2021/11/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  道の途中には衣服をはぎ取られた女が横たわっていた。
 みぞおちに強い一撃を食らい昏倒させられた後、衣服を破り捨てられたその女のぼろぼろに裂けた布切れが周囲に散らばっている。
 けれど、それ以上のことをされた形跡がないのが奇妙と云えば奇妙。
 暴力を受け全裸に剥かれてしまってはいるが、その後凌辱に及ばれた痕跡もぼこぼこに殴られた傷もない。
 
 ――何故衣服を剥がれただけの状態で女が路地に放置されているのか。ことは一刻程前に遡る。
 数人がかりで一人の女を犯そうと街を物色していた男たちに眼をつけられ路地裏に引きずりこまれたのだが、その後が一筋縄ではいかないタイプの女だった。
 ヒーラーたる女は暴漢対策にとある技を習得していたのだ。
 それは、強制的に対象を不能にしてしまうというもの。湧き上がった性欲を根こそぎ消去してしまうかのように萎えさせてしまう。
 今夜もそんな技を駆使して襲い掛かって来た暴漢たちを一人残らず、まるで無垢な稚児のごとく不能にしてしてやったまでは、良かった。
 しかし、暴漢たちはことには及べなくなってしまったがせめてもの腹癒せに生意気な女を辱しめてやることにし、気絶させて衣服を破り取ったのだ。
 破った衣服は捨て置き、はぎ取った下着は戯れに持ち去り、剥き上げた女を冷えた路上に放置して立ち去って行ったという経緯。
 
 今、そんな一連のできごとに依る結果が転がっていた。
 
 「…………………」
 
 呻き声も立てず、浅い呼吸の繰り返される胸を上下させる以外は一切の動きもなくうつ伏せに力ない腕をだらりと伸ばした、ちょうどI字型に近い姿勢で昏倒している女が一人。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 吹き荒ぶ夜風が容赦なく体温を奪う冬の訪れを間近に感じさせる夜。
身に付けた毛皮のケープの前を両手で合わせて身を縮めながら、
明るい大通りから路地裏へと足早に進む中年男の姿がある。

「うぅ、寒ぃ。畜生、こんな夜はとっとと酒場か娼館にでもしけ込むか……」

そろそろ、本格的な冬になる前に防寒具を買い揃えた方が良いかも知れない、
そんな事を考えながら、想いを馳せるのは今夜暖を取る為の手段。
咽喉を焼くような強い酒を呷るのか、それとも、暖かな毛布に包れて娼婦の肌に溺れるのか。
どちらにしようか、とそんな思考を過ぎらせていた折、視界の端に裸の女の姿が過ぎる。
思い悩んだ末に抱いた妄想、ではなく、実際に路地裏に転がった生身の女である。
恐らくは暴漢にでもあったのであろう。此の街では珍しくもない日常茶飯事の光景だ。
多少は憐れに感じるも、それ以上に同情も抱かず、其の侭、通り抜けようとして。
だが、

「ん……、ティアフェル、か?」

その地面に倒れ伏した裸の女が顔見知りであれば、見捨てて立ち去る訳にもいかず、
足を止めると彼女の傍らにて腰を屈めて、息をしているのかを確かめると共に状況を窺い。

ティアフェル >  ―― サ ム イ 。

 夢を見ていた。氷上に氷漬けマグロのように転がされる悪夢。
 氷海で身体は凍てついて悴んで、全身が勝手にぶるぶると震えあがる。
 寒い、なんでこんな目に……どうして、凍死する――そう、悪夢の中で苦悶に呻きそれがうつつの表情にも表れて酷く苦し気に眉を歪め。

 そんな最中に通りかかった暖を求めて街を流浪するひとりの冒険者。
 足音に気づいた訳でもないだろうが、傍で名前を発する声に、ぴくり……と僅かにまつげが震える。

「ん………」

 まだ氷漬けの悪夢の中、寒い、寒い、寒い……と煩悶に喘いでいた、が――

              サ ム イ 
              「は――……くしゅっ……」

 ひゅう、と路地を吹き抜けた夜風が鼻先を擽って、くしゃみを零し。

「さ――むぅぅいぃぃ……!!」

 ガタガタ戦慄きながらまだ夢うつつの渦中、現実を認識できていないまま、くしゃみに引っ張られて出た声が震えた抑揚で発される。

 そのまま、へくしゅ、くしゅんっ、と連続でくしゃみが零れてぼんやりと涙目が開く。

トーラス > 「こいつ、逢う度に気絶しているな……。本当にヒーラーなのか?」

一度目の邂逅も、二度目の再会も。
彼女は何者かと対峙してこっぴどくやられて気を喪っていた。
流石に二度ある事は三度あるの喩えではないが、こうも立て続けであると、
後衛職にて他者の回復を司るヒーラーという職業であるという彼女の自称に疑いの目も向けたくなる。
救いの手をすぐさま差し伸べる事もせず、そんな感想をしみじみと抱いていれば、
路地裏に響き渡るくしゃみと寒さを訴える声に、生きてたか、と頷き。

