2022/05/06 のログ
■セリアス > 返ってきた答えは、想像通りでもあり。
しかし見目の悪いわけではない彼女にそういう経験が無いのは、
逆に何か原因があるのではとも思うが。
もしかしたら、彼女の保護者なりに権力者がいるとか。
そんな可能性も思い浮かべながら、腿に手を当て、其処を軽く撫でるようにするのは止めない。
「もちろん、学院に多く魅力的な方がいらっしゃるのは解りますが。
貴女も比較して劣るとは思いませんがねぇ」
赤い眼で、彼女の全身から、顔まで眺めて。
彼女の言う、魅力的な娘たちと比べてもきちんと惹かれるものがあると告げる。
しっかりと彼女のピンクの瞳を真っ直ぐ見つめながら。
此方の意図を、先程までよりはっきりと言葉にしての反応は。
想定したものと違い、随分と冷静なもので。
むしろ、期待通りでなくても品物は貰えるのかというようなふうに聞こえる。
「……え、ええ。ええ。……此方としても、これも『契約』と思っておりますから。
それを後から違えることは、致しませんとも。」
商人としての矜持か。戸惑ったのは彼女の反応が想定外のものであったことにだけで。
男の言葉を信用されるかは分からないが、少なくとも真摯な物言いで応えた。
■シュトリ > 「それは……どうも……。」
容姿を褒められ、悪い気はしない。
ぺこりと、頭を下げて素っ気ない言葉を返す。
「……ふむ。」
仕事の内容は、理解した。
これから彼に身体を捧げて満足させれば良いのだ、と。
さて、ここで少し思案にくれる。
経験も知識も無い自分で、彼を満足させられるだろうか。
それに、初めての経験を前に、少し躊躇や戸惑いを感じている事も確かだ。
……けど、これも良い機会、良い経験だろう。
彼も信用できる人間だと思う。
無理やり行為に及ぶ事もなく、こうして下心を包み隠さず打ち明けたのだから。
率直に求められるのは、悪い気はしない。
それに、実を言えばこうした行為への興味が無かった訳ではない。
皆がああも夢中になる、男女の営みという物は、
一体どんな感じなのか……体験してみたいとは、思っていた。
「分かりました。
よろしくお願いします、セリアス先生。」
しばらく考えに耽った後、
セリアスの目をじっと見つめて返事を返す。
「なにぶん心得が無いので……
……手ほどき、よろしくおねがいしますね。」
などと、積極的な意欲を見せつつ。
■セリアス > 褒めれば素直に頷く彼女。弱みに付け込むような話のはずが、
いつの間にか口説くようなことをしている自分に苦笑いが浮かぶ。
尤も、嫌々ながらに受け入れる、でもなく。
はっきりと拒絶されたなら試供品のほうを勧める心積もりではあったが。
それどころか、彼女に講義をしたこともないのに。
此れからの行為のことを、学用品の確保の対価どころか。
まるで、課外授業のように、此方を先生と呼び、手ほどきをと告げ来る少女。
此れはこれで。この国に生きる者の資質なのだろうと。口元に笑みを浮かべて。
「まぁ、私も他人にこういったことを手解きするよぅなほどの手管はありませんが」
太腿に触れさせていた手を、そっと彼女の頬に添えようとし。
「折角ですので。お互い楽しめるよぅ、務めましょう。
……口づけは避けた方が宜しいですかねぇ?」
へらりと、相好を崩して。
そっと、頬から耳元まで撫でるようにする。
彼女が経験がないのなら、キスも特別に思っているかもしれないと。
それを避けるかどうか問う辺り、男も大概に悪人としては半端でもあるか。
■シュトリ > 「そうなのですか?」
謙遜するセリアスに首を傾げ……
「この様な形で生徒……客を誘ってくる男の人は、
それなりに好色で心得も普通以上だと考えられますが……。」
と、真っ当かつ身も蓋も無い考えを述べる。
「……ん。」
顔の輪郭をなぞるようにしてその手で触れられると、
くすぐったいが、それだけではない感情も薄っすらと自覚する。
「……?
こういう行為は、むしろ口づけから始めていく物だと思っていました。」
きょとん、と、意外そうな顔をする。
という事は、別にキスに躊躇も無いのだろう。
「何か、私に気遣って下さったのでしょうか?
