2022/04/29 のログ
ご案内:「平民地区 大衆食堂」にイェンさんが現れました。
イェン > 『イィィィラッセェェェイ!』『ゥラッセェェェエイイ!!』

(威嚇の怒号にしか聞こえぬ来客歓迎の定型句を耳にして、イェンはくるりと踵を返し他の店を探そうと思った。 ――――が、そんな留学生の鼻腔を擽ったのは暴力的なまでに食欲を掻き立てる匂い。改めて目弾きに彩られた双眸を巡らせる。油じみた店内に居並ぶ男、男、男、男、男男男男男男男男。どこもかしこも男しかいない。人足、冒険者、男子学生。客のみならず店員や料理人までもが悉くマッチョである事からも、過酷な労働、もしくは鍛錬で消費したカロリーを補うための食堂なのが丸わかりだった。しかし、安くて美味くて量も多いという噂に違わず、彼らのテーブルに乗せられた料理は山盛りで、大雑把な見た目に反して非常に美味しそうな匂いを漂わせている。今から寮に帰った所で食堂には碌な料理が残っていないだろう時間帯。朝からの冒険者仕事を終わらせて戻ったばかりの腹ペコ娘は入り口に立ち尽くしてしばし逡巡。薄っぺらなお腹がきゅぅぅん…っと捨てられた仔犬の如き鳴き声を発するに至って意を決したか―――といっても、先程からずっと変わらぬ冷淡なポーカーフェイスだが―――店内に細脚を踏み入れた。幸いにして入り口からほど近い場所に2人掛けのテーブル席が空いていたのでそこに腰を落ち着けて、ざっとメニューを確認し)

「――――唐揚げと焼き飯のセットを。………大盛でお願いします」

(日頃は徹底して摂取カロリーを抑える美少女は、たまの外食時にはハメを外すと決めている。人間、ずっと我慢し続ける事など不可能なのだ。どうせ周りはむくつけき男達ばかりなので、自分だって大盛の一つや二つ頼んだ所で罰は当たるまい。そんな開き直りもあってのきりりとした注文だったのだが、白皙の頬がほのかにピンクを滲ませるあたり、鉄面皮も年頃の乙女と言う事なのだろう。『唐飯セット大盛いっちょぉぉお!!!』『大盛アザーーーッス!!』 ………なんでこいつらはいちいち大声で叫ぶのか。嫌がらせか? 嫌がらせなのか!? なんて考えつつ赤みを増した仏頂面が居心地悪そうに俯いた。)

ご案内:「平民地区 大衆食堂」にヴィルヘルミナさんが現れました。
ヴィルヘルミナ > ヴィルヘルミナは貴族令嬢に似つかわしくないことに、平民地区を一人歩いていた。
何の用があるのかと言えば、その腰に下げた新品のショートソードである。
平民地区の、冒険者や傭兵向けの剣を作る鍛冶屋に依頼し、自分用のものを新調したのだ。
富裕地区にも鍛冶屋はいるが、普段は滅多に剣も振らないような貴族向けに装飾性の高い武器を作っている彼らの作品は値段も高いし実戦的でもない。
その点、平民地区には第一線で働く戦士向けの鍛冶屋があるのだ。

「ん……?」

頼んでいた剣を受け取って、ニコニコ顔で学院の寮への帰り道を歩いていたヴィルヘルミナは、
その道すがら、労働者や冒険者向けの大衆食堂の前に似つかわしくない人影を見つける。
その、ヴィルヘルミナの友人である少女は少し逡巡した後、食堂へと一人入っていく。

「……いやいやいやいや」

あんなところ、平民の少女一人で入ったら何をされるか分からないのでは?
ヴィルヘルミナは慌てて後を追いかけ、店内でイェンの姿を探し、彼女のいるテーブルに歩いて行く。

