、あえて助平心を隠そうともしない笑みで応じ。

「ムッフッフ、そいつぁお安いご用ってなもんだぜ――ちょいとくつろげる場所にでも、ご案内するとしましょうかね――」

「口説く」という言葉の意味を、どうやら本気で理解できていないらしい。
これは本気で老婆心を発揮したくなるというものだが――それは、誰か自分以外の者にしてもらうことにしよう。
ここはひとつ、「街のゴロツキに借りを作る」ことの意味を、実地教育せねばならない――そんなことを考えながら彼女の腰へ手を回し、さぁさ、こっちと道を急ぐ――

イェン > (巨漢の作るいやらしい笑みに少々嫌な予感も覚えるも、相手は他ならぬ恩人である。それに空の高みにはまだまだ元気な日の光。よもや如何わしい店に連れ込まれるなんて事はないだろう。幾度か男性器というものを目にしてはいても、その本質をまるで理解していない生娘なればこその能天気な思考。)

「はい、よろしくお願いします。見ての通り学生の身分です。あまり高い所ですと先の報酬から足が出てしまうでしょうから手加減はして下さいね」

(人形めいて変化に乏しい美貌で言葉を返し、白の美脚が先導を始めた男の背を追いかける。その細腰にするりと傷だらけの手が回されたらなら一瞬びくりと身体を固くするも、先の恩はそんな馴れ馴れしさも許容範囲となる物だ。出会ったばかりの異性との接触に発育の順調な豊乳の内側を跳ねさせながら、少女は《ゴロツキ》の案内で街の奥へと連れていかれる事なる―――。)

ご案内:「平民地区 北西門付近」からエズラさんが去りました。
イェン > 【場所を移動します】
ご案内:「平民地区 北西門付近」からイェンさんが去りました。