……それは嬉しいです。
が、契約では先生を愉しませる事が目的ですので、先生のしたい様にして下さい。」
セリアスの気遣いにふと気づいた様子。
しかし、その気遣いも不要、と。
「本音を言えば、せっかくですので私も経験出来る事はしてみたいです。
……ですので。
キス、お願いします。」
さらには自分から、積極的に望んでくるのであった。
■セリアス > 「好色、なのはまぁ否定しませんがね」
自分で色事が得意と、公言するほど自惚れはなく。
例えそう思っていても、口にするようでは格好もつかないと。
そんな風に思っていれば、彼女の言には頷きつつ。心得については深くは語らない。
耳元までくすぐれば確りと、小さくはあれど漏れる声に。
不感であったりするわけでなさそうならばと赤い瞳で彼女の反応を観察する。
口付けについても、特に忌避は無いらしい。
それどころか、此方の意図を汲んで礼を告げてくる様に。
面映ゆいような感覚を覚えれば、口元をわずかに歪めて。
「……そぅですか。なら、遠慮なく」
そっと、彼女の顎に指を添えて。わずかに頤を反らさせるようにすれば。
ゆっくりと、顔を寄せて。唇を重ねていく。
柔らかな感触の彼女の唇に自身の口唇を押し当てて。
ちゅ、と、僅かなノイズを鳴らしてから、唇を離す。
経験したことが無いらしいそれに対する、彼女の反応を見るように、直ぐ傍に顔を寄せたままでいて。
■シュトリ > 「………っ。」
こちらから口づけを所望すれば、
顎に指を添えられて顔をセリアスの方に向けられる。
なんだろうか、彼の赤い瞳に真っすぐ見つめられ、胸の鼓動が急に早くなるのを感じる。
間を置かずに近づけられる顔。
そして、軽く水音を響かせ、唇同士が触れ合う。
「………ん。」
柔らかな感触が、甘く思考を蝕んで行く。
……なるほど。
唇を触れ合わせるこの行為が、男女間で特別な意味を帯びる理由も分かる気がする。
彼が私を気遣い躊躇したのも初めてのコレは特別な時にとっておくべき、という意味だったのか。
……でも、今これを経験できた事に特に後悔は無い。
……などと思考を巡らせていると、一旦唇が離れる。
「あー……。
なかなか、刺激的なものですね。
キスと言うのは。」
セリアスと見つめ合いながら、
感想を淡々と述べる。
■セリアス > 唇を離してから、視線を合わせていれば告げられる感想に。
彼女の方も其れなりに、お気に召したらしく、
口付けの余韻を幾らか味わっていたように見えて。
ふふ、と口端から零れるような笑みを聞かせる。
「ええ、ええ。刺激的で、個人的には……とても好ましい行為ですよ」
そう告げれば、ゆっくりとまた、顔を寄せていく。
今度は、自身の口唇で彼女の唇を撫でるように、はくり、と。
柔らかく、食むように擦り合わせて。
彼女の上唇へと吸い付き、また、リップノイズを聞かせる。
そのまま緩やかに、けれどしっかりと唇を重ねる行為を続けて。
時折、唇を離してはぁ、と吐息を漏らすのは、彼女にも呼吸するタイミングを知らせるよう。
口付けの授業をするように、口唇をすり合わせながら。
身体も、彼女を抱き寄せるようにして。少しずつ、互いに触れる面積を増やしていく。
触れる先の場所が何処であれ、彼女の身体に触れていることも忘れさせないように。
男の掌が、そろりそろりと、布越しに肌を撫でて。
■シュトリ > 「………は、ぅ。」
再び唇が触れ合う。
唇を食まれると、先ほど以上に鼓動が高鳴り、脳が蕩けていきそうになってしまう。
うまく呼吸ができず、息苦しい……
と思い始めた所で、息継ぎを促すように一旦唇が離れ……
なるほど、やはり彼の手解きは確かなモノだ。
初めてを、彼に教えを受けるのは間違って無さそうだ……。
などと思いながら、導かれるままに口づけに耽っていく。
耽っている内に、気づけば身体の色々な所を弄られていた。
敏感な部分へとその手が近づき、流石に多少の羞恥心が現れ始めたのを自覚する。
■セリアス > 一度で離れた先程とは違い、長く交える唇。
その合間に呼吸をすることを実践で教えながら。
彼女の背や、腰。臀部や、腿と。あちこちに触れながらキスを続け。
ゆっくりと唇を離して、一つ大きな息を吐き。
「……自分で慰めたりしたことはありますか?」
行為そのものを知らないわけではなかったようだが。
彼女の身体が、どのくらいの行為に経験があるかもわからない。
自分でしたことがあるのならば、好ましい個所もあるかもしれないと。
彼女の瞳を覗き込みながら、自慰行為の経験はあるかと問う。
そうする合間にも、布地越しに彼女の身体に触れたまま。
胸元に伸びる手が制服を留める釦に触れる。
彼女が厭わなければ、そのまま男の手で脱がされていくだろう。
■シュトリ > 「……あっ……はぁ……んっ。」
狭い部屋に、唇の触れ合う水音、少女の淫らな声が響く。
「……は、ふぅ……
……ごめん、なさい……少し、休憩を……。」
セリアスに断りを入れて、一時行為を止める。
つい、我を忘れて没頭してしまった。
流石に、刺激が強すぎる。
頭がおかしくなりそうだ、いや、既におかしいのかもしれない。
「えっ……。
自慰、というやつですか……?」
そこへ、彼から問われる。
卑猥な質問に戸惑いを覚えるが、正直に答えよう。
「えっと、1度だけ。
……つい最近。
よく分からなくて、すぐにやめてしまいましたが。」
正直に恥ずかしい経験を打ち明けると、
何故だが身体がぞくぞくとしてくる。
そうしていると、いつの間にか制服のボタンが外されていき……
彼に導かれるまま、少しずつ衣服を脱ぎ捨て、素肌を露わに……。
■セリアス > 口付けを続けるだけでも、口の端から甘く声を漏らし始める少女。
経験が無いと言っていたが、キスだけでも十二分に高揚しているのが解る。
案外、行為に対する素質で言えば、優秀なのかもしれないと思い。
「は、ァ。 ……息苦しいのも、気持ちよいでしょう?」
没頭して、呼吸すら儘ならないことも、含めて心地よいものと。
口唇を重ねる行為を殊更に好む男は、彼女にそう教えながら、自身の唇を軽く舐めて見せて。
彼女の制服を丁寧に脱がしながら、問う質問に、
特に躊躇することなく応える彼女。
「ふむ……? 良く解らなくて、というのは、遣り方ですか?
