2021/12/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にシホさんが現れました。
■シホ > 平民地区にある冒険者向けの武器防具のお店
店内はそこそこ大きく、店の裏手からはトンテンカン、と職人たちがハンマーを振るう音が聞こえてくる
店番をしているのはそれなりに身なりの良い初老の男であるが、愛想はそれほど無いらしく、
客に品物を勧めてくるようなことはせず、ジッ、と椅子に座って店内に視線を向けていた
セールストークが無いのというのは店内を見て冷やかすには都合よく、
おそらく自分では扱いきれぬような剣や鎧を眺めるには好都合であった
店の傾向なのか、どうも戦士や剣士といった前衛に立つ者に向けた武器防具を扱う店のようで、
自分のような魔術を行使するタイプの冒険者向けのそれらは店の一角に小さなコーナーがあるだけであった
魔術師向けや付与のあるそれらは、高価である、ということもあるのだろうが
「こんなもの、はてさてどんな大男が使うんだろう…?」
先端から柄まで全てが金属製の大金槌の前で足を止めればそれを見上げる
長さは恐らく自分の身長程もあろうかという品である。自分では持ち上げることすら叶わぬであろう一品であるように見受けられる
店番の眼を盗むようにして、そっと手を伸ばせば、少し持ち上げようと力を込めたが、
結果は想像したどおりであった…こんなもので一体、何を殴るつもりなのだろう?と小首を傾げながら、
これから先、この大金槌で殴られる魔物か、何かの事を思うと同情せざるを得なかった
■シホ > 店番の初老の男の視線がちらり、とこちらへ向けられた気がして慌てて手を引っ込めて大金槌の前を離れる
立派な、立派すぎる大金槌の他にも両手で使うのであろう大型剣、
身体をすっぽりと覆えてしまえそうな大盾など、なんというか筋肉自慢の為の武器、といった品々が並ぶ
中にはかつて、夫が若かりし頃に使っていたような大盾が並べられており、
少々懐かしい気分にもなったりしたが、値段を見れば、よくもまあこんなお金を、
若かりし頃の夫は持っていたものだ、と感心してしまったりして
「戦士や剣士をやるにもお金がかかるのだなあ…
魔術師ほどではないだろう、と思っていたけれど、とてもとても…」
武器や防具にお金を掛けるというのは冒険者であれば当然のことであるけれど
良いものを欲すれば欲するほどに財布が軽くなる、というわけである
休職期間もあったけれど、長年冒険者をやってきて、冒険で巨額の富を得た、という者を
見たことがない理由はこのあたりにありそうな気がしてくる
「自分に扱えるわけではないけれど…これは、きっと目の毒だよ、うん…」
と。如何にも大きく、値段も大きな武器の並ぶ一角を離れれば無造作に樽に入れてある、
工房の若い職人たちが作ったであろう習作の片手剣が置いてある所で足を止め
「そうそう、こういう物でいいんだって…
どうせ失くしたり、刃こぼれしたりするんだし…」
自分は魔術師であるからそんな経験はないけれども
かつての仲間であったり、若かりし頃の夫はしょっちゅう、武器をダメにしていたような記憶がある
名剣、魔剣の類を夢見つつ、実際にはこうしたそこそこの質の武器を使うのが前衛職の現実であろう
…そう考えれば、自分は魔術を志す者で良かった、と思わぬではない
■シホ > 樽に無造作に置かれた片手剣を手にとって見ていると何やら視線を感じて顔を上げる
顔を上げれば店番をしていた初老の眼があってしまった
物言わぬ視線であったが、不思議な圧力があり、暗にそんだけ見たんだから何か買うんだよな?とでも言いたげな
そんな不思議な力があった
「ひぇっ…うぐ……あー…そう言えば、ナイフの切れ味が悪くなっていたかなあ…」
視線に気圧されたように短剣が並ぶところまで歩いてけば、値段の安いものを手にとって
初老の男のところまで行き、愛想の悪い彼とやり取りをして短剣の代金を支払い
「ま、まあ…ちょうど、切れ味が悪くなってきた所だし…」
自分に言い聞かせるように言いながらそそくさと店をあとにするのであった
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からシホさんが去りました。