2021/12/15 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミンティさんが現れました。
ミンティ > 眠りから覚めると、見慣れない景色が広がっていた。焦点がはっきり戻り、魔眼が力を発揮する前に、枕元に置いていた眼鏡をかけて、ぼんやりする頭を振りながら、ゆっくりと周囲を見回してみる。
ここはどこだろうと考えている間に、頭の奥がすこし痛むのを感じる。それと、濃いお酒の匂い。むっと眉を寄せながら、その匂いを振り払うように身動ぎをして、ようやく自分がここにいる理由を思い出した。
昨日の夜、付き合いで酒場に入る事になり、そこですすめられたお酒を断りきれず、何杯か飲んでしまった。帰るころには足元がふらついていたから、自分だけ近くの宿を取って、そこで休んでいく事に。

「ふあ…」

欠伸を噛み殺しながら窓に目を向けてみる。外は暗く、きっと夜明け前くらいの時間だろう。帰るにはまだ早いけれど、どうしようかと考えて、喉の渇きに気がついた。
もそもそと起き上がり、靴を履いて、借りている部屋の中を探し回ってみたけれど、大したものは見つからず。そういえば、部屋を出たところに談話スペースのような、簡単なお茶なんかをいれられる場所があったはずだと思い出す。
とりあえず廊下に出てみようと、まだ眠っている人も多いだろうから、あまり物音を立てないよう慎重にドアを開けて。足音を忍ばせながら、記憶にあった場所へと向かってみて。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にフセスラフさんが現れました。
フセスラフ > 『飼い主たち』が酒場で酒を飲み、そのまま勝手にぶっ倒れたのを
一人ずつ宿に、他の人たちから怪訝な目で見られながら運んだあと
そういえば、自分の部屋は取られず、結局泊まることができずに
外で夜風に隠れて馬小屋に隠れて眠っていたが、結局少ししか眠られず。
そこから宿の中をのぞいて人が入ってもよさそうな部屋があることに気づけば
そっと足音を消して入ろうとしたとき。

この宿の人間かと思ったがにおいが違う。
あぁそうだ、この人は確か『飼い主』の一人がなんだか『狙う』なんてことを言っていた女の人だったか。

「あ、の…すみ、ません。昨日は、しゅじんが」

そう、ぼそぼそと小声で代わりに詫びる。
まだにおいを感じることから、つまり深酔いしてしまったことを悟って。
……もっとも、この女性の人が、自分を覚えているかはわからないが。

ミンティ > さすがにこの時間ともなると、小さな共用スペースにも人の姿は見当たらない。ほっとしつつ足を進めて、備えつけのものを一通り確認して、酔いからの勘違いではなかった事に安堵した。
どれも高級なものではないけれど、簡単なお茶と、すこしのお菓子くらいなら摘まめそうな品揃え。とりあえずヤカンを火にかけて、お湯が沸くまで待とうと、近くの椅子を引いた時だった。
不意に大柄な人影が目に入って、びくっと震えて、身構える。浅黒い肌の男性に、思わず後ずさりそうになって。

「……え?」

小声での謝罪に、きょとんとした顔。昨日は、いつも自分を酒場に連れていくような商人仲間との集まりではなく、取引の幅を広げるため、お金のある人たちの誘いに応じた形だった。
人見知りをするせいで下を向きがちになっていた事と、お酒に酔っていた事から、その場にいた人の顔もすこし曖昧になってしまっていて。
小首をかしげて考えこんだあと、あの中の誰かの従者だろうと、謝罪の言葉から予想する。

「あ、いえ……だいじょうぶ、です。こちらこそ…ご迷惑を、おかけして…」

とんでもないと首を振ったあと、こちらからも頭を下げて。

フセスラフ > ……他人に頭を下げられたのは初めてだった。
礼儀正しさ、というものを見たのも初めてだった。
だから、つい、呆けた顔をしてしまい。
……すぐに下げられた頭を見て首を振って。

