2022/05/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にジークさんが現れました。
■ジーク > そのバザールに足を向けたのは、これという目的があったわけでもなく。
あえて言えば、『何か面白そうな物でもあれば買ってみるのもいいか』程度の、言ってしまえばただの気紛れであった。
懐具合は少し前に大口の依頼をこなしたばかりで潤っていると言ってよく、なんだかんだで掘り出し物にも出会えることがあるので暇潰しには持ってこい、だったのだ。
「――あん?」
そんな感じで文字通りの時間潰しにふらふらと露店を見回っていた頃だった。何やら元気の良い声が値切り交渉を行っているのが耳に入ってきた。
場所柄、決して珍しいことではないのだが。それにしてもあまりにも必死な気配を感じる交渉内容だったし、何より、そう。どうせ目的のない暇潰し、どうれとばかり、声のする方へと向かってみるとした。
声の大本へとたどり着き、さてどんなものを買おうとしているのかと覗き込んでみれば――。
「なんだこりゃ、ただの石ころじゃねえか。おい嬢ちゃん、なんだってそんなもんを買おうとしてるんだよ? あっちの露店にあった装飾品の方がよっぽどいいんじゃないか?」
必死になって購入しようとしているのが、ただの石ころ。手に握っているのがうら若い少女、となれば。怪訝に思い、つい尋ねてみてしまった。
■アニス > 店主の反応は、とても良いとは言えないもの。
店先に並んでいるのは、どれもこれもが、今少女が手にしているような石ころばかり。
中には色味がかった鉱石と思われるようなものも混じってはいるけれど。
とはいえ、店主の方も売り上げがなくては、やってはいけないのだろう。
少女の申し出を門前払いするでもなく、値段交渉そのものには応じており。
「ん? えーっと、部外者は黙って貰っていいですか。
なんでって、欲しいからに決まってるじゃない。」
横から、まさに藪から棒に発せられた野次に、むっとした様子でちらりとだけ視線を向ける。
交渉事において、ここまで欲しいと前面に出すのは悪手だろう。
それは少女としても分かってはいたのだけれど、見つけた時に跳ね上がったテンションのまま店主に詰め寄ったものだから、今更というもので。
「それって、あれでしょ。イミテーションのメッキ物。
あんなの買うお金があるなら、美味しいケーキでも食べてた方がよっぽどいいかなー」
なかなかまとまらない交渉にイライラしていた不満もあって、
言わなくてもいい皮肉を野次へと返してしまい。
■ジーク > 返事待ちの間に並んでいる物を覗いてみれば、興味がない鉱石に対して、目利きが出来るわけでもないこの男には、れもこれもそこらで拾ってきた石ころにしか見えなかった。
戯れに値札を覗いてみれば、果たしてどの程度の金額が書かれていようか。値札がなければ、店主に直接尋ねてみるとしよう。ほら、それこそ少女がまさに手にしている石だとか。
「部外者って。まあ、そうなんだけどな。どうでもいいけど、そんなに欲しいって値切ってる最中に言うの良くないぜ? 下げなくても買うって思われちまうからな」
不機嫌そうな返しには苦笑交じりに。余裕がねえなぁと思いながら、交渉のいろはを軽くアドバイス気味に。相手と違い、こちらは余裕があるのだ。主に懐に。懐の余裕は、そのまま気分の大きさへと直接繋がるものである。
「イミテーションでも何でも、見た目さえよけりゃ取り合えず良いんじゃあないのか。お前さんくらいの年齢なら猶更。
つか、逆に言うとその辺の石ころみたいなそれは、ケーキよりよっぽど良いもんってことなのか」
ほうほうと返ってきた言葉に偏見に満ちた意見を述べながら。逆に、しっかりと目利きが出来るらしいこの少女が関心を持っている商品、というものに対して興味が出て来てしまった。
■アニス > 年端も行かない小娘に、こんな物言いをされたら大抵はカチンとくるだろう。
