2021/04/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にギデオンさんが現れました。
■ギデオン > 王都の城門を間近に控え、騎士はこれまでその身を揺らしてきた馬の背を降りた。労うようにその鼻面を撫でてやった後に、ぱちりとひとつ、指を鳴らす。
すると、見る間に黒鹿毛の悍馬は緑色の燐光を放ちつつその姿を闇に紛らせ消してゆく…。
ナイトメア・スティード。悪夢の軍馬と呼ばれる、それは魔物の一種であった。
ヴァンパイアとして経てきた長い歳月により、騎士は狼や蝙蝠だけでなく、冥界の軍馬を己のために使役することもできるようになっていた…。
街道脇の木立の影にて軍馬を見送り、騎士は我が身を見下ろした。そして、もう一度ぱちりと指を鳴らす。
真紅の、随所に竜の意匠が施された鎧はたちまち消えて、絹のブラウスに漆黒の狩猟ズボン、そして膝下丈のブーツという姿へと見る間に衣服が変じてゆく…。
剣だけは、佩き慣れた愛刀をそのまま剣帯に吊るし、マントを羽織ってゆるりと視線を馳せてゆく先…。
そこにあるのは、王都マグメール、その城門…。
■ギデオン > 巨大な城門を見上げつつ、騎士は城壁の内側…平民街区と呼ばれるところへと歩を進めた。人いきれ、喧騒、酒と脂の焼ける匂い…。これまで騎士が過ごすことの多かった、人里離れた自然の中では決して味わうことのない雑多な匂いが襲い掛かる…。
それ自体が騎士には新鮮なことであった。
そぞろ歩く酔漢の群れを器用に避け、商売女の白粉くさい手から逃れつつ騎士はゆるりと歩を進める…。
夜。
けれど、闇は遠い。
街路の隅、裏路地、物陰にしか闇は凝っていなかった。
まだまだ、王都ではこの時刻は宵の口なのであろう。
闇と夜とを謳歌して、背徳を満喫しようという者達には、これからの時刻こそが華なのだ。
それではまるで、ヴァンパイアのようではないかと、騎士はふと乾いた笑いをその口の端に刻みつける…。
■ギデオン > 急ぎ、宿を探さねばならぬということもない。
食事すら、必要とせぬ身体なのだ。横たわり、眠りを貪る要もない…。吸血の欲求、尽きせぬ永遠の渇きから解き放たれた今となっては、それは恵みでもなんでもなく、ただの味気ない喪失感にまみれた感覚でしかなかった。
どこからか、吟遊詩人の奏でる楽の音が届いてくる。
リュートだろうか。哀切な響きを持つ弦の音色は、悪いものではない。ビブラートが物悲しさを掻き立てて、酔漢の心を満たす程度には十分なものだ。
永き時を経てきた間に、楽の音の流行りも変わり、料理の味も匂いも変わりゆく。
「…変わりゆかんのは、おればかりか」
ふと、そんな言葉が口を衝いた。
時の流れから置き去られ、忘れ去られた、そんな存在。
時に己を、そう揶揄したくなることもある…。
騎士にとり、どうやら今宵はそんな夜となりそうだった…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からギデオンさんが去りました。