「いえ、い、え……めい、わくは、かけられてません、から。
頭を、上げてくだ、さい。ぼくが、わるいん、ですから」

そう、自分が悪い。結局飼い主があの後悪酔いをして、狙ったのに未遂で終わったことを
自身に当たり散らしてきたのだから。
背中の蹴られた部分を搔きながら、そういうなり。

この女性が椅子を引いていたのを見て、代わりにそっと引く。
「どう、ぞ」

そう言って、自身はそのまま床に座った。
僅かに鎖を引く音と共に、ボロの毛布を自身の体にかけて身を縮める。
久しぶりに夜風の当たらない場所に来れたことに安堵の息を吐いた。

「あ、僕、のことは。おきに、ならさず……なさら、ず?」

慣れない言葉に四苦八苦しながら、そうあなたを見上げて告げた。

ミンティ > まだまだ半人前とはいえ、商人としてやっていく以上、出会った人の顔はしっかりと記憶しておくべきだった。あいかわらず、知らない人たちの場では俯きがちになってしまう事を恥じながらも、今度こそ忘れないようにと、相手の顔をしっかりと見上げて。

「え、あの、……ええと?…いえ、わたしは、なにもされてはいません…から」

なにかあっただろうかと思い返してみても、彼との間にトラブルがあったような記憶はない。
自分もいつも人に謝ってばかりだから、おぼえのない事で謝罪されるのが、こんなに気まずいものかと反省しつつ、あわててぱたぱたと手を振り、謝罪の必要がない事を伝えようとして。

「……どうも。ご親切に、ありがとう。……?」

とりあえず、このまま立ち話を続けていても仕方がない。椅子を引いてもらった事に感謝の言葉を伝えながら、あらためて腰を下ろそうとして。
床にそのまま座りこんだ相手の行動に、また目を丸くする。
自分があまり気にしないたちだったから、意識に留めていなかったけれど、よくよく見れば狼の耳。男性の立場を理解はできたけれど、このまま自分だけ椅子に座っていいものかと迷い。

「……ぁ、はい。あの、…お茶を、飲みにいらしたのですか?」

悩んだ末に、自分も床の上に正座をした。
気にせず、と言われても沈黙が気まずく思えて、火にかけたヤカンをちらりと見たあと、小さな声で問いかけて。

フセスラフ > 見上げられて、その視線が合った。
思わず、身がこわばって耳がピョン、と動いてしまう。

「そんな、こと、ないです。ぼくの、せいで。
しゅじんも、あなたも、めいわく、かかりましたから」

必要がなくても、謝る。そうすることが身に染みてしまっている。
だから自分が悪いのだと相手に思ってもらえるようにふるまう。
そうして生きてきたから、それを当然としか思えないのだ。

「は、い……。……え?」

思わず、座った後、お礼を言われて顔を上げる。
こんぐらいで素直にお礼を言われるのは、少し戸惑ってしまって。
でも、すぐにまた目を合わせないように顔を下げた。

「え、あ、いえ……お茶、じゃなく……。かぜを、しのぎたくて……」

と、そこまで言ってから彼女の声が低い位置にあることに気づき。
彼女もまた自身と同じように床に座っているのを見て、首を傾げる。

「座らない、の、です、か?」

ミンティ > 謝り癖のある自分にも親しくしてくれる人たちは、こういう時にどうしていただろうか思い出そうとする。その中から真似できそうな対応を、と考えてみたけれど、気の小さな自分にはどれも難しく思えて。

「……ええと、では…、その……お気持ちだけ、いただいておきます、ね」

考えた末に、そんな返答でお茶を濁す。
床に直接座ってみると、冷たさが身体を這い上がってくるような寒さ。冬の夜明け前なのだから、これだけ冷えるのも当然で。小さく身震いをしたあと、羽織っていたショールを、身体に巻きつけるように、しっかりとおさえて。