「はぁ…はぁ…き、奇遇ねイェン・リールゥ」

少々息を切らせながら、さも偶然を装って、確認もせずに向かいの椅子に座る。

イェン > (珍妙な動物でも見る様な視線を、または酒気によって遠慮の消えたいやらしい視線を全方位から浴びせられる居心地の悪さを、大盛周知の赤面も消えたイェンは涼しい顔で受け流す。とはいえ、まるで何も感じていないかの冷淡な美貌とは裏腹に、豊かな乳房の内側ではそれなりの居たたまれなさを感じてはいたのだけれど。なので、じっと真正面に向けられていた紫水晶の中、ぐいっと割り込むかのように視界に入り込んできた細身の制服と、ふわりと香る甘やかな芳香には驚いた。持ち上げた双眸が捉えたのは、この場にあまりに似つかわしくないツインテールの煌めき。ヴィルヘルミナ・フォン・ゾルドナー。イェンと同じ王立コクマー・ラジエル学院の生徒であり、ゾルドナー辺境伯家の愛娘でもある歴とした貴族令嬢だ。流石の鉄面皮も普段よりも大きくなった双眸を幾度か瞬かせ)

「――――ええ、本当に奇遇です。ヴィルヘルミナ・フォン・ゾルドナー様。まさか貴女の様なご令嬢が、この様な店を利用しようとは」

(返ってくるブーメランをがすがす食らいながらもぴくりとも動じぬポーカーフェイスが向かいに座るお嬢様に温度の感じられぬ言葉を投げた。内心では、自分でも驚くほどの安堵を感じながら。2人に増えた美少女に、客、店員を問わず小さなどよめきが広がっていく。)

「ここは良く利用する店――――という訳でもなさそうですね。となると、貴女も耳にした、という事でしょうか。この店の噂を……」

(この店で何やら良からぬ取引が秘密裏に行われており、イェンはそれを捜査するために潜入した捜査官。そんなバックストーリーが浮かぶのは、クソ真面目な仏頂面が怜悧な声音で問いかけたがため。実際に留学生が発したのは『うまい、安い、多いと評判のお店を男子学生の噂などから聞きつけて、貴女も食べに来たのですか?』というふわふわした日常会話である。)

ヴィルヘルミナ > 「噂…?え、えぇそうよ!噂を聞いて居ても立っても居られなかったのよ!」

この店は全然利用したことが無いし噂なんて聞いた事も無いが、
イェンの真剣な様子に、話を合わせる事にした。
周囲は男、男、男。男が8に女が自分達含め2。自分達以外の女は全員筋骨隆々の姉御やおばさんである。
何でこんな店に入ったのかと訝しみつつ、ヴィルヘルミナもメニューを眺める。
大衆食堂と言う割には馴染みの無い料理ばかりが並んでいたが、
ヴィルヘルミナでも想像のつく料理を見つけ、それを注文する。

「ええと、シュニッツェルを…」

『超ビッグビッグビッグドデカシュニッツェルッスねぇぇぇぇ!?』

「い、いや、普通のシュニッツェ…」

『超ビッグビッグビッグドデカシュニッツェルいっちょぉぉぉぉ!!!』

「聞きなさいよ!!」

頭を抱えながら、椅子に座り直す。お世辞にも少女が座るには硬くガタガタな椅子である。
何ともなしに、目の前の少女の鉄面皮に視線を戻す。

イェン > 「やはり、貴女も……。分かりますよ、ヴィルヘルミナ様。私も同じ想いでした。気にせぬ様にしていても、どうしても気になってしまう。これが乙女心という物なのでしょうか?」

(やはり変わらぬポーカーフェイスは勢い込んでこちらの問いを肯定する友人に若干ビビりつつも神妙に頷きを返した。血を吐く思いでカロリー摂取を抑えに抑えるイェンから見たとて見事なボディラインを維持する伯爵令嬢。そんな彼女だってやはり人間。たまに油ものとか食べたくなるに違いない。分かる。本当に良く分かる。友人への心の距離が一歩近づいた。親愛の滲む紫水晶が友人の美貌を見つめる中、どかどかと肩を怒らせ近付いてくる店員。友人とマッチョな店員の注文のやり取りには、思わずくすっと忍び笑いが漏れてしまった。慌てて口元を抑えて顔を背け、普段通りのポーカーフェイスを取り繕う。)