「……よぉ、ティアフェル。起きたか?
 こんな寒い夜に真っ裸でこんな場所で寝ていると風邪を引くぞ。」

くしゃみを連発して、涙目にて双眸を開く女の前にて、
にっこり、と好い顔を見せながら笑って見せる中年男。
勿論、彼女がうつ伏せから身を起こすならば、その裸身の隅々までを、
瞼の裏側に焼き付けようと、凝視の視線を向けるのも忘れない。

ティアフェル >  失神している時にしか通りかからない、という数奇な御仁。
 むしろ覚醒状態の際は馴染みがなくて気が付かれていないのではと懸念すら。

 そして、ようやく覚醒に至ったはいいが、なんだかぼうっとして鳩尾が酷く痛んでやたら寒い以外は良く分からない。
 自分の身に何が起きているのかと考える前に、聞こえた声。

「…………?」

 どこかきょとんとしたまなざしでそちらを向くと、どこかで見たような顔。
 裸?と目を丸くしてから。己の有様にようやく気付いたように見下ろして。
 認識。
 そして、

「き――……きゃああぁぁあぁぁ!!? ちょ、な……?! これ……ッ、――って、いいもん着てんじゃないのおっちゃん! それ貸して!」

 一糸まとわぬ――いや、よく見れば破かれた服の糸切れくらいはついていたが――裸身に大慌てで両手で覆い隠そうにも――そんなに隠せるほどでかい手をしている筈もなく。

 一応見知った仲、とすれば彼のまとっている毛皮のケープに手を伸ばし、寄越せと要求する……追剥がれが追い剥ぎをするの図。

トーラス > 衣服どころか、下着すらも身に付けぬ一糸纏わぬ全裸。
だが、不思議と多少の擦り傷はあったとしても、暴行を受けた痕跡も、
凌辱に及ばれた跡すらも見当たらない。
そう言う意味では過去の邂逅時よりもマシに見えてしまう摩訶不思議な状況。
もしかしたら、彼女が露出趣味に目覚めた結果かも知れない、と暢気な感想を抱く程で。

だが、耳を劈くような悲鳴が路地裏に響き渡れば、その可能性も消え失せる事だろう。

自身の格好に気付き、彼女が身を捩れば、メリハリのある締まった裸身が視界に映る。
役得とばかりに、その胸の膨らみから腰の括れ、尻の丸みと、肌の曲線に視線を這わしていれば、
己の衣服を奪い取ろうと、木乃伊取りが木乃伊になるとばかりに、
ヒーラーから追剥にクラスチェンジしようとする彼女をどうどうと両手で留め。

「ステイ、ステイ。落ち着け、ティアフェル。
 今、俺の衣服を奪おうものならば、お前は豚箱で一晩を過ごす事になるぞ」

鬼気迫る勢いで、己のケープを奪おうとする相手に正論を突き付けると、
両手を胸の前でクロスさせて乙女のように身を守るポーズをすると、キャッと呟く始末。

ティアフェル >  悪夢から覚めて己の状態を俯瞰すると、最悪の一言に尽きた。
 暴漢どもに衣服を、ご丁寧に下着まで剥かれて全裸。
 ――その上そこに通りかかったのは、この癖のある人物。
 無情なんだか、そうでもないんだか今を持っても不明な。

「―――……に、するわよ……?」

 寒いうえに羞恥で動揺しまくっているところにも、体をじろじろ見るだけで何の救いの手も施そうとはしない様子に、取り敢えず三角座りで路上の隅に縮こまり、極力身を隠しながら、低い声が零れた。

「……不能に、するわよ? わたしを助けないっていうなら……勃たなくしてやる……」

 ヒーラーの恐るべき裏技。先ほど暴漢どもに三発ほど食らわせてやったので魔力も消耗しているが、あと一人くらいどうにかなる……と判断して恨めし気な声と、ギラギラ光る剣呑な双眸を向けて訴えた。