「……あ、そうでしたか。……ええと、その。
 あ、でも…お湯を、すこし多めに沸かしたので、よろしかったら……」

自分もそんなに地位のある人間ではないけれど、奴隷のような暮らしはした事がない。大変そうだなと思うものの、下手な慰めを口にするのも憚られて、相手と同じように下を向きがちになる。
ヤカンがかたかたと小さな音を立てはじめると、視線をそちらに向けて、もしあとから誰か来た時に気まずくならないよう、お湯を多めに入れておいてよかったなんて思いながら。

「……え?あ、……その、…わたしも、そう、偉くはないので…」

自分だけ椅子に座るような気まずさをどうにか誤魔化そうとして、そう答える。
そんな会話を交わしているうちに、ヤカンの注ぎ口から湯気が立ち上りはじめると、いそいそと腰を上げて、お茶を入れる準備に取りかかり。

フセスラフ > なんだろう、自身の目をたまにちらちら見ながら話すこの女性は。
今までに会ったことがない人間に、不思議そうな表情を隠すことができず、自分もついチラチラ見てしまう。

「あ、はい……」

それだけ、静かに返事をして。
少し離れた位置にある、火のおかげで気持ち的に寒さもマシになる。
いつもこのぐらいの場所で寝れたらいいのに、と。国に戻ってくるときに何度も考えてしまうことを考えて。
でも、この人は自分と違って寒いと感じているのに。どうして座っているんだろうか。

「……いえ、僕は、ただの水だけで、いいです。
温かいのは、あなたのようなおひとたちで、飲んでください」

笑ったり、変に反抗的な目もせず、ただそう言う事を覚えてしまえば。
無表情のまま、抑揚のない声で言うようになってしまい。
声に感情を乗せることは、今までなかった為こんな声のかけ方しかできない。
おそらく、この女性は自分を気遣ってくれてるのだろうと思えば。
自分は他者に対してしっかりとしか気遣いの声を出せなかった。

「そんな、こと。ないです。
ぼくは、しゅじんと、話しちゃいけないので……」

立ち上がった彼女を見て、少し安心した。
自分と同じ位置にいる存在がほかにいると思うと、なぜか不安になってしまうから。

「…………おちゃ、て。おいしいんですか?」

そんな空間で気が抜けたのか……気が付けば、そんな風に質問をしてしまっていた。

ミンティ > 孤児院の出身で、商人としてもまだ新米、だからそんな立場の低い自分にこうも謝罪を繰り返す相手との会話はあまり経験がない。今で接してきた人たちと同じ立場になってみて、これまでのふるまいを反省し、もうちょっとしっかりしなくては、なんて考える。
そんな気持ちが表情に出てしまわないように用心していたから、ちょうどいいタイミングでお湯が沸いてくれて助かったと思う。
火を止めて、水だけでいい、という男性を肩越しに振り返りながら、すこし迷ったものの、結局カップを二人分用意して。

「……でも、お湯が余ってしまいますから」

そう返しながら、二人分のお茶を入れる。宿泊客への無料サービスで、この宿もそう高級なところではないから、自分が普段飲んでいるものよりも安い茶葉だろう。
それでも寒さを感じていたからか、湯気とともに広がる香りには、すこしほっとする。
甘くなりすぎない程度の砂糖を落として掻き混ぜて準備を終えると、手の中に小さなお菓子の包みをいくつか取り、カップの持ち手に指をかけて、落とさないよう慎重に、そろそろと歩いて。

「……え?…え、と…、わたしは…お酒よりは、お茶の方が、好きです」

問いかけに戸惑いながらも、ぽつぽつと小さい声で答えて。
その場に膝をついてから、男性の分のカップをそっと床に置いて。そのそばに、お菓子の包みをいくつか添えて。
自分もまた、床に正座する姿勢で腰を下ろした。右手は持ち手に指をかけたまま、左手をそっと添えて。火傷しないように息を吹きかけて冷まし、そっと静かにお茶を口にして。

フセスラフ > いそいそと、自分の為にカップを2つ用意する彼女を見て。誰かの施しを受けるのはいつぶりだろうかと思う。
……食器を、ちゃんとした形で使うのも、久しぶりだった。
おずおずと、用意されたカップに手を伸ばそうとして。

