2021/04/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 城門」にアランさんが現れました。
■アラン > 城門に立つ衛兵はそれはもう暇そーに今日も任務にあたっていた。楽しみと言えば金持ちそうで、何やらワケありな商人から賄賂をもらって私腹を肥やすことくらい。
けれど、今日に限っては貧乏な小商人、しかも顔なじみの連中で、通してやらないと街の生活が成り立たないような連中しかやってこない。
明らかに、ハズレ、という日だった。
それはもう大きな大きな溜息をついて、早く交代の時間にならないかと、太陽の高さを確かめた衛兵の眼に…一人の旅人、いや、少年の姿が眼に入った。
まだまだ子供、という姿。
そして、妙に疲れ切っている。
装備はまだまだ質素なものだけれど、使い込んで手入れはしっかりされているようだ。
冒険者、という風情に見えなくもない。
そんな子供が、フラつく脚で衛兵の前を通り、城門をくぐろうとしていた。ちょっと待て、と一応任務めいて少年を停めると、なんとも勝気そうな、そして眼の色だけは元気な様子で下から子供は見上げてくる。
「…何か用?」
ちょびっとばかり、生意気さというか腕白さがその口調には滲み出ていた。それに鼻白みつつ、衛兵が何者だ、目的は、と問いを重ねてゆく。
「冒険者志願なんだ。ギルドに登録に来たんだよ。えっと…出身は…」
と、その子は何やら村の名らしいものを口にしたのだが。
それは、その場にいた衛兵や商人の、誰も耳にしたことがないほどのどえらい寒村の名前だった。
いずれにしても、冒険者志願の者を止め立てしてはならない。
一応型通りの質問だけで少年は解放されると、見たことも無いような城門をくぐり、少年の村とは別世界な街の様子を垣間見て…。
ぽかん、と呆れたように口を開けて立ち止まったのだった。
そう、邪魔なことに往来のど真ん中で。
■アラン > 感心を通り越してあきれ返ったというのが正直なところ。
こんな建物が当たり前のように並ぶなんて、少年の理解を超えている。
これまで通ってきた街だって、そりゃそこそこ大きな建物はあったけれど。
それが当たり前のように通りの両側に並んでいる光景というのは、これはすごい。
そしてまた、通りの幅の広さもこれまた広かった。
少年が王都まで来るのに通った街道は、田舎道ともなればなんとも細く頼りなくなる。
その点、王都の中を走るこのメインストリートは、少年が通ってきた名ばかりの街道なんぞ比較にならないくらい広かった。
「すげえ………」
あんぐりと口を開けてきょろきょろと、少年はおのぼりさん全開で周囲を見回していた。
そう、相変わらずその広い路のど真ん中に突っ立ったまま。
■アラン > どれほどそうしてぽけらー、としていたことだろう。
おいこら邪魔だと、荷馬車が通れないと商人に怒鳴られて、ようやく少年は気が付いた。
往来のど真ん中でついつい、ぼーっとしていた有様に。
「ご、ごごごご、ごめんなさいっっ」
と慌ててあたふた、少年は広い広い路の脇へと駆けよって、馬車に道を空けたのだった。
…そんなに思いっきり端っこいかなくても、馬車は余裕で通れたのだけども。
「だめだだめだ、都会の雰囲気にのまれちゃだめだ」
ぺちぺちと自分のほっぺを叩いた少年は、気を取り直して顔を上げた。
なんとか今日中に冒険者ギルドに行って、冒険者としての登録を済ませるのだ、と心に決めて…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 城門」からアランさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/ 緑地帯公園」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > にゃーん……
麗らかな午後の暖かい日差しの中で、どこかからか細く小さな声が響いていた。
「………ん?」
所用の帰り道で抜けようとした地区の片隅にある緑地帯公園、ちょっとした雑木林になった一角でのこと。
自棄に心細く聞こえた仔猫の鳴き声に耳を澄ます。それはまるで何か困ったことがあって助けでも求めているように感じられたから。
きょろきょろと鳴き声の発生源を探して首を巡らせ、まるで小さな森の中にいるような遊歩道を少し逸れて林の中に分け入り。
「どこにいるのー?」
試しに呼びかけながら、みゃあみゃあと鳴き暮れる声を頼りに青々と茂り始めた木々の枝葉を見上げると、
「……あらっ……」
にぃー……
いた。樹上から響く音源に視線はやっと辿り着いた。広葉樹の枝に登って降りられなくなっているといった態の小さな白猫。目を凝らして見ると首輪が嵌っているのが見え、取り付けられたベルもちりん、ちりん、と鳴っている。真っ白な毛並みに真っ青な瞳の仔猫――そういえば冒険者ギルドにもお貴族様の迷い猫の報せが貼ってあった。
特徴からしてあの仔のようだ。ふむ、と顎に手を当ててひとつ首肯し。
「っしゃーない、ちょっと待ってな。今行くからね。大人しくしてんのよ」
人語を解する訳もないが、伝わるものはあるということで、か細く鳴き続ける仔猫に呼びかけてスカート姿であることも何のその。幼い頃は子ザルのティア、という二つ名をほしいままにした木登り名人の手腕を見せつけてやる、と、樹の幹に取りつき、足掛かりになる木瘤を探しながら登り始め、いくつかの枝を経由してどうにかして、仔猫のいる枝まで辿り着くと、
「つーかまえた。もう大丈夫だよー。
………大丈……あれ?」
ふわふわの仔猫を腕にぽすんと収めたまでは良かったが――、大丈夫と繰り返しかけた声が途切れ。
下を見ると――想定を超えた高さ。……イケルと思って調子に乗って……目算を誤り、樹上で硬直するボスザルヒーラーが一人。
■ティアフェル > 「大丈夫じゃなかったァァー…!
どうっしよう、全然大丈夫じゃないじゃん、なにこれどうしよう…?! ねえ?! どうしようね?!」
救助に来ておいて頼りないことこの上ない人間に目を剥いて迫られ、仔猫は髭を震わせ身を引き攣らせていた。
「えぇえぇ~……めっちゃ高い……超高所じゃん……そりゃ君も降りれないわ……むしろわたしも自信ないわ……」
登るよりも降りる方が何倍も危険です。怯えた仔猫を抱えて危うげなく降りられるかどうかと云えばなかなか厳しい。
「良くこんな所まで登っちゃったよね……いや、それはわたしもか……調子乗っちゃうってあるよね~」
なんて腕の中の猫と呑気に共感しあっている場合ではない。地味だが立派にピンチである。
「猫は結構高い所からも着地できるけど……さすがにこれはな……まだ小さいし……結構死ぬよね……うん、それはわたしもかなって感じだけど……」
打開策を考慮してみたり、試しに手近な枝に脚を掛けてみるが……耐久力不足で、ぼきっと折れた。
「要ダイエットってことかー?! 失礼な! わたしの軽量体型ぐらい立派に支えてみせなさいよー! 根性なし!」
しまいに枝にまで文句をつけて春麗らかな緑地の樹上で……大変騒がしい模様でお送りしていた。