それとも、自分で触れても、好くなりませんでしたか?」
彼女の衣装を脱ぎ落し、下着のみの姿にしてしまって。
真白い肌に、体躯のわりには育った胸元まで晒してしまう。
滑らかな其処に遠慮も無く視線を這わせながら、もっと詳しく、と。
一度しかないらしい、其れも最近らしい、自分を慰める行為について問う。
問いながら、再度彼女に寄せられる男の唇は。
彼女の口唇に、ではなく。顎に一度、触れて。
そのまま、彼女の首筋に顔を埋めるように寄せられ、晒された柔肌に柔らかに吸い付いていく。
■シュトリ > 「気持ちいい……。
なるほど、そうなのかも知れません。
おかしなものですね、苦しいし恥ずかしいですが、
もっと求めたくなってしまう。」
身体の奥から湧き上がる新鮮な感覚。
これが、俗にいう性の快感と言うものなのだろう。
なるほど、皆が虜になるのも頷ける。
これは、危険な快楽だ……。
自身に芽生えた新たな感覚を咀嚼しているうちに、
気付けば上着は全て剥きとられ、
心許ない薄手の下着のみの姿になってしまった。
男性に素肌を晒すのは無論初めて、なかなかに恥ずかしい。
「その、両方ですね。
やり方も良く分からなかったですし、
気持ちよさというのもあまり感じませんでした。
……少し怖かった、というのもあります。」
赤裸々に、その一回限りの自慰の経験を打ち明ける。
「割れ目を指で擦ったり、陰核を弄ったりしてみましたが……
……変な気分にはなってきました、が、あれが気持ちいいという事だったのか、良く分かりません。」
性器での快感というのは、どういう感覚なのだろう。
……あの時は分からなかったが、今日はその体験まで至れるのだろうか。
「……う、ぁ……
くすぐ、ったい……。」
自慰の経験を語っているうちに、
彼は素肌へと唇を落として行く。
とてもくすぐったい……が、それ以上に、何か別の感情が溢れてくる。
……彼の口づけに、興奮してしまっているのだろうか。
■セリアス > 口付けは大分、お気に召したらしい。
実際、行為中に唇を交えていると、互いの呼吸音ですら、興奮を煽る。
舌を交えていたりすれば、一層。
それを彼女に教え込んでいくのだと思えば、ぞくりと悦を覚えて。
彼女の自慰行為についての経験談を聞きながら、肌へと唇を押し当てて。
擽ったいと言われてもかまわず。ちゅ、と、時折唇にしたように音を鳴らす。
「ふむ。 ……私が触れて、きちんと感じていただければ、良いのですけれど」
殆ど、触れられる行為に経験が無いのが解れば、
この先の行為に、幾らかの不安も浮かぶけれど。
折角の経験を、叶うなら好いモノに仕上げていこうと。
一層丁寧に、今度は布地を通さず、直接その柔肌に触れていく。
そろりと。撫でるように、彼女の腿や、腰元へと指を這わせて。
……そうして、彼女との行為を続けてゆき。
少女がどのような感想を得るにしろ、男は望んだとおり、愉しんだのだろう。
その対価に当然、求める品々を提供して。
適うなら、さらなる対価を元に、特殊な学院外実習も、継続していくかもしれず……
■シュトリ > 「多分……私は、先生と触れ合って、感じているんだと思います。」
その手つき……愛撫というのだろう……や、口づけに、確かに興奮している。
このぞくぞくとした刺激は、快感と言っていいのだろう。
確かに、自分はこの行為に感じているのだ。
そして、その後少女はセリアスと共に行為を進め、
様々な「初めて」を経験した。
新たに得たこの経験をきっかけに、その後彼女に性愛の世界を広げていく事となる……。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/雑貨商店」からシュトリさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/雑貨商店」からセリアスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミンティさんが現れました。
■ミンティ > 届け物を終えた帰り道。大通りをのろのろと歩きながら、ときどき額に手の甲を添える。お昼前の日差しが思っていたよりも強くて身体が火照る。出かける前にも上着はいらなそうだと思って置いてきたけれど、これなら半袖のブラウスでもよかったかもしれない。
まわりを見ると、重い荷物を運んでいる労働者の人は汗を浮かべていたり、上着を脱いで脇に抱えている通行人の姿もあった。
このまま、まっすぐ帰ろうかと考えていたけれど、冷たいものでも飲みにいくか、どこかに涼みに行きたい誘惑にもかられて。
ふらふらした足取りは、帰宅の方向に進んだり、寄り道の方向に舵を取りそうになったりと優柔不断な動きを繰り返す。
「家になにか…あったかな……」
寄り道の代わりになるものがあればと首を捻ったけれど思い浮かばない。そろそろ暑い日も増えてくるだろうから、せめて涼を取れるものくらい備えておくようにしようと心に決めて。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にエイブラさんが現れました。
■エイブラ > <<場所移動致します>>
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からエイブラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にエイブラさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からエイブラさんが去りました。
■ミンティ > 何度か誘惑にかられながらも、しっかり店番をしないと、と自分に言い聞かせる。それでも途中、冷たい飲み物を売っていた屋台にだけは足を止めてしまったりもしたけれど、額の熱をさましながら、大通りの向こうへと歩いていって…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミンティさんが現れました。
■ミンティ > 【お相手さま急用につき再入室です】
■ミンティ > のろのろとした足取りは大通りから離れ、すこし静かな通りにある商店街までやってきていた。顔見知りとすれ違うたびに会釈をしたり、短い世間話をしたりして、そうするうちに任されているお店まで到着。