「……飲んでも、いいんです、か?」

しかし一度、伸ばした手を止める。
こういう時、ちゃんと確認を取らなければ鞭で打たれる。その習慣が身についていて。
ちゃんとした許可を得るまでは、そうしないようにしている。
ある意味、教育が行き届いているとも言えるのだろう。
同時に、隣に置かれたお菓子が目に入れば、ゴクリ、と固唾をのみこむ音が部屋に響き渡る。

「そう、ですか。……じゃあ、おいしいん、ですね」

また正座する彼女を見て、どうして、とは思わないようにした。
考えれば考えるほどわからなくなることなら、考えない方がいいと思って。
……彼女が、カップに口を付けるのを見て。
その唇を、見つめてしまっていた。

ミンティ > 寝起きですこし火照っていた身体に、夜明け前の寒さが染みていた。おかげで、淹れたてのお茶は予想される値段よりもずっとおいしく感じて、ほおっと、温まった息をこぼすのも心地いい。

「……あ、…はい。冷めてしまわないうちに、どうぞ…」

まだカップを手にしていなかった男性に気がつくと、自分だけ先に口をつけてしまったのが恥ずかしくなる。すこし目を泳がせたあと、こくこくと頷きを返し。
ちゃんと息を吹きかけていないと熱すぎるくらいだったから、そう簡単に冷める心配もないだろうけれど、どうぞ、と目配せをして。

「はい。……それに、あたたまります」

ワンピース越しに感じる床は硬くて冷たくて、やっぱり居心地が悪いものだけれど、その寒さを感じている分だけ、お茶のぬくもりがありがたい。
知らない人と会話をする時の緊張で強張っていた表情も多少は和らぎ。ほっと息をつきながら、お菓子に手を伸ばそうとして。
こちらをじっと見つめるような視線に、きょと、と目を丸くする。

フセスラフ > 「ありがとう、ございます。感謝、します……」

許可をもらったら、そのカップを両手で持つ。
熱い。だがそれが自分にはちょうどいい。冷えた体に、この両手から感じるやけどしそうな熱さがいいぐらいだ。
フー、フー、と口を小さくして、お茶を冷ます。
その様はどこか、子供のように見える。

「な、るほど……。あたたかい……それは、とっても……嬉しいですね」

そう、告げる唇は、弧を描いていた。

「……ぁ……すみ、ません」
すぐに自身が唇を見つめてしまっていたことに気づかれた事に気づいて。
目線を外して、そっとお茶に口を付ける。

「――――おいしい、なぁ」
カップを見つめて、飲み込み……その苦みと温かさを感じながら、ぼやいた。

ミンティ > お礼を言われて困惑するけれど、一応お湯を沸かしたのは自分だから、素直に受け取っておいた方がいいものかと悩む。考えこんだあげく、あまり気のきいた事も言えなかったから、こく、と小さく頷くだけに留めて。
自分だけでなく、おそらく相手も口数のすくない人なのだろう。談話スペースに二人も人がいるのに、しんを静まり返った空気。
ときどき、かたかたと鳴る窓の音に視線をつられて、外の様子を見て。風が強いようだと、今日も寒くなるのだろうかと考えて肩をすくめた。

「……?いえ、……だいじょうぶ、です」

見つめられていた理由はわからなかったから、しばらく不思議そうな顔を続けていたけれど、相手がお茶に口をつけるのを見て、自分もまたカップを持ち上げる。
お菓子の包みは、ぱさぱさしたクッキーで、ほのかに甘いけれど喉が渇く。だから、紅茶の潤いがよりしっかりと感じられた。
安物なのかもしれないけれど、これはこれで悪くないな、なんて思ったりして。

「……お砂糖の数、ちょうどいいようでしたら、よかったです」

自分が家でお茶を飲む時には、もうすこし砂糖を多めにしたりする。
けれど男性が口にするものだと甘さを控えた方がいいんだろうか、と考えていたから、おいしいという感想にほっとして。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にフセスラフさんが現れました。
フセスラフ > お礼の言葉を受け取ってくれたことに、ホッとする。この人は理不尽な人ではないと、ようやく安心した。
言葉はあまり交わしていないが、決して自身の飼い主と同じじゃあないと理解した。
風で揺れる窓を同じように見た後、もうひと口お茶を口に含んだ。