「大丈夫です、ヴィルヘルミナ様。この店で出される料理はどれもこれもかなりの量、かなりの大きさと聞き及んではおりますが、気付いた時にはぺろりと平らげていたという話を良く耳にします。 ――――ふふ……貴女も今宵は期待しているのでしょう?」

(またしても言葉尻を飾る意味深なやり取り。仏頂面が言うのは『貴女も今夜はがっつり食べに来たのでしょう?』といったダイエット戦士ならではの共犯意識を含む問いなのだが、周囲で聞き耳を立てている大男たちは、一体この後この店でどの様な鉄火場が起こるのかと戦々恐々の体である。二人の美少女に向けられていた好奇の視線が、どこか緊張を孕んでいく。)

ヴィルヘルミナ > 「へ……え、えぇ。勿論!さぞや私達を楽しませてくれるでしょうね…ここは」

この異常にむさ苦しい大衆食堂の何が乙女心を刺激するのかは全く分からない。
しかし伯爵令嬢のプライドは極限まで目の前の少女に話を合わせる事を選ばせる。
注文を受け取った店員がのっしのっしと去って行く。筋骨隆々で頬に傷まである彼は全く食堂の店員には見えない。

「ふふ、どうやらそうみたいね…ほら、アレ貴女の料理じゃない?
……いや大きくないかしら…?あれ食べられるの…?」

悠然と料理を片手に此方に向かってくる、もはや人間ではなくオークの類ではないかと疑いそうになる大男にヴィルヘルミナは視線を向ける。
彼が持っても小さく見えない、余りに大量に盛られた料理の数々に、伯爵令嬢は目の前の少女が心配になる。

イェン > (二人の美少女を中心としたどよめきの波が更に広がる。高慢ちきな貴族の雌ガキを絵に書いたような金髪娘の、傲慢さの滲む笑みに冷や汗を伝わせる様が、《何か》が起こるという漠然とした不安に一層の説得力を与えていた。そもそもこの店に女が来ることが年に数度もない稀な出来事であり、その女が学生の様に年若い者である事はますます希少で、今回はイェンとヴィルヘルミナ、どちらを見ても飛び切りの美少女である。このような事は、この店が出来て以来一度たりとも無かったはずだ。大男達の抱く不安と焦燥は、最早確信に近い物となっている。)

「――――ええ、来たようですね」

(大災害を事前に察知した預言者の趣で、目弾きの美貌が店奥を睨んだ。スイングドアをぎぃぎぃ言わせてこちらに向かう店員が野太い腕に掲げ持つのは、《唐揚げと焼き飯のセット(大盛)》である。どデカい皿に山盛りの焼き飯と、その周囲をケーキのデコレーションよろしく飾る唐揚げの群。一つ一つがヴィルヘルミナ嬢の拳くらいはありそうな唐揚げが、焼き飯の小山を背景に5個も6個も並ぶ様は堅固な要塞を思わせようか。どっかと乱雑にテーブルに置かれたそれは、小柄なイェンと比較するのが馬鹿らしく思える程の大ボリュームだ。ただし、匂いはすこぶる良い。駆け出し冒険者のすきっ腹に効く芳しい臭いが、イェンの青林檎を思わせる体臭を圧して広がる。)

「……………少々、甘く見ていたのかも知れません(大盛を)」

(この期に及んで不敵な薄笑みを口端に覗かせる仏頂面が、ちら…と戦友に向ける紫水晶。それは『貴女も一口、というか、半分くらいいかがでしょうか?』とアイコンタクトにて問う救援要請。)