開錠して扉を開くと、店内からはむわっと、言いようのない熱気。古い道具やよくわからない品物をおさめた商品棚がずらりと並んでいるから、換気には気をつけていても、熱がこもりやすい。
その熱気に押されたように後ずさりしつつ、この中で今から店番をするのかと思うと憂鬱な面持ち。どうしようと悩みながら、とりあえずお店の前に並べた鉢植えの様子を確かめたみたりする。
「…そろそろ…植え替えかな…」
植木鉢の中では窮屈そうな植物の成長を見て、庭に移してあげた方がいいかと考える。
そんな風に、古物店の前でしゃがみこんでいる姿はおかしなものだったかもしれない。けれど、ここにいれば来客にも気がつけるだろうと考えて。
■ミンティ > 夏本番ほどではないにせよ、急にやってきた暑さには参ってしまう。普段はきっちりとするよう気をつけている服装だったけれど、ブラスのボタンを一つはずし、胸元の布を摘まんではたはたと動かし、服の中にこもった熱気を逃がす。
それだけでもすこし涼しくなった気がして、ふう、と息をこぼし。鉢植えを観察していた姿勢から腰を上げた。
そこでふと、店前の通りに水を巻けば、地面からの熱気がおさまって涼しくなると、以前に教わった事を思いだした。
ぱたぱたとお店の裏手に回ると、水を一杯いれたじょうろを手にして戻ってくる。こんなものでもいいんだろうかと悩みながらも、むわっと熱を立ち昇らせる地面に水まきを始めて。
■ミンティ > 水まきを終えて、じょうろを片付けて、しばらく待ってからお店の中に入ってみると、先ほどまでのような蒸し暑さも消えていた。開け放していた扉から流れこんだ風が、いい具合に換気をしてくれたのだろう。
息が詰まるような空気が和らいでいた事にほっとしつつ、入り口の掛札を準備中から営業中にひっくり返して、お店の奥へと消えていく…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミンティさんが現れました。
■ミンティ > もう初夏とはいえ、暑い一日だった。日が沈んだころ、最後のお客さまをお店の外まで見送り、一息。暗くなると外の空気も冷え始めていて、この時間なら上着をはおっていてもいいかと思う。
腕をさすりながら、店先に陳列していた立て看板なんかを店内に戻す。大通りからは離れたところにある商店街、他のお店も仕事を終えたらしく、お酒を飲みにいく人たちや、これから家族で過ごす仕度をしている人の姿がちらほら。
「…どうしようかな…」
明日は仕事の予定もない。家でのんびりしようか、街に出て過ごそうかと小首をかしげ。蒸し暑い店内での店番だったから、外へ行くなら冷たい、さっぱりするものを食べようかなんて、表の入り口を閉めながら考える。
■ミンティ > しばし考えた末に、店内に戻り、小さな鞄に財布と必要なものだけ詰めて、また外へ。頑張ったと思う日くらいは自分を労ってもいいだろうと、静かになった商店街をのろのろと歩きはじめる。
明かりがともった窓からは団らん中の家族の声や、早くも宴会を始めているらしい声が聞こえてくる。
賑やかな場所はあまり得意ではないけれど、今日はなんとなくそれもいいかと思えて大通りの方へ。進むにつれて人通りも多くなり、酒場や冒険者向けの宿が多いところまでやってくると、夜でもまだ賑やかな光景が広がった。
「あ…、す、すみません…」
どこへ行こうかなと、きょろきょろしながら歩いていると、酒場から出てきた人とぶつかりそうになる。危ういところで足を止め、頭を下げて。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にイェンさんが現れました。
■イェン > (今宵は夕食を外で取るべく日の暮れた大通りを歩いていたイェン。その目の前、曲がり角から現れた小躯に紫水晶が引き寄せられた。理由は恐らく目にも鮮やかなピンクの艶髪。そして、表情を見るまでもなく伺える気弱げで儚げな風情だろう。何となく気になる後ろ姿なのだ。あちこちに向けられる眼鏡の翠瞳も危なっかしく)
「―――あぁ…っ! ――――……ふう。本当に危なっかしい。 このような義理など無いはずなのですが……」
(千鳥足の酔っ払いにぶつかられそうになり、ぺこぺこと頭を下げるその姿にどうしようもなく庇護欲を刺激された留学生は――――す……と彼女の隣に並び立つ。何を言うでもなく、朱化粧に彩られた紫水晶を向けるでもなく、ただ、桃色髪の小躯の隣に。彼女が歩き始めたならばこちらもストッキングの黒脚を踏み出し、彼女が止まるのであればこちらも細身をぴたりと止める。酔っ払いが近付くのならさり気なく彼女の前方へと回って男の進路を反らし、それが終わればまた彼女の隣へと。)
■ミンティ > 酒場から出てきた人にぶつかりそうになる。そのタイミングで絡まれるかどうかは今までの経験から半々。そのままどこかへ連れ去られるのが、更に半々といったところ。そうならないよう、ぺこぺこと頭を下げながら、誠心誠意の謝罪をして、どうやら今回は許されたらしい。
何事かとこちらを見る野次馬の人たちにも、お騒がせしましたと頭を下げて、それから移動を開始する。小さいとはいえ騒ぎになってしまうと、近くの店には入りづらく思えて。
「…ん……」
あまり多くの店に馴染んではいないから、気楽に入れるような場所も限られる。
その中から、どこへ行こうかと考える。先ほどの事もあったから、まわりに人がいないかも用心して。
そこで気がついた。さっきから何度も同じ少女の姿が目につく。というか、隣に並び立たれていた。最初は気のせいだろうと考えたのだけれど、立ち止まるたびに、少女も立ち止まっている。
歩きだせば、またついてこられて。次第に顔が青ざめはじめた。
気が強そうな、異国風の雰囲気を漂わせる少女。何度か顔を確認したけれど、知人ではなく。無言でついてこられる理由も思い浮かばず、だんだん涙目に、早足になって。
■イェン > 「――――――っ!」
(さり気なくボディガードを買って出た小柄な少女の足取りが急にペースアップする。一体何がと困惑しつつ切れ長の双眸が油断なく周囲を見回し、彼女に害意を持つ悪漢の姿を探しながら早足についていく。自分の双眸が気弱な相手を怖がらせる事もあると経験則で知っていたイェンは、桃色髪の少女―――実際には彼女の方が少しだけ年上なのだが身長差と頼りない風情から年下と判断していた―――には極力目を向けぬ様にしていたものだから、彼女の翠瞳に滲む怯えの色にも気付けぬまま。もしも彼女の涙目に気付いていたなら、大慌ての弁明と共に理由の分からぬときめきにきゅんっと豊胸を貫かれていたかも知れないけれど。ともあれ、彼女が早足を続けるのならば、周囲の視線を惹きつける少女二人の追いかけっこが始まろうか。片や背筋の伸びが武人めくポニーテールとプリーツスカートのはためきも絵になる女学生、片や不安げな童顔が庇護欲と嗜虐を煽ってならぬ小躯の商店主。酔っ払いの目にはさぞや好奇を擽る見世物となるだろう。)