それが男のような傭兵や冒険者となればなおのこと。
にも拘わらず、こちらの皮肉を受け流す様子に、「あれ?」と意外そうな表情を浮かべ。
「むぅぅ~~~っ 知ってますぅ! 分かってますーっ!」
自分でも自覚していることを、物のズバリにブスリと突き刺してくる相手に、地団太を踏む。
けれども、何か反論できるわけでもなくて。ふたつに結った髪の毛を猫のように逆立てて。
「えぇ、紛い物の装飾品より、富裕地区のパティスリーの絶品タルトより、良いものなんです。
ほら、店主さん。この無知な傭兵さんに、この石の価値を言ってやってください!」
腰に手をやって、男の方へと向き直る少女。
身に纏う服装は知るものが見れば、王立学院の生徒だとすぐに知れるだろうか。
そんなことは露とも知らない店主のほうはと言えば――
『いや、まぁ……変わった模様の石だもんで置いとるだけでな。
とはいえ、他じゃ見られんもんだから、その値段ちゅーわけじゃ。』
そんな身も蓋もない答えに、少女の方が唖然としてしまい。
■ジーク > こちらの反応が思っていたのと違ったらしく、意外そうな表情を浮かべる少女の様子に、ははぁんと察する。さてはこの娘、一時の感情のままに行動するタイプと見た。それでいて、根は随分とまっすぐらしい。
「わかってんだったら、なおさらもうちょっと考えて交渉しろよ。なぁ?」
思わず、絡まれている店主に同意を求めてしまう。
怒りに身を任せて地団駄を踏み、暴れて見せる少女の様子には怯えを覚えるどころか、正直面白くなってきていた。
勢いよく店主に解説を任せようとすれば、さてどんな代物なのかと若干身構えて聞く姿勢を取った、が――。
「おぉい」
思わず呆れ交じりにツッコミを入れる、が。
少女の服装は、記憶が確かなら王立学院のそれだ。となれば、まるきりただの石ころ、というわけでもないのだろう。
――それなら、と。にやりと笑みを浮かべて。
少女が唖然としている隙に、店主に声を掛けてしまおう。
「ぶっは! なんだ、結局ただの石ころなんじゃあないか。どんだけ価値のある代物なのかと期待したってのに、まったくよぉ。
けどまぁ、笑わせてもらったしな。おいおっさん、俺がその石、買ってやるよ。幾らだ?」
大げさに笑って見せて、機嫌も良さそうに。芸を見てチップを支払うような調子で、購入の意思を伝えて。
■アニス > 「えぇーっ! ちょっとおじさん! これだけ鉱石ばかり取り扱ってて、この石のこと分からないの!?」
まさかの答えに男が突っ込みを入れるよりも先に、店主に飛び掛からんばかりの勢いで振り向いた少女の怒声が響く。
『そんなこと言われてもな』と苦笑まじりの店主に、これまでの必死の交渉は何だったのかと頬を膨らませる。
とはいえ、諦めきれるわけでもないから、再度、交渉を持ちかけようとしたところで、またも横槍が。
「ちょ、ちょっと! 後から来て、人の獲物を横取りするなんて、ゴブリンよりも質が悪くない!?」
少女からは、当然のごとく非難の抗議が上がるけれど。
店主としてはより高く売れたほうが良いに決まっているわけで。
示されたのは、高級宿屋1泊分相当の値段だった。
冒険者が泊まるような宿なら軽く半月は食事付きで泊まれるだろうもの。
身なりからして、揶揄でそんな大金を支払うとは思えない。
けれど万が一のことがあってはたまらないと、危機感を感じた少女が取った行動。
それは決してブツは渡さないとばかりに、両手で胸元に抱えてしゃがみ込むという子どもじみたもので。
「絶対渡さないんだから! ほら、さっき言ってた値段で買うから!」
長時間にわたる激戦の末に8割にまで下げさせた値段で先に買い取ってしまおうと店主の方を見上げ。
■ジーク > 少女が怒り交じりに店主に食って掛かる様子を見れば、ただの石でないだろうという予想は半ば確信へと変わる、が。
それを表に出してしまえば、それこそ先ほど少女に言った通りに交渉に置いて得策ではないのだ。