「……砂糖、初めて甘いもの、もらいました……」

そう言って、ぱさぱさと水分のないクッキーを、食べる。
昨日は結局、夕飯をもらえなかったからとても美味しいものに感じられた。いや、実際美味しいのだ、こういうのが。
口の中でよく嚙み、水分を取られても気にしないまま味わう。舌がカピカピになりそうでも今美味しければそれでいい。
紅茶で流し込むように飲み、小腹が少し満たされる。
それでも、胃袋が刺激された成果「ぐぅ~」という腹の虫が鳴った。

「……」

気まずそうに、カップに視線を落としたまま。
ずずず、と一気に飲み干した。

ミンティ > はじめて、という言葉に、自然と眉が下がる。自分も孤児という身分ではあったけれど、幸い、恵まれている方だろう環境で育てられていた。だから、奴隷ほど貧しい思いをした事もなく。

「……そう、ですか」

返答に困って、そんな返事しかできない。自分の口下手さを悔やみながらも、他にいい言葉も浮かんでこず。申し訳なさそうに、視線は下がりがちになって。

他の宿泊客が起きてくるような気配もないくらいに静かだったから、おなかの虫が鳴いた音はよく響いた。
手元に向けていた視線を持ち上げて、きょとん、としたあと、つい笑ってしまいそうになる口元をカップの陰に隠す。
それから、ふと考えこむ。目の前の男性ほど身体の大きな人が昨日の会食の場に同席していたら、その印象まで忘れるはずはない。自分たちがお酒を飲みかわしたりしている間は、食事もとらずに待たされていたのだろうか、と予想して。

「あの……これ」

自分の近くにおいていたお菓子の包みを、相手の方へと移動させる。
これだけで空腹が紛れるとも思わないけれど、なにも口にしないよりはましだろうと考えて。

そうこうしているうちに、すこしずつ空も白んできていた。あいかわらずお酒の匂いが残ったままだけれど、二日酔いを理由にお店を休むの気が引ける。
どうしようかと悩みながらも、とりあえず紅茶を飲み干して、ゆっくりとした動作で腰を上げた。

フセスラフ > 「ぁ……」

思わず、眉が下がったのを見て一瞬体を震わせて。
何か粗相としたのかと思い、恐る恐るその顔を見上げるように見る。
だんだんと下がっていく視線に、大丈夫なのかと不安になって行く。今の言葉に何か、不快に感じる部分があったのだろうか。
しかしそれのどこが悪いのかわからず、結局謝ろうと口を開こうとして。

少し緩みかけていた彼女の口が見えて、今度は逆におかしなことでもしたのだろうか。と思う。
結局、こうして人と話せる環境なんて初めてで、何を言えばいいか、何を話せばいいかわからない。
ないない尽くしのまま、頭を悩ませてしまうが。

「え……?」

差し出されたお菓子を見て、交互に女性とお菓子を見る。
食べていいのだろうか?わからない、わからない。
どうすればいいか、なんてお礼をすればいいのかも全然わからない。

「ぁ、う……え、と。あの……」

しどろもどろに、立ち上がる彼女に何か言おうとして。
でもうまく言葉が思い浮かばずに。結局言えたのは。

「ぼ、くは……あり、がとう。
な、まえ……聞いて、いいですか?
ぼく、フセスラフて……い、います……」

咄嗟に、自分という存在を、この女性に知ってほしいという欲求から出た言葉だけだった。

ミンティ > 会話への苦手意識があるせいで、気を抜くと、つい仕草や動作での意思表示だけに留めてしまいがちだった。
相手の立場を考えてみると、差し出しただけでは手をつけづらいだろうと想像するのも難しくない。その事に気づくと同時にばつの悪さをおぼえて、あ、と声をこぼす。