■ミンティ > なにかと因縁をつけられては暗がりに引きずりこまれたり、お誘いというには強引な口説き方でどこかの宿に連れ去られたりという事なら何度となくあった。その場合の相手は大体異性で、稀に同性に目をつけられる事もありはしたけれど、今回のようなケースは経験にない。
口説いてくるでもなく、お金をせびってくるでもなく、ただ無言でついてくる。同じ年、しっかりした印象から年上だろうか。そんな少女に追い回される理由がわからない。
日常のどこかで知らない間に不興や恨みを買うような事をしてしまったのだろうかと思うと怖くて仕方がなく、早足は、やがて小走りに。
「……は、…はっ……はっ……、は…っ……」
運動は苦手だから、すぐに息が上がってくる。足がもつれて、いつ転んでもおかしくない、不安定な走り方。
仕事上がりで宿を探す冒険者や、酒場に向かう人も多い時間だから、当然何度も通行人とぶつかりそうになって、そのたびに謝罪をしては、また逃げ出す。ボディガード気分の少女にとっては、よけいに危なっかしい様子を見せてしまって。
■イェン > 「――――ッく! ………ふうッ。 ――――ィやッ」
(ついに始まってしまった呑み屋街での追いかけっこ。弱々しい見た目を裏切らぬ運動音痴っぷりにイェンは心底不安になる。案の定転びそうになるのをさり気なく背布を引いてフォローしたり、これはぶつかったら喧嘩になるだろうという相手との衝突に割って入って軽い靠にて押しのけたり。小声とは言え気合を漏らす場面も増えて、イェンの中ではこれはもう新手の鍛錬めいて来ていた。彼女は一体何から逃げているのか。イェンの目には捉えられぬ何かを彼女は見ているとでも言うのだろうか。勢いよく流れゆく背景の中、ちらりと落した紫水晶が目にしたのは今にも泣きだしそうな翠の涙目。どすっとときめきに豊乳を貫かれつつ、しかし、エメラルドを思わせる瞳の神秘にはなるほどと思う。この眼であればイェンの見えぬ《何か》が見えていたとて不思議はない。その場合は体術ではなく、魔術の出番となるだろう。しかし、イェンの使える魔術は斯様に人の密集する場で振るうには適さぬ物。ひと気のない通りへと誘導した方が良いかも知れない。単なるお節介から始まった追いかけっこは、二人の少女の思惑を超えて妙な展開への流れを見せ始めていた。無論、彼女がここで足を止めたのならば、互いの勘違いを解消するきっかけもでき、平和裏に二人で夕食を……なんて穏やかな流れも望めぬ事はないだろうが。)
■ミンティ > ここまでくると絶対に勘違いではないと思えてくる。いきなり目の前に割って入られて、それが自分を助けるための行動だと観察できればよかったけれど、行く先を封じられたとばかり勘違いして、急に走る方向を変える。
時には背中を引っ張られては、すぐに解放される。転ぶところを支えてものだったのだけれど、頭に浮かぶのは、食べる前の獲物を弄ぶ肉食獣の行動。
目を合わせての意思表示もなく、会話での説明も当然ない。ときどき探るような視線を注がれているのは気がついていたけれど、それが余計に恐怖を煽った。
「……っ、…!っ…ふ、……は…は……はッ、…っ…は……っ、…!」
息を切らせる合間に、何人か思い浮かんだ人の顔を吐息のような声で呼び、助けを求めたりもした。当然、そんなに都合よく該当する人物が現れる事もない。
自分でも比較的気軽に歩けるような場所はとうに通り過ぎて、気がつけば大人の街に近づいている。さらに余計なトラブルを招きかねない界隈にまで入りこみそうなところ、がくがくと震える膝が、もう走るのも限界だと訴えていた。
「……っ…、め…なさ……、ごめ…ん、なさぃ……っ」
最後に転びかけたところで、とうとう足を止めた。往来の真ん中であるのも忘れたように、その場にしゃがみこんで、小さな鞄で頭を隠す。
お金を盗られるのも、女として貪られるのも、慣れたくないけれど慣れてしまった。染みついた被害者経験の中、唯一あまり体験してこなかったのが暴力。
今回はとうとうそれかと思うと、縮こまりながら、涙声の謝罪を繰り返し。
■イェン > (スタミナが切れたのだろう。見るからにアクティブではなく余暇は一人静かに読書などを嗜むタイプ。そんな少女が走り始めればこうした結果に終わる事は目に見えていた。イェンとって予想外だったのは、気紛れに進路を変える彼女の誘導で娼館街の手前、先の呑み屋街などより遥かに治安の悪い一郭に入り込んでしまった事か。)
「―――――っ!? 何を謝っているのですか? やはり何か………《何か》が居る、という事なのですか……?」
(毛布の中に潜り込めば恐ろしいあれこれが消えてなくなると信じているかの少女の動き。蹲りただでさえ小さな身体を一層縮めて震える様子に、彼女を守らねば! という使命感さえ燃え上がらせるお節介は――――ぞぅん、ぞぅん、ぞぞんっと異音を響かせ闇の巨剣を召喚せしめた。その数は四。その一刀でさえ林立する建物を断砕するだろう威圧的な闇剣が、蹲る少女とその傍らに立つ留学生を中心として宙を舞い、何かが起きれば即座に元凶をたたっ斬らんと緊張感を漲らせる。幸いここはひと気の絶えた薄暗い路地裏だ。もう数メートルも駆ければ再び人の多い通りへ出る事も出来るが、そちらは扇情的な衣服であられもなく肌を露出する街娼と、彼女らとの爛れた一夜を買うべく訪れた男達のテリトリーだ。うわ言の様に涙声で謝り続ける少女と、無言で立ち尽くし何事にも即応出来る体制を整えた女学生。異様な緊迫感の満ちるその場を、娼館通りから漏れ聞こえる賑わいが場違いに通り過ぎていく。)
■ミンティ > その場に蹲って嵐が過ぎ去るのを待つような姿勢。孤児院のいじめっこが相手なら、これ以上は大人に叱られるからと諦めてくれる事もあった。
しかし少女は立ち去る様子もない。それどころか、こちらにとっては意味のわからない事を聞いてくる。なにかがいる、というのは、どういう事なのか。それとも自分が聞き間違えているのか。
「…ら、なぃ、……わたし、なにも…っ、しらない…です……っ……」