ヴィルヘルミナ > 「予想外ね…全く……」

目の前の焼き飯の圧倒的な威圧感に、伯爵令嬢はただただ圧倒され、
周囲の剣呑な雰囲気など目に入らない。
しかし、おそらくシェンヤン料理なのであろうその米料理は、
同時にあまりにも食欲をそそる香りを漂わせ、
ヴィルヘルミナの喉をごくりと鳴らさせる。
周囲の揚げ物も、何の肉を揚げればこの大きさになるのか皆目見当も付かないが、
噛んだ瞬間にじゅわりと広がる肉汁が、食べずとも想像できる。

「ふふ、手強そうですこと…私が手伝ってあげても『超ビッグビッグビッグドデカシュニッツェルお待たせしやしたぁぁぁぁぁ!!!』

伯爵令嬢の目の前にも頼んだ料理が並べられる。
こんがりときつね色に揚がった、ジューシーなシュニッツェル。それが置かれた大皿の上に置かれ、はみ出ている。
そして、付け合わせにそれぞれ別の小皿にこんもりと盛られたポテトサラダと、フライドポテト。
ヴィルヘルミナにも一瞬で分かる。これは馬鹿の料理だ。

「…………」

ヴィルヘルミナはもはや引きつった笑みを浮かべ目の前の皿を眺めるしかなかった。

イェン > (友軍は期待できまい……と、半ば以上諦めつつの援軍要請だったため、意外に色良い返しに鉄面皮もぱぁっと輝きつつあったのだが――――その希望をぶった切るのが彼女の分のシュニッツェル。『超ビッグビッグビッグドデカ』という冗談みたいな形容詞が、実物を目の当たりにすると納得の二つ名へと変わってしまう。美少女二人が腰を下ろした二人掛けテーブル。年季を感じさせるその天板からたった二枚ではみ出さんばかりになっている大皿と、そこからさえはみ出す料理の獰悪さたるや……っ。)

「―――――ふ……ふふ、ふふふ……、ヴィルヘルミナ様。よもや、武の大家である貴女が、戦う前から白旗など上げはしませんよね? 大丈夫………ええ、大丈夫、のはずです。ペロリと行けてしまうらしいですから。 ―――――さあ、共に参りましょう!」

(絶望的な大軍勢を前に戦友と二人、手にした剣一本で立ち向かう戦乙女の幻影が、周囲で見守る男達の目にも見えただろう。がっと力強く掴み上げたスプーンは、それでも白の繊手に上品に操られ、焼き飯の小山に一番槍を突き立てた。 ―――――――――結果的にはペロりとイけた。未だに信じられないけれども、事実、ペロりとイけてしまったのだ。噂に違わぬ美味しさが、あれよあれよと焼き飯の小山を切り崩し、拳大の唐揚げを二個も三個も消失させて、後半はお互いの料理をシェアしあう程の余裕さえあった。その上、あれだけ食べて払った貨幣は二人合わせて100ゴルドでお釣りが貰えた。『アリャッシャシタァァアア!!』という、最早異国語なのではと思える見送りの絶叫を背に受けながら店を出た美少女二人は、キツネに化かされたかの心地で肩を並べて帰路につく―――のだけども。)

「――――うぅ……流石に少し、苦しくなってまいりました。貴女はどうですか、ヴィルヘルミナ様……?」

(あまりのおいしさ故にハイペースで胃袋に詰め込んだ弊害なのだろう。時間差で腹部に生じた圧迫は、寮までの距離を恐ろしく長く感じさせる物だった。)

ヴィルヘルミナ > 「…………あ、あはは、面白い冗談ね…マグメールの貴族が、平民の料理やシェンヤンからの留学生に、ま、負けるはずないじゃない…!」

そう覚悟を決め、戦に挑む表情で、ヴィルヘルミナもナイフとフォークを構える。
例え大衆食堂とて、テーブルマナーを忘れてはならぬ。マナーが人を作るのだ。
若き戦乙女達は絶望的とも思える物量に戦いを挑み…勝ってしまった。
それこそ今まで食べた中で一番美味しいと思えるシュニッツェル、芋から厳選したのであろうポテトサラダとフライドポテト。
そして異国情緒たっぷりな焼き飯と唐揚げ…。
お値段も、貴族にとっては無料も同然。だが、しかし。