「あの、どうぞ。わたしは、あまり…たくさん、食べるほうではないので」

さすがに、小さいお菓子を一つや二つ口にしたところで満腹になるほどではないけれど。今はもう食べられそうにないと、あまりうまくないかもしれない嘘をついて、受け取ってもらえるように頭を下げた。
それから、踵を返して、談話スペースに備えつけられた小さな流し台へ。使ったカップを洗って返却しようとしたものの、水の冷たさに、びく、と身体が震えて。

「…へ?……あ、す、すみません。名乗りも、しないで。
 あの、わたしは…ミンティ、といいます」

冷たさに慣れようと、おそるおそる水に指を浸していたところで声をかけられて、びくっと、もう一度震えてしまった。
振り返ってからの問いかけに、ぱちぱちとまばたいてから、あわてて自分も名乗りを返して。
それからあらためて、カップを洗おうと、男性に背中を向ける。

フセスラフ > 「わ、かりま、した。……い、いただき、ます」

その言葉を受けて、おずおずとゆっくりと、またお菓子を口に含んでいく。
お茶もなく、ぱっさぱさになったくていく口。しかしその気遣いだけで、とてもそんなことは気にならなくなっていた。
美味しい……温かい……そして今は、嬉しい。
そんな気持ちで心がいっぱいになることを実感していた。

「ミンティ、さん。……その。
おどろかせて、すみませ、ん。けど、きょう、とっても、ぼくうれしかった、です。
いつか、いつか必ず、おれいをします。
めいわくかもしれませんが、待っててく、れますか?」

その自分よりも小さな、しかしとても自分にとっては大きく見える背中に向けて。
床に頭を擦りつけながら、そう言って。
額から床へと体温が奪われるのも気にせず、しっかりとつけた状態のまま。
カップを洗うのを手伝っても良かった。だが薄汚い自分が食器に触れたとすれば。
きっと主人たちは折檻をするだろう。
……それ以上にミレー族である自分が、このスペースにいること自体が気に入らないのだろうが。

ミンティ > お茶のおかげで温まっていた身体が、また指先から冷えていく。水の冷たさに縮こまってしまうけれど、それでも、自分が使った食器をそのままにしていくのも気がひける。
奥歯を噛み締めて寒さを堪えながらカップを洗い終えて、水気を拭き取り。そのまま、元あった場所に返そうとして、振り向いたと同時に、床に頭を擦りつける男性の姿が見えて、目を丸くした。

「……え?ッ…あ、あの、困り、ます。そんな……、わたしは、なにも……っ」

あやうくカップを落としてしまいそうになりながらも、どうにか元の場所に戻して。あわてて相手の方へと駆け寄ると、また床に膝をついて、どうにか頭を上げてもらえないものかと、うろたえる。
いくら謝り癖が抜けない自分でも、ここまでした事はなかったから、過去の経験から対応を見つけるなんて事も難しくて。

「あ、あの、
 ……ええと、こんな時間に、わたしのような弱いのが、一人でいるのも…その、不用心だったので、
 だから、その、…ご一緒してくださって、助かりました。だから、あの、頭を…」

お茶もお菓子も、サービスとして提供されていたもので、わざわざお金を払ったわけではない。
お礼をされる謂れがわからず、困り果てたような顔になり。
どうにか、自分も助かっていたという主張を思いつくと、それを伝えて頭を上げてもらおうとして。

フセスラフ > もしかしたら、自分のこの行為自体が迷惑なのかもしれない。なんていうことも思いついた。
しかし自分にはこれぐらいしかできない。おそらくこれからも、なら少しでも、この感謝の気持ちを伝えたかった。
額が冷たさで赤くなってしまったけど、そんなことよりもずっと大事な事だった。
だから、素直にその気持ちを出すことしか頭にないようにした。

「困らせて、すみません。でも、なにもしてないのは、違いま、す」

言葉を続ける。そろそろ起きて、ここの声が聞こえる人も出てくるかもしれない。
だからできるだけ言葉は少なくするように。
でもちゃんと、この女性には聞こえるようにしたくって。

