2021/02/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にタピオカさんが現れました。
■タピオカ > ヤシの実が人の頭の上におっこちる事があるように。
人生は時に何の意味もない不幸が起こるものだ。
例えば、とある褐色肌の冒険者が依頼を終えて王都に戻ってきた時。
すれ違いざまに、悪い魔法使いが魔法をかけていきました。
「……?……?
……わん!わんわんわん!わんわんわんわんわん……!?」
王都の大通りに、一人分の女物の衣服が落ちた。
鹿皮マントに白いチュニック、巻きスカート。
その衣服をかきわけて現れたのは、一匹の白い子犬であった。自分が魔法使いの通り魔によって犬に変えられた事もわからずに、青緑の瞳をした子犬は困ってしまってわんわん、わわん。わんわん、わわん。
通行人に向かって盛んに何かを訴えかけるように鳴いているが、野良犬も珍しくない平民地区では足を止める者もおらず。
(僕どうなってるの!?犬の鳴き声しか出ない!
たすけて!たすけて!)
そう叫んでるつもりでも、やっぱりわんわんとしか鳴き声は出てこないのだった。
悪戯な犯人によって褐色肌の冒険者にかけられた、子犬への変態魔法はしばらくすれば元に戻るのだが。
当然そんな事は知らされておらず。
通行人の足どりの間を右往左往してる。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にラスティアルさんが現れました。
■ラスティアル > 冒険者の行動というものは大なり小なり似通うものだ。依頼を受けて王都を出て、依頼を終えて王都に帰る。角を持った男も、その1人だった。
「……んん?」
城門付近で上がる犬の鳴き声。別段珍しくもない。だが、予感というものはあるものだ。何故だか歩き去ることが出来ず、右往左往する白い子犬へ近付いた。
「どうしたお前。母親とはぐれたか? ん?」
両手を膝に置いて身を屈めた男は、そう言って笑いかける。野良にしては清潔な見た目だが、首輪がない。直ぐ近くに落ちている旅装と衣服を一瞥した後子犬に視線を戻し、もう一度服を見た。
首を捻る。妙だ。まるで、たった今誰かがその場で脱ぎ捨てたような……?
■タピオカ > いつもなら何の苦もなく人間の言葉が出せる喉が動物の声しか出せない。
その戸惑いと混乱に瞳潤ませながら、行き交うブーツに手を、要するに前足を乗せて注意を引こうとしてもうまく行かず。
しょんぼりと小さな耳と尻尾を伏せって。折り重なった自らの衣服のほうへとぼとぼ歩いていくその姿に、二振りのロングソードを腰に差した人影が重なり。
ぱぁぁぁ……っ!
犬でありながら、まるで人間のように表情と瞳を輝かせ。
「わぅ!……ぅぅ、わん、わんわんわっ!
わんわんわんわっっ!わんっ!」
(声かけてくれてありがと!僕困ってるの、犬に変えられちゃったみたいなの!これ、僕が着てた服!)
両前足を2本の角をたたえて人懐こい笑みを浮かべる彼のブーツにちょんと載せて。盛んに鳴いて訴えかける。
だがそれも単なる子犬の鳴き声としか音に響かず、何やら懸命な様子で相手の藍色の瞳を見つめている、青緑の瞳をした子犬。
自分の衣服であるということをどうにか示そうと、そばにある衣服や曲刀や笛を口で咥えては彼のところへ持っていくが、なかなか意思疎通は難しい状況だろう。
そのうち、くしゅ、と子犬の小さなくしゃみ。
それなりにふわふわとした毛並みだけれど、ついさっきまで人間だった子犬はまだ少し寒い外気にふるりと震えて。ぴっとり、相手の足に身体を寄り添わせようと。
■ラスティアル > 「あー……ぁー……はは、犬飼う奴の気持ち、少し分かったかもしれないな」
自分のブーツに可愛らしく前足を乗せ、声を弾ませて鳴く子犬。小さな白い毛玉を見下ろし、苦笑いした。その後どうするのかと思って見ていれば、近くに落ちていた服などを咥えて持ってくる。
暫く待ったが、血相変えて取り返しに来るものはいない。
「……なるほど。お前のご主人様のものか? で、探してくれと?ふーむ。剣と笛は、手がかりになりそうだ。」
曲刀も木製の横笛も、この辺りで売られているのを見たことがない。武器と楽器を拾い上げ、服を左脇に抱え、空いた右手で子犬の頭を撫でた後、背筋を伸ばす。
「察するに……ご主人様は女で、旅人。それか冒険者だ。しかもかなり若い。まだ子供かも。まず、冒険者の方に賭けてみようじゃないか。……よっと」
くしゃみした子犬を衣服でくるみ、顔だけ出させて抱き上げた男は、平民地区にある冒険者ギルドに足を向けた。元々目的地だったし、何か情報があるかもしれない。
■タピオカ > 「わぅぅぅ……!わん……!……わぅ……」
(なんだか話は噛み合ってないけど、うう……!