聞いたままだと理解ができなかったから、やはり間違いの可能性が大きい気がする。じゃあなにを尋ねられているのかと考えてみても、わからない事はわからないまま。
なにかしらの情報を聞き出そうとしているように思えたから、首を横に振りながら、中腰の姿勢で、また彼女から離れようとする。せめて、なるべく人のいる方向へと考えて路地からは脱して。
しゃがみながら移動しているような奇妙な姿勢に、ちらちらと視線を受けつつも、どうにか数メートルの距離は稼げたか。もし少女もこちらを追ってきていれば、まだ近い距離にいる可能性もあるけれど。
そうして逃げながら、あらためて相手の様子を窺い。
「ぁ……ぁ……、ぁ…っ」
暗がりに浮かぶ魔力の剣らしいものを見て、完全に腰が抜けてしまった。
がたがたと震えながら、その場におしりをついた。
暴力どころか、切り刻んで殺すつもりなのかと思える光景に怯えて目を見開き。
そして、汗よりも濃い体液の匂いが風に乗る。スカートにしみができたかと思えば、へたりこんでいる場所を中心に、じわじわと水溜まりが広がって。
■イェン > 「…………ッ。 ――――ご安心を。貴女の事は、私がきっと守り抜きましょう……!」
(あまりにも強い怯えがまともな問答を阻害しているのだろう。斯様に愛らしい少女をこれほどまでに怯えさせる《何か》に義憤が湧く。相手の姿も見えず、正体を探るヒントすら与えれない。当然、互いの戦力差を推し量る事もできぬのだから、ここは逃げの一手が正解だろう。しかし、最早腰が抜けたかのようになっている少女を置いて逃げるなんて事は、イェン・リールゥには出来なかった。何とか大通りに出ようとする少女の遅々たる動きをトレースし、じり…じり…っと後ずさり、切れ長の紫瞳を左右に走らせ巨剣を揺らす。そんな動きが意図せぬ偶然で、グォン。少女の眼前、ペンデュラムの如き剛風を伴い闇の巨刃が疾り抜けた。荒事慣れするゴロツキでさえ一気に戦意を喪失するだろう慮外の暴力に腰を抜かした少女から、場違いなせせらぎが聞こえてくる。)
「――――――?」
(ついつい見下ろすその先に、へたり込んだスカートに広がる色濃い液染みと、夜風に漂う仄かな恥臭。それが一体なんなのか思い至ってしまったイェンは)
「―――――あ……」
(思わず漏らした単音と共にぼっと赤らめた美貌を慌てて脇へと反らした。無論、少女の痴態を目の当たりにしたとて動き出せるはずも無し。あまりと言えばあまりに恥ずかしいだろうアンモニアのフレグランスの中、気詰まりな沈黙が今しばらく続く。)
「……………ど、どうやら、《何か》は去った様ですね。油断はなりませんが、ひと先ずの危難は免れたと見てよいでしょう」
(今にも少女の小躯を引き裂かんばかりであった禍々しい影四剣が幻の如く霧散する。後に残るは白皙を赤らめた美貌の留学生と、その足元で己の作り出した水溜まりにへたり込む小柄な商店主。イェンは訳も分からずどきどきしていた。庇護欲をそそる少女のお漏らしはイェンの中の開けてはいけない扉を開いていた。娼館通りを行く通行人の一人が少女の恥臭でも嗅ぎ取ったかこちらを見やり、怪訝な顔をして立ち去っていく。)
■ミンティ > 異国風の少女の言葉の使い方や発音に違和感はない。けれど、誤解が重なっている今の状況だと、実は違う国の言葉で話しているんじゃないかと思えてくる。
追い回していた当人から守ると言われても、なにがなんだかわからない。自分が誰かを困らせているから、その人を守りたいのかと、また新たな勘違い。
酒場が並んでいた通りほどではないものの、お国柄か、このあたりも人の行き来はすくなくない。そんな場で粗相をしてしまったけれど、命の危機かと思っている状況では、恥じらっている余裕もなく。
「…………っ」
空気を切り裂くように振るわれた剣のようなものが霧散する。こちらに暴力を振るう手段らしいものが消えた事で、身体の強張りがすこしだけ抜けていくのを感じたけれど、まだ油断ならない状況。
鞄で頭を隠す姿勢のまま、周囲からの視線も意に介さず、少女の行動を観察し。
「……も、もう、いい…ん、ですか…?あ、あの、…ご、ごめんなさ…ぃ、
わたし、あなたに、なにをしたのか、おぼえて……ない、けど…
お、お詫びになる事、でしたら……、お金でも、あの、持ってるだけ…出しますから…」
今までの気を張ったような雰囲気が薄れて、代わりに狼狽しているように見える少女。
こちらを追いかけ回して脅かすだけが目的だったのかと思いもしたけれど、やはりそうされる理由が思い当たらない。
とりあえず、今なら会話によって容赦を乞う事ができそうだと思うと、消え入りそうな声を懸命に押し出して、再度の謝罪に出た。ただ謝るわけではなく、今度は自分がなにに怯えているのか、恐怖の対象が少女自身だった事をようやく告げて。
■イェン > 「………………………、――――ん? んんっ???」
(あまりに可哀想な感じになってしまった桃髪少女。紫眼を向ける事もできず、かといって彼女を放置してどこかに行くなどという選択肢など存在せず、イェンはどの様にしてこの場を収めるのが正解かと思考を巡らせていた。そんな中、危険が去って最低限の落ち着きを取り戻せたのだろう彼女の若干震え交じりの声が聞こえてきた。そのことにほっとしつつも、その言葉の内容には仏頂面も長い睫毛を瞬かせた。すらりとした立ち姿がへたり込む少女を見下ろし、これまで微動だにしなかった柳眉を困惑に歪ませた。)
「――――え、えぇ……と。少し待って下さい。お金……? お詫び、ですか……?? い、いえ、貴女は私に何もしておりません。え、お金……??」
(困惑しきりである。もしかしたらまだ混乱しているのかも知れない。実際、先程の彼女の怯えようと言ったらなかった。場合によっては精神崩壊を起こしている可能性すらある。そう思いいったイェンは慌ててがばっとしゃがみ込み、ローファーが少女の温水に濡れるのも構わず身を寄せた。一層強く香る恥臭には頬の赤みが広がるけれど)
「あの……もう、大丈夫ですから。私は貴女の事情を存じ上げておりません。ですが、この非才を絞り出し、きっと貴女を守ると誓いましょう。安心してください。もう……大丈夫なのです……!」
(こういった時、人肌こそが千言よりも力を持つと聞く。僅かばかりの逡巡は、スカートに沁みた小水を忌避しての物などではなく、あまりに儚げな彼女を抱く力加減に迷いが出たから。それでもイェンは暗色のブレザーに包まれた双腕を伸ばし――――きゅ…っと小躯を抱き締めようとする。そこに在るのは曇りなき善意と笑い話にしかならぬ盛大な勘違い。彼女がその抱擁を受けるのならば、細身に見合わぬ豊かな膨らみの柔らかさと、ここまでの駆け足に弾む鼓動、そして青林檎を思わせる甘酸っぱい体臭にふわりと包み込まれる事となろうか。)
