2021/05/09 のログ
■ロブーム > 平時の男なら、もう少しマシな対応をした。
少なくとも、頭を下げて、それから少女の身体を気遣う程度のことをしただろう。
だが、今回は少し都合が違った――彼の違法な取引の"お得意様"の一人が、あわや王都に検挙される所であったのだ。
捕まれば、彼の死刑は免れない。彼としても大事な取引先を一つ失うのは痛い――故に、彼は足早に立ち去ったのである。が。
「ふむ、もしや、私の事かね。ふむ?」
彼女の声に振り向いた男は、自分の禿げた頭をつるりと撫でると、「なんと」と驚いた顔をして、彼女の元に歩いてくる。
その表情は驚きと、それから少しの申し訳無さを滲ませて。
「これはありがたい。急いでいたもので、気付かなかった。
先程ぶつかった少女であるな?おざなりな対応をしてしまった非礼を、此処で詫びさせて頂く」
と言って、受け取った帽子を被る前に、深々とお辞儀をする。
ふくよかな男であるため、お辞儀をしてもスマートさよりは何処か愛嬌が漂う感じを受けるかもしれない。
男は、頭を上げると、帽子を被り直し、そして「ふむ……」となにかを考えるようにする。
金時計を一度確認――まだ、時間は恐らく大丈夫だろうと当たりを付け。
「恩を受けておいておいて何だが、少し、質問させて貰っても良いかね?フロイライン?」
と尋ねる。
その表情は、真剣なものではなく、どちらかというと思いついたので質問したという風である。
■セルフィア > 人の波を少しばかり抜けた先で、ようやっと立ち止まった彼の姿を見る。
次いで、彼は少女に気づいた様子で歩み寄ってきてくれる様子。
ならばこちらも、先を急いでいるようだったから、と駆け足で近づいていこう。
「っとと、先程は失礼致しました。ぶつかった時に帽子が落ちてしまった様でしたので」
先の衝突のことなど何も気にしていない、と言わんばかりに笑みを浮かべて帽子を差し出す。
深々としたお辞儀には釣られて頭を下げつつ、「お互い様ですから」と言葉を返しておくとしよう。
帽子を渡し終えれば、後は別れるだけ――なのだが、何やらこちらに問いたいことがあるらしい。
少女は夕食のアテを探す程度で、急ぎという訳でもない。きょとんと首を傾げつつ。
「はて、お答え出来るかは分かりませんが、それでもよろしければ」
道に迷ったとか、そんな感じなのかしらと勝手に早合点して、問いを待つ。
■ロブーム > ロブームの見る所、かなり礼儀が出来ている。
装いも、豪奢である訳ではないが、品が良い。何処かの貴族であろうか――しかし、王都の貴族にありがちな、鼻をつくような傲慢さの匂いがない。
寧ろ、何処か恐縮している風さえある。
こちらもそれなりの装いはしているとはいえ――それでも、それなりに強く出ても良さそうなものだが。
「ありがたい。別に大した事ではないので、気楽に応えて欲しい。
それで、質問だが……何故、君は私の帽子を返そうと思ったのか。それが知りたくてね」
貴族として、風聞を恐れた――という訳ではあるまい。
何処の誰とも知らない帽子を拾った程度で醜聞になるなら、この国の貴族の大部分は外を歩けもしないだろう。
別に、売り飛ばさずとも、わざわざ声をかける理由などありはしない。
目の前の男が、悪意を持たぬ者でないとは――悪魔でないとは限らないのだから。
「教えてはくれまいか。何故、わざわざ見知らぬ人の帽子を返そうと思ったのか――人に親切を働こうと思ったのかを」
■セルフィア > 彼の問いは、少女にとって答えるのが難しいことだった。
何故、拾った帽子を返そうとしたのか。そこに特段の理由がないからだ。
母からは、人には慈しみを持って接するようにと教えられた。それが少女の自然になった。
そんな少女の前で物を落とした人が居た。だから拾って、それを返した。ただそれだけのこと。
意識すらしてなかったからこそ、少女は答えに窮して、少しだけ悩んで。それから、おずおずと。
「んー……自分が同じ様に帽子を落として無くしたら残念に思うから、でしょうか。
私は、貴方様がその帽子にどれほどの愛着を持っているかは存じません。