「は、い。でも、ぼくも、つよくはない、です。
だからたすかた、のはぼくのほうです。
いっぱいこんなに良くしてくれて、おかしくれたのもうれしかった。
いっぱいうれしかった。それを、言いたかったです」

そう言いながら頭を上げて。
今度はちゃんと、目をそらさない。
このぐらいの失礼ぐらいは、わかっているつもりだから。

ミンティ > とりあえず、頭を上げてもらえて安心した。冷たい床に押しつけていたせいだろう、浅黒い肌の色が変わっているのを見ると、ますます申し訳なさそうに眉が下がるけれど、とりあえず、また土下座なんてされないように、なるべく柔らかい表情でいるように意識して。
自分にとっては親切というほどの行為だとも思っていなかったけれど、孤児だったころ、誰かによくしてもらった事がとてもありがたかったから、なんとなくながら相手の気持ちは察せて。

「……いえ。その。……本当に、一緒にお茶をしてくれるだけで、助かっていました。
 わたしは、一人でいると…よく、いじわるを、されるので」

幸い、カップを片付けるまで誰も起きてこなかったから、今回は災難にあう事もなかったけれど。
運と、見つかった相手が悪ければ、そのまま部屋まで引きずりこまれていてもおかしくなかったし、そういう経験は何度もあった。
だから、詳細までは語らないにしても、同席してくれる存在があっただけで十分だったのだと伝えて。

「あの、そろそろ…、せっかく温まったのに、また、身体が冷えてしまいますから。
 ……あ、これ、片付けておきますね」

この男性の部屋が取られていなかった事を考えると、本当はこんな場所にいるところを見つかるのも避けたいのかもしれない。
そう推察して、相手が使っていた分のカップを持つと、洗い物は自分がしておく、と伝えて。

フセスラフ > 先ほどまでとなんとなく女性の表情がぎこちないながら変わっていくのを見て。
もっとも、意識してそれが変わっていくとは気づかずに、その変化が嬉しくて。
自分も、無表情だったのが若干変わっていくのも感じられて。
嬉しいことに嬉しいことが重なれば、こんなに温かいということに気づけたのがとても心地よかった。

「そう、ですか?
そう、ですよね。……たぶん、しゅじん、来てたら。
きっと、ミンティさん。ちからづくで、部屋、ひっぱられたですし」

この女性の華奢な体が、あの主人の腕力に勝てるとは思えない。
それにそういうのは何度か目にしたことがあるから、分かってしまう。
この女性もこう見えてそんな経験があったのか、などという事は考えない。
というより、そこはどうでもいいから。

「あ、は、い。それじゃあ、ぼく、そろそろもどり、ます。
ほんとうに、助かりました。また、いつか」

言外にそろそろ出ていかなければならないということに気付いて。
ボロの毛布で体を包みながら、部屋から出ていく。
……また会える。そう信じる。また今日を生きる理由が生まれたことに、嬉しく思いながら。
その部屋を後にした。

ミンティ > この男性の主人が、昨日の会食の中の誰なのかまでは、わかっていないけれど。
語られた思惑に、だからあんなにお酒をすすめられたのかと察しがつくと、思わず苦笑いがこぼれた。断りきれずに結構飲んでしまったけれど、とりあえず、自分で宿を取るくらいの余裕が残っていてよかったと、内心ほっとして。

「……そう、でしたか。…あの、じゃあ…、
 今日、ここでわたしと会った事も……内緒に、していてください」

狙っていた女と勝手に会っていたなんて知られたら、なにをされるかわからない。
わざわざ主人に報告するとも思えなかったけれど、一応、そう口留めしておいて。
また、と告げて立ち去っていく男性の背中を見送ったあと、また流し台へと向かって。

水の冷たさはあいかわらずで、温まっていたはずの身体もずいぶん冷えてしまった。
それでも、人に感謝されるような事ができた、という思いから気持ちは軽く。今日も一日がんばろう、なんて思いながら、とりあえずは自分の部屋へと戻っていって…。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からフセスラフさんが去りました。