「貴女もそう?……私も正直、辛いわ」

胃が悲鳴を上げ、歩くのも一苦労。そもそも、食べた後は消化の為にゆっくり休むほうが良いのだ。
ここから寮まで、遥か彼方というわけではないが、それでも距離はある。
その時、ヴィルヘルミナはそれを見つけ、主教の神々に感謝した。宿である。

「確か……明日は休日よね?」

休日、朝早くからの授業はない。即ち寮に帰らずとも不都合は無い。
そもそも、学生に冒険者としての研修等も受けさせる都合上、学院の寮の規則は緩く、門限等もない。
今日帰れずとも、大丈夫なはずだ。

「あ、あそこに泊まりましょうか…」

イェンの同意が得られれば、ヴィルヘルミナは共に宿へと赴くだろう。
幸い、一つだけだが部屋は空いているようであった。

イェン > (間違いなく負け戦だ。僅かな後に伯爵令嬢と留学生は枕を並べて討ち死にしているはずだった。結果はペロりだったが。しかし、戦いの影響は全て終わった後に二人のヴァルキリーを苛んだ。日頃はぺたんこなお腹がぱんぱんである。傍らを行く友人が不意にツインテールを揺らして顔を上げた。ブリキ細工で作られた宿屋の看板。)

「ええ、ヴィルヘルミナ様。幸いにも明日は講義の予定はありません」

(どれほど憔悴していようともいつもと大差のない仏頂面が、こちらに振り返った戦友からの提案にこくりと小さく頷いた。もう一歩も歩きたくない。品とかどうでもいいから地べたに座って休憩したい。そんな状態だったので女友達と二人、宿で一晩過ごす事くらいどうってことないはずだった。)

「…………………………………………」

(元々財布に余裕のないイェンなので、二人で一部屋は想定通り。問題はここが連れ込み宿であり、部屋に置かれたベッドが一つ切りだった事。香水なども使われているのだろうが、それでも消し切れない匂い―――きっとセックスの匂いだ、と処女は一層どきどきする―――が室内に染み込んでいるのもまずかった。幸いにしてダブルサイズのベッドは細身の女学生二人を鷹揚に受け入れてなお余裕を見せている。しかし、靴も上着もストッキングも脱ぎ置いて、胸元のボタンを外されたブラウスと締め付けを緩めたプリーツスカートで二人並んで一つのベッドに横になるというのは、つい先日百合性癖を自覚したばかりの留学生にとっては予想外の緊張を伴う行為であったのだ。友人に背を向けた横臥の小顔がはっきりと熱い。)

ヴィルヘルミナ > 何の宿なのかよく確認せず、部屋に入るなりベッドにどさりと身を横たえて、
身体を休め食べた物の消化に専念していた伯爵令嬢。
しかしまぁ、日頃運動していたからか思ったよりあっさりと腹はこなれ、
余裕をもって周りを見渡せるようになって気付く。

「あぁ……そういう宿なのねココ」

連れ込み宿。恋人二人がいかがわしい事をするソレである。
少女二人でも部屋を貸して貰えたのは幸いであった。
視線を動かせば、どことなくいやらしい雰囲気を感じる内装と、香水の匂い。
幸運なことに、内部の掃除もしっかりと行っているそれなりの高級宿のようであったが、
それでもセックスを強く感じさせる。
そして、隣に目を向ければ、こちらに背を向ける友人の姿。
一瞬寝ているのかと思ったが、耳を見れば、その白い肌が真っ赤に染まってる。