大切なものなのかもしれませんし、もしかしたら、取るに足らないものなのかもしれません。
それでもきっと、自分が持っていたものがなくなったら、残念には思うでしょうから」
無理やり捻り出したような理由だが、本心ではある。
そもそもが少女にとって自然過ぎたから、これ以上は語り様がないのだ。
それ故、少女は思いの丈をどうにか言語化して、彼に告げる。それから。
「――或いは、そうですね、納得して頂けないのだとしたらもう一つ。
私が、そうしたかったから、ということにしておいて頂けませんか?」
その方がしっくり来るな、という理由を述べると、苦笑を浮かべて見せて。
それから「お急ぎかと思いますから」と彼を見送ることとしよう。
何せこちらは後に予定も控えていない。彼と別れてから、また歩き出しても良い。
根本から善良な少女は、彼が見えなくなってから、雑踏へと消えていく――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 大通り」からセルフィアさんが去りました。
■ロブーム > こちらの問いに、悩みを見せる少女。
だが、男はその悩みにこそ、興味をそそられる。
それはつまり、帽子を返すという行いが、彼女にとってあまりに自然だからという事に他ならないからだ。
そして、おずおずと出された答えに、男は頷く。
「成程。つまり、帽子を失くしたであろう私に同情し、情けをかけた、と……」
聞き様に依っては、侮辱の様にも聞こえるが、しかし男にとっては十分な内容だった。
その答えを聞けただけで、例えこの後取引先が死んでしまっても、全く後悔がないと思えるほどに。
男は、続く答えには「そうだな。或いは、それが本当のことなのかもしれぬ。言葉にできぬものこそが」と彼女の答えを肯定した。
或いは、美しい心とは、その様なものかもしれぬ、と。
「うむ。そうだな、お時間を取らせてすまなかった。
それでは、もう良い時間だ。夜闇が来る前に帰りなさい」
と言うと、男は去っていく。
その際に、「口惜しいな――時間があれば、是非とも堕としたかったものを」と、少し不穏を孕ませた独り言を呟いて。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 大通り」からロブームさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にトーラスさんが現れました。
■トーラス > 王都に幾つか存在する冒険者ギルドの支部の一つ。
とは言うものの、その実態は冒険者が客として集まる酒場兼宿屋であり、
申し訳ない程度に店内の掲示板に日銭を稼ぐための依頼文が貼られているに過ぎない。
それでも、1階の酒場では冒険者を始めとした荒くれ者や、彼らを相手に春を鬻ぐ娼婦、
その他にも飲食の為に訪れた一般客達にて相応の賑わいを見せていた。
その賑わいの中心、客達がそれぞれの卓にて同席の身内や仲間と思い思いの
時間や食事を愉しんでいる中で、独り、周囲の卓の客にちょっかいを掛ける中年男の影が一つ。
本来であれば、嫌われそうな行為であるが、誰も文句を言わず、また、店主も黙認する理由は至極単純で。
「いやぁ、運が良かったぜぇ。冒険の最中にコカトリスの卵を見付けてよぉ。
貴族の美食家が高値で買ってくれたぜ。アレは鶏と蛇のどっちの卵なんだろうな?
と、んん?グラスが空じゃないか? マスター、こっちの人に俺の奢りで同じのもう一杯。ほら、乾~杯~♪」
等と、傍迷惑ながらも、明快にて、周囲の客達に見境なくも奢りを振る舞う故。
奢られた方は多少困惑するも、ただで酒が飲めるとあって強く文句を口にする事もできず、
店主も彼のお陰で儲かる上に支払い許容額も抑えている為に、この行為を見て見ぬ振りをする始末。
■トーラス > 酒場の喧騒は暫しの間、止む事はなく――――
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からトーラスさんが去りました。