お兄さんとっても良い人……!ありがと……!)
いきなり路上で懐いてきた、野良犬ではなさそうな犬がモノを持ってくれば、彼の推理にいきつくのが順当だろう。
真相とは違うものの、真摯に小さな犬に向き合ってくれる彼の優しさに感動して。撫でながら心地よさそうに瞳を伏せ。
くぅん、くぅぅん……。鳴き声で甘え。
衣服にくるまるまま、大人しく腕に収まり。しなやかながらよく鍛えられたその身体に細かい傷跡がある事に気づいた。
腰の剣は二刀流だろうか。もしかしたら自分よりも手練の先輩冒険者かもしれない。色々と思い巡らしながらもギルドへ。
――冒険者ギルド内は、報酬の受け取りや依頼が一段落した頃合い。併設されている酒場へ宿へと冒険者たちが路銀袋を手にほくほくとした顔で消えていく。
そんな様相の建物内に彼が足を踏み入れ。子犬の主について情報を求めるといくつか奇妙な話を得る。
ギルドの受付嬢いわく、彼の持っている衣服をまとった冒険者の少女が先日訪れていたこと。
その人物の瞳は、子犬の瞳の色と全く同じであること。
さらに、最近このあたりに物騒な通り魔が出没している事。
通りすがりの通行人に、すれ違いざまに変身魔法をかけて立ち去るらしい。
それらの話ややりとりを耳にしながら、
すがるような目つきで子犬は彼を見上げてる。
■ラスティアル > 「……ふーん。そういうことか。通り魔ねえ」
ギルドに入って依頼の完了を報告した男は、顎に手をやりつつ受付嬢の話に相槌を打つ。少し顎を上げると、2本の角が部屋の灯りを受け黒光りした。
瞳、と言われ、カウンターに服ごと乗せた白い子犬の顔を見つめる。縋るような視線を返され、腕組みをした。
「服は……いや服と一緒に剣と横笛も、この犬の近くに落ちてたんだ。破れてもいないし脱いだ風でもない。するっと抜け落ちたみたいに、そこにあった。てことはその通り魔に姿を変えられた挙句、攫われたってことだろうなあ」
したり顔で頷く。目が同じ、だけでは察せられなかった鈍感男である。子犬の頭を一度撫でた後、受付嬢を振り返った。
「その通り魔、懸賞金かかってないのか?もし報酬が出るんなら探してみようと思うんだが……ああその前に、こいつを預かってくれる場所なんてないかな?俺の宿、動物を持ち込むなって言われててね。どうかな……ほら、可愛いだろ?」
子犬の両頬を包み込んで笑顔を作らせた後、もう一度受付嬢を見る。
■タピオカ > 「わぅーーー!わーーーぅーーー!」
したり顔で頷く彼の整った顔つきに向かって、良いとこまで推理してるのにややずれてしまうもどかしさ。ぱたぱた小さな足をばたつかせながら、攫われたんじゃなくて姿を変えられた本人なの、とばかりに鳴き声を上げるが。やはり受付嬢にも彼にも犬の鳴き声にしか聞こえないもので。
……受付嬢によると通り魔については今のところ、懸賞金はかかっていないらしい。なんでも、かけられた変身魔法はしばらくすれば自然と解けるという報告もあるらしい。
預かってくれる場所、と耳にすると子犬がペタンと両耳を寝かす。ついに犬としての人生……いや犬生を送る事になるのかと絶望に暮れる表情が、両頬を包み込まれて笑顔わんこに変わった。
そんな作られ笑顔を見てくすりと肩を震わせた嬢は
「ここの二階の空き部屋に、とりあえず運んでおいてくれない?後の面倒は見るから」と告げるのだった。引き出しから、その部屋の鍵を取り出して相手の目の前にぶら下げてみせ。
■ラスティアル > 「勝手に解けるって?なるほど。そいつとしちゃあ、ちょっとした悪戯くらいに思ってるのかもなあ。シャレになってないが。お前のご主人も災難だな」
角の合間に皺を寄せ、鼻を鳴らす。やっている側からすれば面白いかもしれないが、この王都で、というかこの国でほんの短い間でも小さな無防備な姿に変えられてしまうというのは危険極まりない。
「まあ、出来ることはしてやる。攫われたとして、行き先はどうせバフートあたりだろうよ。市場に出される前なら、どうとでもやりようはある。……有難うな」
最後の言葉は受付嬢に向けられたもの。鍵を受け取り、犬を再び服ごと抱き上げ、階段を昇って行った。腹減ってないか?とか、そういやお前トイレは躾けられてるのか?とか、結局、最後まで正体には気付かないまま。