■ミンティ > 路地裏どころか、大通りの真ん中で辱められる人も多くないとはいえ見かける事がある。そんな土地柄ゆえか、漂わせている匂いに視線をひく事はあっても、言い寄ってこられないのは幸運だったのか。
いかにも気の強そうな少女が近くにいてくれるおかげで、そうした者を遠ざけてくれているのかもしれないけれど、その事には気がつかないまま。
こちらの謝罪にますます混乱されると、どうしていいかわからなくなる。もっと根本的に解決する問題があるのかと考えもしたけれど、やはり身に覚えがない。
「…だ、だって……、さ、さっきから、ずっと…、あと、つけて、きて…」
まさかボディガードをしてもらっていたなんて思いもよらなかった。
そんな親切な人が珍しいというのもあるけれど、見も知らぬ相手に無言で庇護してもらう理由が、そもそもわからない。世話をしてもらえば大金を出すような身なりをしているとも思えないから、こちらもますます困惑を深める。
とりあえず、自分が彼女の、どんな行動に怯えていたのかを、ありったけの勇気を振り絞りながら伝えようとしてみて。
「ひッ……、――――~~ッ……!」
なにかと被害者の立場になりがちだから、守ってもらえるというのは本来ならば、ありがたい話。ただしそれは、せめて一言かけてもらえたらという条件つき。
危なっかしいから一緒に歩いてあげようとでも言われていたなら感謝したかもしれないけれど、無言でついてきた人物からの庇護宣言をどう受け止めたらいいのかわからない。
そんな状態で優しく抱き締められたから、引き攣るような声の悲鳴をこぼし、ぎくんと身体を強張らせ。
蒸し暑い店内で店番を続けた一日だったせいか、数秒後、またじわじわと水溜まりが広がって。こちらを落ち着かせようとしてくれている少女まで、よけいに汚してしまうかもしれない。
それでもまだ抱き締めてもらえるようなら、人のぬくもりと、それ以上の危害を加えてくる様子がない事をようやく理解して、すこしずつ緊張が解けてくるかもしれず。
■イェン > 「――――ええ。 ……ええ。そうですね、それはさぞ恐ろしい事でしょう……」
(うるり。たどたどしいセリフに仏頂面の紫瞳が潤む。確かに、正体不明の《何か》―――恐らくは彼女の《翠眼》にしか見えないモノに延々と追いかけ回されるというのは死ぬほど恐ろしい体験だろう。イェンの様に戦う力を持つ者なればまだしも、どう贔屓目に見たとて彼女にその手のスキルは無さそうなのだし。無論、絶妙な勘違いが、《何か》=イェンである事に気付かせてくれない。小柄な店主のありったけの勇気が盛大な空振りを生むのは、察しの悪い留学生のせいである。もしかしたらそこに、帝国語と王国語の微妙な齟齬があったという可能性も無くはない……ゼロではないはずだ!)
「大丈夫………大丈夫です……。力を抜いて、身を任せて下さい」
(抱き締めた小躯が跳ね竦む。恐怖の余韻が未だ色濃く残っているのだろう。後ろに回した繊手が優しく彼女の背筋を撫で、強張りを溶かそうと試みる。再び控えめに響くせせらぎの音と、地面についたストッキングの膝に染み込む生温かには必死で気付かぬふり。ついでに美少女のお漏らしと言う非日常に感じる妖しい愉悦からも必死で目を背けておく。少女の膀胱からすっかり出す物がなくなる頃、がちがちに固まっていた小躯から程よく力みが抜けたのを確認し、イェンは柔らかな抱擁を解いた。額と額が触れ合うくらいの距離感で、冷淡な美貌が精一杯に優しげな気遣いをほのかに滲ませつつ)
「―――――落ち着きましたか?」
(繊手の髪撫でを伴いつつ問いかけた。1年とは言え人生の先輩であり、社会人としては数年の差があるだろう独り立ちした少女に対する完全なる年下扱いであった。)
■ミンティ > なにに怯えていたのかを伝えてみたら、さぞ怖かっただろうと返されて、頭の中には疑問符が浮かんだ。
受け答えをあらためて偶の中で繰り返してみると、怖がらせるために追っかけてきていたのかと思える。けれど、そんな事をする理由が、少女にあるようにも思えない。
幼いころは、虫を手にした男の子にそんな理由で追い回されたりもしたけれど、さすがにあのころの子どもと少女が同じ精神を持っているとは考えられない。
「……は、はぃ。…落ち着き、ました……けど……」
まだ完全にとは言いづらいけれど、緊張が解けてくると、こんな人通りのある場所で粗相をしてしまった情けなさが、今さらになって襲ってくる。
鞄を胸に抱くと、ぎゅっと足を閉じて、隠しようもないスカートのしみを、小さい片手でどうにか覆いたがる。
そんな風に気まずい思いをしている間にも、少女からは優しい声がかけられ続けていた。
別のなにかに怯えていたのが真実なら、これほどありがたい話もなかっただろう。しかし、加害者としか認識できていない相手から宥められると、どうしていいのかわからない。
「あ、あの……、もし、誰かに、おどかすように、頼まれた…の、でしたら…
その、その人に、わたしがなにか、悪い事をしてしまったの、でしたら…
ちゃんと、謝りますから、……もう、…怖い事は、しないでと……頼んで…いただけませんか…?」
少女の目的が自分を怯えさせる事だとして、どうしてそんな事をしたのか必死に考えた。
考えに考え抜いた末、誰かの依頼でそうしたのだろうという結論が、一番しっくりとくる。
意図して誰かを困らせるような事はしていないつもりだけれど、やたらと臆病なせいで不興を買う可能性もすくなくないし、自分だって商人のはしくれなのだから、気づかないうちに仕事の関係で恨みを買っていたのかもしれない。
宥めてくれる気づかいは嘘のように思えなかったから、この少女なら聞き入れてくれるかもしれないと考え、本当は存在もしない依頼主への交渉をお願いして。
■イェン > 「―――――………んんっ??」
(恐怖のあまりおかしなことを口走ってしまったのだろう。先はその様にして納得したが、今度こそ落ち着いたかに見える彼女からまたしてもおかしなセリフを口にされ、留学生の美貌に再びの困惑が浮き上がった。桃色髪に手を乗せて、もう一方の手は彼女の肩に沿えたまま、にゅにゅにゅと眉根を寄せた仏頂面がしばしの間沈思を見せる。 ――――えっ!?)