「わはは」
なので、あくまでも面白いと思ったから、ただそれだけの理由で購入をしようとしていると、店主には思っておいて貰おう。少女の非難の声に笑って返し、あくまでただの酔狂で購入しようとしている、という体を取って。
「――って、たっけぇなおい」
いやそれにしたって。提示された金額は想定よりよほど高かった。よほど高かったのだが、この少女はその金額でも購入の意思を持った、ということはそれだけの価値がある……と、いうことだろう。
幸か不幸か、払い切れるだけの金額は、懐に入ってしまっている。
「流石にぼったくりだろそんなん。さっき言ってた値段ってのはいくらなんだ? あー、そんじゃあ。それに多少色を付けるからこんくらいでどうだ?」
どうやら交渉自体はそれなりに進んでいたらしい。耳聡く少女の発言を拾い、どの程度まで値下げに譲歩したのかを聞き出して、およそ8割5分程度の金額を提示して、実際に即金で支払えることを示してみようか。
■アニス > 『そこはこっちの言い値を出してくれるところじゃないのかね』
くくく、と男の反応に店主が悪い顔をする。
とはいえ、売れると思っていなかったものがそれだけの値段で売れるのだから、店主としては儲けもの。
鷹揚に頷いて見せると、手を出して見せる。
そんな大人二人の様子に、少女はと言えば徹底抗戦の構えを見せる。
つまりは、亀のように丸まって、ブツを死守するわけで。
「くぅ……お財布にもうちょっと余裕があれば……
ちょっと! こんな石っころを買ってどうするつもりなの? 使い道なんてないんでしょ!」
傭兵からしてみたら、ただの石ころに違いないはず。
決して石を離すまいとしながら、顔だけちらりと振り返って抗議を続け。
けれども、汚い大人の間で金銭のやり取りが済んでしまえば、少女には何の権利もなくなるわけで。
■ジーク > 「おいおい、いいのかおっさん。別に俺は手を引いたっていいんだぜ?」
相手の反応に焦りも見せず、そしたらそこの小娘に売ることになるだけだぞ、と笑って返して。
案の定こちらの提示した金額で満足らしい。手が出てくれば懐から取り出した革袋をぽんと手の上に載せて、交渉成立と行こうか。
その横で亀のオブジェになってる少女の様子はなんというか、正直だいぶ面白いと思っている。
「ん-? まあなんか、話の種くらいにはなるだろ? 後、面白かったのは実際にそうだしな」
少女の問いには曖昧に答えて。購入を済ませてしまえば、さて。晴れてその石の所有権は、この男に移ることとなるだろう。
■アニス > 「うぅ……夜道には気をつけなさいよ!」
これ以上、ここで粘ってみても、警備兵でも呼ばれたらお縄についてしまうのはこちらの方で。
最後の悪あがきとばかりに、えいやっ!と石を男の方へと投げつける。
渾身の力で投げつけられたそれは、そうはいっても少女の細腕でのこと。
戦場で飛び交う弓矢や魔法に比べれば、それは緩く放物線を描くものでしかない。
その行く末を見届けることもなく、くるりと男に背を向けると、どう考えても悪人風の捨て台詞を吐いて走り去る。
足だけは速いらしく、あっという間に小さくなっていく後ろ姿だけれど、それを視線で追っていれば、途中で盛大にこけたのが見て取れるかもしれず―――
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からアニスさんが去りました。
■ジーク > 「おおっと」
投げつけられた石を余裕でキャッチして。
危ないなと文句を言う間もなく走り去る様子に呆れ交じりに笑い、店主と目を交わし合い。
「あーあ。さて、っと」
走り去る様子とその方向を確認し、転ぶのを見れば呆れた様に言って。その後を、追い掛けるとしようか。
『本命』の交渉は、これからなのだ。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からジークさんが去りました。