「…………ふぅ~ん?」

ヴィルヘルミナは、悪戯気な笑みを浮かべると、すすす、とイェンに近寄り、その背後から抱き着いた。
むぎゅりと、服越しにヴィルヘルミナの豊満な胸がイェンの背中に押し付けられる。

「そう言えば貴女…最近後輩と、随分とお楽しみだったそうじゃない?」

思い当る節は色々あるだろう。そもそもイェンは美貌の留学生ということで注目度も高い。
それが彼女より年若い後輩と過激な行為に及んでいるという目撃証言がヴィルヘルミナの耳に入っても不思議ではないだろう。

「どこで学んだのかしらねぇ?そういうこと」

くすくすと楽しそうに笑みを浮かべながら、ヴィルヘルミナは甘い声で囁く。

イェン > (びくっ。友人に向けた華奢な背筋が跳ねたのは、彼女が何気なく発した呟きのせい。シーツではなく恐らくはマットレスに染み込んでいるのだろう男女の匂いにあれこれ意識しまくっているむっつりスケベには、ここが《そういう宿》であるという予想はついていたのだ。ちなみに連れ込み宿初体験。どきどきと早鐘を打つ鼓動を持て余しながら、背後から聞こえてくる不穏な声音にむっと美貌を向けようとして)

「―――――っ!」

(びくんっ。背後からの抱擁に、ベッドスプリングが軋む程に細身を跳ねさせた。背筋に押し当てられるイェンの物よりなお豊満な柔らかさ。そこに返すのはバックベルトとホックの硬さ、そして弾む鼓動と少し火照った体温。)

「……なっ、……なんの、話でしょうか? 貴女が何を言っているのか、私には分かりかねます」

(嘘だ。色々と心当たりがある。《後輩》というなら二人。ルームメイトとなった蓮っ葉な少女と、プールで出会った褐色肌の遊牧民。シアちゃんとのあれこれは多少妖しくはあってもまだ健全と言える範囲だが、タピオカちゃんとのあれを知られているのならば本当にまずい。嘘発見器なる物が開発されたのならば、今頃けたたましくブザーを鳴らして嘘つきを糾弾していよう。そんな物がなくともばっくんばっくん鼓動を強めた心音から大体は察する事が出来てしまうだろうけど。)

「――――そ、」

(声が裏がえった。咳払いをして気を取り直し、いつも通りの冷たい声音を意識して)

「そういう事とはどういう事ですか……?」

(『あ、これ、そういう事を実際にされてしまう流れなのでは…?♡』すっとぼけの問いかけを発して後、己の失言に気付く粗忽者。背筋の鼓動がますます荒ぶる。頬に広がる熱は今や急性の病を疑うレベル。)

ヴィルヘルミナ > とてもわかりやすい留学生の反応に、ヴィルヘルミナはにやにやと笑みを浮かべながら、
より自分の胸が分かりやすくなるよう上着を脱いで、さらにぎゅっと背中に押し付ける。

「そうねぇ…プールで熱烈にキスしてた話とか、貴女の同室に後輩を誘った話とか♡」

イェンにとっては悲惨なことに、どうやら伯爵令嬢の地獄耳には両方の噂が聞こえていたらしい。
学院中の女子に黄色い声を上げさせていたのだから、当たり前の事ではあるが。
不意に、ヴィルヘルミナはイェンの肩をぐっ、と後ろに引き、彼女を仰向けに寝かせる。
そして、自身は彼女の上にのしかかると、彼女の頭の横に左手をつき、右手を頬に沿えた。
令嬢の頭が室内照明を遮り影を作る中、その紅い捕食者めいた瞳がイェンを見下ろす。

「貴女顔いいものね?そのクールな表情で、後輩にはさぞかしモテるでしょうね。
でも……本当は初心で、でも随分とそういう事に興味があるのを知ってるのは私だけよね♡」

隠し事は無駄だとばかりに、ヴィルヘルミナは語り掛ける。