「まっ………よっ、えっ?? ちょ、少々、少々お待ちください。よもやとは思いますが………あ、貴女が怯えていた《何か》とは、わ、私の事、ではありませんよ……ね?」
(少女を安心させんと形作っていた慈母の無表情が、混乱と気まずさの複雑に混ざり合うポーカーフェイスに取って代わった。考えてみれば、たしかにそういう解釈も出来るかも知れない。イェンは彼女に無駄な気遣いをさせぬよう、恩着せがましい事など言わずに黙って護衛を買って出た。無言でぴたりと着いてくるイェンに、この人は一体なんなのだろうと疑問を抱く事はあるだろうと思う。そして、人一倍気弱そうな彼女には、それを問いただす勇気すらなかったのではないか。それ故に、足早に移動して正体不明の女学生から逃げ出そうとしたのだけれど、イェンはぴたりとそれに付いていった。彼女が息も絶え絶えになるほどの全力ダッシュを敢行してもなお、だ。かぁぁぁ…っと白皙に紅が広がっていく。一縷の望みを見つけるべく普段以上に真剣な眼力を備えた双眸が、じぃっと真正面から桃色髪の少女を見つめる。違うと言ってほしい。別の何かが怖かったのだと言ってほしい。 ―――が、ほぼ確信してしまった。彼女をおもらしするまで怯えさせたのは、勘違いも甚だしいお節介娘であったのだと。)
■ミンティ > 裸眼でなら本当に幽霊の一体でも見つけて、それに怯えるという事もあっただろう。けれどその瞳の力は眼鏡でおさえているから、自分の目にうつっていたのは彼女一人。
応答を繰り返すたびに、疑問ばかりふくらんでいく状況。頭を撫でられながらも、一体どういう事情でこんな風になっているのかを考える。
本当なら思考も放棄したいくらい怯えているものの、なにもわからないままでは気が気でなく、無事に解放されたとしても、びくびくしながら過ごさなければならないだろう。
そんな恐ろしい日々を迎える事だけは避けたくて、勇気を振り絞り、懇願した結果。また、少女の表情が変わっていく。
「っ…、わ、わたしを、追いかけてきてるのは……あなた、しか、いませんでした…」
真剣にこちらを見据える瞳に、また身体が強張りを取り戻した。気迫に負けて目を逸らし、おどおどしながらも、ここで無言ではいられないと、ふたたび見つめ返し。
彼女には自分に見えないなにかが見えていた、という可能性は頭になかった。なまじ目がよすぎるせいで、自らの見落としは意識の外。
気まずそうな顔を見ていると、追いかけ回された身ながら申し訳なさをおぼえてしまうけれど、しっかりとした理由を知りたくて、底をつきそうな勇気をあらためて振り絞る。
勇気を出すなら、最初の段階で、なにか用ですかと問いかけていればよかったのだろうけれど。すぐにそんな反応ができているなら、こんなに臆病な性格にもなっていない。
■イェン > 「~~~~~~~~ッ」
(この期に及んで尚どこか迂遠にイェンの問いを肯定したのは、これほどの目にあわされても相手に対して申し訳ないと考えてしまうのだろう彼女の自罰的な性格故なのだろう。とはいえ、流石のイェンでもようやく理解した。やはり、彼女をここまで追い込んでしまったのは己の無用な親切心と勘違いであったのだ。奇声を上げて逃げ出したい。そんな訳の分からぬ衝動を感じつつも、理解したのであればやる事は一つだ。潔く行こう。 ――――ただでさえ芯の通った背筋を伸ばし、長脚の作り出していた中腰が恥液の水溜まりの上で折り曲げた膝を合わせて座り込む。どこまでも真っすぐ少女の童顔を見つめていた美貌がす…っと地に落ちた。それを追う様に伸ばした純白の繊手が地を這いながら前方に差し出され)
「―――――申し訳ありませんでした」
(美しい、とさえ思える完璧な土下座でポニーテールの頭部を下げた。隙の一つも見当たらぬ所作は、本来無様であるはずの謝罪姿勢を、いっそそれを向けられた側の罪悪感を煽り立てる様な代物へと変貌させていた。堂々たる武人のふるまいに恥じ入る所は何もない――――かのようだが、ひっつめの黒髪から突き出た双耳は先っぽまで真っ赤に染まっていた。娼館通りの下卑た賑わいがやけに遠い。)