トーラス > 顔見知りであるから、見捨てずに立ち止まらなかっただけであって、
これが見知らぬ他人であれば素通りした上に、今頃は酒場か娼館で、
そんな憐れな被害者の事を忘れ去ってぬくぬくと温まっていた事だろう。
その程度には薄情であり、同時にそれが此の国の常であるとも言える。
無遠慮に彼女の産まれた侭の姿を堪能している折、聞き取り難い声が零れ落ちれば小首を傾げ。

「……ん? なんだって?」

そんな聞き返しに紡がれる呪詛めいた台詞に眉間に皴を寄せてギョッとする。
以前、彼女の口から聞いた事のある男性を不能にするという最低最悪の魔法。
本来は身を守る筈の手段を脅迫の手段に用いる相手に頬をひく付かせ。

「お、おま、……お前、実はヒーラーじゃなくて悪魔神官とかだろう?
 ――――あー、そうだな。助けても良いが、交換条件だ。
 こいつを貸す代わりに、お前さんをお持ち帰りってのは如何だ」

剣呑な双眸にたじろぎながら、茶化した調子で告げて見せる。
どの道、ケープ一枚羽織った所で、下半身はギリギリ隠せるか否かの丈。
其の侭の姿では帰れまい、とそんな提案をしながらも、
返答を聞く前に流石に寒空の下、此の侭で放置は気が引けたのか、
ケープを脱げば、縮こまる相手の肩へと掛けてやり。

ティアフェル >  世の中悪人、善人、常人、といることを考えれば善人に出くわす割合は低いのだろう。
 だから路上で引っぺがされたらバッドエンド一直線。
 実際に通りかかった人物を見ていればつくづく実感できる。
 性善説なんてくそ食らえ。

 ――故に情に訴えるなんて真似よりも強硬手段、その手を選ぶ。
 哀れっぽい様子を見せたところで腹でも抱えられるのがオチな気がした。
 実際恐喝めいた科白に対して差し出された条件はどうだ。

「女はね、悪魔にでも天使にでもなるものよ――?
 あんたが悪魔だからわたしの腹はどす黒くなる一方よ。だから、嫌な奴には容赦などしない。
 ………はいキタ。それな。そうくると思った……」

 ぁーぁ、と脱力気味に肩を落として。服を調達してきてもらおうかとも思ったが……いや、このまま逃がしたらばっくれる可能性大、とマイナス方面に信じて。

「――受けて立ってやろうじゃないの。でも、わたしの魔法はトーラス、あなたのためにいつでも冴えわたってやることを努々忘れるなかれッ」

 何かあれば不能としてくれる……と暗に秘める、魔女と化した回復術師。
 方に分厚いケープをかけてもらうと、あったかい……と無意識にほっこり目を細め。

「で、着替えを貸してくれるって話よね?」

 いざとなったら服だけ借りてズラかろうとでも思っているのか、男物のケープは小柄な体に巻き付かせるようにすればぎりぎりは隠せて、少しほっとしながら立ち上がった。
 靴だけは、無事だ。
 これだけはどうしようもなかったのだろう。

トーラス > この街で掛け値なしの善人が居るのだとすれば、
それは他の人間に搾取されるだけの間抜けに他ならない。
彼自身、自分の事を善人と嘯く事もなければ、寧ろ、悪人寄りだと自負している。
そうでなければ、背徳と退廃のマグメールで無事に生き延びる事など難しい。

「おい、俺が悪魔なのは良いとしても、お前が天使にもなるとか烏滸がましいにも程があるだろ。
 何処の天使が、他人様の貞操を条件に持ち出して恐喝してくるってんだ」

彼女の肩にケープを掛けてやれば、真冬に近しい寒空の下、
彼の方が吹き抜ける風に対して、寒さに凍えるように身を縮めて身体を震わせる。
己の不能を盾にして決め台詞めいた脅迫を突き付ける女に、げんなり、と眉尻を下げれば、
即座に貸し与えたケープを剥ぎ取って、其の侭、回れ右したい気持ちに駆られるのを懸命に堪えて。

「寒い夜を一緒に暖め合いましょうって話だ。……兎も角、行くぞ。俺も風邪を引きかねん。
 ちなみに裾が捲れると見えるからな。嫌ならば、くっ付いて歩くんだな」

両手同士を擦り、白く濁る吐息を吐き掛けながら、その場で足踏みすれば彼女を急かす。
其の侭、路地裏を抜ければ、彼が定宿にしている塒へと足早に去っていく事だろう。
二人揃って風邪を引くのが先か、塒に辿り着けるのかが先は運次第で――――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からトーラスさんが去りました。